首都圏で賃貸経営を検討するとき、山手線内側と比べて価格が手頃なエリアに注目が集まります。しかし「地価が比較的安い=投資しやすい」と安易に判断すると、思わぬ空室リスクに直面しかねません。練馬区は23区内でありながら穏やかな住宅地が広がり、家賃水準と取得価格のバランスが優れている点が魅力です。本記事では人口動態や利回りの実情、物件選びの勘所、2025年度の政策面まで踏まえ、初心者でも一歩を踏み出しやすい情報を解説します。読み終える頃には、練馬区で安定収益を得るために押さえるべきポイントが整理できるはずです。
練馬区の賃貸需要を支える人口動態

重要なのは、賃貸需要の根拠となる人口と世帯構成を俯瞰することです。総務省「住民基本台帳人口移動報告」によれば、練馬区の人口は2024年1月時点で約74万人と23区内で4番目に多く、直近5年間も微増傾向を維持しています。特に20〜39歳の割合が高く、ワンルームや1LDKに対する需要が安定している点は投資家にとって大きな安心材料です。
一方で高齢化率は23区平均より低く、家族向け需要も根強い特徴があります。都営大江戸線・西武池袋線の沿線では周辺大学への通学者が多く、転勤族が増える3月は入居申し込みが集中しやすいという現場感覚も報告されています。これらの背景から、単身用とファミリー用を組み合わせることでポートフォリオを拡大しやすい地域といえます。
また東京都の「住宅市場動向調査」によると、2023年度時点で練馬区の平均空室率は7%前後にとどまり、城北エリア全体の9%を下回ります。つまり適切な物件選定と家賃設定を行えば、長期の空室リスクを抑えた運用が期待できるわけです。
平均利回りとキャッシュフローの考え方

まず押さえておきたいのは、表面利回りだけで判断すると実態を見誤る点です。不動産情報サイト大手3社の2025年6月平均データでは、練馬区の区分マンション表面利回りは4.2〜5.0%で推移しています。しかし管理費・修繕積立金、固定資産税を差し引くと実質利回りは2.8〜3.5%程度に下がるのが一般的です。
そこでキャッシュフローを試算するときは、賃料の8〜10%を管理会社への委託料、年間家賃の1.5か月分を修繕積立と仮定するのが安全圏といえます。たとえば2,500万円のワンルームを家賃9万円で貸す場合、年間家賃108万円から諸費用を差し引くと年間CFはおよそ45万円に落ち着く計算です。ローン返済を組み込む場合は金利1.8%、35年返済で年間返済額約85万円となり、自己資金を3割入れて初めて毎月黒字をキープできる水準になります。
つまり練馬区の物件でも自己資金割合を高めるか、家賃設定を強気にできるリフォームを行わない限り、大きなキャッシュフローは生まれません。それでも区内平均土地価格が中野区より15%前後低いため、将来の出口戦略(売却)含めリスクとリターンのバランスが取りやすい点は強みとして評価できます。
成功する物件選びのポイント
ポイントは「駅距離」と「築年数」をセットで考えることです。練馬区では徒歩10分圏内の競争が激しい一方、駅徒歩12〜15分で築浅の物件は家賃水準が安定し、利回りが高くなる傾向があります。これは、ファミリー層がベビーカー利用を前提に徒歩圏を柔軟に捉えるためです。
具体例として、2024年に完成した練馬高野台駅徒歩13分の2LDKでは、売出価格4,800万円に対し家賃17万円で成約し、表面利回りは4.25%でした。同駅徒歩7分の築25年2LDKは価格3,900万円、家賃15万円で利回り4.6%となり、駅距離と築年数のトレードオフがはっきり表れています。この事例から、長期保有なら築浅を選びメンテナンスコストを抑え、短期転売なら駅近の築古をリノベして家賃を底上げする戦略が有効だと分かります。
さらに修繕履歴の有無や管理組合の財務状況は見逃せません。国土交通省「マンション総合調査」によれば、修繕積立金不足物件の空室率は十分な積立がある物件より1.3倍高いとの結果が出ています。つまり購入前のデューデリジェンスを徹底すれば、自然と長期的な賃貸安定性を確保できるのです。
融資と税制を味方にする方法
実は練馬区に限らず、2025年度時点で投資用住宅に対する住宅ローン減税は適用されません。それでも金融機関の競争激化により、投資ローン金利は過去最低水準に近づいています。都市銀行の固定10年0.9%台、地方銀行でも変動1.3%前後の案件が登場しており、借り換えを含めた交渉余地が拡大している点は見逃せません。
また不動産所得と他の所得を損益通算できる制度は2025年度も継続されています。減価償却費を計上できる木造アパートや築古RCを購入すれば、所得税・住民税を圧縮できるケースがあります。ただし新築区分マンションは減価償却期間が47年と長く、短期的な節税メリットが限定的です。したがって収益狙いの区分と節税狙いの一棟ものを組み合わせるポートフォリオが、練馬区でも有効な手段となります。
さらに東京都では2025年度も「既存建築物省エネ改修補助金」が続行され、区分所有者でも外壁断熱や高効率給湯器の設置に対し上限120万円まで補助を受けられます(受付は2026年2月末まで予定)。改修により賃料を1割上げつつ空室超過期間を短縮できれば、補助金効果を含めた実質利回り向上が期待できます。
2025年度の政策動向とリスク管理
まず押さえておきたいのは、賃貸住宅管理業法の改正で義務化された「重要事項説明書の電子交付」が2025年4月から完全施行される点です。オーナーは入居者募集を委託する管理会社が法令を順守しているか確認し、トラブルを未然に防ぐ姿勢が求められます。
一方、国税庁は2024年に「インボイス制度Q&A」で賃貸業者の適格請求書発行義務を整理し、消費税課税売上高1,000万円超のオーナーは2025年10月までに登録が必要と明示しました。練馬区で複数物件を保有し年間家賃が基準を超える場合、課税事業者転換によるキャッシュフローの変動を試算しておくと安心です。
災害リスクにも触れておきます。東京都のハザードマップでは練馬区全域が大型河川の氾濫想定区域外ですが、局地的水害は都心部同様に発生します。床下浸水で設備交換が必要になると修繕費は50万円以上に達するため、機械式ではなく平置き駐車場の物件や、高基礎構造を選ぶといった対策で、長期保有コストを抑制できます。
最後に金利上昇リスクです。日本銀行は2024年3月にマイナス金利を解除しましたが、2025年12月時点で政策金利は0.25%と小幅なままです。ただ、海外金利との連動を考慮すると変動金利は1%台後半まで上昇余地があります。返済比率を家賃収入の50%以下に抑えておく設計が、将来的な金利変動へのクッションになります。
まとめ
ここまで練馬区の人口動態、利回り実態、物件選定、融資・税制、政策リスクの順に整理しました。人口が微増する区内では単身とファミリー両方の需要が見込め、駅距離と築年数を工夫すれば安定収益を期待できます。また金利低下と補助金活用で投資効率を高めつつ、法改正への対応と金利上昇リスクを織り込むことが長期成功の鍵です。まずは希望家賃帯と自己資金割合を決め、実質利回り3%以上を確保できる候補物件を3件ほど比較してみてください。行動すれば数字の裏付けが得られ、自分に合った投資スタイルが見えてくるはずです。
参考文献・出典
- 総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告 https://www.stat.go.jp
- 東京都 都市整備局 住宅市場動向調査 https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
- 国土交通省 マンション総合調査 https://www.mlit.go.jp
- 国税庁 インボイス制度Q&A https://www.nta.go.jp
- 東京都 既存建築物省エネ改修補助金 公式サイト https://www.metro.tokyo.lg.jp