年収400万円前後でアパート経営を始めたものの、「思ったより赤字が続く」「空室が埋まらない」と悩む声を多く聞きます。家計に余裕があるわけではない層にとって、月数万円のマイナスは生活を直撃します。本記事では、なぜ失敗が起こるのかをデータと実例から整理し、2025年12月時点で利用できる制度も踏まえつつ、リスクを小さくする具体策を解説します。読み終えたころには、自分に合った投資スタイルと注意点がクリアになるはずです。
年収400万層が陥りやすい収支シミュレーションの落とし穴

重要なのは、購入前に作成するシミュレーションが現実離れしていないか検証することです。利回り8%という表面上の数字に安心し、実質利回りを十分に計算しない場合、後から赤字に気づくケースが目立ちます。
まず、固定資産税や火災保険などのランニングコストを月割りで加算し、満室でも手残りが確実にプラスとなるか確認します。さらに、国土交通省調査によると2025年10月の全国アパート空室率は21.2%です。この数値を踏まえ、最低でも年間2~3か月は空室が続く前提で計算することが必要です。
次に、金利上昇シナリオを入れた複数パターンを用意しましょう。変動金利で年0.4ポイント上がった場合、30年返済なら返済総額は数百万円単位で増えます。言い換えると、家賃3年分が一気に吹き飛ぶ計算になるため、ストレステストは欠かせません。
最後に、修繕費の積立を忘れないことがポイントです。築15年を過ぎた物件では、外壁塗装や給排水管の更新で数百万円かかります。毎月家賃収入の10%を修繕積立として別口座に隔離しておくと、突然の出費でも慌てずに済みます。
融資審査と自己資金のバランスが失敗を左右する

まず押さえておきたいのは、金融機関が重視するのは「返済負担率」と「自己資金比率」である点です。一般的に年収400万円の場合、年間返済額は年収の35%程度までが目安とされ、月返済に直すと約12万円です。これを超えるローン設定では審査通過が厳しくなるだけでなく、生活費を圧迫しやすくなります。
一方で、自己資金を物件価格の20%用意できれば、融資条件は改善します。日本政策金融公庫の小規模不動産投資向け融資では、頭金2割以上で金利が0.2%下がるケースがあります。つまり、貯蓄で用意できる額が長期の収支に直結するのです。
また、連帯保証を家族に頼むと、万が一の際に家計全体が混乱します。収益還元評価で十分な担保価値が出る物件を選び、なるべく保証人なし、もしくは保証会社利用で組むのが安全策です。こうした交渉は、不動産会社任せではなく自ら複数行を回ることで条件が良くなる傾向があります。
融資後も安心はできません。返済比率を下げるために元利均等返済で長期に組むと元本の減りが遅くなります。繰上返済用の積立を別途計画し、金利が上がる局面では部分繰上げでリスクを下げる戦略が重要です。
空室リスクを最小化する立地と市場調査のコツ
ポイントは、家賃需要を見込めるエリアを選ぶために「人口動態」と「賃貸競合」を調べることです。総務省人口推計の2025年度データを見ると、20〜39歳人口が微増している政令市中心部では、家賃相場が前年比1.1%上昇しています。この層を狙うことで空室期間を短縮できます。
さらに、実際に駅から歩き、夜の街灯やスーパーの位置を確認すると、数字だけでは分からない生活利便性が見えてきます。現地確認を怠ると、昼間は静かでも夜は騒音がひどい、という意外な落とし穴があるからです。
家賃設定では、SUUMOやHOME’Sの掲載家賃を鵜呑みにせず、成約事例を参考にします。成約家賃は掲載より平均5%低いケースが多く、ここを見誤ると「募集は多いが決まらない」状態に陥ります。また、礼金ゼロ・フリーレント1か月を織り込むと初期費用軽減で申込数が増えるため、2025年時点でも有効な手法です。
最後に、差別化が難しいワンルームより、30㎡前後の1LDKや2Kを検討すると長期入居になりやすい傾向があります。国交省の入居期間データでは、単身向けより2人入居可物件の平均入居期間が1.4倍長いと報告されています。
見落とされがちな管理・メンテナンス費と税金の重み
実は、管理費のわずかな差が長期で大きなコスト差になります。管理委託料が家賃の5%と7%では、一戸当たり月1,000円違うだけでも10年で12万円、10室なら120万円になります。それにもかかわらず、契約時に交渉せず言い値で決めてしまうオーナーは少なくありません。
修繕計画も長期視点で見る必要があります。築20年以上のアパートでは屋根防水や給湯器交換が重なりやすく、一度に300万円以上必要になる例もあります。家賃収入の範囲内で計画的に積立てれば資金ショートを避けられますが、後回しにすると融資を追加で受けざるを得ない状況になります。
税金面では、固定資産税評価額が築年で下がると期待しすぎないことが大切です。評価替えは3年ごとですが、土地部分はほとんど下がりません。対策として、減価償却が切れるタイミングでエアコンや水回りを高性能品へ替え、再度償却を取り直す方法があります。これにより、課税所得を圧縮しつつ入居者満足も高められます。
管理費削減と修繕積立を両立させるには、管理会社との定期面談が効果的です。年間計画を共有し、見積もりの比較を複数社で行うことで、品質を保ったままコストを抑えられます。
2025年度の活用可能な支援制度を味方につける
まず知っておきたいのは、「2025年度 賃貸住宅エコリフォーム推進事業」です。高断熱サッシや高効率給湯器を導入すると、工事費の1/3(上限150万円)の補助が受けられます。家賃の値上げ根拠を作れるうえ、空室対策にも直結します。
加えて、地方自治体ごとに若年層向け家賃補助と連動したリノベ助成を設ける例が増えています。例えば福岡市では、築20年以上の賃貸住宅を省エネ改修した場合、改修費の2割(上限80万円)の補助を受けられます(2025年度予算)。こうした制度を利用すれば、自己資金を温存しつつ物件価値を高めることが可能です。
なお、補助金は申請時期が限られているため、工事業者と並行してスケジュール管理を行うことが不可欠です。提出書類に不備があると交付が数か月遅れ、資金繰りが狂うので注意してください。
まとめると、制度は「キャッシュを生む改修に使い、申請は計画的に」が鉄則です。制度ありきで改修内容を決めるのではなく、入居者ニーズと物件の弱点を補う改修に絞ることで、補助金の効果が最大化します。
まとめ
本記事では、年収400万でアパート経営に挑戦する際の失敗要因を、収支シミュレーション、融資条件、立地選定、管理コスト、そして2025年度の支援制度の五つの視点から解説しました。最も大切なのは、楽観的な数字だけを信じず、空室率や金利上昇など厳しい条件を織り込む姿勢です。そのうえで自己資金を厚くし、管理会社と協働しながら計画的に修繕と補助金活用を進めれば、安定したキャッシュフローを実現できます。今日得た知識をもとに、まずは自分のシミュレーションを見直し、必要なら専門家に相談する一歩を踏み出しましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省住宅局「住宅市場動向調査2025」 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局「人口推計(2025年10月確定値)」 – https://www.stat.go.jp
- 日本政策金融公庫「小規模不動産投資向け融資商品概要」 – https://www.jfc.go.jp
- 福岡市住宅政策課「省エネ改修補助金交付要綱(2025年度)」 – https://www.city.fukuoka.lg.jp
- 環境省「賃貸住宅エコリフォーム推進事業 事業者向けガイドライン2025」 – https://www.env.go.jp