都心でも郊外でも、ビル投資には常に不安が付きまといます。「購入した後に空室が続いたらどうしよう」「地震で大規模修繕が必要になったら資金がもつだろうか」。こうした悩みは初心者だけでなくベテラン投資家も抱えるものです。本記事では、2025年12月現在の情報を基に、ビル リスクの正体と具体的な対策を体系的に解説します。読了後には、自分の物件や購入候補のビルに潜むリスクを見える化し、適切にコントロールする手順が理解できるはずです。
そもそもビル リスクとは何か
まず押さえておきたいのは、ビル リスクが単一ではなく複数の要素で構成される点です。市場環境、建物性能、法規制、資金繰りの四つが主要な柱となります。
最初に市場環境です。日本不動産研究所の2025年秋調査によると、東京都心Aグレードオフィスでも平均空室率は5%前後に戻っていますが、二極化が進みB・Cグレードは10%超えが常態化しています。つまりエリアとグレードの組み合わせで収益の安定性が大きく変わるわけです。
次に建物性能の問題があります。築30年を超えたビルは外壁や設備の更新周期に入り、計画的に修繕しなければ一気に資産価値が下落します。国土交通省の長寿命化ガイドラインでは、大規模修繕を12年周期で見込むよう推奨しており、修繕計画を怠ると突発コストが跳ね上がります。
さらに法規制と資金繰りです。2025年度の改正建築物省エネ法では、延床面積2000㎡超の既存ビルを対象に省エネ基準適合義務が段階的に拡大しています。義務化に対応できなければテナント募集も融資審査も不利になります。加えて、長期固定金利が上昇局面にあるため、借り換えを含む金利リスク管理が欠かせません。
空室と賃料下落のリスクを読む

ポイントは、空室発生と賃料水準の変動をセットで把握することです。表面的な利回りだけでは、実際のキャッシュフローを測れません。
まず、空室率と平均成約賃料の推移をエリア別に確認しましょう。東京都中央区では2020年のパンデミックで賃料が約15%下落しましたが、2025年にはほぼ回復しています。一方、多摩地域では下落幅が小さかった代わりに横ばいが続き、回復の兆しが見えません。言い換えると、短期変動が大きいエリアと長期停滞型エリアがあるわけです。
具体的な対策として、テナント属性の分散が有効です。ITスタートアップと医療関連企業など、景気感度の異なる業種をミックスすれば、一方が退去してもビル全体の収益は安定します。また、2025年時点で需要が高い「スモールオフィス・フレックス区画」を一部に組み込むことで、広範な借り手を確保できます。
最後に、賃料保証サービスの活用も検討してください。保証料は年間賃料の3〜5%が相場ですが、短期の大幅なキャッシュフロー悪化を防ぐ保険として機能します。保証期間が切れた後も更新可能か、条件変更があるかを確認して契約するのが賢明です。
災害・老朽化リスクと保全戦略
実は、ビル リスクの中でも地震や水害は突発性が高く、影響も甚大です。震度6強以上の地震が起きた場合、耐震基準を満たさないビルは補修費用が坪あたり10万円を超えるケースが報告されています。
最初の防衛策は耐震診断の実施です。1981年以前の旧耐震基準ビルでは、専門家による一次診断が義務ではないものの、2025年度の自治体補助(例:東京都「耐震化促進事業」)を利用すれば診断費用の一部が補助されます。診断結果が良好であれば保険料も低減でき、資産価値の証明資料にもなります。
老朽化対策として重要なのは、修繕積立金の積み上げです。日本ビルコンディショニング協会の目安では、延床㎡あたり年間3,000円前後を積立てると30年間の大規模修繕が概ね賄えます。資金が不足すると、金融機関からの追加融資が必要となり、金利負担が増えるだけでなく物件の評価が下がる恐れがあります。
また、水害リスクにも着目してください。気象庁の統計では、2020年代前半に比べて豪雨発生件数が1.3倍に増加しています。ハザードマップで浸水想定区域に該当する場合、電気室を地上階へ移設する改修が求められます。その費用は数百万円規模ですが、クリティカルな業務継続性を確保する投資だと考えれば合理的です。
法規制・環境基準の変化に備える
重要なのは、法規制が変わる前に情報を仕入れ対応準備を終えることです。法改正は猶予期間があっても、施工業者や資材の需給逼迫で後手に回るとコストが跳ね上がります。
省エネ法の強化により、2025年度以降に新築だけでなく既存中規模ビルにも「建築物エネルギー消費性能基準」が段階的に適用されます。適合義務化を逃れていても、テナント側のCSR(企業の社会的責任)要件としてBELS評価を求めるケースが増えており、非適合ビルは賃料ディスカウントを迫られる場面が目立ちます。
一方で、環境性能を高める改修に活用できる補助も存在します。2025年度の国交省「先進的省エネ投資促進事業」では、ZEB Ready相当の改修に対し最大1/3の補助率が継続予定です。申請は年度ごとに締切が設けられるため、工期を逆算し早めに計画する必要があります。
さらに、2025年施行の改正民法により賃貸借契約の原状回復義務の範囲が明確化されました。テナント退去時のトラブルを避けるため、契約書に精緻な特約条項を盛り込むことが必須です。リーガルチェックの甘さは小さなコストで大きなリスクを招くので、専門家へ早期に依頼しましょう。
キャッシュフロー管理でリスクを数値化
まず押さえておきたいのは、リスクを「見える化」するためのキャッシュフローシートです。空室率、修繕費、金利上昇など悲観シナリオを盛り込み、年間手残りがマイナスにならないか確認します。
次に、金利リスクです。日本銀行の2025年9月の長期金利見通しは1%台後半で推移していますが、わずか0.5%の上昇でも30年ローン総返済額は数百万円増加します。固定と変動のミックスローンを検討し、各々の返済比率をシミュレーションすることで、上昇局面にも耐えられる構造を作れます。
さらに、資金繰りは単年度ではなく5年、10年の期間で見通すことが大切です。固定資産税や保険料は年々増減するため、均すと意外に高負担となります。税理士と連携し減価償却費を適切に計上すれば、実効税率を抑えつつ内部留保を確保できます。
最後に、モニタリング体制の構築です。毎月の入出金をクラウド会計で自動集計し、目標値から乖離が出た時点で原因を分析すれば、損失が拡大する前に手を打てます。金融機関へのレポート提出もスムーズになり、追加融資の可否判断にも好影響を与えるでしょう。
まとめ
ビル リスクは空室や災害など個別に語られがちですが、実際には市場環境、建物性能、法規制、資金繰りが相互に影響しながら収益を左右します。本記事で示したように、エリア調査で空室リスクを測り、耐震診断と修繕積立で物理的リスクを抑え、省エネ義務化を先取りして法規制に対応し、悲観シナリオでキャッシュフローを管理すれば、突発的な損失を大幅に減らせます。今日からできる一歩として、まず保有物件の耐震診断結果と修繕計画を棚卸しし、次のローン返済見直し時期を確認してみてください。行動を先延ばしにしないことが、ビル投資を安定資産へと変える最大の秘訣です。
参考文献・出典
- 国土交通省 建築物省エネ法ポータル – https://www.mlit.go.jp/shoene-build/
- 日本不動産研究所 市場賃料インデックス – https://www.reinet.or.jp/
- 気象庁 気象統計情報 – https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html
- 日本銀行 経済・物価情勢の展望 – https://www.boj.or.jp/
- 日本ビルコンディショニング協会 修繕ガイドライン – https://www.bca.or.jp/