不動産投資を始めたいけれど、「アパート経営はいくらから始められるのだろう」と悩む人は多いものです。自己資金が足りないと感じて二の足を踏む方もいれば、融資を受けることに不安を抱く方もいるでしょう。本記事では、初期費用の内訳から自己資金と借入の適切な割合、2025年時点で活用できる支援策までを網羅的に解説します。読了後には、ご自身の資金計画を具体的な数字でイメージでき、最初の一歩を踏み出す判断材料が得られます。
アパート経営に必要な初期費用の全体像

重要なのは、物件価格だけで必要資金を判断しないことです。結論として、購入価格のほかに諸費用が10〜15%程度乗るのが一般的だからです。諸費用には不動産仲介手数料、登録免許税や司法書士報酬といった登記関連費用、火災保険料、金融機関の事務手数料が含まれます。
たとえば物件価格5,000万円の木造アパートを想定すると、諸費用はおよそ500万〜750万円になります。さらに、引き渡し後すぐに修繕が必要な場合を考慮して、別途100万円程度の予備費を持つと安心です。また、賃貸募集の広告費や入居者確保のための軽微なリフォーム費も初年度には発生します。つまり、最初に想定する予算は「物件価格+約20%」を目安にすることで、想定外の出費に慌てずに済みます。
自己資金はいくら用意すべきか

まず押さえておきたいのは、自己資金が多いほど返済負担を軽くでき、融資審査でも有利になる点です。一般に金融機関は購入価格の80%までを上限に融資することが多く、残り20%を現金で用意するのが基本ラインとされています。
具体例として、先ほどの5,000万円のアパートなら自己資金は1,000万円が一つの目安です。しかし、金融機関によっては「ローン利用は70%まで」といった独自基準を設ける場合もあります。この場合、自己資金は1,500万円必要になります。自己資金を増やすメリットは、毎月の返済額が減りキャッシュフローが安定することです。一方で、手元資金を使い過ぎると突発的な修繕費に対応できなくなる恐れがあります。そのため自己資金は「融資比率(LTV)七割前後+予備費200万円程度」を一つのモデルに考えると、安全性と投資規模のバランスが取りやすくなります。
融資を活用して始める場合の資金計画
ポイントは、融資条件を比較し総返済額を試算したうえで物件を選ぶ流れにすることです。2025年12月時点で、地方銀行のアパートローン固定金利は年1.6〜2.3%が中心帯、期間は最長35年が一般的です。
仮に4,000万円を金利2%・期間30年で借りた場合、元利均等返済で月約15万円、年間返済額は180万円です。一方、国土交通省の最新調査によると全国平均家賃は単身向けで月5.4万円、ファミリー向けで月7.2万円です。8戸の単身向けアパートを例にすると満室想定家賃収入は年518万円となり、管理費や固定資産税などの運営費を25%と仮定しても、手取り収入は約389万円です。そこから年間返済額180万円を差し引くと、キャッシュフローは約209万円となり、おおむね月17万円の余剰が生まれます。このように、融資条件を数字に落とし込み、家賃収入や空室率、金利変動リスクを加味したシミュレーションを行うことで、無理のない借入額が見えてきます。
キャッシュフローから逆算する必要資金
実は、必要資金を考えるうえで「空室率」と「修繕積立」は見落とされがちです。国土交通省住宅統計によれば、2025年10月時点の全国アパート空室率は21.2%で前年より改善したものの依然として高水準です。空室率を20%と想定すると、先ほどの例では年間家賃収入が518万円から414万円に下がります。
また、築年数が10年を超えた物件では屋根や外壁の修繕が数年おきに必要です。外壁塗装は1棟で150万〜200万円、屋根防水は50万〜80万円かかります。そこで毎年家賃収入の10%を修繕積立としてプールしておくと、将来の大規模修繕に備えられます。空室損失と修繕積立を引いた後でもプラスのキャッシュフローが残るかを確認し、そのうえで自己資金と融資比率を調整することが資金計画の核心です。
2025年度に活用できる支援策と税制メリット
重要なのは、現行制度を正しく理解してコストを抑えることです。2025年度は、賃貸住宅の省エネ性能向上を目的とした「賃貸住宅省エネ改修促進事業」が継続されています。一定の断熱改修や高効率給湯器の導入を行うと、1戸あたり最大50万円、1棟あたり上限600万円の補助が受けられます(交付申請は2026年3月末まで)。
さらに、青色申告特別控除65万円の活用や、減価償却費を計上できる点はアパート経営ならではの税制メリットです。特に木造アパートの法定耐用年数は22年ですが、中古物件を購入すると残り期間を過ぎた分を短縮して償却でき、初期の所得税を圧縮できます。また、固定資産税は新築の課税標準が3年間半額になる特例があるため、新築で建てる場合にも税負担を抑えられます。これらのメリットを加味すると、自己資金の回収期間を縮め、投資効率を高めることが可能です。
まとめ
ここまで、アパート経営を始める際に必要な資金の考え方を解説しました。物件価格だけでなく諸費用が10〜15%かかる点、自己資金は購入価格の20%を基本に予備費を上乗せする点、そして融資条件を詳細にシミュレーションする重要性を確認しました。また、空室率や修繕積立を織り込みキャッシュフローから逆算することで安全域を確保できます。最後に、2025年度も使える省エネ改修補助金や税制優遇を活用すれば、必要資金を抑えつつ収益性を高められます。まずはご自身が用意できる自己資金と希望する返済期間を明確にし、複数の金融機関に相談するところから一歩を踏み出してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省住宅局「住宅市場動向調査2025」 https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 住宅統計調査 空室率データ(2025年10月) https://www.e-stat.go.jp
- 総務省統計局「住宅・土地統計調査」 https://www.stat.go.jp
- 日本銀行「金融システムレポート 2025年版」 https://www.boj.or.jp
- 一般社団法人不動産協会「賃貸住宅市場レポート2025」 https://www.fdk.or.jp