高収入だからこそ、収益物件に投資すれば安定した不労所得を得られると考える人は少なくありません。しかし現実には、年収1500万以上でも物件選びや資金計画を誤り、大きな損失を抱える例が後を絶ちません。本記事では、高所得者に特有の失敗パターンとその防ぎ方を、2025年12月時点の最新データを交えて解説します。読み終えたとき、あなたは資産を守りながら着実に増やす具体的な行動指針を得られるはずです。
年収が高い人ほど陥りやすい落とし穴

まず押さえておきたいのは、年収が高いほど融資上限が広がり、チェックを怠りやすくなる点です。ここでは典型的な心理的罠を整理します。
金融機関は返済能力を重視するため、年収1500万以上の申込者にはフルローンに近い提案を行いがちです。その結果、自己資金をほとんど入れずに複数物件を同時購入する例が目立ちます。初期投資が少ないと得をした気分になりますが、実際にはローン残高が家賃収入を上回り、元本が減りにくい状況を招きやすいです。
また、高額所得者は所得税率が最大45%に達するため、減価償却による節税効果を強調する営業トークに心を動かされやすいです。減価償却はキャッシュアウトを伴わず損失計上できる点が魅力ですが、耐用年数を過ぎると節税メリットが急減します。その時点でローン残高が膨らんでいれば、手元資金を取り崩して返済せざるを得なくなる危険があります。
さらに、忙しい管理職や医師の方は物件調査を営業担当へ丸投げしがちです。国土交通省の2025年投資家動向調査では、高年収層の約36%が現地を一度も見ずに契約したと回答しました。情報を鵜呑みにすると修繕履歴や周辺賃料を見落とし、利回りが計画より1%下がるだけで年間数十万円の差が生じます。
最後に、リスク分散を目的に地方都市へ投資エリアを広げるケースもあります。ただし、人口減少が加速する地域では賃料下落スピードが想定以上になる傾向があります。地方中核都市の平均空室率は2025年時点で17%と首都圏の1.5倍です。空室リスクを甘く見ると、キャッシュフローが瞬く間に赤字へ転落します。
キャッシュフローを読み違える原因

重要なのは、表面利回りだけで判断すると実際の手取りが大幅にずれる点です。キャッシュフローを正しく把握する方法を確認しましょう。
多くの広告では表面利回り8%といった数字が強調されますが、管理費や固定資産税は含まれていません。不動産流通推進センターの試算では、区分マンションの運営費は家賃収入の25%前後です。つまり、実質利回りは表面より2〜3ポイント低下するのが普通です。
次に、空室と修繕コストを過小評価しがちです。総務省の住宅・土地統計調査によると、2025年の全国平均空室率は13.2%でした。毎年1.5か月分の家賃が消える計算になるため、この損失をモデルに組み込まないと黒字予想が一気に赤字へ傾きます。
加えて、大規模修繕のタイミングを読み間違えるとキャッシュが枯渇します。鉄筋コンクリート造の外壁改修費用は戸あたり50万円前後に達し、築20年で一度に発生するケースが一般的です。事前に積立をせず家賃収入を生活費へ回していると、突然の請求に耐えられません。
見落としがちな費用は次の三つに集約できます。
- 賃貸管理会社への広告料(家賃の1か月分が目安)
- 火災・地震保険の更新料(5年でおおむね15万円)
- 税理士報酬や法定点検などの年間固定コスト
高額融資のリスク管理と金融機関の視点
ポイントは、金融機関が物件そのものより返済余力を見ている点です。仕組みを理解すると、無理なく借入枠を活用できます。
銀行が重視するのはDSCRという返済余裕率です。これは年間キャッシュフローを年間元利返済額で割った指標で、1.2倍以上が安全水準とされます。年収が高くても空室が増えればDSCRは簡単に1.0を切り、追加融資は難しくなります。
日本銀行の統計によれば、2025年12月時点の不動産投資ローン平均金利は固定型で2.3%、変動型で1.6%です。低金利だからといって長期返済を選ぶと元本が減りにくく、LTV(ローン残高÷物件価格)が高止まりします。LTVが80%を超えると、金利上昇局面で返済額が跳ね上がるリスクがあります。
さらに、複数物件を同じ担保枠でまとめる「クロス担保」には注意が必要です。一つの物件でトラブルが起きると、連鎖的に全物件を売却せざるを得ない事態になりかねません。自己資金を2割程度投入し、物件ごとに独立したローン契約を結ぶほうが安全です。
最後に、金融機関との情報共有を怠らないことが肝心です。決算書や家賃収入の明細を毎年提出して信頼関係を築けば、将来の金利交渉が有利になります。修繕計画を示すことで、追加融資の審査も通りやすくなります。
税金対策が裏目に出るケース
実は、節税効果を過信すると長期的な負担が増えることがあります。代表的な落とし穴を整理します。
木造アパートを中古で購入すると耐用年数が短く設定でき、大きな減価償却費を計上できます。所得税と住民税を数年間は圧縮できますが、耐用年数を使い切ったあともローン返済は続きます。節税メリットが消えた途端に税負担が急増し、キャッシュフローが悪化します。
2025年度の税制では、不動産所得の赤字は給与所得と損益通算が可能です。ただし、金融費用を含む過度な赤字は「租税回避目的」と見なされるリスクがあります。否認されれば、本来の税額に加えて加算税が課せられるため、一時的な節税は高くつく場合があります。
高額物件を法人で購入し、消費税還付を狙う手法も一部で紹介されています。しかし、国税庁は2024年の通達で還付目的の短期転売を厳格にチェックすると示しました。2025年現在は物件取得後に長期運営する実態がないと還付が認められにくく、資金繰りが計画倒れになりやすいです。
税務戦略は専門家と二人三脚で立てるのが基本です。物件購入前に5年分のシミュレーションを行い、減価償却が切れた後も黒字が続くか確認しましょう。法人化や青色申告特別控除など、長期視点で有効な制度を組み合わせることで、安定した節税効果が得られます。
失敗を回避するためのチェックリスト
最後に、購入前に確認すべき項目を具体的に示します。これを守れば失敗確率を大幅に減らせます。
チェックリストを用意すると、忙しい高所得者でも判断の抜け漏れを防げます。紙に書き出すことで、営業マンの説明が不十分な点も可視化されます。以下の五項目は最低限押さえてください。
- 想定空室率を全国平均より5ポイント高く設定してシミュレーションしたか
- 大規模修繕の時期と概算費用を売主に確認したか
- 銀行提出用とは別に自身でDSCRとLTVを計算したか
- 減価償却が終了した年の税負担を試算済みか
- 現地で昼夜の騒音や生活インフラをチェックしたか
加えて、専門家のセカンドオピニオンを得ることも効果的です。宅建士や一級建築士、税理士がそれぞれの視点でリスクを指摘します。複数の視点がそろうほど、思わぬ落とし穴をふさげます。
購入後も年に一度はキャッシュフロー表を更新しましょう。家賃の下落や金利の変動を数字で確認すれば、損切りや追加投資の判断が早まります。定点観測こそ長期的な資産形成の土台です。
まとめ
年収1500万以上の高所得者でも、収益物件では油断すれば失敗に直結します。融資上限の大きさや節税メリットの甘い見積もりが落とし穴となりやすいからです。本記事で示したキャッシュフローの精査、DSCRとLTVの管理、税務シミュレーションを徹底すれば、資産を守りつつ拡大する道が開けます。今日からチェックリストを作成し、慎重な一歩を踏み出してください。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産投資家動向調査2025 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局 住宅・土地統計調査2023速報 – https://www.stat.go.jp
- 不動産流通推進センター 市場動向レポート2025 – https://www.retpc.jp
- 日本銀行 金融システムレポート2025年10月 – https://www.boj.or.jp
- 国税庁 タックスアンサー 不動産所得 – https://www.nta.go.jp