賃貸アパートやマンションを買ったら毎月どれくらいのお金が残るのか――これは不動産投資に興味を持った瞬間、誰もが抱く疑問です。表面利回りの数字だけを見ても、実際に手元へ残る現金までは分かりません。そこで本記事では「収益物件 月々の収入はいくら」という疑問に答えるため、家賃設定から経費、借入返済、税金までを順序立てて整理します。読み進めるうちに、購入前にキャッシュフロー表を作り、リスクとリターンを見える化する方法が身につくでしょう。
収益物件の月々の収入を決める三つの要素

まず押さえておきたいのは、手取り収入を左右する要素が大きく三つに分かれる点です。家賃収入、運営経費、そしてローン返済がそれに当たります。
家賃収入は満室想定の総額から空室や滞納を割り引いた「実効家賃」で見る必要があります。2025年の国土交通省データによると、平均空室率は全国で約18%です。つまり毎月80%前後の入居を前提に計算するほうが現実的だと言えます。
次に運営経費ですが、固定資産税や管理委託料、修繕積立などが含まれます。経験則では家賃収入の15〜25%程度を占めることが多いものの、築年数や規模によって幅があります。特に築20年を超える物件では修繕費が跳ね上がるので、早めに積立を始めておくと安心です。
最後にローン返済があります。現在の金利水準は変動型で年1%台が主流ですが、日本銀行の金融政策次第で変わるリスクを忘れてはいけません。返済額は「元利均等」と「元金均等」で異なるため、将来の残債推移まで含めて比較すると判断を誤りにくくなります。
家賃収入の目安を地域別データで考える

ポイントは、同じ間取りでもエリアによって賃料相場が大きく変わる点です。都道府県別の平均家賃は、総務省の家計調査を参考にすると東京都が約9.2万円、地方中核都市では5〜6万円が一般的となっています。
仮に延べ床30㎡のワンルームを例に取ると、東京都心では月10万円でも借り手が付きやすい一方、人口5万人前後の地方都市では半分以下になるケースも珍しくありません。つまり高い賃料が見込めるエリアは購入価格も上がるため、投資利回りが自動的に良くなるわけではない点に注意が必要です。
また、賃料の上限を決めるのは周辺の競合物件です。築浅・駅近・設備充実の物件が多いエリアでは、築15年を超えるマンションの募集賃料を上げにくくなります。逆に大学や工業団地が新設される地域では、築年が古くても需要が底堅く、安定した賃料を維持できることがあります。
家賃を設定する際は、同じ駅徒歩圏で築年数・設備が近い物件の募集広告を10件ほど調べ、その平均値から1割下げた金額を基準にすると空室期間を短くできる傾向があります。これが結果的に実効利回りを底上げする近道になります。
経費とローン返済が収入をどう変えるか
重要なのは、帳簿上の利益よりもキャッシュフローを優先してみることです。たとえ減価償却で赤字にできても、手元に現金が残らなければ投資は続けられません。
経費には管理会社へ支払う管理料、入居者募集の広告料、火災・地震保険料などが含まれます。2025年度の火災保険は築年数や構造で保険料が細分化され、鉄筋コンクリート造の築浅なら年間1万円台、木造アパートは3万円超が目安です。これらを12で割り月次に按分すると、キャッシュフロー表を精度良く作れます。
ローン返済は元利均等返済で年1.5%、借入期間25年を想定すると、1,000万円当たりの月返済額は約4万円です。借入額が5,000万円なら20万円前後を支払う計算になります。ここに空室リスクを加味した実効家賃、さらに経費を差し引くと、想像より手取りが少ないと感じる人が多いのが実情です。
したがって購入前には「空室率25%」「金利上昇+1%」といった厳しめの条件で試算することが大切です。返済が当初より苦しくなるシナリオを想定しておけば、いざというときの対応策を用意しやすくなります。
シミュレーションで見る具体的な月々の数字
実は、具体的な数字を入れてシミュレーションを組むと、収益構造が一目で理解できます。ここでは築10年・RC造・総戸数8戸のワンルームマンション一棟を例に取り上げます。
想定家賃は1戸7万円、年間家賃総額は7万円×8戸×12か月で672万円です。空室率15%を見込むと実効家賃は571万円、月ベースでは約47.6万円となります。運営経費を家賃の20%、すなわち月約9.5万円とすると、残りは38.1万円です。
ローンは借入総額8,000万円、金利1.5%、期間30年の元利均等で月々27.6万円を返済すると仮定します。ここまで差し引くと手元に残るのは10.5万円です。年間ベースでは約126万円、表面利回り8%、実質利回り(NOI利回り)は約4.8%となりました。
もし金利が2.5%に上昇した場合、月返済額は約31.6万円に増えます。このケースでは手取りが7万円台に落ち込むため、管理会社委託料や保険を見直す、家賃を5000円程度引き上げるなどの対策が必要になります。数字が示す現実を早めに把握すれば、買い急ぎを防げるでしょう。
2025年度の税制が与えるインパクト
基本的に、個人が収益物件を取得した場合の家賃収入は不動産所得として総合課税の対象になります。2025年度も給与所得と合算して課税される仕組みは変わりませんが、所得税の最高税率は45%、住民税を合わせると55%に達するため、手残りに大きく影響します。
一方、減価償却費による節税効果は依然として有効です。鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年で、築年数に応じた簡便法が適用できます。築20年物件なら残存耐用年数は27年となり、年間償却費を多めに計上できるため、キャッシュフローを維持しつつ課税所得を圧縮できます。
2025年度の固定資産税評価替えは前年と同水準で据え置かれましたが、地価上昇が続く都心部では評価額が上がり、税負担が増えるケースも見られます。購入前に自治体で評価額を確認し、長期の税コストを試算しておくと安心です。
法人を設立して物件を保有する方法もあります。法人税率は課税所得800万円以下で15%、それを超える部分でも23.2%が適用されるため、高所得の個人より低い税負担で済むことがあります。ただし設立・維持コストや金融機関の融資スタンスを総合的に比べることが欠かせません。
まとめ
ここまで見てきたように、収益物件の月々の手取りは「実効家賃−経費−ローン返済」で計算できます。家賃の見込み違い、経費の過小評価、金利上昇といった要因が重なると、期待ほどの収入が得られないことも珍しくありません。だからこそ購入前に複数シナリオで試算し、最悪ケースでも赤字にならないラインを見極める姿勢が大切です。シミュレーションを継続的に更新しながら、堅実にキャッシュフローを積み上げていきましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅局「賃貸住宅市場の現況」(2025年版) – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省統計局「家計調査年報 2025」 – https://www.stat.go.jp/
- 日本銀行「金融システムレポート 2025年10月」 – https://www.boj.or.jp/
- 国税庁「令和7年度 所得税の手引」 – https://www.nta.go.jp/
- 一般財団法人日本不動産研究所「不動産投資家調査 2025年上期」 – https://www.reinet.or.jp/