不動産の税金

専従者給与の否認事例5選|税務調査で否認される理由

個人事業主として不動産経営を行いながら、家族に専従者給与を支払っている方は少なくありません。青色事業専従者給与は、適切に活用すれば家族全体の税負担を軽減できる有効な制度です。しかし同時に、税務署が特に注目する項目でもあります。要件を満たしていないと判断されれば、過去にさかのぼって給与が経費として認められず、追徴課税という重い負担を強いられることになります。

特に不動産所得における専従者給与は、事業の実態が見えにくいという特性から、税務調査で厳しくチェックされる傾向にあります。この記事では、国税不服審判所が公表している実際の否認事例をもとに、典型的な5つのパターンとその対策をわかりやすく解説していきます。単なる制度の説明ではなく、「なぜ否認されたのか」という核心に踏み込んで理解を深めていきましょう。

専従者給与制度の仕組みと節税メリット

専従者給与とは、個人事業主が生計を一にする配偶者や親族に支払う給与のうち、一定の要件を満たせば必要経費として認められる制度です。国税庁の説明によれば、家族に支払う給与は原則として必要経費にはなりませんが、青色申告では特別の取扱いとして、相当であると認められる金額を必要経費にできるとされています。この「原則は経費にできない」という前提を理解しておくことが、制度を正しく使う出発点となります。

この制度には、青色申告者向けの「青色事業専従者給与」と、白色申告者向けの「事業専従者控除」の2種類があります。青色事業専従者給与では、事前に税務署へ届出を行うことで、労務の対価として相当な金額であれば全額を必要経費に計上できます。一方、白色申告の事業専従者控除は配偶者86万円、その他の親族50万円を上限とする定額控除であり、青色申告ほどの柔軟性はありません。青色申告のほうが節税の幅は広いものの、その分だけ要件の審査も厳格になります。

具体的な節税効果を考えてみましょう。年間の不動産所得が800万円ある事業主が、物件管理を担当する配偶者に年間300万円の専従者給与を支払った場合、事業主本人の課税対象所得は500万円に減少します。所得税は累進課税を採用しているため、所得が分散されることで適用税率が下がり、家族全体としての税負担を軽減できるのです。ただし、この効果を得るには「相当と認められる金額」という枠を超えてはならず、過大とされる部分は必要経費にならない点に注意が必要です。

お持ちのマンションは、いま売るといくらか 無料のAI査定で確かめる

税務調査で否認される5つの典型パターン

専従者給与が否認されるケースには、いくつかの典型的なパターンが存在します。実は、これらの多くは国税不服審判所の裁決事例として公表されており、税務署がどこを見ているのかを具体的に知ることができます。自身の状況を客観的に評価するためにも、代表的な5つのパターンを順に見ていきましょう。

パターン1:不動産貸付けが事業的規模に達していない

不動産所得で専従者給与を使う場合、最初に問われるのが事業規模の問題です。国税庁は、不動産貸付けが事業として行われている場合には専従者給与の適用があるが、それ以外の場合には適用がないと明言しています。つまり、貸付けが「事業的規模」に該当しなければ、そもそも専従者給与を計上する土台がないということです。

事業的規模の目安として、国税庁はアパートなどでおおむね10室以上、独立家屋の貸付けでおおむね5棟以上という基準を示しています。この基準を下回る小規模な貸付けでは、専従者給与が認められにくくなります。実際に昭和54年9月26日の裁決では、独立した部屋数が4室で入居者も3名程度という小規模なアパート貸付けについて、社会通念上事業と称する程度の規模には達しないと判断され、妻への専従者給与が必要経費として否認されました。区分マンションを数室貸しているだけといった状況では、この段階で適用対象外となる可能性が高いのです。

パターン2:「専ら従事」の要件を満たしていない

事業的規模をクリアしても、次に問われるのが従事の実態です。青色事業専従者と認められるには、生計を一にする15歳以上の親族であることに加え、その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していることが求められます。ここで重要なのが「専ら」という言葉であり、業務量が僅かであれば要件を満たさないと判断されます。

平成7年5月30日の裁決がこの点を端的に示しています。この事例では、妻が賃料の受領や督促、契約書の作成、草取りといった業務に従事していたと主張されましたが、審判所は、たとえこれらの業務に現に従事していたとしても事務量は僅少であると認定しました。その結果、事業に専ら従事していたとはいえないとして、青色事業専従者の要件を満たさないと判断されています。単に何らかの作業をしているというだけでは足りず、事業に専念しているといえる実質が必要なのです。

パターン3:他に職業を持ち掛け持ちしている

専従者が他の仕事を持っている場合も、専ら従事の要件が問題になります。年間を通じて6か月を超える従事が求められる以上、他の職場に時間を拘束されていると、その要件を満たせなくなるからです。

平成15年3月25日の裁決では、配偶者が事業主の医院以外に別の病院などで毎週火曜日から土曜日まで勤務し、場所的・時間的な拘束を受けていた事実が認定されました。そのうえで、事業への従事が実質的に週1日程度にとどまることから、事業に専ら従事した期間がその年を通じて6か月を超えているとは認められず、青色事業専従者に該当しないと判断されています。他の会社で役員や正社員として働いている場合はもちろん、パートタイムであっても勤務日数が多ければ、専従者としての要件を満たさないリスクが高まります。

ただし、年の途中から従事する場合には例外もあります。国税庁の質疑応答によれば、就職や退職などの相当の理由があるときは、従事可能期間の2分の1を超える期間専ら従事していれば足りるとされています。この相当の理由には就職や退職も含まれると解されており、年の途中で他の仕事を辞めて事業に専念したようなケースでは、事情に応じた判定が可能です。

パターン4:給与額が労務の対価として不相当

専従者給与の金額は、労務の対価として相当であることが求められます。国税庁も、過大とされる部分は必要経費にはならないと明記しています。相当かどうかは、専従者が労務に従事した期間や労務の性質・程度、他の使用人や同種同規模事業の専従者の給与、事業の種類・規模・収益などを総合的に見て判断されます。

この判断基準が実際に適用されたのが、令和元年9月6日の裁決です。この事例では、支払われた青色事業専従者給与額を類似同業者の専従者給与の平均額と比較したところ、平均額を上回る部分は労務の対価として相当とは認められないとして、その超過部分が必要経費に算入できないと判断されました。給与額を決める際に、業務内容とかけ離れた高額を設定すると、平均水準との比較で否認されるおそれがあるのです。

さらに古い事例では、他に勤務していた期間についても同額の給与を払い続けたことが問題視されたケースもあります。昭和63年11月25日の裁決では、他に勤務していた期間に対応する給与は労務の対価として不相当に高額であると判断され、加えて専従者と主張された父母が実際には事業に従事していなかったとして、高額部分と父母への給与が必要経費に算入されませんでした。適正な給与額を設定するには、同様の業務で他人を雇った場合にいくら支払うかを客観的に検討し、その根拠を記録しておくことが有効です。

パターン5:届出の内容と実際の支払いが一致していない

青色事業専従者給与を経費にするには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地を所轄する税務署長に提出する必要があります。提出期限は原則としてその年の3月15日までで、1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その日から2か月以内とされています。届出書とは別に給与規程を定めている場合には、その写しの提出も必要です。

重要なのは、給与が届出書に記載した方法により、記載された金額の範囲内で支払われていることです。増額など内容を変更する場合には、「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を遅滞なく提出しなければなりません。届出に月額25万円と記載しながら実際には35万円を支払っていれば、超過分は届出の範囲を超えるものとして問題になります。

また、記録上の支払額と実際の受給額が食い違うことも否認につながります。平成27年4月13日の裁決では、配偶者が賞与を受給したことはなかったと認定され、実際に支払を受けた給料の金額のみが専従者給与として認められました。帳簿上は支払ったことになっていても、本人が受け取っていない金額は経費として認められないのです。一方で同じ裁決の別の論点では、給与の原資が事業主借勘定を通じて事業用の現金から支払われていれば、資金の出どころだけを理由に否認されるわけではないと示されており、実際に事業から支払われている事実が重視されています。

不動産所得ならではの注意点

不動産所得で専従者給与を計上する場合、事業所得とは異なる特有の検討事項があります。まず前提となるのが、すでに述べた事業的規模の判定です。おおむね10室・5棟という目安を意識しつつ、境界線上にある場合は貸付けの規模や態様を総合的に見て判断されるため、慎重な検討が欠かせません。

次に問われるのが、業務量と給与額の整合性です。不動産賃貸業は管理業務が比較的少ないと見られがちで、特に管理会社に業務を委託している場合には、専従者が担当する業務内容と給与額のバランスが厳しくチェックされます。税務調査では「管理を委託しているのに、なぜ専従者が必要なのか」という視点で確認されることがあります。委託していない業務、たとえば入居者からの問い合わせ対応や家賃入金の確認、物件の巡回といった具体的な作業を明確に説明できるよう、日々の記録を残しておくことが大切です。

否認を防ぐための実践的な対策

これまで見てきた裁決事例からは、否認を防ぐために日頃から準備すべきことが浮かび上がってきます。ポイントは、事業規模・従事実態・給与額・支払いの記録という4つの側面を、それぞれ客観的に説明できる状態にしておくことです。

まず、届出書を確実に提出し、控えを保管しておくことが大前提です。原則3月15日まで、または専従者が生じた日から2か月以内という期限を守り、専従者の氏名や業務内容、給与額を具体的に記載します。給与規程を別に定めているときはその写しも添え、金額を変更する際には変更届出書を遅滞なく提出してください。届出に記載した方法と金額の範囲内で支払うことを徹底すれば、パターン5のような不一致を避けられます。

次に、給与額の妥当性を裏づける根拠を用意しておきましょう。同種業務で他人を雇用した場合の人件費相場を把握し、業務内容や経験年数と照らして妥当な金額かを検討します。令和元年の裁決が示すように、類似同業者の平均を上回る部分は否認されうるため、給与額を決めた考え方を文書に残しておくと、調査の際に説得力のある説明ができます。

そして、業務実態を証明する記録を日常的に作成・保管することが欠かせません。公表裁決の多くは、労務提供の程度や勤務時間が僅少であると認定されて否認に至っています。出勤簿で勤務日数と時間を記録し、業務日誌に「入居者対応」「家賃入金の確認」「物件の巡回」といった具体的な内容を日付とともに残しておけば、専ら従事していた事実を客観的に示す助けになります。あわせて、銀行振込で毎月同じ日に同じ金額を支払い、給与明細書を発行して源泉徴収を適切に行うなど、給与としての形式面も整えておきましょう。

専従者給与の運用に不安がある場合は、税理士に相談することを強くお勧めします。国税庁でも、手続きに関する疑問は国税の相談窓口を利用できると案内しています。事業規模の判定や給与額の妥当性など、個別事情によって結論が変わる論点も多いため、専門家の視点で早めにチェックを受けることが安心につながります。

まとめ

専従者給与は適切に活用すれば大きな節税効果を得られる制度ですが、要件を満たしていなければ否認され、追徴課税という重い負担を強いられることになります。本記事で紹介した裁決事例が示すように、否認の主な原因は、不動産貸付けが事業的規模に達していないこと、専ら従事の要件を満たしていないこと、他に職業を持ち掛け持ちしていること、給与額が労務の対価として不相当であること、そして届出内容と実際の支払いが一致していないことの5つに整理できます。

不動産所得の場合は、おおむね10室・5棟という事業的規模の目安を前提に、管理業務の実態との整合性も厳しく問われます。否認を防ぐには、届出書の確実な提出、給与額の根拠の明確化、業務実態を示す記録の作成、給与支払いの適切な処理を日頃から心がけることが重要です。個別の判断に迷う場合は早めに税理士や国税の相談窓口を活用し、確かな根拠に基づいて制度を安心して活用してください。

参考文献・出典

  • 国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
  • 国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
  • 国税庁「A1-10 青色事業専従者給与に関する届出手続」
    https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/12.htm
  • 国税庁「年の中途で事業に従事した親族に係る青色事業専従者給与」
    https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/04/10.htm
  • 国税不服審判所 公表裁決事例(昭和54年9月26日裁決)
    https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0402080000.html
  • 国税不服審判所 公表裁決事例(青色事業専従者給与)
    https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0403140000.html
  • 国税不服審判所 公表裁決事例(平成27年4月13日裁決)
    https://www.kfs.go.jp/service/JP/99/07/index.html
電宅男
監修 電宅男 宅地建物取引士 / MBA|株式会社青山地所 営業部

一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。

プロフィール詳細 →

関連記事

TOP
不動産売買なら青山地所