不動産投資を始めたいが、個人名義で買うべきか法人を設立すべきか――この問いに頭を抱える方は多いはずです。特に新築物件は価格が高く、税金や資金調達の影響が大きいため判断が難しくなります。本記事では、2025年12月時点で有効な制度と市場データを踏まえ、「新築 法人化」の基本から実践的な判断基準までを整理します。読むことで、税務面の節約効果や資金計画の作り方、出口戦略までを一通り理解できるはずです。
なぜ新築投資で法人化が注目されるのか

まず押さえておきたいのは、新築物件と法人化の相性が良いとされる背景です。国土交通省の「住宅着工統計」によると、2025年の新設住宅着工は前年比で2%増加し、そのうち約35%が投資用住宅でした。つまり、新築市場自体が活発で、融資環境も比較的良好です。
新築物件は減価償却期間が長く、空室リスクが低い傾向にあります。しかし購入価格は高額になりやすく、所得税や社会保険料の負担が増大しやすい点が悩みの種になります。ここで法人を活用すると、個人より低い実効税率と経費計上の幅広さによってキャッシュフローを改善しやすくなります。
一方で、法人設立費用や維持コストがかかるのも事実です。新築の高い家賃収入を得ていても、ランニングコストが利益を圧迫するようでは本末転倒になります。したがって、物件規模や想定収益を踏まえたシミュレーションが欠かせません。
法人化の税務メリットと2025年度の最新ルール

重要なのは、法人化によって何がどこまで節税できるのかを具体的に把握することです。2025年度税制では、中小法人の実効税率は約23.2%で推移しています。個人の最高税率55%と比べると、この差だけで大きなインパクトがあります。
まず、減価償却費を柔軟に計上できる点が大きな魅力です。新築木造アパートなら耐用年数は22年ですが、法人では定率法が選択でき、初年度から多額の費用を計上しやすくなります。また、2025年度の「中小企業投資促進税制」は依然として適用可能で、一定の省エネ仕様を満たす新築物件は即時償却または税額控除が利用できます。ただし、2026年3月決算までの期限付きであるため、計画は前倒しが必要です。
さらに、役員報酬や退職金制度を活用し、節税と老後資金の両立が図れます。役員報酬は所得分散効果をもたらし、退職金は損金算入しつつ個人の税負担を抑えられるからです。ただし、過大報酬は否認リスクがあるため、同業他社水準を参考に適正額を設定する必要があります。
一方で、赤字でも均等割や法人住民税が発生します。固定費が増えるため、入居率や家賃水準が当初想定を下回ると手残りが圧迫されます。税務メリットだけを盲信せず、あくまで長期の収支計画で判断すべきです。
新築物件を法人名義で取得する手順と注意点
ポイントは、物件契約前に法人設立を完了しておくことです。契約後に法人へ名義変更すると、登録免許税や不動産取得税が二重に発生してしまいます。そのため、物件選定と法人設立を並行して進めるスケジュール感が欠かせません。
金融機関の融資審査では、設立直後の法人は決算書がありません。そこで代表者の属性や自己資金、事業計画書が重視されます。自己資金として物件価格の2割程度を用意し、家賃相場や空室率の根拠を示した事業計画を提出すると、審査が通りやすくなります。日本政策金融公庫や地方銀行は、2025年も新築投資向けの長期融資に比較的積極的です。
また、建築会社との契約では、法人名義での瑕疵担保保険加入を確認してください。個人向けの「住宅瑕疵担保履行法」適用外となるケースもあり、保証が弱くなる恐れがあります。加えて、建築中の工事保険も法人で加入しておくと万が一の損失を抑えられます。
最後に、登記費用や司法書士報酬などの諸費用を資金計画に含めることを忘れないでください。これらは合計で物件価格の6〜8%程度になることが多く、自己資金を逼迫させる要因になります。
キャッシュフローを安定させるための資金計画
実は、法人化しても返済比率が高すぎれば資金繰りは苦しくなります。金融機関が見る返済比率は、年間賃料収入に対する元利返済額の割合で、おおむね50%以下が目安です。返済期間を長く取れば比率は下がりますが、総支払利息は増えるためバランスが重要になります。
家賃下落や空室を織り込んだシナリオを作成しましょう。例えば、空室率10%、家賃下落年1%でシミュレーションし、手残りが黒字であれば安全域が確保できます。東京都心のワンルーム新築を例に取ると、表面利回り4.2%でも法人税後の手残りが年2%前後に落ち込むことがあります。逆に地方の一棟アパートで利回り7%なら、減価償却を加味すると税前キャッシュフローが年4%ほどになるケースもあります。
法人では修繕積立金を経費化できるため、毎月のキャッシュアウトを平準化しやすい利点があります。ただし、過大積立は税務署に否認される可能性があるため、国交省「長期修繕計画作成ガイドライン」を参照し妥当額を設定すると安心です。
また、金融機関との関係を保つため、長期の固定金利と短期の変動金利を組み合わせる方法も検討できます。金利上昇局面に備え、返済額が急増しないようハイブリッドな資金調達を設計することがリスクヘッジになります。
個人と法人、出口戦略の違いを理解する
重要なのは、保有期間の終わりにどう利益を確定させるかという視点です。個人名義の場合、譲渡所得税は5年超で約20%、5年以下で約39%となります。これに対し法人譲渡益は通常課税となる一方、売却損を他の事業所得と通算できる柔軟性があります。
法人が新築物件を10年保有すると、帳簿価格は大きく下がります。売却時に簿価が低いほど譲渡益が増えますが、同時に減価償却で貯めたキャッシュを内部留保していれば、税金分を補える可能性があります。また、資産管理法人をM&Aで売却する手法もあり、株式譲渡なら個人の税率が20%程度に抑えられます。
一方で、法人清算時には残余財産課税が発生し、二重課税となるリスクがあります。相続を見据えるなら、持株会社スキームや家族信託を検討し、税理士と連携して最適な承継方法を設計することが不可欠です。
したがって、出口戦略まで考えたとき、法人化が本当に有利かはケースバイケースです。物件規模、保有期間、家族構成まで含めた総合判断が求められます。
まとめ
新築物件を法人で保有すると、減価償却や役員報酬を活用した節税効果を得やすく、資金繰りを厚くできるチャンスがあります。しかし、設立費用や維持費、赤字でも発生する法人税均等割など固定コストも相応に重くなります。最終的なポイントは、物件規模と長期のキャッシュフロー、そして出口戦略までを一体で設計することです。この記事を参考に、公的データに基づいたシミュレーションと専門家のサポートを組み合わせ、あなたにとって最適な投資スキームを描いてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅着工統計 – https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku.html
- 国税庁 法人税率等 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5500.htm
- 経済産業省 中小企業投資促進税制概要 – https://www.meti.go.jp/policy/sme_chiiki/zeisei/
- 日本政策金融公庫 金融統計月報 – https://www.jfc.go.jp/n/findings/
- 総務省 統計局 社会生活統計指標 – https://www.stat.go.jp/data/shakai/