相続で突然不動産を受け継ぎ、「兄弟で共有にするか、誰か一人の名義にまとめるか」で悩む方は少なくありません。共有のままにすると維持費や売却の判断を巡り対立が起きやすく、一方で単独名義へ変更すると贈与税など追加コストが気になります。本記事では「不動産 相続 共有名義 比較」を軸に、最新の法律や税制を踏まえて選択肢を整理し、スムーズに意思決定できる手順を詳しく解説します。
共有名義で相続する仕組みと基本用語

まず押さえておきたいのは、相続開始時の権利関係です。被相続人が遺言を残さなかった場合、法定相続分に応じた共有状態が原則的に成立します。この段階では「遺産共有」と呼ばれ、具体的な持分が決まっていても自由に単独処分できない点が特徴です。
共有名義のまま登記する際には、各相続人の持分割合を登記事項に記載します。しかし、不動産の使用方法や修繕費の負担割合まで法律で細かく定められているわけではないため、現実には話し合いと合意形成が欠かせません。また、2025年時点で施行中の相続登記義務化により、取得を知った日から3年以内の登記が必要になりました。義務違反には10万円以下の過料が科されるため、手続きの遅延は避けたいところです。
単独名義と共有名義のメリット・デメリット

ポイントは、費用負担と意思決定のスピードがどれほど違うかにあります。共有名義は持分に応じて固定資産税や修繕費を分担できる反面、売却や大規模リフォームでは全員の同意が要ります。反対に単独名義は迅速な決定が可能ですが、名義変更時に贈与税や登録免許税が発生する場合があります。
比較しやすいよう、主要項目を簡潔にまとめます。
- 手続き負担:共有は登記時のみ軽く、その後の合意形成が重い。単独は初期に書類や税金が集中する。
- ランニングコスト:共有なら持分按分で支払えるが、滞納リスクが拡散。単独は負担一本化で計画しやすい。
- 収益機会:共有の場合、賃貸収益も按分され税務申告が複雑。単独なら確定申告が一人で完結する。
実は、法務省「共有関係に関する意識調査」では、共有名義の相続人の約3割が「意思決定の遅さ」を最大の悩みと回答しています。つまり、トラブル防止を優先するなら単独名義化を早期に検討する価値が高いといえます。ただし、物件価値が高額で贈与税負担が重い場合は、共有のまま段階的に持分を集約する方法も現実的です。
トラブルを防ぐための具体策
重要なのは、共有を選んだ場合でも「誰が何をいつまでに行うか」を文書化することです。具体的には、管理費や固定資産税をまとめて支払う代表者を決め、他の相続人が口座振替で自動的に精算できる仕組みを整えます。また、賃貸に出す場合は管理会社との契約主体を共有者全員にするか代表者にするかをあらかじめ決めておくと、家賃の入金トラブルを減らせます。
さらに、国土交通省の「不動産の共有に関するガイドライン」では、共有者間で使用細則を定めた合意書の作成が推奨されています。合意書には修繕方針の決定方法や、売却を希望する際の手順を具体的に記載します。これにより、多数決の取扱いや評価方法の目安が明文化され、将来の紛争が大幅に減るのです。
一方で、共有者が遠方に住んでいたり高齢の場合、会議を開くだけでも手間がかかります。そのようなケースでは、司法書士や不動産コンサルタントが入り、オンライン会議や電子署名を活用した意思決定フローを整えると良いでしょう。費用はかかりますが、結果として相続人同士の心理的負担を軽減できます。
2025年度の法改正・税制ポイント
まず、2025年度も継続している「小規模宅地等の特例」は自宅土地を最大330㎡まで80%減額評価する制度です。共有名義でも適用条件を満たせば減額対象となりますが、持分ごとに要件を確認する必要があります。たとえば、被相続人と同居していた相続人が土地を取得すれば優遇されますが、賃貸に出すと対象外になる場合があるので注意してください。
また、2025年度税制改正では、共有名義の不動産を売却した際の譲渡所得計算で、取得費加算の特例について電子申告要件が緩和されました。具体的には、紙提出でも税務署側が電子データを補完できるようになり、高齢者の手続き負担が軽減されています。さらに、相続登記義務化の施行によって、登記未了のまま売却しようとすると金融機関が融資を拒む事例が増えています。したがって、共有者全員で早期に登記を済ませ、売却の選択肢を確保することが大切です。
国税庁の最新統計によると、課税価格3,000万円超の不動産を含む相続で、小規模宅地等の特例を使うと平均1,200万円の相続税圧縮効果が確認されています。共有名義でも正しく申請すれば同様のメリットが得られるため、税理士との連携が不可欠です。
名義整理の判断基準と進め方
ポイントは、物件の収益性と家族構成の変化を時系列で捉えることです。築年数が浅く賃貸需要が高い物件なら、当面は共有で運用し、その利益をリフォーム資金や将来の持分買い取り資金に回す戦略が取れます。一方、築古で修繕コストが膨らむと予想される物件は、早期に売却か単独名義化を実行し、決断を先延ばしにしないほうが得策です。
名義変更を進める際は、まず不動産の評価額を複数の不動産会社に査定してもらい、市場価格を把握します。次に、贈与税と登録免許税を合算したコストを試算し、それが将来のトラブル回避による心理的・金銭的メリットを上回るか比較検討します。家族会議では、この数値を共有し「贈与税が100万円かかるが、10年後の売却遅延リスクを考えれば安い」といった具体的な議論を行うと合意形成が容易になります。
さらに、単独名義化する場合は「相続時精算課税制度」を利用する選択肢があります。2025年度の同制度は2,500万円まで贈与税が非課税です。ただし、将来の相続時に贈与分が再度課税対象になるため、他の財産状況も含めた総合試算が不可欠です。専門家にシミュレーションを依頼し、複数パターンを比較して最終判断を下しましょう。
まとめ
結論として、共有名義は初期費用が抑えられる一方、維持と意思決定の手間が大きく、単独名義は逆に初期コストがかさむものの管理が容易です。2025年度の相続登記義務化や税制改正により、手続きを放置すると売却や融資が難しくなるリスクも高まりました。まずは物件の収益性と家族の意向を整理し、専門家の助言を受けながら損得を数値化して比較検討することが、後悔しない相続対策への近道です。
参考文献・出典
- 法務省「相続登記の申請義務化について」 – https://www.moj.go.jp
- 国税庁「令和6年度(2025年度)相続税申告事績」 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省「不動産の共有に関するガイドライン」 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局「住宅・土地統計調査」 – https://www.stat.go.jp
- 不動産流通推進センター「相続不動産の取引実務」 – https://www.retpc.jp