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築30年以上 建築費を味方にする不動産投資戦略

築年数の古い物件に目を向けると、「建物が傷んでいそう」「修繕費が読めない」といった不安が先に立つものです。しかし、築30年以上の物件は新築に比べて価格が抑えられるうえ、減価償却やリノベーション需要を活かして収益を高める余地があります。本記事では、建築費の歴史的推移からリフォーム相場、2025年度に利用できる補助制度までを整理し、初心者でも実践できる投資判断の手順を解説します。読み終えるころには、築古物件のリスクとリターンを正しく把握し、具体的な行動計画を描けるようになるはずです。

築古物件と建築費の関係を俯瞰する

築古物件と建築費の関係を俯瞰するのイメージ

まず押さえておきたいのは、築30年以上 建築費が当時どのように形成されていたかという点です。国土交通省の建設工事費デフレーターによれば、1990年を100とした場合、1980年代前半はおおむね70前後でした。この期間に建てられた物件は、資材価格や人件費が今より低かったため、同じ延床面積でも現行の新築コストより約3割安く建てられています。一方で耐震基準が1981年に大きく改正され、旧基準の建物と新基準の建物が混在している点が重要です。つまり、築30年以上の物件を選ぶ際は「いつ建てられたか」と「当時の建築費水準」をセットで考える必要があります。

さらに、日本の人口動態をみると1990年代後半から世帯数は横ばいに近づき、住宅の需給バランスが賃貸経営に大きく影響しています。総務省の2024年住宅・土地統計調査でも空き家率は13.5%に達しましたが、都市部の駅近は依然として需要が強いままです。建築費が安かった時代のストックを活用しつつ、立地と需要を見極めることで、高い利回りを実現できる余地が残されています。

建築コストの内訳を理解し投資判断に役立てる

建築コストの内訳を理解し投資判断に役立てるのイメージ

重要なのは、築古物件の建築費を単なる「安さ」で判断しないことです。建築コストは本体工事費、共用部設備費、設計監理費、諸経費の4層で構成され、各層の劣化度合いが修繕費を左右します。例えば1980年代のRC造マンションは、構造躯体の耐用年数が長い一方で給排水管の寿命が30〜40年と言われています。給排水管を入替える場合、専有部分を含めて1戸あたり30万〜50万円が目安になり、総戸数10戸なら最小でも300万円が必要です。

また、本体工事費に含まれる外壁タイルは、剥落を防ぐため10年ごとの打診調査と補修が推奨されています。国交省のガイドラインでは、1000㎡規模の外壁改修費はおよそ900万円と記載があり、足場費用が全体の15%を占める点が見落とされがちです。こうしたデータを事前に把握すると、購入前のキャッシュフローシミュレーションの精度が高まります。つまり、築30年以上 建築費を入口コストの安さだけでなく、将来の修繕コストとの合計で評価する視点が欠かせません。

リノベーション費用をコントロールするコツ

ポイントは、リノベーションを段階的に計画し、資金を一度に出し切らないことです。室内フルリノベーションは1㎡あたり8万〜15万円が相場ですが、水回りと内装を切り分けることで初期投資を抑えつつ賃料アップを狙えます。例えば40㎡の都市型ワンルームなら、キッチンとユニットバスを更新しても250万円前後に収まり、賃料を月1万円上げれば利回りは年4.8%改善します。

一方で、デザイン性の高いリノベーションに偏りすぎると、原状回復費の上昇やターゲット層の限定につながるため注意が必要です。国土交通省「賃貸住宅市場景況調査(2025年4月)」では、デザイナーズ物件の平均空室期間が一般物件より1.2か月長いという結果が示されました。したがって、ターゲットとする入居者属性を明確にし、家賃上昇幅と空室リスクを同時に評価する姿勢が求められます。

さらに、工事監理を自主管理に切り替えるだけで総工費の3%程度を節約できるケースもあります。ただし品質チェックは第三者機関に外注し、瑕疵のリスクを最小化しておくことが投資効率を高めるポイントです。

2025年度に活用できる補助・減税制度

実は、2025年度も築古物件の性能向上を後押しする制度が継続しています。代表的なのが国交省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」で、劣化対策・断熱改修を行うと最大250万円の補助が出ます。申請にはインスペクション報告書と性能向上計画が必要で、工事完了期限は2026年3月末です。

また、環境省の「先進的窓リノベ2025」は、熱貫流率が一定基準を満たす高性能窓への交換費用の1/2相当(上限200万円)を補助します。築30年以上のRC造マンションの窓を一括交換すると、一次エネルギー消費量が約15%削減され、見込まれる空調費の削減効果は年間3万円程度です。補助と光熱費削減を合わせると、投資回収期間を5年ほど短縮できる試算になります。

税制面では、2025年度も「住宅ローン控除」の対象にリフォーム資金を含められるケースがあり、控除期間は最長13年です。加えて50㎡未満の区分所有でも、一定の耐震・省エネ基準を満たせば対象となるため、投資家は金融機関との資金調達と併せて戦略を立てると効果的です。

キャッシュフロー計算で見る投資シナリオ

まず、築30年以上の木造アパート(総戸数6戸、延床240㎡)を想定し、土地建物価格2,400万円、表面利回り12%でシミュレーションを組みます。購入時に必要な登記・融資手数料を200万円、初期リフォーム費を600万円とし、家賃設定は月4.8万円です。この条件で満室稼働すると年間家賃収入は345.6万円、年間返済額が200万円、税前キャッシュフローは約80万円になります。

しかし、5年目に屋根防水と外壁塗装で300万円を支払うと、当年のCFはマイナス180万円に落ち込みます。ここで前述の長期優良住宅化リフォーム推進事業を活用し、補助120万円を取得すればマイナス幅は60万円に縮小します。つまり、補助制度を織り込めばキャッシュフローの谷を浅くでき、長期保有戦略の安定性が高まるわけです。

一方、RC造区分マンションを例に取ると、築35年・30㎡・価格980万円・家賃6.5万円というケースがあります。フルローン金利2.0%・期間20年で組むと、年間返済額は約60万円です。毎年の管理費・修繕積立金が計15万円、固定資産税5万円とすると、年間手残りは約3万円ですが、建物の減価償却費が35万円取れるため、所得税・住民税が軽減され、実質的な手残りは10万円前後に増えます。ここでも「築30年以上 建築費の安さ」と「減価償却メリット」の両輪が効いてきます。

まとめ

築30年以上の物件は建築費が低いうえ、現行制度を活用すれば修繕コストを抑えつつ収益を伸ばすチャンスがあります。重要なのは、当時の建築費水準と構造的な寿命を見極め、将来のリノベーション費用まで含めてキャッシュフローを計画することです。さらに、2025年度の補助制度や税制優遇を適切に組み込めば、投資の安定性と利回りを同時に高められます。築古物件への先入観を捨て、データと制度を武器に一歩踏み出してみてください。

参考文献・出典

  • 国土交通省 建設工事費デフレーター – https://www.mlit.go.jp
  • 総務省 住宅・土地統計調査 2024年速報 – https://www.stat.go.jp
  • 国土交通省 長期優良住宅化リフォーム推進事業 2025年度概要 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house
  • 環境省 先進的窓リノベ2025 – https://www.env.go.jp
  • 国土交通省 賃貸住宅市場景況調査 2025年4月 – https://www.mlit.go.jp/housing_statistics

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