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築古 空室対策で家賃収益を取り戻す5つの戦略

築三十年以上の物件を所有していると、家賃が取れない、修繕費ばかりかかる、と頭を抱える瞬間が増えがちです。とりわけ「とにかく空室が埋まらない」という悩みは深刻で、金融機関の返済計画にも影響します。本記事では、築古物件が空室に陥る根本原因を整理し、2025年12月時点で実行できる具体策を体系的に紹介します。読了いただければ、入居者ニーズの捉え方から最新制度の活用法まで一通り理解でき、明日からの行動に迷わなくなるでしょう。

築古物件が抱える空室リスクの正体

築古物件が抱える空室リスクの正体のイメージ

まず押さえておきたいのは、築古物件の空室は「物理的劣化」と「情報の劣化」が絡み合って発生する点です。表面の老朽化だけが原因と思われがちですが、実際には競合物件との比較情報が更新されず、仲介店に魅力が伝わらないことが大きな要因となります。

国土交通省の住宅市場動向調査(2024年版)によると、築二十年以上の賃貸住宅は、内覧数が築十年未満の物件の約六割にとどまるという結果が出ています。つまり入口段階で候補から外されやすいのです。また、総務省の住民基本台帳人口移動報告を見ると、単身世帯は全国で増え続けており、立地さえ合えば需要は依然として存在します。需要があるにもかかわらず空室が長期化するなら、情報発信の仕方に問題があると考えるべきでしょう。

さらに、築古物件では家賃下落が進みやすいと誤解されがちですが、REITデータを分析すると、築年数よりも最寄り駅からの距離や室内設備の充実度の方が家賃水準に強く影響する傾向が見て取れます。言い換えると、競争力のある要素が一つでもあれば築年数のハンデは縮まる、という視点に立って対策を組み立てることが重要です。

ニーズ分析でターゲットを絞る

ニーズ分析でターゲットを絞るのイメージ

ポイントは、漠然と「入居者を増やす」のではなく、どの層を呼び込むかを明確にすることです。ターゲットを決めれば、必要な改修内容と広告戦略が自ずと決まります。

たとえば郊外駅徒歩十分圏の築古アパートなら、増加中のリモートワーカーを狙う選択肢があります。自宅勤務が定着しつつある現状では、駅距離より室内環境が重視される場面が増えました。具体例として、五万円台の家賃でも高速インターネットとワークスペースを備えれば、単身エンジニアが長期入居するケースが珍しくありません。

一方、駅近のワンルームマンションであれば外国人留学生をターゲットにすると効果的です。文化庁の在留外国人数統計(2025年六月)によれば、語学・専門学校生は過去五年間で一三%増加しており、家具家電付き物件への需要が高まっています。敷金ゼロ、光熱費込みなど初期負担を抑えたプランを提示すれば、競合との差別化につながります。

つまり、立地と物件タイプが交わる「需要のすき間」を見つけ出し、そこに特化したサービスを提供することで、築古でも入居率を大幅に改善できるわけです。

リフォームとリノベのコスパ判断

重要なのは、改修にかける費用と将来キャッシュフローのバランスを見極めることです。リノベーションで家賃を三万円上げても、ローン返済と減価償却後の手残りが増えなければ意味がありません。

実務上はまず「三年以内に回収できる小規模リフォーム」と「十年以上の視点で投資するフルリノベ」を切り分けます。前者はクロス・床材の一新や給湯器交換など五十万円以下の工事が中心で、空室期間を一カ月短縮できるだけでも投資効果が高いといえます。後者は間取り変更や配管更新など三百万円規模になるため、家賃増額だけでなく出口を見据えた資産価値向上が不可欠です。

また、環境性能を高める改修は光熱費削減を訴求でき、入居者の長期定着につながります。東京都環境局のデータによれば、断熱性能を上げた賃貸住宅は平均在居期間が一・四倍に伸びたとの報告があります。断熱材充填や二重サッシ導入は費用対効果が見えやすく、空室対策と同時に修繕計画を最適化できる点が魅力です。

一方で、水回りの一括交換など高額工事は、周辺賃料を冷静に分析してから決断しましょう。最寄りエリアで家賃上限が七万円なのに、リノベ後に九万円を狙うプランは現実的とは言えません。周辺相場から一〇%高い水準で決まるラインを探し、逆算して施工範囲を調整する姿勢が欠かせません。

家賃設定と管理運営の工夫

実は、家賃を「下げる」よりも「柔軟に受け取る」仕組みが効果的です。家賃保証やサブスク型オプションを組み合わせ、入居者の支払い負担を平準化すると成約率が上がります。

たとえば、初期費用をゼロに近づける「フリーレント一カ月+礼金ゼロ」は、年間収支でみると入居期間が延びれば十分取り返せます。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の統計では、フリーレント導入物件の平均入居期間は導入前に比べて八カ月延びたと報告されています。入居期間が伸びれば原状回復費も減り、実質利回りはむしろ向上するケースが多いのです。

また、オンライン内覧やセルフ内見システムを導入すると、遠方の候補者にもアプローチできます。管理会社任せにせず、オーナーが物件写真や360度動画を毎年更新すると、検索サイトの露出が高まり、内覧数アップに直結します。情報の新鮮さは築年数のハンデを補う強力な武器になるため、広告費を削るより頻度を増やす発想が求められます。

さらに、ペット可やSOHO可への用途変更は、既存住戸数を変えずに差別化できる点でおすすめです。ただし、管理規約や近隣住民への説明は必須となるため、導入前に管理会社と綿密に打合せてください。

2025年度に活用できる支援策

まず、2025年度も継続している「長期優良住宅化リフォーム推進事業」は、耐震・省エネ改修を行う築二十年以上の賃貸住宅にも補助対象が広がりました。補助上限は一戸あたり二百五十万円で、受付は2026年三月末までの予定です。また、各自治体では空き家対策条例に基づくリフォーム補助が拡充されており、東京都豊島区のように上限百万円を給付する制度もあります。

次に、金融面では日本政策金融公庫の「賃貸住宅リフォーム融資」(2025年度版)が金利一・五%前後で利用可能です。返済期間は十五年まで選べるため、家賃増額後のキャッシュフローに合わせて無理なく計画できます。

さらに、固定資産税の減額特例にも目を向けましょう。地方税法の改正により、三年以上空室だった賃貸住宅を居住用へ改修した場合、翌年度の固定資産税が二分の一になる措置が2027年度課税分まで延長されています。適用には床面積や貸出期間の要件があるため、着工前に自治体窓口で確認してください。

自治体の補助と国の制度は併用が可能なケースが多く、施工事業者を交えて早めに申請準備を進めることが肝心です。これらの支援を活用すれば、自己資金を抑えながら競争力の高い改修が実現し、築古物件でも空室リスクを最小化できます。

まとめ

ここまで、築古物件の空室対策を「原因の見える化」「ターゲット特定」「費用対効果重視の改修」「家賃受け取り方の最適化」「支援制度の活用」という五つの視点で整理しました。結論として、築年数そのものより情報発信と投資判断の質が入居率を左右します。まずは物件の強みと入居者像を言語化し、三年以内に回収できる小規模リフォームから着手してください。そのうえで、2025年度の補助金や低利融資を組み合わせ、長期安定収益を目指す計画を立てることが成功への近道です。実行を後回しにせず、今日から一歩踏み出してみましょう。

参考文献・出典

  • 国土交通省 住宅市場動向調査2024年版 – https://www.mlit.go.jp
  • 総務省 住民基本台帳人口移動報告2025年6月公表 – https://www.soumu.go.jp
  • 東京都環境局 省エネ賃貸住宅事例集2024 – https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp
  • 日本賃貸住宅管理協会 全国賃貸住宅市場レポート2025 – https://www.jpm.jp
  • 文化庁 在留外国人数統計2025年6月 – https://www.bunka.go.jp
  • 日本政策金融公庫 賃貸住宅リフォーム融資ガイド2025 – https://www.jfc.go.jp

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