不動産投資に興味はあるものの、区分マンションではなく「ビル」を買うとなると一気にハードルが上がると感じる方は多いはずです。自己資金や融資の額が大きくなり、運営管理も複雑になるため、不安が先立つのは当然です。しかし、正しい情報と手順を押さえれば、ビル投資は安定したキャッシュフローを生み、相続対策にもつながります。本記事では「ビル 始め方」の基本から資金計画、物件選び、購入後の運営、そして2025年度時点で利用できる税制優遇までを体系的に解説します。読み終えたころには、具体的に動き出すための道筋が見えるはずです。
不動産投資としてのビルの魅力とリスク

重要なのは、まずビル投資の特徴を知り、メリットとリスクを正しく比較することです。マンション投資と異なり、テナントが法人の場合は賃料未払いリスクが低く、長期契約が期待できる一方、空室期間が長引くと影響も大きくなります。
国土交通省の不動産価格指数によると、2020年から2024年にかけて全国の商業用不動産価格は年平均3%程度で上昇しました。住宅より価格変動が緩やかなため、長期保有を前提とした安定運用に向いていると言えます。さらに、法人需要が強い都心部は人口減少の影響を受けにくく、賃料下落も限定的です。ただし、郊外や地方都市ではテナントの業種が限られ、空室率が20%を超えるケースもあるため、立地選定が最優先課題になります。
一方で、修繕費と設備更新費はマンションより高額になります。エレベーターや空調などビル特有の設備が多いからです。また、テナントごとに契約条件が異なるため、管理会社への委託料も高くなりがちです。つまり、ビル投資では初期費用とランニングコストを正確に把握し、空室率の変動に耐えられる余裕資金を用意することが成功の鍵となります。
資金計画とファイナンスの基礎

ポイントは、購入前に現実的な資金計画を立て、金融機関と綿密に交渉することです。ビル投資の融資は住宅ローンと異なり、融資期間が短く金利も高めに設定される傾向があります。
まず自己資金は物件価格の20〜30%を準備すると、金融機関の評価が高まり金利交渉を有利に進められます。日本政策金融公庫の「中小企業向け不動産担保融資」では、最大25年・金利1.3%台のメニューがあり、メガバンクより長期・低利で借りられるケースもあります。また、都市銀行は立地が良くテナントの信用力が高い物件に対しては、期間20年・金利1%台後半を提示する事例が2024年以降増えています。ただし、築年数が30年を超えると耐用年数の壁があるため、融資期間が短縮され、返済比率が高くなる点に注意が必要です。
次にキャッシュフローの計算ですが、テナント退去時の原状回復や共用部の大規模修繕を含め、年間賃料収入の15%を維持費として見込むのが安全圏といわれます。さらに、金利上昇リスクも考慮し、変動金利なら2%の上昇を想定したシミュレーションを作成しましょう。総務省の小売物価統計によると、2022年以降は資材価格が年5〜8%で上昇しており、修繕費のインフレも無視できません。資金計画には毎年の物価上昇分を組み込み、現実的な返済余力を確認することが欠かせません。
物件選びと立地分析のコツ
まず押さえておきたいのは、テナントの需要を細かく把握した上で立地を選ぶことです。同じ都心でもオフィス需要が強いエリアと、物販向けが伸びるエリアでは賃料水準が大きく異なります。
東京都都市整備局の「市街地再開発マップ」を見ると、再開発エリアは平均賃料が周辺より15%以上高く推移します。再開発の進行具合に連動してテナント需要が増えるため、利回り低下を補って余りある価値上昇が期待できます。一方で、再開発直後の物件は取得価格が高止まりする傾向があるので、予定段階で周辺物件を購入しておき、完成後の賃料アップを狙う戦略も有効です。
物件の築年数と設備状況も慎重にチェックします。築25年以降のビルでは、外壁補修と空調更新に1,000〜3,000万円規模の費用が発生することが多く、収支を圧迫します。しかし、築古でも天井高や柱の配置が現代オフィスのニーズを満たしていれば、改装コストを抑えつつ高賃料を維持できる場合があります。つまり、単純に築浅を選ぶのではなく、テナントが求めるスペックと改修のしやすさを総合的に評価することが重要です。
最後に、近隣競合の空室率を必ず調査しましょう。不動産情報提供会社各社のレポートによると、都心Aクラスビルの空室率は2025年上期で2%台ですが、B・Cクラスは6%前後と開きがあります。同一エリア内でグレードが上がるほど競争が激しいため、家賃交渉力を保つための差別化策として、共用ラウンジや高速Wi-Fiの導入など付加価値を意識する必要があります。
購入から運営までのステップ
実は、手続き自体は複雑ではありませんが、各フェーズで専門家を活用することで失敗確率を大幅に減らせます。ここでは代表的な流れを示し、要所での注意点を押さえます。
- 物件選定と簡易査定
- 融資審査と買付証明の提出
- 重要事項説明・売買契約
- 決済・引渡し
- テナント対応と管理開始
買付前には建築士によるインスペクションを行い、構造躯体や設備の劣化度合いを把握します。報告書を基に価格交渉すれば、修繕費を本体価格から差し引いて購入できる場合があります。さらに、環境性能を評価するBELS認証を取得すると、賃料1〜2%程度の上乗せ効果が期待できるとの実務データもあります。
引渡し後は管理会社と委託契約を結び、家賃回収やクレーム対応を任せるのが一般的です。手数料は賃料の3〜5%が相場ですが、設備保守を丸ごと依頼すると7%前後になることもあります。長期的な運営では、テナント満足度を高めることでリニューアルコストを抑えられます。例えば、ビル共用部のLED化は初期投資200万円で済みますが、年間電気代を30%削減できるため、5年で投資回収が可能です。このような改善は環境配慮型ビルとしての評価を高め、空室対策にも直結します。
2025年度に使える税制優遇と補助
ポイントは、税制メリットを最大限活用し、実質利回りを底上げすることです。2025年度時点でビルオーナーが利用できる主要な制度を押さえておきましょう。
まず、不動産取得税は2025年度も軽減措置が継続されています。課税標準に対し、建物は1,200万円、土地は1/2評価への引下げが適用されるため、取得コストを抑えられます。また、一定の耐震・省エネ改修を行ったビルについては、固定資産税が3年間1/2に減額される制度が継続中です。適用期限は2026年3月31日まで(2025年度税制改正大綱より)なので、リノベーションを検討している場合は早めに着手すると良いでしょう。
さらに、中小企業庁の「省エネ投資促進税制」では、高効率空調やLED化に要した費用の30%を税額控除、もしくは100%即時償却が可能です。適用対象となる設備は毎年更新されるため、着工前にリストを確認し、工事業者と証明書類の段取りを行うことが重要です。なお、グリーン住宅ポイントなど既に終了した制度は利用できない点に注意してください。
最後に、所有期間5年以上のビルを譲渡した場合、2025年度も長期譲渡所得の税率(約20%)が適用されます。法人で保有するか個人で保有するかによって最終的な課税額が変わるため、税理士とシミュレーションを行い、出口戦略を含めた最適な保有形態を決定しましょう。
まとめ
ビル投資は物件価格も運営コストも大きいため、入念な資金計画と立地分析が不可欠です。要点は、自己資金を厚めに用意し、将来の修繕費や空室リスクを織り込んだ保守的なシミュレーションを行うこと、そしてテナント需要を深く理解して立地を選ぶことに尽きます。税制優遇を活用すれば、実質利回りを数ポイント改善することも可能です。行動を起こす際は、専門家と連携しながら一つ一つのステップを確実にこなし、安定したキャッシュフローを実現してください。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp
- 日本政策金融公庫 融資制度案内 – https://www.jfc.go.jp
- 東京都都市整備局 市街地再開発マップ – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
- 中小企業庁 省エネ投資促進税制 – https://www.chusho.meti.go.jp