新築物件を購入したものの、家賃をいくらに設定すればよいのか分からず悩む投資家は少なくありません。周辺相場より高過ぎれば空室が続き、低過ぎれば利回りが悪化します。本記事では、家賃設定の基本から市場調査の方法、2025年の最新トレンドまでを体系的に解説します。読むことで、根拠ある家賃を決め、長期的に安定したキャッシュフローを得るための考え方が身につきます。
新築物件で家賃を決める基本的な考え方

重要なのは、家賃を「投資家の希望額」ではなく「入居者が納得する額」に合わせる姿勢です。新築は設備が新しい分だけプレミアムを乗せやすいものの、周辺の築浅物件との比較で適正水準を超えると即座に空室リスクが高まります。また、金融機関の融資返済額を基準に逆算する方法は一見合理的に見えますが、市場の需要を無視すると空回りするため注意が必要です。
まず押さえておきたいのは、家賃を「利回り確保」と「入居促進」の二軸で同時に検討することです。たとえば表面利回り6%を確保したい場合でも、同規模・同立地の平均家賃より10%以上高いと競争力が落ちます。つまり、目標利回りと市場妥当性のバランスを取ることが家賃設定の出発点になります。
一方で、新築には初回入居キャンペーンやフリーレント(一定期間家賃無料)を活用しやすい利点があります。家賃自体を大幅に下げずに、初期費用負担を軽減して契約を促進できるので、長期的な収益を守りやすい戦略と言えるでしょう。
市場調査の具体的方法と注意点

ポイントは、オンライン情報と現地確認を組み合わせて多角的に見ることです。ポータルサイトで同エリア・同間取り・築年数3年以内の募集家賃を10〜20件抽出し、中央値を算出するとおおよその相場が把握できます。2025年時点のSUUMO賃貸市場トレンドによると、東京23区では駅徒歩10分以内の新築ワンルームの中央値が9.1万円でした。
さらに、募集家賃だけでなく「成約家賃」も確認することが大切です。東日本不動産流通機構(REINS)に掲載される成約情報では、募集額から平均4〜6%下がって契約しているケースが多く報告されています。つまり、募集家賃を相場の上限と捉え、そこから数%のディスカウントを見込んでキャッシュフローを試算するのが現実的です。
現地調査では、平日昼と休日夜の両方に周辺を歩き、生活音や街灯の明るさを体感しましょう。入居者の立場で感じる安心感や利便性は、サイト上の数字では分かりにくい部分です。また、不動産仲介会社に「この条件で埋まるまで何週かかりそうか」と率直に聞くと、広告費(AD)の相場や人気設備の生情報が得られます。
利回りとキャッシュフローから見る適正家賃
実は、家賃が1,000円違うだけで年間キャッシュフローは大きく変わります。例えば家賃8万円のワンルームを10戸所有し、管理費5%、空室率5%と仮定すると、年間純収入は約888万円です。これを7.9万円に下げると純収入は約877万円になり、毎年11万円の差が生じます。20年間保有すれば約220万円の違いです。
一方で、金融機関は純収入より「返済余力(DSCR)」を重視します。家賃が高過ぎて空室が長期化すると、DSCRが急落し追加担保を求められるケースもあるため、無理な設定はリスクになります。国土交通省の2025年度住宅市場動向調査でも、返済負担率が高い物件ほど1年以内に再融資を断られる例が目立つと報告されています。
家賃を決める際は、まず保守的な空室率10%、修繕積立3%を織り込み、金利2%上昇シナリオでもキャッシュフローが黒字化するレンジを求めます。そのうえで、前述の市場相場と照らし合わせ、差が出た場合は販促策や設備グレードの見直しでギャップを埋めるのが王道です。
2025年のトレンドと家賃設定への影響
2025年は、テレワーク定着とインバウンド再拡大が賃貸ニーズを二極化させています。総務省の最新調査によると、週3日以上在宅勤務する世帯は都市部で32%に達し、広めの1LDKや2LDKを選好する層が増加しました。また、訪日客向けの一時貸し需要が高まり、自治体の住宅宿泊事業認定件数も前年比18%伸びています。
こうした動きは、新築 家賃設定に直接影響します。ワンルーム中心の物件では、ネット無料や宅配ボックスなど在宅利便設備を整え、家賃を相場比+3%程度まで引き上げても入居が決まりやすい傾向があります。一方、2LDK以上はファミリーと在宅ワーカーが重なるため、共用部のワークラウンジ設置など差別化が家賃アップに直結します。
また、日本銀行は2025年10月にマイナス金利を解除したものの、小幅な利上げにとどまり住宅ローン金利は依然低水準です。その結果、分譲マンションの購入にシフトする層が一部流出し、賃貸高価格帯にはやや圧力がかかっています。高額帯の新築物件では、家賃を据え置き、敷金礼金ゼロや家具付プランを用意するほうが全体収益を守りやすい局面と言えます。
家賃設定後の運用と見直しタイミング
まず、家賃は設定して終わりではなく「運用フェーズで磨く」発想が不可欠です。入居率が95%を切ったら、原因が家賃なのか設備なのかを2週間以内に分析し、必要なら賃料微調整やフリーレントを導入します。短期の思いつきではなく、指標と行動をルール化することで収益は安定します。
次に、固定資産税評価替えや保険料改定など、支出が変動するタイミングで家賃を見直すと合理的です。例えば3年ごとの更新時期に合わせ、物価上昇率と近隣相場を照会し、1%程度の増額交渉を試みると長期的なキャッシュフローを守れます。国土交通省の「賃貸住宅管理業法ガイドライン」でも、適正な根拠があれば改定を提示できると明記されています。
最後に、家賃改定を告知する際は、住み替えコストと物件のメリットを同時に提示することが重要です。「引っ越し費用より月額1,000円の上昇が得」と納得感を示すことで、解約を最小限に抑えられます。このように、家賃設定と運用は一体で考えることで、長期にわたる安定経営が実現します。
まとめ
本記事では、新築 家賃設定の基本原則、市場調査の実践方法、利回り視点のシミュレーション、2025年の最新トレンド、そして設定後の運用方法までを体系的に解説しました。結論として、家賃は目標利回りと市場需要のバランスを取りつつ、データに基づき柔軟に見直すことが成功の鍵です。今日紹介した手順を踏めば、感覚に頼らず根拠ある家賃を設定でき、長期的に安定したキャッシュフローを実現できるでしょう。まずは自分の物件データを整理し、近隣の成約家賃を調査するところから始めてみてください。
参考文献・出典
- 総務省統計局 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/
- 国土交通省 不動産価格指数・住宅市場動向調査 – https://www.mlit.go.jp/report/statistics/index.html
- 日本銀行 統計データ検索(政策金利関連) – https://www.boj.or.jp/statistics/
- 東日本不動産流通機構(REINS)マーケットインフォメーション – https://www.reins.or.jp/
- 不動産経済研究所 新築マンション市場動向 – https://www.fudousankeizai.co.jp/
- SUUMO 賃貸市場トレンド 2025 – https://suumo.jp/edit/machi/chintai_trend/