親から資産を引き継ぐとき、税負担や家族間のトラブルを心配する方は少なくありません。アパート経営は相続税評価を下げつつ、家賃収入も得られるため有効だとよく聞きます。しかし空室や資金繰りのリスクがあるのも事実です。本記事では、相続対策としてのアパート経営の仕組みを基礎から説明し、最新データを踏まえてリスクを抑える具体策を解説します。読み終えるころには、自分に合った手順をイメージできるはずです。
アパート経営が相続対策になる仕組み

まず押さえておきたいのは、不動産が相続税評価額を圧縮できる点です。土地は路線価評価、建物は固定資産税評価によって課税価格が決まるため、現金より三〜四割低くなることが一般的だと言われます。さらに貸家建付地という評価減が適用されると、課税対象はさらに下がります。つまり同じ一億円でも、現金で持つよりアパートとして保有したほうが相続税の圧縮効果が期待できます。
一方で、評価を下げる仕組みは複雑で、誤った活用をすると節税どころか課税リスクが高まります。国税庁は近年、過度な節税スキームに厳しい目を向けており、2025年もその姿勢に変化はありません。相続開始前の意図が明確でない融資や過大な建築費は、否認対象になり得る点を理解しましょう。適正な規模と稼働率が説得力を生むことが大前提です。
キャッシュフローから見る長期安定の鍵

重要なのは、相続時の税金だけでなく、経営中のキャッシュフローが黒字であるかどうかです。毎月の家賃収入から、ローン返済、管理費、固定資産税、将来の大規模修繕費まで差し引き、手元に残る現金を把握する必要があります。日本政策金融公庫の統計では、2024年度の木造アパート修繕費は築後15年で平均330万円に達しています。これを見越した積立が欠かせません。
また、国土交通省住宅統計によると2025年10月の全国アパート空室率は21.2%で、前年比0.3ポイント改善したものの依然二割を超えます。エリア選定や物件設備の競争力を保てなければ、空室期間が延びて収支が一気に悪化します。家族へ安定した資産を残すには、空室率15%前後の厳しめシナリオでも黒字を維持できる計画が目安となります。
相続税評価減のメリットと落とし穴
実は、評価減を狙い過ぎると返済負担と手残りのバランスが崩れるケースが目立ちます。建築費を高く見積もり、過大なローンを組んだ結果、家賃収入の大半が返済に消え、生活費や修繕費を圧迫する状況は珍しくありません。相続人が経営を引き継いだとき、債務超過では対策どころではなくなります。
ポイントは、金融機関が求める自己資金比率と借入期間を適正に設定し、利回りだけでなく元本返済後の純資産額を試算することです。例えば自己資金30%、金利1.5%、期間25年で組めば、完済時に土地と建物がほぼ無借金で残り、相続人の負担は小さくなります。反対に、ほぼ全額借入で期間を伸ばし過ぎると、完済前に建物の資産価値が下がり、空室リスクが重くのしかかります。
想定外を招くリスクとその回避術
まずリスクを列挙すると、空室、家賃下落、災害、金利上昇、相続人間の意見対立が代表的です。これらは単独ではなく複合的に発生し、経営に打撃を与えるため、あらかじめ複数の備えを講じます。例えば、耐震等級3の木造や省エネ等級5の建物は災害保険料が低く抑えられ、入居者の満足度も高まります。設備更新に積極的なオーナーは、家賃交渉でも優位に立ちやすいという調査結果もあります。
一方で、金利リスクは契約内容の見直しで軽減できます。2025年度時点で日本の政策金利は0.1%ですが、長期固定金利は1.3%前後で推移しています。変動金利との差が縮まりつつあるため、固定へ切り替えるタイミングが来ていると感じるオーナーも多いでしょう。さらに、遺言書や家族信託を活用し、相続人の役割や持分を明確にしておけば、分割協議の混乱を減らせます。
2025年度に利用できる制度と金融環境
ポイントは、補助金や税制優遇を過信せず、本質的な収益力を確保することです。2025年度は「住宅省エネ性能向上補助金」が継続予定で、賃貸住宅のZEH基準適合工事に最大120万円が交付されます。省エネ改修は入居付けを後押しし、長期で見れば光熱費の安さが退去抑制につながります。ただし予算枠があり、申請は先着順のため、施工会社と早めに計画を詰める必要があります。
また、民間金融機関ではアパートローンの審査が厳格化する一方、低金利は続いています。自己資金20%以上を用意し、事業計画書を詳細に作成すれば、金利1%台前半の固定型を引き出せるケースもあります。この金利環境は相続対策にとって追い風ですが、返済比率が高過ぎると審査を通りにくいため、家賃収入の7割以内を返済に充てる範囲に抑える設計が現実的です。
まとめ
結論として、アパート経営を相続対策として成功させるには、税負担の圧縮だけでなく、長期にわたるキャッシュフローと家族間の合意形成を両立させることが欠かせません。空室率二割時代でも収益を確保できる立地選びと資金計画を徹底し、補助金や固定金利など2025年度の制度を適切に取り込めば、リスクは大幅に下げられます。まずは自分の資産背景と家族の希望を整理し、信頼できる専門家へ事業計画を相談する一歩から始めてみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅局住宅政策課 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/
- 国税庁 資産課税課 – https://www.nta.go.jp/
- 日本政策金融公庫 融資統計 – https://www.jfc.go.jp/
- 環境省 住宅省エネ補助金情報 – https://www.env.go.jp/
- 日本銀行 金融政策決定会合資料 – https://www.boj.or.jp/