不動産投資を始めたばかりの方の多くが、「丈夫な鉄骨造の物件を買ったほうがいいのか」「個人と法人、どちらで持つほうが得なのか」と迷います。実は、この二つのテーマは切り離せません。鉄骨造は耐用年数が長いため減価償却が伸び、法人は税率や資金調達の面で柔軟性があります。本記事では、鉄骨造物件を法人で保有するメリットと注意点を最新データをもとに整理し、キャッシュフローの改善方法や2025年度の融資・税制動向まで幅広く解説します。読み終えるころには、自分に合った投資スキームが具体的に描けるはずです。
鉄骨造を選ぶメリットと注意点

まず押さえておきたいのは、鉄骨造がもたらす耐久性と収益安定性です。国土交通省の2025年版建築着工統計によると、鉄骨系集合住宅の平均築後寿命は55年を超え、木造より15年ほど長い結果が出ています。長期運用を前提とする賃貸経営では、この耐用年数が直接キャッシュフローの安定につながります。
一方で税務上の耐用年数は厚さにより異なります。鋼材厚4ミリ以上なら34年、3〜4ミリは27年、3ミリ以下は19年と国税庁の法定耐用年数表で規定されています。数字だけ見ると減価償却期間が長く、年間の償却費は木造より小さくなります。つまり短期で大きな節税を狙うには不利ですが、長期的には帳簿価額がゆるやかに落ちるため金融機関の評価が下がりにくい利点があります。
また、鉄骨造は修繕費の波が比較的読みやすいことも特徴です。外壁パネルや配管は交換サイクルが明確で、長期修繕計画を立てやすいからです。しかし軽量鉄骨の場合、界壁の遮音性能が不足しやすいという弱点があります。入居者トラブルを避けるため、防音シート追加や二重床施工などを購入時に確認しておくと安心です。
さらに賃料水準にも触れておきましょう。2025年春の不動産情報サービス大手の調査では、同立地・築年数で比較すると鉄骨造は木造より平均賃料が7%高い傾向がありました。高い入居需要と長期安定の両方を狙える点が、鉄骨造を選ぶ大きな決め手になるでしょう。
法人化がもたらす節税と資産防衛

重要なのは、鉄骨造の長期視点と法人の仕組みが相性抜群である点です。法人税率は所得800万円まで15%、それを超える部分は23.2%(2025年度)に抑えられています。個人の最高税率45%と比べると、利益が厚くなるほど税負担の差が開きます。
役員報酬を活用すれば、法人の所得を圧縮しつつ自分の給与所得控除を使えます。加えて、家族を役員にして給与を分散すれば、世帯全体での税率を平均化できます。これは所得分散と呼ばれ、資産形成期のキャッシュフローを滑らかにする王道手法です。
資産防衛の観点でも法人化は有効です。物件固有の瑕疵で訴訟リスクが発生した場合でも、損害賠償の請求先は法人です。個人資産への波及を遮断できるので、次の投資チャンスを守れます。また、相続時に株式として承継できるため、物件をバラバラに分割する必要がありません。株価評価は純資産価額方式が基本ですが、借入が多い成長期なら株価が低く抑えられ、二次相続対策まで視野に入るのが魅力です。
ただし設立費用は登録免許税・定款認証料・司法書士報酬などでざっと24万円ほどかかります。さらに決算と申告の手間も増えるため、年間利益が300万円未満の段階では節税メリットより負担が上回ることもあります。法人化のタイミングは、物件規模と利益計画を照らし合わせて慎重に判断しましょう。
鉄骨造×法人スキームのキャッシュフロー
ポイントは、減価償却と借入返済のバランスを法人内で最適化することです。鉄骨造は償却期間が長いため、帳簿上の利益が早期に黒字化しやすい反面、キャッシュアウトは返済額の大きさに左右されます。したがって融資期間を長く取り、元本返済をなだらかにする設計が基本戦略になります。
日本政策金融公庫の2025年度融資資料では、鉄骨造賃貸住宅の最長融資期間は35年、金利は変動で1.1%台が目安とされています。都銀・地銀でも同水準が提示されており、法人の信用力が高いほど優遇幅が広がります。元利均等返済で試算すると、1億円を35年1.1%で借りた場合の月返済額は約29万円です。年間では348万円となり、想定家賃年収1000万円なら返済比率は35%前後に収まります。
ここで法人税計算を加味すると、償却費300万円、修繕費80万円、人件費120万円を計上したケースでは課税所得は152万円に縮小します。税率15%を適用すると法人税は約23万円にとどまり、手元キャッシュはおよそ350万円残る計算です。個人名義で同条件なら所得税・住民税で40%以上になる可能性が高く、手残りは相当減ります。
さらに消費税還付も視野に入ります。鉄骨造の新築一棟は建築費の大半が課税仕入れとなり、課税売上割合が95%未満でも簡易課税制度の選択で還付を受けやすい構造です。もっとも、2025年度の消費税法改正でインボイス登録が必須となり、要件を満たさなければ還付が難しくなりました。設計段階から税理士と連携し、法人スキームに合う工事契約と決済フローを組むことが必須です。
2025年度の融資・税制の最新動向
実は、融資環境と税制は毎年じわじわ変わります。金融庁が2025年9月に公表した監督方針では、賃貸住宅ローンについて返済負担率の上限を個人で50%、法人で60%と自主規制する動きが強まりました。法人のほうが評価が高いとはいえ、収入合算や家賃下落のシナリオ分析が求められる点は同じです。
税制面では、法人の中小企業経営強化税制が2025年度も継続しており、耐震・省エネ性能を満たした鉄骨造住宅に対して即時償却または10%税額控除が選択できます。期限は2027年3月31日取得分までとされているため、新築計画があるなら早めに申請要件を確認しておきましょう。
また、固定資産税の負担調整措置が2025年度で一部見直され、住宅用地の200㎡以下の部分に適用される課税標準の1/6特例はそのまま維持されました。鉄骨造の敷地が大きくても、戸数を増やし敷地を区割りすることで特例を最大限享受できます。自治体により課税区分が細かく分かれるため、事前に市区町村税務課へ確認しておくことが肝心です。
さらに注目すべきは、インボイス制度に伴う消費税の課税事業者選択です。売上1000万円以下でも還付狙いで課税事業者を選択するケースが増えていますが、制度上は2年間の継続義務があります。賃貸経営の初期赤字と将来黒字化の時期を踏まえ、選択のタイミングを間違えると逆に納税負担が増えるため専門家の助言が欠かせません。
法人化のステップと実務ポイント
まず法人化の流れを簡潔に整理します。発起人の決定、定款作成、公証役場での認証、法務局での登記、税務署や都道府県税事務所への届出という順番です。全体で2週間から1か月が目安で、司法書士に依頼すると手続きはかなりスムーズになります。
法人設立後は、金融機関の口座開設と同時に融資打診を開始します。最近はオンライン審査に対応する地銀が増えましたが、面談では事業計画の整合性が厳しくチェックされます。鉄骨造の場合、長期修繕計画と空室率の根拠を示すことで、返済猶予期間や金利優遇を引き出しやすくなります。
設立初年度の会計処理では、開業費を繰延資産として計上するか、損金に一括計上するかを選べます。キャッシュフローに余裕があるなら繰延して毎年償却する方法が安定的でおすすめです。さらに代表者への役員報酬設定は、期首から3か月以内に確定させる必要があります。税務署への「同族会社等の判定に関する明細書」も忘れず提出しましょう。
最後に、法人で複数物件を保有するときは機関設計の見直しが必要です。監査役や会計参与の設置で信用力を高め、金融機関との交渉をさらに有利に進められます。ただし、人件費が増えるため規模拡大と同じスピードで組織を膨らませないことが長期安定のコツになります。
まとめ
結論として、鉄骨造の堅牢性と法人化の税務メリットを組み合わせることで、長期にわたり高いキャッシュフローと資産防衛を両立できます。耐用年数が長い鉄骨造は金融機関評価が傷みにくく、法人は利益調整や相続対策に柔軟に対応できるからです。次の一歩として、購入候補物件の構造厚みと自分の所得水準を確認し、法人設立シミュレーションを作成してみてください。計画表に数字を落とし込むことで、最適なタイミングと規模が見えてくるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省 建築着工統計 2025年版 – https://www.mlit.go.jp/
- 国税庁 令和7年度 法定耐用年数表 – https://www.nta.go.jp/
- 日本政策金融公庫 融資情報 2025年度 – https://www.jfc.go.jp/
- 金融庁 監督方針 2025年9月 – https://www.fsa.go.jp/
- 総務省 固定資産税特例に関する資料 2025年度 – https://www.soumu.go.jp/