最近、利回りが伸びず「投資に踏み出せない」と悩む声をよく聞きます。特に新築アパートは価格が高騰し、表面利回りは4〜5%台が当たり前です。一方で築年数が30年を超える「築古物件」は、手頃な価格で高利回りが期待できると注目されています。本記事では、収益物件として築古物件を選ぶメリットとリスク、2025年度の融資・税制の最新情報、そして成功へ導く物件選定のコツまでを丁寧に解説します。読み終えたとき、初心者でも具体的な判断軸を持てるようになるはずです。
築古物件とは何か

まず押さえておきたいのは、築古物件の定義です。不動産業界では築20年以上を指すことが多いものの、実務では木造なら築30年、RC造(鉄筋コンクリート造)なら築40年超でも取引されています。建物の耐用年数は木造22年、RC造47年とされていますが、これは税法上の目安に過ぎません。実際には適切な修繕が施されていれば、それを超えても十分に使えます。つまり、築古だからといって機械的に敬遠するのは機会損失につながります。
次に、築古物件の市場規模を確認しましょう。国土交通省の「不動産価格指数」によると、2023年から2025年にかけて築30年以上の中古マンション取引量は年平均7%ずつ増加しました。人口減少と言われる中でも、価格がこなれた築古には一定の需要があります。家賃は新築より下がりますが、取得価格が大幅に低いぶん、投資回収期間は短くなる傾向があります。
一方で、法的な制約にも注意が必要です。1981年の耐震基準改正以前に建てられた物件は「旧耐震」と呼ばれ、金融機関によっては融資期間や金利で不利になる場合があります。ただし、後述する耐震補強や適合証明の取得により、融資条件を改善できるケースもあります。また、2025年度も継続される「住宅ローン減税(賃貸併用除く)」の対象外である点も押さえておきましょう。
築古物件の収益性を数字で確認

重要なのは、築古物件が本当に「儲かる」のかを数字で確かめることです。主要都市で成約した築30年前後の木造アパートを例に、表面利回りは平均9%前後となります。対して同立地の新築物件では5%台が上限です。表面利回りとは家賃収入総額を購入価格で割ったもので、管理費や修繕費は含みません。つまり、築古物件は購入価格が低いため、利回りが相対的に高くなる構造です。
また、実質利回りに含める諸費用の割合も新築に比べて小さくなります。2025年の一般的な諸費用比率は中古で物件価格の8〜10%、新築で14〜15%です。火災保険料が築古だと割高になるとの指摘がありますが、近年は築年数による保険料差が縮小しつつあります。損保各社の2025年料率を比較すると、木造20年と40年では年間保険料の差は1割未満に留まります。
つまり、キャッシュフロー(手元に残る現金)の観点から見ると、適切に運営すれば築古物件は新築より優位に立つ場面が多いのです。とくにフルローンが難しい時代において、少額の自己資金で高い返済比率に耐えられる点が魅力です。
リスクとリノベーション戦略
一方で、築古物件には修繕リスクがつきものです。屋根や外壁、給排水管などの大規模修繕費用が想定外に膨らむと、収益が一気に吹き飛びます。しかし、ポイントは「いつ、いくらか」を事前に把握することです。購入前にインスペクション(建物診断)を実施し、残存使用年数や修繕履歴を可視化しましょう。診断費用は木造戸建で5万円前後、アパートで10万円前後が相場ですが、後悔するより安い投資です。
さらに、リノベーションで価値を高める手法も有効です。たとえば1980年代の2Kアパートを1LDKに間取り変更し、家賃を2万円上げる事例は珍しくありません。日本政策金融公庫の「2024年度小企業の設備投資動向調査」では、リノベ後の平均空室期間が改装前の3分の1に短縮したと報告されています。これにより家賃収入の安定性が向上し、実質利回りも押し上げられます。
ただし、リノベ費用をかけすぎると回収期間が長くなります。目安として、投資額を10年以内に回収できるプランを組むと安全です。また、2025年度も引き続き「長期優良住宅化リフォーム補助金」が利用可能です。対象工事費の3分の1(上限250万円)が交付され、耐震補強や省エネ改修に使えます。制度の申請は年度予算枠に達し次第終了するため、早めの手続きが肝心です。
融資と資金計画の最新ポイント
実は、融資条件こそ築古投資の成否を分けるカギと言えます。2025年12月時点で、都市銀行は築年数の経過した木造への長期融資に慎重ですが、地方銀行や信用金庫、日本政策金融公庫では柔軟な姿勢が見られます。特に公庫の「生活衛生貸付」は、賃貸併用住宅にも利用でき、最長20年・固定金利1%台前半が選択可能です。
また、民間金融機関でも収益還元評価を採用するケースが増えています。これは家賃収入を重視して融資額を決めるため、築年数よりキャッシュフローが審査の中心になります。フルローンは難しくても、物件価格の80%前後まで借入できることが多いです。自己資金は物件価格の20%と諸費用を合わせ、総額の3割程度を用意するのが目安です。
金利動向にも目を配りましょう。日本銀行は2025年10月にマイナス金利政策を解除しましたが、住宅・不動産向け貸出金利は緩やかな上昇にとどまっています。変動金利は平均1.5%、固定20年は2.2%程度で推移しています。長期で安定運営を目指すなら、金利が低いうちに固定化する判断が合理的です。
最後に、資金計画に「余裕枠」を設けることが大切です。具体的には年間家賃収入の10%を修繕積立とし、さらに手元に家賃6か月分のキャッシュを確保すると突然のトラブルにも対応できます。これが精神的な余裕となり、長期保有戦略を支える基盤となります。
エリア選定と出口戦略
ポイントは、立地選びと出口までのシナリオを同時に描くことです。築古物件は賃料を下げれば入居が決まると誤解されがちですが、実際には人口動態と競合物件の状況が支配的です。総務省の「2025年国勢調査速報」によると、三大都市圏の人口は微減ながら単身世帯が増加しました。単身向け築古マンションは依然として需要が高く、家賃も底堅い傾向があります。
一方で、地方中核都市は二極化が進んでいます。駅徒歩15分圏内や大学・病院周辺は入居率が高いものの、郊外では空室率が2割を超える地域もあります。投資判断の際は「賃貸住宅市場データベース(SUUMOほか)」でリアルタイムの賃料相場と空室率を確認し、想定利回りを保守的に見積もることが不可欠です。
出口戦略には2つのパターンがあります。ひとつは長期保有で家賃収入を積み上げ、土地値で売却する方法です。もうひとつはリノベーション後にキャップレート(利回り)を下げて早期売却し、キャピタルゲインを狙う方法です。築古の場合、取得価格が低いため利回りが高く見えますが、買い手が慎重なため売却利回りは高止まりしがちです。したがって、利回りを2〜3ポイント下げるだけでも売却価格が大きく上がります。買い手のシミュレーションを逆算し、想定利回りに収まる家賃設定と修繕計画を整えておくと出口が開けます。
最後に注意したいのは税務面です。築古を短期で売却すると、短期譲渡所得税が課税されます。所有期間5年超で税率が約半分になるため、最低でも6年程度の保有を前提にすると手取りが大きく変わります。時間軸を踏まえた戦略設計が、築古投資のリターンをさらに高めるコツと言えるでしょう。
まとめ
本記事では、築古物件を収益物件として活用するための要点を解説しました。取得価格が低く高利回りを実現しやすい一方で、修繕リスクや融資条件には綿密な調査と計画が欠かせません。インスペクションで建物状態を把握し、リノベーションと補助金を組み合わせて価値を高めることがポイントです。さらに、自己資金3割・余裕資金6か月分を確保し、人口動態を見据えた立地選定と出口戦略を描けば、初心者でも築古投資を成功へ導けます。ぜひ本記事を参考に、自らの資金計画とリスク許容度に合った一歩を踏み出してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局 2025年国勢調査速報 – https://www.stat.go.jp
- 日本政策金融公庫 生活衛生貸付概要 – https://www.jfc.go.jp
- 国土交通省 長期優良住宅化リフォーム推進事業 2025年度 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house
- 損害保険料率算出機構 火災保険料率 2025年改定資料 – https://www.giroj.or.jp