近年、不動産価格の上昇や相続税の課税強化により、「築浅 相続対策」という言葉に関心を寄せる人が増えています。親から受け継ぐ現金や古い自宅だけでは節税が難しい一方、築十年未満の物件を活用すれば評価額を抑えつつ安定収入も期待できます。本記事では、築浅物件がなぜ相続対策に有効なのか、その仕組みと選び方、資金計画までを丁寧に解説します。読み終えた頃には、自分に合った戦略を描けるようになるはずです。
築浅物件が相続対策に向く理由

まず押さえておきたいのは、建物評価額と市場価値のギャップです。相続税における建物評価は固定資産税評価額を基準とし、新築時に対し早いペースで下がります。しかし市場価格は築浅期間なら高い水準を保ちやすく、評価額との差が広がることで節税効果が生まれます。国税庁の令和6年(2024年)統計によると、木造アパートは築五年で市場価格の約75%を維持する一方、固定資産税評価額はほぼ60%まで下がっています。つまり同じ家賃収入を得ても、評価額が低ければ納税額を圧縮できるわけです。
もう一つの利点は、入居ニーズの高さによる空室リスクの軽減です。人口減少が進む中でも、設備の新しさや断熱性能が高い築浅物件は選ばれやすい傾向があります。国土交通省「住宅市場動向調査2025年版」では、築五年以内の賃貸物件の平均空室率は7.8%と、築二十年以上の14.6%を大きく下回っています。収益が安定すれば、長期保有前提の相続対策でもキャッシュフローに不安を抱えずに済みます。
築浅を活用した節税の仕組み

重要なのは、土地と建物で評価方法が異なる点を理解することです。建物は前述の通り固定資産税評価額が適用されますが、土地は路線価評価が基本になります。賃貸住宅を建てると「貸家建付地」となり、土地評価額が通常の80%程度に圧縮されます。さらに建物部分も「貸家評価」の30%控除が使えるため、現金で保有するより相続税を大幅に減らせるのです。
2025年度も継続する「小規模宅地等の特例」は、自宅または賃貸経営の土地面積最大200㎡までを50%評価減できる制度です。築浅アパートを自宅敷地内に併設するケースでも要件を満たせば適用可能で、相続税の圧縮余地はさらに広がります。ただし適用要件は同居の有無や賃貸継続年数など細かく定められており、税理士への事前相談が不可欠です。
実は減価償却も現金化できるメリットがあります。築浅物件なら残存耐用年数が長いため、経費計上額は抑えられますが、そのぶん家賃収益を内部留保しやすい構造になります。相続開始後に評価額が下がり続ける一方、手元キャッシュは増えるため、納税資金を物件内部で確保できる点も見逃せません。
物件選定で損をしないチェックポイント
ポイントは、相続対策だけに偏らず投資としての収益性を確かめることです。まず立地ですが、将来の人口動態を市区町村単位で確認し、賃貸需要が長期的に維持されるエリアを選びます。住宅新報社「人口推計2025」では、主要政令市の中心部は2040年まで緩やかな人口増が見込まれる一方、郊外のベッドタウンは減少傾向が強まるとされています。
次に間取りと設備です。単身向けワンルームは回転率が高いものの、賃料下落に影響を受けやすい側面があります。築浅ならファミリー層向け1LDKや2LDKを選ぶと長期入居が期待でき、相続後の運用も安定します。また、省エネ性能を示す「BELS(ベルス)」の評価を取得している物件は光熱費の安さが訴求ポイントとなり、空室率の低減につながります。
最後に管理体制を確認しましょう。築浅でもメンテナンスを怠れば早期に価値が下がります。管理委託費は家賃の5%前後が相場ですが、24時間対応や長期修繕計画の有無で差が生まれます。購入前に管理会社の実績をチェックし、将来の修繕積立金がどの程度必要かを見積もることが大切です。
購入から運用までの資金計画
まず、自己資金は物件価格の20〜30%を用意するのが安全圏です。金融機関によってはフルローンも可能ですが、相続対策においては負債を適度に残すことで評価額を下げる効果が期待できます。日本政策金融公庫の2025年度アパートローン平均金利は固定2.3%前後、変動1.5%前後とされ、金利上昇リスクを考えると返済額は家賃収入の50%以内に抑える計画が望ましいでしょう。
資金繰りの観点では、家賃収入から返済・管理費・固定資産税を差し引いた手残りが黒字であるかを厳しく試算します。国土交通省「賃貸住宅経営実態調査」によれば、築五年以内の平均修繕費は年間家賃収入の約5%です。この数字を基準に10年計画を立て、空室率を15%とした保守的シナリオでもキャッシュフローが回るか確認してください。
さらに、相続発生時に納税資金を一括で用意できるよう、家賃の一部を定期預金で積み立てておく方法が有効です。住宅ローン控除の対象外となる賃貸用ローンでは繰上返済のメリットが小さいため、余剰資金を先取り貯蓄に回したほうが納税時の流動性確保に役立ちます。
法改正リスクと長期運用の視点
基本的に、税制は毎年見直される可能性があるため、築浅 相続対策も法改正リスクを織り込む必要があります。2025年度税制改正大綱では、小規模宅地等の特例の見直し議論は継続中ですが、現時点で適用縮小の具体案は示されていません。ただし将来の変更に備え、適用要件を常に確認し、家族信託や法人化など代替策を検討しておくと安心です。
一方で環境規制は強化が進んでおり、2030年以降に新築物件へZEH水準の断熱義務化が予定されています。築浅物件でも、省エネ性能が低いと将来のリフォームコストが膨らむ懸念があります。購入時に断熱等性能等級4以上を満たすか証明書類をチェックし、長期的な価値維持につなげましょう。
さらに、人口減少局面では出口戦略も欠かせません。賃貸経営を続けるのか、相続後に売却するのかによって投資判断は変わります。築浅なら売却時のキャピタルロスが小さく済む可能性が高いため、賃料下落が進む前に売却益を確定し、次世代の資産組み替え原資にする戦略も現実的です。
まとめ
本記事では、築浅物件が相続対策に適している理由から、節税の仕組み、物件選定、資金計画、法改正リスクまでを解説しました。結論として、評価額と市場価値のズレを活用しつつ安定収益を確保できる築浅物件は、納税負担の軽減と資産形成を同時にかなえる有力な手段です。まずは信頼できる税理士と不動産会社に相談し、自身の家族構成と資金力に合ったシミュレーションを作成してください。行動を先延ばしにせず、早めに準備を始めることが、将来の安心につながります。
参考文献・出典
- 国税庁「令和6年分 財産評価基準書」 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省「住宅市場動向調査2025年版」 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省「賃貸住宅経営実態調査」 – https://www.mlit.go.jp
- 日本政策金融公庫「2025年度融資制度概要」 – https://www.jfc.go.jp
- 住宅新報社「人口推計2025」 – https://www.jutaku-s.com