年収が700万円前後あると、ローン審査の通りやすさや自己資金の余裕から「アパート経営なら私にもできそう」と感じる方が増えます。しかし一歩踏み出す前に、空室や修繕費などのリスクを具体的に把握しなければ、せっかくの高年収が資産形成につながりません。本記事では最新の空室率データや融資の基準を交えながら、年収700万円層が直面しやすい落とし穴とその対策を丁寧に解説します。読み終えたとき、あなたは収支シミュレーションの精度を高め、堅実に物件を選ぶための判断軸を手にできるでしょう。
アパート経営が気になる理由

まず押さえておきたいのは、給与所得だけでは老後資金が不足しがちな現実です。厚生労働省のモデル世帯試算によれば、ゆとりある生活には平均的な年金額に加え毎月約6万円の上乗せが必要とされています。そこで家賃収入という「第二の給料」を作ろうと、年収700万円前後の現役世代がアパート経営を検討し始めるわけです。
一方で、不動産は株式のように少額から分散投資できません。物件価格が数千万円単位になるため、リスク管理の甘さがそのまま家計の危機へ直結します。つまり、魅力的な利回りの裏に潜むリスクを正しく測る視点が欠かせません。国土交通省の住宅統計(2025年10月)でも全国のアパート空室率は21.2%と依然2割超えており、楽観視は禁物です。
収入700万円の資金計画と融資の壁

重要なのは、融資審査で評価される「返済比率」を抑えつつ、自己資金をどこまで投入するかです。都市銀行は年収700万円層に対し、年間返済額が年収の35%以内になるよう求めるケースが一般的です。仮に金利2.0%・期間25年で5,000万円を借りると返済は毎月約21万円、年間252万円となり返済比率は36%を超えてしまいます。つまりフルローンは難しく、頭金として物件価格の20%前後を用意する計画が現実的です。
また、自己資金を減らして高利回りを狙う戦略は、一時的なキャッシュフローを上げても金利上昇リスクに弱くなります。日本銀行が2024年にマイナス金利を解除した後、地銀の融資金利は0.2〜0.3ポイント上がりました。小幅な上昇でも長期ローンでは数百万円の負担増になるため、余裕資金を温存して繰り上げ返済や予備費に回す方が安全です。
さらに、2025年度の「住宅ローン減税」は自宅購入者向け優遇であり、賃貸用アパートには適用されません。節税を目的に過度な借入をするのは得策でないと覚えておきましょう。
空室率と家賃下落のリスクを読む
ポイントは、購入前にエリアごとの需給バランスを数値で把握することです。同じ空室率21.2%でも、都心駅徒歩5分の築浅物件は平均入居期間が長く、郊外の築古物件は1年で退去する例が目立ちます。つまり平均値だけに頼らず、募集賃料の推移や周辺人口の伸びを細かく調べる必要があります。
東京都心3区では、2025年上半期の平均募集賃料が前年同期比+1.8%で推移しましたが、首都圏郊外では―0.6%の下落でした。家賃が1万円下がると年間12万円、返済余力が一気に削られます。シミュレーションでは「家賃10%下落」「空室率25%悪化」という悲観シナリオも必ず試算し、マイナスのキャッシュフロー月が何カ月続くか確認しましょう。
また、物件が築20年を超えると設備更新の費用負担が増え、募集賃料は築年数に比例して低下しがちです。利回りだけを見て築古アパートを選ぶ場合、表面利回りが2%高くても修繕費が年50万円かかれば実質利回りは簡単に逆転します。
修繕・災害・法改正リスクへの備え
実は、見落とされやすいのが長期的な修繕費と予期せぬ損害リスクです。2025年の建築費指数は原材料高の影響で前年より9%上昇しており、外壁塗装や給排水管交換の費用は今後さらに高騰する可能性があります。築15年で外壁改修を行う場合、30戸規模のアパートなら300万円以上かかるケースも珍しくありません。
一方、近年は線状降水帯による内水氾濫の被害が地方都市でも頻発しています。火災保険は水災補償を付帯させると保険料が跳ね上がりますが、万一1階住戸が浸水するとリフォーム費用に加え家賃収入も失われます。保険料をケチって賃料1年分を失うより、適切な補償を確保した方がトータルで安全です。
さらに、2025年4月施行の改正マンション適正管理法により、共同住宅の長期修繕計画の作成ガイドラインが厳格化されました。アパートは管理組合がないものの、金融機関が個別に修繕計画書の提出を求める事例が増えています。計画書を準備しないと追加担保を要求される恐れがあるため、購入前に専門家と10年分の修繕計画を作っておきましょう。
リスクを抑える投資戦略の実践
基本的に、リスクを抑えたアパート経営では「小さく始めて大きく育てる」発想が有効です。最初の物件は駅徒歩10分以内、築10年以内、総戸数12戸以下の木造や軽量鉄骨アパートを検討すると、修繕費が読めて管理も複雑になりません。家賃収入とローン返済の実績を積むことで、次の融資審査が有利になり、ポートフォリオの拡大にもつながります。
また、サブリース(家賃保証)契約は空室リスクを抑える一方、家賃が相場より1〜2割低く設定される傾向があります。契約更新時に保証家賃を下げられる条項も多いため、リスク転嫁の仕組みを理解したうえで利用を検討してください。管理会社に募集を委託する場合は、リーシング力を示す「平均空室期間」「広告料(AD)の慣習」を数字で比較すると効果的です。
さらに、投資エリアの人口動態を確認し、大学や再開発など需要を押し上げる要因が将来も続くかを注視しましょう。国勢調査の将来人口推計では、2040年まで人口が微増する自治体は全国でわずか8%です。年収700万円層が2棟、3棟と保有を増やすなら、需要が底堅いエリアを複数持つ「地域分散」も有力なリスクヘッジになります。
まとめ
最後に、年収700万円のアパート経営では「返済比率を35%以内に抑える」「家賃10%下落でも赤字にならない」「10年分の修繕計画と保険で災害に備える」という三つの軸が安全運営の鍵になります。空室率21.2%という市場環境でも、立地と物件選定を妥協しなければ安定収益は十分狙えます。まずは自己資金の範囲で堅実な一棟を取得し、シミュレーションと実績を丁寧に検証しながら次のステップに進んでみてください。不確実な時代だからこそ、冷静なリスク管理があなたの高年収を確かな資産に変えてくれるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年10月速報値 – https://www.mlit.go.jp/
- 厚生労働省 老後の生活費に関するモデル試算 2025年度版 – https://www.mhlw.go.jp/
- 日本銀行 主要金融指標統計 2024〜2025年版 – https://www.boj.or.jp/
- 総務省 国勢調査 将来人口推計 2025年公表 – https://www.stat.go.jp/
- 建設物価調査会 建築費指数 2025年7月公表 – https://www.kensetu-bukka.or.jp/