築二十年を超えた賃貸物件を持つと、減価償却の残期間が短くなり、修繕費も増え始めます。初めて確定申告に挑戦するオーナーは「何が経費か」「控除はまだ使えるか」と不安になりがちです。本記事では、二〇二五年十二月時点の最新ルールを踏まえ、築二十年前後の物件に特有の税務ポイントを整理します。読み終えれば、申告の流れと節税のヒントがつかめ、余計な税負担を防ぐ行動が取れるはずです。
築20年の物件で押さえておきたい税務基礎

まず押さえておきたいのは、築年数が進むほど経費計上の比率が高まり、所得税額に与える影響が大きくなる点です。国税庁の統計でも、築二十年以上の木造アパートオーナーの平均経費率は約五五%に達し、全体平均を一〇ポイントほど上回ります。これは減価償却と修繕費が同時に増えるためで、適切な計上ができなければ課税所得が膨らむ恐れがあります。
そこで重要なのは、賃料収入と経費を正確に区分し、帳簿を月次で締める習慣です。また、青色申告特別控除を受けるためには複式簿記による記帳と電子申告が必須となります。二〇二五年度の要件では、電子帳簿保存法に対応した形でデータを保存すれば、最大六十五万円の控除が受けられます。つまり、築年数に関係なく帳簿精度を上げることが節税の第一歩になります。
減価償却の年数と計算方法

ポイントは、法定耐用年数を過ぎた後の計算手順を正しく理解することです。木造の法定耐用年数は二十二年、軽量鉄骨造は三十四年、鉄筋コンクリート造は四十七年と定められています。築二十年の木造なら残り二年で償却が終了し、その後は定額法による備忘価額一円までしか減価償却できません。
実は、この残期間が短いほど毎年の減価償却費は大きくなります。たとえば取得価額一千二百万円、残存耐用年数二年なら、年間六百万円ずつを経費に落とせます。ただし残存耐用年数を計算し直す「簡便法」を使うと、最短四年で償却することになり、年度あたりの経費はやや小さくなります。どちらを選ぶかは、今年の所得水準と将来の売却計画で判断するのが賢明です。
さらに、二〇二五年度の税制改正で登場した「中小事業者の少額資産特例」は、十万円超三十万円未満の設備を一括で損金算入できる制度です。エアコンや給湯器を交換する際、この特例を併用すればキャッシュフローを圧迫せずに経費化が可能になります。
修繕費と資本的支出の判断ポイント
基本的に、修繕費は発生年度に全額経費化できる一方で、資本的支出と判定されると減価償却が必要になります。国税庁の通達では、支出額が二〇万円未満、または建物取得価額の一〇%未満なら修繕費として扱える可能性が高いと示されています。しかし、同じ屋根の補修でも防水材の全面張り替えのように耐用年数を延ばす工事は資本的支出になりやすい点に注意が必要です。
築二十年を超えると、外壁塗装や配管更新など大型工事が増えます。この際、工事契約書と見積書に「耐用年数の延長効果がない軽微な補修である」旨を明記してもらうと、税務署に修繕費として認められやすくなります。また、工事写真を日付入りで保存し、施工範囲が限定的であることを証明すると、資本的支出との線引きがスムーズになります。
国土交通省の「民間賃貸住宅ストック総合調査」によれば、築二十一~三十年の物件で平均年間修繕費は一戸あたり約六万円増加します。資本的支出を抑え、適切に修繕費処理を行うことが、長期的な収益を守る鍵となります。
2025年度に使える控除・電子申告のメリット
重要なのは、控除制度を活用して所得税と住民税を同時に減らす発想です。二〇二五年度も継続している住宅ローン控除は、自宅兼賃貸併用住宅に適用できます。賃貸比率が五〇%未満なら、自己居住部分に対応する借入金利が控除対象となり、年末残高の〇・七%(上限二一万円)が十三年間差し引かれます。
また、地震保険料控除や小規模企業共済掛金控除など、賃貸経営者が使える所得控除も見逃せません。電子申告を行えば、青色申告特別控除の六十五万円に加え、二〇二一年以降導入された電子取引データ保存の猶予措置が二〇二五年十二月で終了するため、早めの対応が求められます。
電子申告には処理速度以外にもメリットがあります。e-Taxの自動計算機能で減価償却費の誤入力を防げるほか、マイナポータル連携によって生命保険料控除証明書などが自動取得でき、添付漏れによる更正請求のリスクを減らせます。結果として、節税と事務効率の両立が可能になります。
税務調査に備える記帳と証拠資料
ポイントは、調査官が最初に見るのが帳簿の整合性という事実です。賃貸経営者への実地調査は、国税庁公表ベースで年間約一万件前後行われ、その三割が家賃収入の過少申告と指摘されています。築年数が古くなると修繕履歴も複雑になり、領収書の紛失が重なると否認リスクが高まります。
対策として、クラウド会計ソフトとスマートフォンのスキャナ機能を使い、領収書を即時に画像保存する方法が有効です。電子帳簿保存法のスキャナ保存要件を満たすため、データにタイムスタンプを付け、修正履歴を残す設定にしておくと安心です。また、家賃振込の通帳コピーや管理会社の送金明細を月次でフォルダにまとめれば、調査時に説明がスムーズになります。
調査は三年から五年周期で行われることが多く、築二十年時点で一度整理しておくと、将来の物件売却時にも譲渡所得の計算根拠が明確になります。売却益の申告漏れは重加算税の対象になりやすいため、日頃の記帳が最大の防御策になります。
まとめ
築二十年の賃貸物件は、減価償却が残りわずかとなり修繕費が増えるため、確定申告での経費計上が利益を左右します。法定耐用年数の確認と、修繕費と資本的支出の明確な区分が節税の核心です。さらに、二〇二五年度の青色申告特別控除や住宅ローン控除を电子申告で確実に利用すれば、税負担を大幅に抑えられます。今日から帳簿体制を整え、工事契約書や領収書をデータで保存する習慣を始めることで、来年の申告がぐっと楽になるでしょう。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省「民間賃貸住宅ストック総合調査」 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局「家計調査」 – https://www.stat.go.jp
- e-Tax(国税電子申告・納税システム) – https://www.e-tax.nta.go.jp
- 中小企業庁「中小企業施策利用ガイドブック2025」 – https://www.chusho.meti.go.jp