年収が1000万円前後になると、手取りの伸び悩みや税負担の増加を感じ始める人が多いものです。不動産投資で収入の柱を増やしたいと考えるのは自然な流れですが、収益物件には見えにくい落とし穴が潜んでいます。本記事では、年収1000万の会社員が直面しやすい特有のリスクに焦点を当てます。金融機関の融資姿勢、税制、出口戦略などを網羅し、具体的なデータを交えて解説します。読み終える頃には、自分に合ったリスク管理の考え方が身につくはずです。
年収1000万だからこそ直面する資金計画の落とし穴

まず押さえておきたいのは、年収1000万という数字が金融機関にとって「フルローンを許容しやすい水準」だという事実です。しかし、融資枠が広がるほどレバレッジ(借入による投資拡大)の罠にはまりやすくなります。日本銀行の貸出動向調査(2025年9月)でも、年収900万〜1200万円層は投資用ローン平均残高が他の所得階層より20%高いと報告されています。つまり、資金計画を甘く見積もると、返済比率がすぐに限界へ達するのです。
実は、表面利回り8%の中古アパートでも、修繕積立と金利上昇を考慮すると手残りは4%台へ落ち込むケースが珍しくありません。固定資産税や火災保険は毎年必ず発生し、2025年度の保険料は平均で前年比5%上昇しました。また、将来的に大規模修繕が必要になると、1戸あたり50万円前後の負担が発生します。レバレッジを掛けすぎると、この突発的支出が即座にキャッシュフローを圧迫し、追加融資も受けにくくなります。
ポイントは、自己資金を最低でも物件価格の25%用意し、さらに運転資金として年間家賃収入の10%を別口座で維持することです。そうすることで、空室率20%・金利2%上昇という保守的なシナリオでも赤字転落を回避しやすくなります。金融機関の「借りられる額」ではなく、「返せる額」を基準に資金計画を組み立てましょう。
税制メリットが裏目に出る瞬間

重要なのは、税負担軽減だけを目的に物件を選ばないことです。たしかに、2025年度も給与所得と不動産所得の損益通算が認められています。減価償却を活用すれば課税所得を圧縮でき、住民税や所得税が合計で年間100万円近く減るケースもあります。しかし、それはあくまで帳簿上の赤字であって、実際のキャッシュが増えるわけではありません。
耐用年数を過ぎた木造アパートを購入すると、最初の4〜5年は大幅に減価償却できます。一方で、築古物件は修繕費も多く、6年目以降の税負担が一気に重くなる傾向があります。国税庁の統計によれば、築30年超の木造物件は修繕費が家賃収入の平均22%を占め、築10年以内の倍以上です。減価償却が切れたあとに手残りが急減し、再投資どころか持ち出しになる投資家が後を絶ちません。
さらに、所得税と住民税は累進課税です。年収1000万の場合、損益通算による節税幅が大きいため、翌年の住民税通知で安心しがちです。しかし、退去や家賃下落で黒字化した途端、高い税率が適用され、キャッシュフローを圧迫します。節税効果を得ながらも安定収益を維持するには、建物の状態とエリア需要を厳しくチェックし、修繕計画を事前にシミュレーションすることが欠かせません。
物件選びで陥りやすいリスク分散の誤解
実は、多くの初心者が「首都圏と地方を組み合わせればリスク分散になる」と考えがちです。しかし、適切なデータ分析が伴わない分散は、管理コストと空室リスクを同時に拡大させます。総務省の住民基本台帳人口移動報告(2025年版)によると、三大都市圏外の20〜39歳人口は前年比1.9%減少しており、需要低下が続いています。
地方高利回り物件は魅力的に映りますが、入居付けに苦戦した場合の稼働率低下は都心より深刻です。空室期間が3カ月を超えると、想定利回り12%でも実質利回りは6%台へ急落します。一方、都心ワンルームは表面利回りが4%と低くても、平均空室期間は1カ月未満にとどまります。分散ではなく、データに基づく集中投資こそが年収1000万層にとっては合理的な戦略となる場合があるのです。
ポイントは、エリア特性を数値で把握することです。具体的には、駅距離10分以内・築15年以内・人口増加エリアという3条件を基本線に据えます。加えて、募集賃料と成約賃料の差を2%以内に抑えられるか確認しましょう。こうした定量的チェックを積み上げることで、見かけの利回りに惑わされない投資判断が可能になります。
長期保有と出口戦略の注意点
まず、長期保有の前提は「出口で買い手が付く資産価値」を維持できるかどうかです。国交省の不動産価格指数(2025年7月公表)では、築20年超の区分マンション価格がここ3年ほぼ横ばいで推移しています。一方、築25年超の木造アパートは指数が10%下落しています。つまり、構造や立地によって将来の売却難易度は大きく異なります。
長期保有を前提にするときは、法定耐用年数と融資期間のバランスが鍵になります。例えば、RC造(鉄筋コンクリート)なら耐用年数47年なので、融資期間を30年取っても売却時にまだ価値が残りやすいです。一方、築25年の木造アパートを15年ローンで購入すると、完済時点で建物価値はほぼゼロになり、土地値のみでの売却を余儀なくされます。
出口を柔軟にするためには、2025年度も継続中の「不動産特定共同事業法型クラウドファンディング」やREITへの組み換えも視野に入れましょう。小口化された証券化スキームに組み込める物件は、個人間売買より短期間で現金化できる利点があります。将来の選択肢を広げる意味で、権利関係が複雑な借地や再建築不可物件は避けるべきです。
結論として、年収1000万層が不動産投資で資産形成を図るなら、購入前に出口戦略まで定義し、ローン残債と資産価値の逆転を防ぐことが最優先課題になります。そのうえで、毎年の物件評価と賃料改定をルーティン化し、市況変化に即応できる体制を整えておきましょう。
まとめ
ここまで、年収1000万の投資家が見落としやすい資金計画、税制、物件選定、出口戦略のリスクを解説しました。重要なのは、借りられる額ではなく返せる額を基準にレバレッジを管理し、減価償却頼みの節税に傾き過ぎないことです。また、エリア需要をデータで把握し、長期保有でも資産価値を維持できる物件を選ぶ視点が欠かせません。行動に移す際は、今日紹介したチェックポイントをもとに自己資金とキャッシュフローの耐久力を冷静に見極めてください。堅実な準備があれば、不動産投資は着実にあなたの資産を育てる手段となるはずです。
参考文献・出典
- 日本銀行「貸出動向アンケート」2025年9月版 – https://www.boj.or.jp
- 国税庁「令和7年度(2025年度)税制改正の解説」 – https://www.nta.go.jp
- 総務省「住民基本台帳人口移動報告 2025年」 – https://www.soumu.go.jp
- 国土交通省「不動産価格指数 2025年7月公表」 – https://www.mlit.go.jp
- 損害保険料率算出機構「2025年度 火災保険料率動向」 – https://www.giroj.or.jp