多くの方が「相続税は高い」という漠然とした不安を抱えています。特に自宅や賃貸マンションなど複数の不動産を持つオーナーは、評価額が大きく膨らみ納税資金の確保に頭を悩ませがちです。しかし、2025年も有効な「小規模宅地等の特例」を上手に活用すれば、土地の評価額を最大80%まで減額でき、納税負担を大幅に抑えられます。本記事では制度の基本から適用要件、実務上の注意点、準備の進め方まで、初心者にも分かりやすく解説します。最後までお読みいただくことで、相続対策の全体像がつかめ、今すぐ取るべき行動が明確になるはずです。
小規模宅地等の特例とは何か

まず押さえておきたいのは、小規模宅地等の特例が土地の評価額を減額する制度だという点です。国税庁の定義によると、被相続人が住んでいた自宅や事業用地、賃貸用地など一定の宅地について、相続税評価額を最大80%まで減額できます。つまり課税対象が大幅に圧縮されるため、納税額そのものが軽くなる仕組みです。
特例が対象とする宅地は大きく三つに区分されます。第一に「特定居住用宅地」は自宅に該当し、減額割合は80%、限度面積は330㎡です。第二に「特定事業用宅地」は自営店舗や法人事業で使う土地を指し、こちらも80%減額で限度面積は400㎡となります。第三に「貸付事業用宅地」はアパートや駐車場など賃貸用地で、減額割合は50%、限度面積は200㎡です。複数区分の組み合わせも認められますが、合計で最大730㎡までという面積上限に注意が必要です。
さらに、適用には「相続税の申告期限までに遺産分割が成立していること」「相続開始前3年以内に取得した貸付資産がないこと」など複数の条件が設けられています。このように制度は優遇が大きい一方、細かな要件を満たさないと一切の減額が受けられないため、早めの計画が欠かせません。
2025年度の適用要件と注意点

重要なのは、2025年度も基本要件が維持されている一方で、実務上の審査が厳格化している点です。特に空室が多いアパートを貸付事業用宅地として申告する場合、税務署は「事業実態」を詳細に確認します。家賃収入の通帳や賃貸借契約書をはじめ、入居募集広告の写しまで求められるケースが増えているため、書類の保管体制を整えておきましょう。
また、相続人が自宅を取得して特定居住用宅地を適用する場合、相続開始直後から申告期限まで「継続居住」していることが求められます。転勤や介護施設への入居で空き家になると減額が認められなくなる恐れがあるため、ライフプランとの整合性も確認しておきたいところです。
一方で、2025年度税制改正では特例そのものの上限面積や減額割合に変更は加えられていません。したがって、現行の80%・50%というメリットをフル活用するチャンスが続いていると言えます。ただし、貸付事業用宅地の適用を厳格化する流れは継続しており、事前の税理士相談が欠かせません。
節税効果を最大化するための準備
ポイントは、相続開始前から書類と資金の両面で準備を進めることです。まず評価減額のシミュレーションを行い、適用後の相続税額を把握しておきましょう。金融庁の家計調査でも、相続税納付に備えた預貯金を保有する世帯は年々増加傾向にあります。納税資金の準備が不足すると、泣く泣く保有資産を売却する羽目になりかねません。
次に、権利関係を明確にしておくことが不可欠です。自宅と賃貸物件を法人名義に分けている場合、どの宅地がどの相続人へ渡るのかを遺言書で指定しておくと、分割協議がスムーズになります。遺言がない状態で争族に発展すると、申告期限までに分割がまとまらず、特例そのものが適用できなくなるリスクが高まります。
資金計画の観点では、生命保険の活用が有効です。受取人を相続人に設定し、保険金で相続税を支払う仕組みを整えておけば、物件を売却せずに優良な賃貸経営を継続できます。さらに、不動産の一部を生前贈与して基礎控除を有効活用する方法もありますが、2025年度の暦年贈与課税は年間110万円まで非課税という従来ルールが維持されています。複数年に分けてコツコツと贈与することで、将来の税負担を軽減できるでしょう。
不動産投資家が相続前にできる対策
実は、相続がまだ先の段階でも取れる対策があります。第一に、賃貸物件の稼働率を高めて貸付事業の実態を強化することです。2025年4月の総務省住宅・土地統計調査によれば、全国平均空室率は13.8%に達しています。空室が多いままでは「遊休地」と判断され、特例の適用が否認される事例も報告されています。リフォームや賃料見直しなどで早めに稼働率を回復させることが肝心です。
次に、法人化を検討する余地があります。物件の一部を資産管理会社へ移し、役員報酬を通じて所得分散を図れば、生前の所得税と将来の相続税の双方を圧縮できる可能性があります。ただし、法人が所有する宅地には小規模宅地等の特例が適用されないため、持分割合と資産構成を慎重に設計する必要があります。
さらに、親子間での共有登記は避けるのが無難です。共有状態では誰がどの宅地を取得するのか不明確になり、結果として特例要件を満たせない恐れがあります。代わりに、「受益者連続型信託」を活用すれば、実質的な所有権を移さずに管理と収益の権利を次世代へ渡すことが可能です。信託銀行や専門士業と連携し、オーダーメイドのスキームを構築しましょう。
2025年度の税制改正動向と今後の展望
まず、2025年度税制改正大綱では小規模宅地等の特例の大枠が維持された一方、租税回避的な利用を防ぐ観点から、貸付事業用宅地について「実質的に事業を行っていない場合は対象外」とするガイドラインが明文化されました。国税庁は今後、現地調査やヒアリングを強化するとしており、書類の整備だけでなく現場の実態が重要視される流れが続くでしょう。
一方で、都心部の地価上昇が続く中、相続税の課税ベース拡大を抑えるため、特例自体は政策的に必要とされています。財務省の試算では、80%評価減を維持しなければ課税対象者が約1.4倍に増えるとされています。したがって制度が急に廃止される可能性は低いものの、適用要件がさらに細分化される可能性は十分あるため、制度が有利な今のうちに対策を講じるのが賢明です。
今後は、相続発生後に慌てるのではなく、生前から家族全員で資産と役割を共有する「ファミリーミーティング」の重要性が高まると考えられます。相続税シミュレーションの結果をテーブルに乗せ、誰がどの資産を引き継ぎ、どの特例を使うのかを明確にすることで、紛争を防ぎながら節税も実現できるでしょう。
まとめ
小規模宅地等の特例は、自宅・事業用地・賃貸用地の評価額を最大80%まで引き下げる、2025年も有効な強力な節税制度です。ただし、適用には継続居住や事業実態の証明など細かな条件があり、相続開始後に書類が不足すると特例が使えなくなるリスクがあります。家族で早めに資産とビジョンを共有し、税理士や不動産の専門家と連携しながら、納税資金の準備と権利関係の整理を進めてください。行動を先送りせず、今から一歩踏み出すことが、安心して資産を次世代へ手渡す近道になります。
参考文献・出典
- 国税庁 相続税法基本通達 – https://www.nta.go.jp
- 財務省 税制改正大綱(2025年度) – https://www.mof.go.jp
- 総務省 住宅・土地統計調査(2025年速報) – https://www.stat.go.jp
- 金融庁 家計の金融行動に関する世論調査(2024年) – https://www.fsa.go.jp
- 法務省 民事信託に関するガイドライン – https://www.moj.go.jp