賃貸需要が読みにくい時代、アパート経営に興味はあっても「本当に利益が出るのか」と不安になる人は多いでしょう。とくに初めての投資では、収支計算や空室対策など複数の課題が同時に押し寄せます。本記事では、現場で15年以上にわたり賃貸運営を行ってきた視点から、2025年12月時点で押さえておきたい実践的なコツを整理しました。読み終えるころには、物件選びから運営、税制までの流れが立体的に理解でき、自分の投資戦略を具体的に描けるはずです。
アパート経営で最初に確認すべき収支の基本

重要なのは、キャッシュフロー(実際に手元へ残る現金)の構造を把握し、長期にわたり黒字を維持できるかを検証することです。家賃収入が高く見えても、管理費や修繕費、ローン返済が重なれば赤字に転落する例は少なくありません。
まず家賃収入から月々のローン返済を引いた残りを「インカムゲイン」と呼びます。ここから管理会社への手数料、固定資産税、将来の大規模修繕に備える積立金を差し引くと、最終的な自由資金が見えてきます。国土交通省の試算によると、築20年を超える木造アパートでは外壁や屋根の改修に500万〜700万円かかる場合があり、毎月1万〜2万円の修繕積立が欠かせません。また2025年10月の全国アパート空室率は21.2%(前年同月比-0.3%)とわずかに改善しましたが、地域差は大きく、地方都市では30%を超えるエリアもあります。つまり空室リスクを保守的に見積もり、入居率85〜90%で試算しておくと安心です。
なお融資金利が1%上がるだけで30年返済の場合、総支払額は数百万円増えることがあります。金利上昇局面では固定金利を交えたミックスローンも検討し、複数シナリオでシミュレーションを行いましょう。
成功につながる立地と物件選び

ポイントは、将来の人口動態と生活インフラの変化を読む力です。駅近や大学周辺は堅調ですが、地方の駅前でも商業空洞化が進む地区では家賃下落が止まりません。総務省の「自治体別将来人口推計」を参照し、15〜39歳人口の減少率が低いエリアを優先すると空室リスクを抑えられます。
一方で、都心部の築浅物件は価格が高く利回りが低めです。利回りだけで判断せず、出口戦略として売却しやすいかを確認することが大切です。実は2023年以降、DX対応可能な光回線完備物件は郊外でも高い入居率を維持しており、若年層のテレワーク需要が追い風になっています。また、ワンルーム専用の建物より、1Kと1LDKを混在させた間取り構成が長期的に収益を安定させるというデータもあります。
物件選びで悩んだら、地域の不動産会社を3社以上回り、過去半年の「成約家賃」実績をヒアリングしてください。インターネットの掲載家賃は希望家賃であることが多く、実際の成約家賃と5〜10%の差があるケースが目立ちます。現実に近い賃料で計画すれば、資金計画が狂うリスクを減らせます。
資金計画と融資の進め方
まず押さえておきたいのは自己資金の比率です。経験上、物件価格の20〜30%を自己資金に充てると、金融機関の評価が高まり、金利交渉でも優位になります。逆に自己資金が10%未満だと、金利が0.3〜0.5ポイント上乗せされるケースが目立つため、手元資金を厚くしておく戦略が有効です。
金融機関は物件の収益性よりも、個人の信用情報を重視する傾向があります。そのため他のローン残高を早期に整理し、クレジットカード利用額を抑えて半年分の返済実績を整えると審査通過率が上がります。また、同じ条件であっても地方銀行と信金では審査ロジックが異なるため、最低でも3行に打診し、最も良い条件を引き出すことが先決です。
返済期間は建物の耐用年数以内が基本ですが、返済期間を長くして毎月の返済額を下げ、余剰資金を高利回りのリフォームへ再投資する方法もあります。たとえば、築25年の木造アパートを10年償却で返済するより、20年返済に延ばして空室の室内をフルリノベーションし、家賃を1万円アップさせたほうが手残りが増えるケースがあります。シミュレーション時は複利効果も踏まえ、最終的な総資産額で比較しましょう。
空室対策と運営を支えるコツ
実は空室対策は入居募集だけでは完結しません。退去が発生したとき、原状回復の見積もりを即日取り、1週間以内にリフォームに着手できる体制を整えると空室期間を大幅に短縮できます。管理会社に丸投げせず、自分で施工会社を数社ストックしておけば、価格競争力も高まります。
さらにデジタル入居申込システムを導入すると、内見翌日に契約完了まで進むことが多く、若年層の「すぐ引っ越したい」ニーズに応えられます。加えて家賃保証会社を活用すると未納リスクが低下し、金融機関評価もプラスになる場合があります。こうしたテック活用は業務効率だけでなく、入居者満足度の向上にも寄与します。
物件の魅力を維持するためには継続的な設備更新が不可欠です。2025年時点で人気が高い設備は、インターネット無料、宅配ボックス、浴室換気乾燥機の3点が上位を占めます。これらを導入すると家賃を月3,000〜5,000円上げられる事例が多く、投資回収は平均2〜3年と短めです。つまり利回り向上と競争力強化を同時に達成できるため、設備投資の優先順位は高いと言えます。
2025年度の制度・税制で押さえるべきポイント
基本的に、2025年度も不動産所得に対する所得税・住民税の課税方式は総合課税のままですが、改正点として「住宅省エネ性能向上計画認定建築物」の取得促進税制が延長される予定です。これは外壁や窓の断熱改修を伴う大規模リフォームを行い、所定の省エネ基準を満たした場合、固定資産税が3年間10%減額される措置です。適用期限は2027年3月末までとされているため、築古アパートを購入してバリューアップを狙う投資家にとって有効な選択肢となります。
また賃貸住宅管理業法(2021年施行)は2024年以降も継続しており、管理戸数200戸以上のオーナーには国土交通省への定期報告が義務づけられています。200戸未満でも登録管理会社に委託していれば報告義務を代行してもらえますが、違反すると業務停止命令の対象になり得ます。法令順守は金融機関からの信用にも直結するため、管理委託契約書をチェックし、報告体制を再確認しましょう。
相続税対策としてアパート建築を検討する場合、小規模宅地等の特例(330㎡まで評価額80%減)は2025年度も存続します。ただし税制改正大綱では、今後の適用要件見直しが議論されているため、長期保有を前提としたシミュレーションを行い、親族間で共有認識を持つことが肝要です。
まとめ
ここまで「コツ アパート経営」をテーマに、収支計算、立地選び、資金調達、運営ノウハウ、そして2025年度の制度までを横断的に見てきました。要するに、堅実なキャッシュフローを下支えする自己資金と、将来人口を見据えた立地分析が成功の土台です。その上で、デジタルツールを活用した速やかな空室対策と、省エネ改修を絡めた税制メリットを取り込めば、長期安定経営がぐっと近づきます。まずは試算表を作成し、最悪シナリオでも破綻しないかを確かめることから始め、着実に一歩を踏み出しましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年10月速報 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 自治体別将来人口推計(2024年改訂版) – https://www.soumu.go.jp
- 財務省 税制改正資料 2025年度 – https://www.mof.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー No.3308 小規模宅地等の特例 – https://www.nta.go.jp
- 独立行政法人 住宅金融支援機構 フラット35金利推移データ – https://www.jhf.go.jp