築20年前後の物件を保有していると、「そろそろ売るべきか、それとも持ち続けるべきか」と迷う方が多いはずです。築年数の節目で市場ニーズや税制、修繕費は大きく変わります。本記事では、2025年時点の最新データをもとに、築20年の投資用物件をどう処分・活用するかという出口戦略を解説します。読了後には、自分の物件に合った最適な選択肢と行動手順が明確になるでしょう。
購入から20年、なぜ出口戦略が要るのか

まず押さえておきたいのは、築20年を迎える頃から物件の価値構造が変化する点です。耐用年数の折り返しを過ぎ、金融機関の評価方法や入居者の選択基準が厳しくなるため、戦略の再点検が不可欠となります。
最初の五年間は減価償却効果によって節税メリットが大きく、空室率も低めに推移します。しかし築年数が進むにつれて賃料減少と修繕費増加が重なり、キャッシュフローが細る傾向が強まります。特に築20年は大規模修繕のタイミングになりやすく、まとまった資金が必要です。
一方で、建物の法定耐用年数が22年以上の構造(鉄骨造・RC造など)であれば、金融機関は残耐用年数を評価に組み込みやすく、まだ融資を受ける買主も存在します。つまり、売却を検討するなら築25年を超える前が勝負どころになるのです。また、インフレ基調の2025年は資産インフレ期待が高いため、早期に売却益を確定させる投資家も増えています。
築20年物件の市場動向と価格の実態

重要なのは、実際にいくらで売れるのかを客観的に把握することです。国土交通省の「不動産価格指数(2025年9月公表)」では、中古マンション全体が前年比4.2%上昇した一方、築20年以上に限定すると上昇幅は1.1%に留まりました。築浅の上昇スピードに追いついていない現状が読み取れます。
また、レインズの首都圏中古戸建データ(2025年上期)では、築15年物件の平均平方メートル単価が45万円、築20年物件は38万円と約16%下落しています。下落幅自体は急激ではなく、流動性は維持されているため、価格が安定しているうちの売却は選択肢となります。
一方で、家賃相場の下落率はより緩やかです。住宅・土地統計調査を基にした試算では、築10年から20年で平均賃料は約8%しか落ちていません。つまり、キャッシュフローを重視するなら賃貸継続の優位性が高まります。
市場動向を整理すると、価格下落スピードより賃料下落が緩慢な点がポイントです。この差は投資家利益の源泉となり得るため、売るか持つかは「売却益」か「安定収入」のどちらを重視するかで決まります。
売却?賃貸継続?選択肢と判断基準
ポイントは、収支の分岐点を定量的に把握することです。具体的には、将来の修繕費や空室リスクを折り込み、内部収益率(IRR)が8%を下回るようなら売却を検討するのが定石とされています。
修繕費を例に挙げると、東京都住宅供給公社が公表する修繕実績では、築20年時点で外壁・屋上工事に平均230万円、設備更新に平均120万円が必要です。これに対し、同規模の物件を売却した場合の仲介手数料や譲渡所得税を差し引いても、手残りが修繕費総額を上回るケースなら早期売却が合理的と言えます。
賃貸継続を選ぶなら、リフォーム費と家賃の上昇が見込めるかがカギです。たとえば、水回りをリニューアルした場合、家賃アップ幅は首都圏平均で月5,000円程度(リクルートSUUMO調べ)。年間6万円の増収は20年定額法償却の残りと相殺すると、IRRを1.2%程度押し上げる効果があります。
つまり、キャッシュフローが黒字で、将来の売却時に土地値が残るエリアであれば、賃貸継続+部分改修が有効です。逆に、地方の人口減少エリアや修繕費が家賃収入を上回る計算になる場合は、築25年を待たずに売却が出口戦略として優れています。
築25年を迎える前のリノベ戦略
実は、軽微なリノベーションでも売却価値を高める余地があります。リフォーム産業新聞の取材データ(2025年4月)によると、築20〜25年のマンションで60万円未満の内装更新を行った場合、売却価格が平均82万円上乗せされた事例が報告されています。
小規模リノベの狙いは、買主の心理的ハードルを下げる点にあります。築20年物件を内見する際、多くの買主は「追加工事費」を頭に置きます。その想定額より低い費用で先に手を入れておけば、価格交渉を主導しやすくなるわけです。
一方で、過度なフルリノベは投資回収期間が長くなりがちです。東京都心の平均施工単価は70万円/坪前後ですが、家賃の上昇幅は1坪あたり月1,000円程度にとどまります。よって、出口が売却なら「見た目改善」レベル、出口が長期保有なら「設備更新」レベルと目的に合わせることが重要です。
さらに、不動産会社の買取再販ルートを活用する方法もあります。2025年は金利上昇局面に入り、買取再販業者は資金を回転させたいタイミングです。キャッシュで即時決済してくれるケースもあるため、リフォーム前に複数社へ机上査定を取ると交渉力が向上します。
税制と融資条件を踏まえた最適タイミング
基本的に、譲渡所得税は所有期間5年超で長期譲渡となり、税率は分離課税で20.315%です。築20年なら当然長期区分ですが、2025年度は「住宅取得資金贈与の特例」など受ける側の買主に有利な制度が継続しています。その結果、親子間売買や相続対策としての購入需要が底支えになっています。
融資面では、民間金融機関の中古物件向け融資期間は「耐用年数−築年数+10年」が目安です。RC造の法定耐用年数47年を前提にすると、築20年時点で37年のローンが組める計算になります。築25年を超えると32年へ短縮され、返済比率が悪化するため価格交渉が厳しくなります。
また、2025年4月から適用されたインボイス制度により、個人オーナーでも消費税還付を受けにくくなりました。免税事業者のままでは仕入控除が認められないため、大規模修繕やリノベ費用が実質値上がりします。修繕を予定している場合は24年度中の発注と比較してコスト差を検証しましょう。
キャッシュフロー、税制、融資の三要素を同時に満たすベストタイミングは、売却ならインフレ期待が高いうち、保有なら融資期間がまだ長く取れるうちです。つまり築20〜23年の間に方向性を固めることで、余裕を持った交渉と工事計画が可能になります。
まとめ
築20年の物件は、価格下落が始まりつつも賃料は比較的安定している絶妙な段階です。売却か賃貸継続かを決めるには、修繕費・税負担・融資条件を具体的に試算し、自身のIRR目標と照らし合わせることが欠かせません。市場がまだ流動的で買主も融資を組みやすい今こそ、出口戦略を明確にして行動に移しましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 ― https://www.mlit.go.jp/
- 不動産流通機構(レインズ)マーケット情報 ― https://www.reins.or.jp/
- 総務省 住宅・土地統計調査 ― https://www.stat.go.jp/
- 東京都住宅供給公社 修繕実績データ ― https://www.to-kousya.or.jp/
- リフォーム産業新聞 2025年4月号 ― https://www.reform-online.jp/
- リクルートSUUMO 賃料動向レポート 2025年版 ― https://suumo.jp/
- 金融庁 令和7年度税制改正のポイント ― https://www.fsa.go.jp/