老朽化したマンションやアパートは価格が手頃なため、初心者ほど「掘り出し物」と感じがちです。しかし想定外の修繕費や空室に悩まされ、「結局は高い買い物だった」と嘆く声も少なくありません。本記事では、実際に起きた築古 失敗事例をひも解きながら、リスクを抑える具体策を解説します。読後には「古い物件でも勝てる条件」と「避けるべき落とし穴」を理解できるはずです。
築年数が進むと何が起こるのか

ポイントは、表面的な価格に惑わされず、経年劣化が家計に与える影響を把握することです。国土交通省の「住生活基本計画(2025年度)」によると、築30年超の賃貸住宅は全国に約460万戸あり、主要構造部の修繕率は年3%前後で推移しています。つまり早晩どこかに不具合が生じ、オーナーが費用を負担する場面が訪れるということです。
実は、屋上防水や配管交換のコストは想像以上に重い負担になります。木造アパートの場合、屋根の葺き替えは1戸あたり平均40万円、給排水管の全交換は1棟で300万円を超えるケースも珍しくありません。さらに入居募集の競争力を保つには、外壁塗装や共用部LED化など追加投資も必要です。こうした累積費用を見落としたまま購入すると、家賃収入が修繕に消え、キャッシュフローが赤字へ転落します。
一方で、築年数が進んでも土地の資産性が高い都心部では、売却時に損失を最小限に抑えられる場合があります。ここからわかるのは、修繕費用と立地が密接に絡み合い、投資成績を左右するという事実です。
典型的な築古 失敗事例と原因
まず押さえておきたいのは、初心者が陥りやすいパターンがほぼ共通している点です。東京都下の築35年RCマンションをフルローンで購入したAさんの事例を見てみましょう。購入直後は利回り9%と好調でした。しかし2年目にエレベーター制御盤の故障が発生し、交換費用に320万円を支出。さらに近隣で新築マンションが相次ぎ、空室率が20%へ上昇しました。家賃収入の減少と突発的な修繕が重なり、月々の返済は持ち出し状態に陥っています。
原因は、設備更新の時期を予測せず、収支シミュレーションを楽観的に作成していたことです。実際、国交省の「マンションストック長寿命化等モデル事業データ」では、築30年を過ぎると大型設備の更新費用が平均で900万円超に達すると報告されています。Aさんは銀行の返済比率を家賃収入の80%に設定しており、余力がほとんどありませんでした。
次に、大阪府郊外の築40年木造アパートを現金購入したBさんのケースです。エリアの人口が緩やかに減少していたにもかかわらず、表面利回り15%に目を奪われ契約しました。ところが3年で入居者が半減し、家賃を2割下げても空室が埋まりません。賃貸需要の読み違いが原因で、現在は売却しようにも買い手がつかず苦慮しています。Bさんは「駅から徒歩15分圏内なら問題ない」という思い込みで、将来の需給バランスを十分に分析していませんでした。
購入前に必ず確認すべき三つのチェックポイント
重要なのは、数字と現場を突き合わせてリスクを可視化することです。第一に「長期修繕計画」の有無を確認します。築古マンションでも、管理組合が計画的に積立金を増額していれば大規模修繕の費用負担が抑えられます。逆に積立不足の場合、区分所有者へ一時金の請求が来るため、収益性が一気に悪化します。
第二に「空室率の将来トレンド」を自治体の人口推計と照合します。総務省の将来人口推計(2025年3月公表版)では、20〜39歳の若年層が減少する地域の賃貸需要が先細ると明示されています。市区町村単位での推計を確認し、単身者向けなら若年層、ファミリー型なら子育て世帯の人口動向を見ることがポイントです。
第三に「金融機関の評価方法」を理解しておきます。2025年度に導入されたJID住宅ローンガイドラインでは、築30年超物件の融資期間は耐用年数の残存年数以内が原則となりました。つまり、築35年の木造だと最長5年しか借入できず、毎月の返済負担が跳ね上がります。返済期間を延ばせない物件は、キャッシュフローに余裕がない限り避けるべきといえます。
築古でも成功する投資家が実践する工夫
実は、古い物件でも高い収益を確保している投資家は共通の戦略を持っています。一つ目は「付加価値リノベーション」です。単なる原状回復ではなく、間取り変更やIoT設備の導入で家賃を1〜2割向上させる方法です。国交省の「住宅リフォーム・リニューアル調査(2025年度)」によれば、暮らしやすさを訴求するリノベは空室期間を平均35%短縮すると報告されています。
二つ目は「運営コストの継続的な見直し」です。LED照明や宅配ボックスの後付けで電気代と空室損を圧縮し、収益率を回復させます。また保険の一括見積もりで火災保険料を20%削減した例もあります。こうした地道な改善が長期的な安定経営につながります。
三つ目は「出口戦略を購入時点で決めている」点です。築古物件は減価償却メリットが大きいため、5〜7年で売却し、税制優遇を最大化する手法が有効です。令和7年税制改正で加速度償却の控除枠が維持される見通しのため、短期での売却益よりも節税効果を重視する投資家が増えています。このように、始める時だけでなく終わらせ方を描いておくことが成功を左右します。
購入後に赤字転落しないための運用術
まず、キャッシュフローと修繕積立を別口座で管理しましょう。家賃の5〜10%を自動で修繕用に回す仕組みを整えるだけで、突然の出費にも慌てず対応できます。さらに、毎年1月に「家賃相場」「空室期間」「修繕履歴」を一覧化し、翌年度の予算を組み直すと予期せぬ赤字を防げます。
また、入居者ニーズに合わせた小規模改善を怠らないことが重要です。現代の入居者は高速インターネットとセキュリティを重視します。ファミリー型なら宅配ボックス、単身者向けなら防犯カメラ設置が効果的です。これらは一台数十万円で導入でき、家賃アップと満室経営に貢献します。
加えて、利回りだけでなく「借入金返済比率」を常に30〜50%に抑える運営を目指します。金利変動リスクが高まる局面では、固定金利への借換えや元金返済の繰り上げも視野に入れます。日本銀行の金融政策決定会合(2025年10月)では、長期金利の許容変動幅が0.75%へ拡大されました。返済計画の見直しは収益防衛策として欠かせません。
まとめ
築古 失敗事例の大半は、修繕費の過小評価と需要予測の甘さに起因します。購入前に長期修繕計画、人口動態、融資条件を精査し、購入後は積立管理と付加価値リノベでキャッシュフローを守りましょう。こうした基本を怠らなければ、築年数がハンデではなく、むしろ高利回りを実現する武器になります。まずは手元の物件候補について、今回紹介したチェックリストを当てはめ、数字と現場の両面から安全性を確認する行動を始めてみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住生活基本計画(2025年度)概要 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 マンションストック長寿命化等モデル事業 – https://www.mlit.go.jp/common/001665130.pdf
- 総務省 将来人口推計(市区町村別・2025年版) – https://www.soumu.go.jp
- 日本銀行 金融政策決定会合資料(2025年10月) – https://www.boj.or.jp
- 国土交通省 住宅リフォーム・リニューアル調査(2025年度) – https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai