不動産の税金

不動産相続で家族信託を選ぶ前に知るべき5つのデメリット

親の介護や将来の相続を考えると、不動産の管理をどうするかは避けて通れない問題です。最近は「家族信託なら揉めずに済む」と聞き、興味を持つ人が増えました。しかし実務では、思わぬ手間や費用が生じて後悔するケースも少なくありません。本記事では、不動産相続に家族信託を活用するメリットに触れつつ、デメリットとその対処法を丁寧に解説します。読み終えるころには、あなたにとって本当に最適な選択肢が何かを判断できるようになります。

家族信託とは何か

家族信託とは何かのイメージ

まず押さえておきたいのは、家族信託の仕組みです。家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が財産管理を信頼できる家族(受託者)に託し、その利益を得る人(受益者)を定める民事信託の一形態です。2007年の信託法改正で柔軟に設計できるようになり、2025年現在も生前の不動産対策として広く利用されています。

家族信託の最大の特徴は、委託者が元気なうちに契約を結ぶことで、認知症発症後も受託者が不動産を売却したり建替えたりできる点です。成年後見制度では原則として自宅売却に家庭裁判所の許可が必要ですが、信託では契約どおりに手続きを進められます。つまり、将来の機動的な管理を確保しつつ、委託者の意思を尊重できる設計が可能です。

一方で、信託契約は公正証書で作成することが一般的で、登記や税務申告も欠かせません。仕組みを理解せずに進めると、思わぬコストや相続人間のトラブルにつながるため、専門家への相談が前提と考えたほうが安全です。

相続対策としての家族信託のメリット

相続対策としての家族信託のメリットのイメージ

重要なのは、家族信託がどの程度まで相続トラブルを防ぐかを把握することです。公正証書で役割と分配方法を事前に明文化できるので、認知症リスクによる凍結を避けながら将来の相続分配もコントロールできます。国土交通省の2024年調査では、半数以上の相続トラブルが「判断能力の低下前に対策を取らなかった」ことに起因していました。家族信託はこの弱点を補う手段といえます。

また、2025年度の税制では、家族信託で所有権を移しても登録免許税は原則0.4%に据え置かれ、固定資産税評価額を基準に計算します。他人へ売るより税負担が小さく、不動産の名義変更に踏み出しやすい点もメリットです。さらに、受託者名義で賃貸経営を続ければ家賃収入を受益者へスムーズに届けられるため、生活費の確保策としても有効です。

しかしメリットだけに目を向けると判断を誤ります。次のセクションでデメリットを体系的に確認し、意思決定の精度を高めましょう。

見落とされがちなデメリットとリスク

実は、家族信託には以下のようなデメリットが存在します。

  • 契約書作成や登記の費用が高額になりやすい
  • 信託財産は遺留分(いりゅうぶん)侵害トラブルを招くおそれがある
  • 受託者が途中で辞任・死亡した場合、管理が止まる可能性がある
  • 金融機関によっては信託口座の開設に時間がかかる
  • 不動産売却時に譲渡所得税が予想以上に発生することがある

これらのリスクを数字で確認すると、司法書士会の調査では契約書作成料と登記費用の平均は80万〜120万円に達しています。特に複数物件を信託すると、登録免許税が重なり初期費用が跳ね上がります。家族信託は「安く簡単」と誤解されがちですが、実務では手続きの専門性ゆえに費用が膨らむ点が避けられません。

遺留分への配慮も不可欠です。たとえば長男を受託者・受益者にして賃貸マンションを信託すると、相続開始後に他の相続人が取り分を主張して調停に発展する例があります。2023年の最高裁判例で、信託財産でも遺留分請求の対象になり得ることが明示されました。したがって、遺言や死因贈与契約を併用し、法定相続人全員の理解を得ておくことが望まれます。

受託者リスクも見逃せません。厚生労働省の統計では、70歳以上の認知症有病率は約17%と推計されています。受託者が高齢の場合、将来的に自身が判断能力を失い、信託が宙に浮く恐れがあります。信託監督人や予備受託者を設定しておけば、管理の継続性を高められますが、その分だけ契約が複雑になる点は理解しておく必要があります。

デメリットを最小化する実務ポイント

ポイントは、契約前の設計段階でリスクを具体化し、対応策を組み込むことです。まず費用面では、信託する物件を最小限に絞り、残りは遺言や贈与で対応する「ハイブリッド型」を検討すると、初期コストを抑えられます。司法書士と税理士を同席させて見積もりを取り、合計費用と節税効果を比較する作業を怠らないでください。

次に、遺留分対策としては、信託契約と同日に公正証書遺言を作成し、各相続人が取得する財産と理由を明記します。さらに家庭会議の場を設け、将来の収益や分配ルールを説明することで、感情的な対立を予防できます。日本法務局連絡協議会の調査では、家族会議を経た案件の約8割で遺留分紛争が未然に防がれたとの報告があります。

受託者の交代リスクを減らすには、受益者代理人制度を併用し、専門家を第三者として組み込む方法が有効です。たとえば信託銀行を受益者代理人に指定し、不動産売却時の決裁に必ず関与させる仕組みにすれば、家族内部だけで判断が偏る事態を避けられます。2025年度も信託銀行の手数料水準は1物件あたり年間10万〜20万円が一般的ですが、トラブル防止の保険料と考えれば高すぎるとは言えません。

他制度との比較と選択基準

まず、家族信託とよく比較されるのが生前贈与、遺言、そして一般社団法人の活用です。生前贈与は110万円までの暦年非課税枠が2025年度も維持されており、小規模な不動産なら段階的に名義を移せます。ただし贈与税の累進率は最大55%と高く、まとまった資産を一度に移すと税負担が重くなります。

遺言は手続きが簡易で費用も抑えられますが、相続開始時に認知症で不動産が凍結される可能性は残ります。成年後見制度は判断能力低下後も法的効力がありますが、裁判所の監督が入るため賃貸経営や売却の機動力に欠けます。家族信託はこれらの中間に位置し、柔軟性とコストのバランスを取れる点が魅力です。

また、相続税の節税効果を狙うなら一般社団法人を設立し、法人名義で不動産を保有する方法もあります。法人は相続税がかからず株式の移転で財産を承継できますが、2025年の制度では年間事業報告義務や法人住民税均等割が発生し、規模が小さいと維持コストが家族信託より重くなることがあります。

したがって、選択基準は「判断能力低下リスク」「家族構成」「資産規模」「維持コスト」の四つを軸に考えると整理しやすくなります。不動産 相続 家族信託 デメリットを丁寧に比較検討し、最適な組み合わせを探る姿勢が欠かせません。

まとめ

結論として、不動産の相続対策に家族信託を用いると、認知症リスクを回避しながら資産管理を続けられる一方、費用や遺留分トラブルなどのデメリットが存在します。信託する物件を絞り、遺言や専門家を併用することでリスクを抑えられるため、家族構成と資産規模を踏まえて設計することが大切です。まずは司法書士・税理士へ相談し、見積もりと比較表を作る一歩から始めてみてください。

参考文献・出典

  • 国税庁 – https://www.nta.go.jp
  • 法務省 – https://www.moj.go.jp
  • 国土交通省「不動産を巡る相続トラブル実態調査2024」 – https://www.mlit.go.jp
  • 日本司法書士会連合会 – https://www.shiho-shoshi.or.jp
  • 厚生労働省「高齢者の認知症有病率推計」 – https://www.mhlw.go.jp

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