不動産投資を始めたばかりの方の多くは、「個人名義のままで本当に大丈夫だろうか」と不安を抱えています。特に保有する土地が増え、所得税や相続税の負担が重く感じられた瞬間から、「法人化」という言葉が気になり始めるものです。本記事では、土地を法人名義に切り替える際のメリットとデメリット、2025年度時点での制度上のポイント、そして実務上の注意点までを網羅的に解説します。読み終えたとき、法人化すべきかどうかの判断軸と、次に踏み出す行動が明確になるはずです。
なぜ今「土地 法人化」が注目されるのか
まず押さえておきたいのは、税制と人口動態の変化が法人化ブームを後押ししている事実です。国税庁の令和6年分統計によれば、課税総所得1,800万円超の個人が負担する所得税と住民税は最大55%に達します。一方で、2025年度の中小法人実効税率は約30%前後に抑えられており、所得が大きいほど法人化の節税効果が際立つ構造です。
次に相続を考えると、総務省の人口推計では全国的な高齢化が続き、相続発生件数は年々増加しています。土地を法人に移しておけば、株式の形で次世代に承継できるため、分割や評価のコントロールが容易になります。つまり、所得税と相続税の二正面で圧力が高まる局面だからこそ、法人化が重要な選択肢になるのです。
さらに、低金利環境で借入れコストが落ち着いている点も見逃せません。日本政策金融公庫の調査では、2025年の不動産担保ローン平均金利は2%台前半を維持しています。法人なら融資枠や金利交渉の余地が広がり、資産拡大のスピードを高められる点も投資家の関心を集める理由と言えるでしょう。
法人化で得られる節税メリットの仕組み

重要なのは、節税効果がどの部分で発生するかを具体的に理解することです。法人化の最大のポイントは、給与所得控除や退職金制度を活用しやすくなるため、課税ベースを抑えられる点にあります。例えば、個人で毎年2,000万円の不動産所得がある場合、最高税率で計算すると税負担は1,100万円近くに達します。これを法人で受け取り、自分に役員報酬1,000万円を支給すると、法人税・所得税合計で約700万円に圧縮できるケースが珍しくありません。
また、法人は減価償却費を自由にコントロールできます。築古アパート付きの土地を新たに取得し、初年度に償却を多めに計上することで黒字を抑え、内部留保を厚くする戦略も取りやすくなります。経費計上の幅が広がる点もメリットで、役員社宅や自動車リース代などを適正な範囲で処理すれば、キャッシュアウトを伴わずに課税所得を減らせます。
ただし、赤字が出た場合の損金繰越期間が法人は10年、個人は3年と大きく異なります。長期的に見ると、損失を超過年度に充当できる法人の方がリスクヘッジ効果も高いと言えるでしょう。
リスクとデメリットを正しく理解する
一方で、法人化は万能薬ではありません。実は、社会保険加入によるコスト増を見落とすと節税どころか負担増となる恐れがあります。法人化後は役員報酬に対して健康保険と厚生年金がかかり、会社負担分と個人負担分の双方を払う必要があります。報酬を高く設定すると、当初の節税効果が相殺されるだけでなく、キャッシュフローが圧迫されかねません。
また、毎期の決算・申告コストも個人より高くつきます。税理士報酬や登記変更費用など年間50万円程度を見積もるのが一般的です。この金額を上回る税効果が見込めない場合、法人化のメリットは薄れます。
加えて、融資審査が厳格になる点も注意が必要です。金融機関は設立間もない法人を「実績が乏しい」と評価しやすく、個人より金利が高く設定される場合があります。そのため、個人である程度の実績を積み、法人へ物件を移転するタイミングを計る戦略が現実的です。
実務フローと2025年度の制度ポイント
まず、土地を法人へ移す方法は「現物出資」と「売買」の二つに大別されます。現物出資なら登録免許税が評価額の0.15%で済み、売買よりも低コストで移転できます。しかし、法人側で不動産取得税(評価額の4%)が発生する点は共通なので、資金計画に組み込むことが欠かせません。
2025年度現在、固定資産税の軽減制度に特別な改正はなく、新設法人でも土地評価額の1.4%が標準税率として課されます。一方、東京都や大阪府など一部自治体では、認定企業に対する設備投資減税の一環として土地取得額の10%相当を税額控除するローカルルールが続いています。適用要件は雇用創出やSDGs関連事業の実施など厳格なので、自治体窓口へ事前確認することが必須です。
手続きの流れとしては、①法人設立→②金融機関との事前相談→③土地評価額の算定→④株式発行or売買契約→⑤登記申請→⑥税務署・都道府県税事務所への届出、という順番が一般的です。各ステップで専門家と連携し、登記や税務のミスを防ぐことが成功の鍵となります。
法人化後に成功するための運用戦略
ポイントは、法人を単なる節税装置としてではなく、投資を加速させるプラットフォームと捉えることです。まず、キャッシュフロー計算書を毎月作成し、資金繰りの見える化を徹底しましょう。内部留保が厚くなれば、金融機関からの与信枠が拡大し、次の土地取得や開発のチャンスを逃さずに済みます。
さらに、2025年4月に改正された「中小法人向けグリーンリース減税」では、省エネ性能の高い賃貸住宅を建設した場合、法人税額から最大1,000万円を控除できます。土地活用として賃貸併用住宅や戸建て賃貸を計画しているなら、設計段階から補助金と併用することで収益性が向上します。
役員報酬と配当のバランス調整も有効です。利益が膨らむ年度は留保金課税を回避するために配当を出し、翌年度に大規模修繕が見込まれる場合は報酬を抑えて内部留保を積む、といった柔軟なキャッシュマネジメントが可能になります。こうした運用が個人では難しい点こそ、法人化による最大の利点と言えるでしょう。
まとめ
本記事では、土地の法人化が注目される背景、節税の仕組み、隠れたリスク、そして2025年度の制度ポイントを解説しました。個人に比べて法人は税率が低く、損金繰越や資金調達面で優位に立てる一方、社会保険や設立コストといった負担も増えます。したがって、年間所得や将来の相続計画、さらに自治体の独自施策まで加味した総合判断が欠かせません。まずは自分の収支と資産目標を数値化し、専門家とシミュレーションを行ったうえで、最適な移行タイミングを見極めてください。そうすることで、法人化を単なる節税策ではなく、長期的な資産形成のエンジンとして活用できるでしょう。
参考文献・出典
- 国税庁 - https://www.nta.go.jp
- 総務省統計局 人口推計 - https://www.stat.go.jp/data/jinsui/
- 日本政策金融公庫 中小企業景況調査 - https://www.jfc.go.jp
- 東京都産業労働局 設備投資減税のご案内 - https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp
- 厚生労働省 社会保険料率表 - https://www.mhlw.go.jp