不動産の税金

「収益物件 初心者が陥る罠」を回避する5つの視点

不動産投資に興味はあるものの、「本当に毎月安定して家賃が入るのか」「高額ローンを抱えて失敗しないか」といった不安を抱く方は多いはずです。とくに収益物件は表面利回りなど派手な数字が先に見えるため、甘い見込みで購入しやすい点が特徴です。本記事では、15年以上の実務経験で見てきた“初心者が陥りやすい典型的な罠”を整理し、どう避けるかを具体例とともに解説します。読了後には、自分に合った投資判断の軸を持てるようになるでしょう。

収益物件選びで見落としがちな数字

収益物件選びで見落としがちな数字のイメージ

まず押さえておきたいのは、募集図面に並ぶ数字だけで判断しない姿勢です。表面利回りは家賃収入を物件価格で割った単純計算にすぎず、実際の手残りを示しません。固定資産税や仲介手数料など運用開始時点でかかる諸費用を加味すると、利回りは1〜2%下がるのが一般的です。国土交通省の2024年不動産投資家調査でも、手取り利回りは表面利回りより平均1.8ポイント低い結果が出ています。

次に注意したいのが修繕積立の不足です。築20年を超えるRC造マンションでは大規模修繕に1戸あたり100万円程度かかるケースがあり、積立不足なら臨時徴収が発生します。にもかかわらず販売資料には積立残高が記載されていない場合も多いので、管理組合の総会議事録を必ず確認してください。数字が見えないコストこそ将来のキャッシュフローを大きく揺らします。

さらに入居率の計算方法にも落とし穴があります。売主が示す「稼働率95%」が区全体の平均なのか、自社管理物件だけなのかによって意味が変わるからです。実は東京23区でも駅徒歩15分以上の物件では稼働率が90%を切るサブマーケットが存在します。区内平均に安心せず、ピンポイントの周辺データを取る姿勢が欠かせません。

過度な借入が招くキャッシュフロー悪化

過度な借入が招くキャッシュフロー悪化のイメージ

ポイントは、金融機関の融資枠いっぱいに借りても安全とは限らないことです。2025年時点では金利1%台のローンも珍しくありませんが、日銀が年0.25%政策金利を段階的に引き上げる方針を示しているため、変動金利は今後上昇リスクを抱えます。日本政策金融公庫の試算では、金利が1%上がると返済額は約10%増え、手残りが大きく減少することが示されています。

またローン年数ばかりに注目すると元本返済が遅れ、売却時の残債が多くなる罠に陥ります。特にサブリース契約で家賃保証があると錯覚し、35年フルローンを選ぶ初心者が目立ちます。サブリース家賃は10年目で5〜10%下がる契約が一般的で、保証があるからと言って返済が楽になるわけではありません。

つまり月々のキャッシュフローが黒字でも、ローン残高が資産価値を上回れば“負債を買った”状態になります。適切な自己資金比率は物件価格の20〜30%が目安です。返済比率が家賃収入の50%を超えると金利上昇や空室の影響をもろに受けるため、厳しめの試算で自分の安全域を知ることが先決です。

管理運営の甘さが生む空室リスク

実は、購入後の運営体制こそ収益を左右します。物件管理を仲介会社に丸投げすると、客付け力やメンテナンス品質のばらつきが大きく、想定外の空室期間が延びることがあります。総務省住宅・土地統計調査(2023年)によると、空室が3カ月以上続くと退去前の家賃に戻るまで平均で2年近く要するというデータもあり、最初の空室期間を短く抑える工夫が欠かせません。

一方で管理委託料を極端に削減すると、募集広告が少なくなる、内見対応が遅れるなど別のリスクが生じます。安い管理会社を選ぶ際は、担当者数と対応エリアを具体的に確認し、人員不足でサービス低下が起きていないかをチェックしましょう。長期的に見れば、多少高い管理料でも稼働率が維持できるほうが手残りは多くなりやすいのです。

さらに入居者トラブルへの備えも重要です。夜間の騒音やゴミ出し問題は、対応が遅れると他の入居者の退去を招きます。管理会社の24時間対応体制や弁護士との連携実績を確認することで、トラブル対応のスピードと質を見極められます。空室リスクは単なる入居率だけでなく、満足度を守る運営力の総合結果であると理解しましょう。

税金・法規制を知らないまま購入する危険

重要なのは、数字や運営だけでなく税務と法規も合わせて把握する視点です。収益物件の家賃収入は不動産所得として総合課税され、給与と合算されるため、所得税率が跳ね上がるケースがあります。たとえば課税所得が900万円を超えると2025年度の税率は33%になり、家賃の3分の1が税金で消える計算です。損益通算で赤字を作ろうと減価償却を過大に計上すると、税務調査で否認され追徴課税となるリスクがあります。

さらに地方税の固定資産税・都市計画税は築年数によらず土地と建物に課税され、経年で減るのは建物評価のみです。築古物件でも「税金が安いから得」という単純な判断は危険です。自治体ごとに評価額の下がり方が異なるため、必ず課税明細書で実額を確認しなければなりません。

法規制にも目を向ける必要があります。たとえば耐震基準適合証明を取得していない1981年以前の旧耐震物件は、金融機関の融資比率が下がる傾向にあり、売却時の買い手が限定されます。また建築基準法の接道要件を満たしていない再建築不可物件は、資産価値が大幅に低下します。価格が割安だからと飛びつかず、法的な担保価値まで確認することが欠かせません。

健全な投資判断をするためのチェックリスト

まず、物件を検討する前に「自分の目標」と「許容できるリスク」を紙に書き出してください。そのうえで下記の五つを確認すると、多くの初心者がはまる罠を避けやすくなります。

  • 表面利回りと手取り利回りの差額を試算し、手残り基準で比較
  • 返済比率50%以下、自己資金20%以上になる資金計画を作成
  • 管理会社の担当者数、広告出稿数、24時間対応有無を面談で確認
  • 課税所得の増減をシミュレーションし、税率が上がっても黒字か検証
  • 接道・耐震・用途地域など法的制約を役所と現地で二重チェック

このようにチェックリスト化することで、感情的な判断を避け、継続的に収益を生む物件かどうかを客観的に見極められます。チェック項目は購入後も定期的に見直し、環境変化に合わせて運用方針をアップデートしましょう。

まとめ

本記事では、収益物件で初心者が陥りやすい代表的な罠を五つの視点で解説しました。数字の表面だけを信じず、実際の手残りと将来コストを読み解くことが第一歩です。さらに、返済計画や管理運営、税務・法規まで視野を広げれば、失敗確率を大幅に下げられます。もし今検討中の物件があるなら、紹介したチェックリストで再点検してみてください。地に足のついた判断が、長期にわたり安定した家賃収入をもたらす最短ルートになります。

参考文献・出典

  • 国土交通省 不動産投資家調査2024 – https://www.mlit.go.jp
  • 総務省 住宅・土地統計調査2023 – https://www.stat.go.jp
  • 日本政策金融公庫 融資統計資料2025 – https://www.jfc.go.jp
  • 国税庁 所得税の税率表2025年度版 – https://www.nta.go.jp
  • 東京都 建築安全条例解説2025 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp

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