鉄筋コンクリート造(RC造)の賃貸物件は、耐久性や安定収益が魅力ですが、「出口」を考えずに購入すると利益を取りこぼす恐れがあります。購入時はワクワクしていても、実際に現金化する段階で慌てる投資家は少なくありません。本記事では、RC造物件の強みを生かしながら、売却・借り換え・相続など多様な出口を計画的に選ぶ方法を解説します。初心者でも実践できる評価のポイントや最新の税制情報を交え、読後には自分の物件をどうゴールへ導くかが具体的に描けるはずです。
RC造を選ぶ前に押さえるべき強みと弱み

重要なのは、RC造のメリットとリスクを正確に把握し、出口戦略の前提条件を固めることです。国土交通省の住宅着工統計によると、RC造マンションの平均耐用年数は60年以上とされ、これは木造の2倍近い数値です。その一方で、建築費は木造より約35%高く、初期投資が大きい点が収支を左右します。
まず耐久性の高さは、長期保有を前提とした運用に向いています。長いスパンで家賃収入を得る間にローンを完済し、最終的に更地や建替えで大きなキャピタルゲインを狙えるからです。また、防音性や耐火性が優れ、入居者満足度が高まり空室率が低下しやすい点もキャッシュフローに直結します。
しかし固定資産税評価が高く、保有コストが重くのしかかります。さらに大規模修繕の費用は木造より高額で、屋上防水や外壁補修に数百万円単位が必要です。つまり長期の修繕計画と出口の時期を合わせ、キャッシュを確保しておかないと資金繰りが破綻しかねません。弱みまで踏まえたうえで「いつ、いくらで」「誰に」引き渡すかを逆算する姿勢が求められます。
売却益を最大化する保有期間のシナリオ設計

まず押さえておきたいのは、保有期間ごとに最適な売却タイミングが異なる点です。国土交通省の不動産価格指数によれば、築15年までのRC造区分マンション価格は毎年平均0.8%下落にとどまりますが、築20年を超えると下落幅が1.6%に拡大します。このデータから、築浅のうちに手放すか、逆に30年以上保有して土地値で売るか、二極化した戦略が有効だとわかります。
取得後10年以内に売る場合、減価償却費の節税効果が残っているため収益力が高く、利回り重視の個人投資家に人気です。需要が旺盛なうちにリフォームで内装を刷新し、家賃を上げた実績を提示すると売却価格を引き上げられます。一方で、築25年以上はファミリー向けから単身者向けへ間取り変更するなど、将来の用途転換を示すと再開発を狙う法人の注目を集めやすいです。
また、2025年度の登録免許税軽減措置(住宅用家屋の所有権移転は0.3%)は利用できる買主の手取りを押し上げます。買主側のメリットを提示すると交渉力が高まり、売却時期を年度末に合わせるだけで諸費用差額が大きくなるケースも少なくありません。つまり税制スケジュールを逆算し、広告開始から決済までのリードタイムを余裕を持って設定することが価格交渉の武器になります。
借り換えと組み替えでキャッシュフローを磨く
ポイントは、出口戦略を「売却」と限定せず、金融機関との付き合いを通じて柔軟にキャッシュフローを改善することです。日本政策金融公庫の2025年度基準金利(長期固定)は1.01%と、3年前より0.25ポイント低下しています。すでに2%超の金利で借りている投資家は、借り換えにより月々の返済を抑えつつ、手取りを増やす余地があります。
まず借り換えによるメリットは、返済期間の延長と金利低下で年間キャッシュフローが改善する点です。例えば残債4000万円を金利2.3%・残期間20年で返済中の場合、1.0%・25年に組み替えると年間約80万円の支出削減が期待できます。これを修繕積立や次の物件の頭金に充てられるため、売却せずに資産拡大が可能です。
さらに、ノンリコースローンやリバースモーゲージを活用すれば、個人保証を外しながら手元資金を確保できます。2025年現在、都市銀行の一部ではRC造一棟マンションを対象としたノンリコース商品が解禁され、LTV(融資比率)70%程度での融資が現実的です。個人リスクを抑えつつ、出口としての売却を将来に先送りできるため、相場が弱い局面でも持ちこたえやすくなります。
借り換え交渉では、直近3期分の収支実績や入居率を示し、資産価値を定量的に説明することが欠かせません。銀行担当者は「返済原資の安定性」を重視するため、空室改善の取り組みや修繕履歴をセットで提示すると承認スピードが上がります。要するに、金融機関をパートナーと位置づけ、出口戦略の一形態として活用する発想が資金効率を高める鍵になります。
相続・事業承継を出口に選ぶときの実務
実は、RC造物件を家族で引き継ぐこと自体が立派な出口戦略になります。総務省の家計調査では、相続開始時の不動産保有比率が55%に達し、そのうち収益物件は年々増加傾向です。RC造は評価額が高いため、相続税負担が気になるところですが、適切な評価引下げ策を講じれば現金より有利に資産を残せます。
まず、小規模宅地等の特例を活用すると、貸付事業用宅地は200㎡まで50%評価減が適用されます。2025年度も制度は継続中で、ファミリー向けマンション1棟を丸ごと相続する場合でも大きな節税効果を得られます。次に、建物評価については固定資産税評価額が基礎になるため、築年数が進むほど評価が下がり税額も減少します。この効果を見込んで、築20年以上のRC造を敢えて長期保有し、相続時に渡すプランも現実味があります。
さらに、家族信託を使えば、管理能力が低下した高齢オーナーでも意思決定を家族に委ねられます。家族信託は2025年現在も法務局での登記が必要ですが、手続きがシンプルになり利用件数が増えています。家族がスムーズに物件管理を引き継ぎ、相続時の争いを防止できる点で有効です。
最後に、贈与税の改正にも注意が必要です。2024年に導入された新しい「相続時精算課税」の控除枠2500万円を使うと、生前に贈与した時点では税負担が生じません。2025年12月時点でも制度は有効で、将来の相続税と合算される仕組みです。つまり生前に賃料収入を子世代へ移転でき、出口を二段階に分けて税圧縮と承継準備を同時に進められます。
2025年度税制と補助を利用した出口最適化
基本的に、税制や補助金は年度ごとに改正されるため、出口戦略では「いつ利用できるか」が重要です。2025年度は住宅ローン控除の既存住宅適用条件が緩和され、築20年超のRC造でも耐震基準適合証明を取得すれば買主が控除を受けられます。これにより築古物件でも実需層への売却がしやすくなり、出口の選択肢が広がります。
不動産取得税については、住宅用建物の課税標準控除1200万円が2025年度まで延長されています。買主が実需の場合、取得後の税負担が軽くなるため、売主は物件説明時にメリットを伝えることで価格交渉を有利に進められます。また、ZEH(ゼッチ)水準の省エネ改修に対する国の補助金は、RC造マンションの共用部改修も対象となり、最大100万円/戸の補助が出ます。補助を利用して大規模修繕を前倒しすると、保有期間中の家賃を維持しつつ、将来の売却価値を押し上げる効果が期待できます。
加えて、固定資産税の住宅用地特例(200㎡以下は6分の1、200㎡超は3分の1)は2025年度も継続しており、保有コストを下げながら長期保有を選択できます。この制度を踏まえて、売却か保有かを検討する際に毎年の税負担を試算すると、収益性と資産価値のバランスが見えやすくなります。つまり税制を知ることは、RC造 出口戦略の羅針盤となり、売るか持つかの判断材料を提供してくれるのです。
まとめ
RC造物件の出口戦略は、売却・借り換え・相続・税制活用の四本柱をバランス良く組み合わせることで真価を発揮します。耐久性に優れるRC造は長期運用向きですが、修繕費や税負担をコントロールしながら、保有期間と出口時期を逆算する視点が欠かせません。金融機関との関係を強めれば売らずに資金を引き出せ、税制を熟知すれば買主や家族にとって魅力的な条件を提示できます。まずは自身の物件とライフプランを照らし合わせ、いつ・誰に・どのように引き渡すかを紙に書き出してみてください。その一歩が、資産を守り増やす出口戦略のスタートラインになります。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 住宅着工統計 – https://www.mlit.go.jp
- 日本政策金融公庫 融資情報 2025年度 – https://www.jfc.go.jp
- 総務省 家計調査 年報 2024年 – https://www.stat.go.jp
- 財務省 税制改正のポイント2025 – https://www.mof.go.jp