多くの投資家が「都心に近く安定した賃貸需要が見込める場所で始めたい」と考える一方で、物件価格の高さや競合の多さに不安を抱えています。特に世田谷区は人気が高い反面、エリアごとの特性をつかまないと期待した収益を得られません。本記事では、世田谷区でアパート経営を検討する初心者が知っておくべきポイントを、立地選びから資金計画、さらに2025年度の最新制度まで網羅的に解説します。読み終えるころには、自分に合った投資戦略を描けるはずです。
世田谷区が投資先として注目される理由

重要なのは、世田谷区が「住みたい街ランキング」の常連であるだけでなく、安定した人口増が続いている点です。東京都の推計値では2024年から2025年にかけて同区の総人口は約1.2%伸びており、20〜39歳の単身世帯比率も37%を超えています。つまり働く若年層の流入が堅調なため、ワンルームや1Kタイプの需要が底堅いのです。
一方で、区全体の平均地価はこの5年で15%以上上昇しました。物件価格が上がれば利回りが下がりやすくなるため、家賃設定だけでなく空室期間の短縮が収益維持のカギになります。国土交通省によると2025年10月の全国アパート空室率は21.2%ですが、世田谷区に限ると同時期の独自調査で14%前後にとどまります。需要の強さを示す数字ですが、油断は禁物です。
こうした状況を踏まえ、購入時点で表面利回り7%前後を確保しつつ、入居者ターゲットに合わせた設備投資を行う戦略が求められます。感覚的な判断に頼るのではなく、人口動態と地価動向の両方を確認する姿勢が成功への第一歩となるでしょう。
地域特性を生かした物件選びのポイント

まず押さえておきたいのは、世田谷区内でも駅周辺とバス便エリアでは賃貸ニーズが大きく異なることです。東急田園都市線沿線の三軒茶屋や用賀は飲食店とオフィスが混在し、夜間人口が多いエリアです。ここで求められるのは、インターネット無料や宅配ボックスなど利便性重視の設備です。
一方、京王線の桜上水や千歳烏山の駅徒歩12分以上のエリアでは、家賃を1万円前後抑えつつ、室内洗濯機置き場や独立洗面台を備えると差別化できます。実は、こうした郊外寄りエリアは土地単価が2割ほど安いため、同じ自己資金でも広めの敷地を確保でき、将来の増改築余地が広がります。
また、区が2023年に発表した「世田谷区まちづくりビジョン」によると、駅から離れた住宅地にも保育園や商業施設を誘致し、徒歩圏内で生活が完結する「コンパクトシティ化」を推進しています。計画が進むほど生活利便性が上がり家賃下落リスクが抑えられるため、再開発対象エリアの近隣物件は長期目線で魅力的です。
最後に、耐震性能のチェックは必須です。区内の木造アパートのうち1981年以前に建築されたものは約30%残っているとされます。旧耐震基準のままでは金融機関の評価が下がりやすいので、購入後に耐震改修を前提とした価格交渉や、長期優良住宅化リフォーム推進事業(2025年度も継続予定)の補助金活用を検討してください。
キャッシュフローを安定させる運営術
ポイントは、入居者満足度を高めて平均入居期間を延ばすことです。ファミリー物件と違い、単身者向けアパートは平均入居年数が短く、原状回復費が利益を圧迫します。国土交通省のデータでは単身向け平均入居期間は約3.3年とされ、退去時コストを年あたりに均すと月額家賃の7〜8%に相当します。
そこで、鍵交換や清掃を含む退去後作業を管理会社に一括委託し、スピード重視で次の募集を始める体制を整えましょう。さらに、入居中の小修繕をアプリで申請できる仕組みを用意すると、トラブル発生を早期に把握でき、長期空室を防げます。世田谷区の入居者はITリテラシーが高い層が多いため、オンライン対応は高い評価につながります。
また、家賃保証会社を活用しつつ、保証料はオーナーと入居者で折半するモデルが主流です。保証料率が下がれば年間コストが節約できるので、複数社を比較し、保証料が月額家賃の50%以下のプランを選ぶとキャッシュフローが改善します。
最後に、固定費ではなく変動費としての修繕積立金を意識してください。毎月家賃収入の5%を積み立てる習慣を付ければ、10年目に発生する外壁塗装や給湯器交換にも慌てず対応できます。長期的に見れば、自己資金で修繕を賄える体質こそが安全運営の鍵です。
2025年時点で押さえたい制度と税制
実は、制度活用で手残りを増やすことは可能です。2025年度も継続する「住宅セーフティネット法」に基づく登録住宅は、高齢者や子育て世帯向けの入居支援を行うことで、家賃低減補助(月額最大1万円・最長5年)の対象となります。世田谷区は登録戸数が少なく競合がまだ少ないため、需要と補助金の両方を取り込めます。
税制面では、新築アパートの固定資産税が3年間半額になる特例が2026年まで延長されました。土地部分の課税標準も、住宅用地特例で最大6分の1まで軽減されるため、実効利回りに大きく寄与します。言い換えると、竣工から3年以内に家賃設定が適正なら、初期キャッシュフローはかなり潤沢になります。
さらに、所得税では木造アパートの減価償却期間が22年と短いため、建物価格を可能な限り高く按分し、初年度からの節税効果を高める手法が一般的です。ただし過度な按分は税務リスクを招くので、第三者評価を取り入れたうえで適正価格を確定しましょう。
これらの制度を活用する際は、区の住宅課や税理士に最新情報を確認しつつ、期限や条件を漏れなく押さえることが重要です。
リスク管理と出口戦略
まず、金利リスクへの備えとして借入金の3割以上を固定金利にしておくと安心です。日銀は2024年にマイナス金利を解除し、ゆるやかな金利上昇局面に入っています。仮に金利が1%上がると、1億円借入の場合の年間返済額は約90万円増える計算です。利回りが圧迫される前に、固定比率を高める交渉を行いましょう。
空室リスクにも複層的に備えます。具体的には、募集家賃を周辺相場の95%程度に設定し、入居後に設備面で付加価値を提供して満足度を上げる手法が有効です。家賃を下げ過ぎずに決まる確率を高められるうえ、退去抑止にもつながります。
出口戦略としては、築15年を超える前に一度リノベーションを行い、家賃を2割上げて利回りを維持する「再投資型」と、築20年前後で実勢利回り6%程度のまま一棟売却する「キャピタル回収型」があります。どちらを選ぶにしても、購入時点で将来の売価を試算し、想定内で売却できるかチェックしておくことが欠かせません。
最後に、火災保険と地震保険は耐用年数に合わせて10年契約を組むと更新手数料を抑えられます。保険料の削減は地味ですが、長い目で見ると大きな差になるので忘れずに見直しましょう。
まとめ
この記事では、世田谷区でアパート経営を行う際に押さえるべき人口動態、物件選び、運営術、制度活用、そしてリスク管理の要点を解説しました。安定した需要が見込める一方で、物件価格の上昇や金利の変動など課題も存在します。紹介したデータをもとに利回りとキャッシュフローをシミュレーションし、制度を適切に活用すれば、初心者でも堅実な運営が可能です。まずは希望エリアを歩いて需要を確認し、金融機関や専門家と相談しながら一歩踏み出してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省住宅統計調査 2025年10月速報値 – https://www.mlit.go.jp
- 東京都統計年鑑 世田谷区人口動態 2024版 – https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp
- 世田谷区まちづくりビジョン2023 – https://www.city.setagaya.lg.jp
- 住宅セーフティネット制度 2025年度概要 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku
- 国税庁「減価償却資産の耐用年数表」2025年版 – https://www.nta.go.jp