一棟アパート投資を検討する際、必ず目にするのが「表面利回り」という言葉です。物件情報には「利回り8%」「高利回り10%」といった数字が並んでいますが、この数字だけを見て投資判断をしてしまうと、思わぬ失敗につながる可能性があります。実は表面利回りは投資判断の入り口に過ぎず、本当に重要なのはその数字の意味を正しく理解することなのです。
この記事では、一棟アパート投資における表面利回りの基本的な考え方から、実際の計算方法、地域別の相場、そして表面利回りだけでは見えないリスクまで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。これから不動産投資を始めようとしている方、すでに物件を探し始めている方にとって、正しい投資判断をするための知識が身につく内容となっています。
表面利回りの基本的な仕組みと計算方法

表面利回りとは、物件価格に対して年間でどれだけの家賃収入が得られるかを示す指標です。「グロス利回り」とも呼ばれ、不動産投資の収益性を測る最も基本的な数値として広く使われています。
計算式は非常にシンプルで、「年間家賃収入÷物件価格×100」で求められます。たとえば、5000万円の一棟アパートで年間家賃収入が400万円であれば、表面利回りは8%となります。この計算式は誰でも簡単に使えるため、物件情報サイトや不動産会社の資料では必ずと言っていいほど記載されています。
重要なのは、表面利回りには経費が一切含まれていないという点です。固定資産税、管理費、修繕費、火災保険料といった実際に発生する費用は考慮されていません。つまり、表面利回りが高いからといって、必ずしも手元に残るお金が多いわけではないのです。
この特性を理解せずに表面利回りだけで物件を選んでしまうと、実際に運用を始めてから「思ったより収益が残らない」という事態に陥ります。表面利回りはあくまで物件を比較する際の第一段階の指標として活用し、その後により詳細な収支計算を行うことが賢明な投資判断につながります。
一棟アパートの表面利回り相場と地域差

一棟アパートの表面利回りは、立地や築年数によって大きく変動します。2026年2月時点のデータによると、東京23区の平均表面利回りは約5.1%となっており、地方都市と比較すると低めの水準です。これは都心部の物件価格が高いことが主な要因となっています。
都心部と地方では、利回りの考え方が根本的に異なります。東京都心の一棟アパートでは表面利回り4〜6%程度が一般的ですが、空室リスクが低く安定した収益が見込めます。一方、地方都市では表面利回り8〜12%という高利回り物件も珍しくありませんが、人口減少による空室リスクや将来的な資産価値の下落リスクを考慮する必要があります。
築年数も利回りに大きく影響する要素です。新築アパートは物件価格が高いため表面利回りは4〜6%程度に留まりますが、設備が新しく入居者を集めやすいメリットがあります。築20年以上の中古アパートでは表面利回り8〜10%以上も期待できますが、修繕費用が多くかかる可能性や、融資条件が厳しくなる点に注意が必要です。
国土交通省の住宅統計によると、2026年12月時点での全国アパート空室率は21.2%と高い水準にあります。このデータからも分かるように、表面利回りが高い物件ほど空室リスクが高い傾向にあるため、利回りの数字だけでなく、その地域の賃貸需要を慎重に見極めることが重要です。
表面利回りと実質利回りの違いを理解する
不動産投資で本当に重要なのは、表面利回りではなく実質利回り(ネット利回り)です。実質利回りは、年間家賃収入から実際にかかる経費を差し引いた金額を物件価格で割って計算します。この数字こそが、投資家の手元に実際に残る収益を示す指標となります。
一棟アパート経営では、様々な経費が発生します。固定資産税や都市計画税は物件価格の1〜2%程度、管理会社への委託費は家賃収入の5%程度が相場です。さらに火災保険料、共用部分の電気代、定期的な清掃費用、エレベーターがあれば保守点検費用も必要になります。これらを合計すると、年間家賃収入の20〜30%程度が経費として消えていきます。
具体例で見てみましょう。表面利回り8%の5000万円の物件で年間家賃収入が400万円の場合、経費が100万円かかれば実質利回りは6%に下がります。さらに空室が発生すれば、実質利回りはさらに低下します。表面利回りと実質利回りの差が大きい物件ほど、実際の収益性は見かけより低いということになります。
投資判断をする際は、必ず実質利回りを計算することをお勧めします。不動産会社に物件の詳細な経費明細を求め、過去の修繕履歴も確認しましょう。特に築年数が古い物件では、近い将来に大規模修繕が必要になる可能性があり、その費用を考慮しないと正確な収益予測ができません。
高利回り物件に潜むリスクと注意点
表面利回りが10%を超えるような高利回り物件は、一見すると魅力的に映ります。しかし実際には、高利回りには必ず理由があり、多くの場合リスクと表裏一体の関係にあることを理解しておく必要があります。
最も多いケースが、立地条件の悪さです。駅から遠い、周辺に商業施設がない、人口減少が進んでいる地域などの物件は、需要が少ないため価格が安く設定され、結果として利回りが高くなります。しかし入居者が決まりにくく、空室期間が長引けば、高利回りも意味をなしません。実際に2026年12月の統計では、地方の空室率が都市部より5〜10%高い傾向が見られます。
築年数が古い物件も高利回りになりがちです。建物の老朽化が進んでいれば、外壁塗装や屋根の防水工事、給排水管の交換など、多額の修繕費用が必要になります。表面利回り12%の物件でも、購入後すぐに1000万円の大規模修繕が必要になれば、実質的な利回りは大幅に低下してしまいます。
入居者の質も見逃せないポイントです。家賃が相場より安い物件には、家賃滞納リスクの高い入居者が集まりやすい傾向があります。また、反社会的勢力の関係者が入居している物件や、事故物件なども高利回りで売りに出されることがあります。購入前には必ず現地を訪れ、入居者の状況や周辺環境を自分の目で確認することが大切です。
融資条件も高利回り物件では厳しくなります。金融機関は築年数が古い物件や地方の物件に対して、融資額を抑えたり金利を高く設定したりします。自己資金を多く用意する必要があれば、実質的な投資効率は下がってしまいます。高利回りという数字に飛びつく前に、総合的なリスク評価を行うことが成功への近道です。
表面利回りを活用した賢い物件選びの方法
表面利回りは完璧な指標ではありませんが、正しく活用すれば効率的な物件選びの強力なツールになります。まず押さえておきたいのは、表面利回りを物件の第一次スクリーニングとして使う方法です。
投資エリアを決めたら、そのエリアの平均的な表面利回りを把握しましょう。東京23区なら5%前後、地方中核都市なら7〜8%程度が目安となります。この平均値から大きく外れる物件には、必ず何らかの理由があります。平均より著しく低い物件は割高な可能性があり、逆に著しく高い物件には前述のようなリスクが潜んでいる可能性があります。
複数の物件を比較する際は、表面利回りだけでなく、築年数、駅からの距離、周辺の賃貸需要などを総合的に評価します。たとえば、表面利回り6%の駅徒歩5分の物件と、表面利回り9%の駅徒歩20分の物件があった場合、長期的な安定性を考えれば前者の方が優れている可能性が高いでしょう。
実質利回りへの変換も重要なステップです。表面利回りから経費率20〜30%を差し引いた数字を計算し、さらに空室率を考慮します。全国平均の空室率21.2%を参考にしながら、その地域の実情に合わせて10〜20%程度の空室を想定した収支シミュレーションを作成しましょう。
最終的な投資判断では、キャッシュフローも確認します。ローン返済額を差し引いた後に手元に残る金額が、毎月プラスになるかどうかが重要です。表面利回りが高くても、融資条件が厳しくローン返済額が大きければ、キャッシュフローはマイナスになってしまいます。表面利回りは入り口として活用し、段階的に詳細な分析を進めることで、失敗のリスクを大幅に減らすことができます。
長期的な収益性を見据えた投資戦略
一棟アパート投資で成功するには、表面利回りという短期的な指標だけでなく、10年、20年先を見据えた長期的な視点が不可欠です。物件の資産価値がどう変化するか、将来的な賃貸需要がどうなるかを予測することが、真の投資判断力となります。
人口動態は最も重要な判断材料の一つです。国立社会保障・人口問題研究所のデータによると、2040年までに地方都市の多くで人口が20〜30%減少すると予測されています。現在は高利回りでも、将来的に賃貸需要が大幅に減少すれば、空室率の上昇や家賃の下落は避けられません。投資エリアを選ぶ際は、人口推移や世帯数の変化を必ず確認しましょう。
建物の耐用年数も考慮すべき要素です。木造アパートの法定耐用年数は22年ですが、適切なメンテナンスを行えば40〜50年は使用できます。ただし築30年を超えると、大規模修繕の頻度が増え、コストも上昇します。購入時の表面利回りが高くても、将来の修繕費用を考慮すると、トータルの収益性は低くなる可能性があります。
出口戦略も投資計画の重要な一部です。一棟アパートは区分マンションと比べて売却しにくい傾向があります。特に地方の築古物件は買い手が限られ、希望価格で売却できないケースも少なくありません。購入時から10〜15年後の売却を想定し、その時点での想定価格を考慮した投資計画を立てることが賢明です。
税制面でも長期的な視点が必要です。不動産所得が増えれば所得税や住民税の負担も増加します。また、相続時には相続税の対象となります。一方で、減価償却費を活用した節税効果や、小規模宅地等の特例による相続税の軽減措置なども活用できます。税理士に相談しながら、長期的な税務戦略を立てることで、手元に残る実質的な収益を最大化できます。
まとめ
一棟アパートの表面利回りは、投資判断の重要な入り口となる指標ですが、それだけで投資の成否が決まるわけではありません。表面利回りの計算方法を理解し、実質利回りへの変換、地域特性の把握、リスクの評価、そして長期的な視点での収益性分析まで、段階的に検討を深めることが成功への道筋となります。
東京23区で5%前後、地方都市で7〜8%程度という相場感を持ちながら、高利回り物件に潜むリスクを見極める目を養いましょう。空室率21.2%という現実を踏まえ、楽観的な想定ではなく、保守的なシミュレーションで投資判断を行うことが大切です。
不動産投資は長期戦です。表面利回りという数字に一喜一憂するのではなく、その物件が10年後、20年後も安定した収益を生み出せるかという視点で選ぶことが、真の投資家としての第一歩となります。焦らず、じっくりと物件を見極め、あなたに合った一棟アパート投資を実現してください。
参考文献・出典
- 一般財団法人日本不動産研究所「不動産投資家調査」 – https://www.reinet.or.jp/
- 国土交通省「住宅・土地統計調査」 – https://www.mlit.go.jp/statistics/
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」 – https://www.ipss.go.jp/
- 公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報マーケットウォッチ」 – https://www.reins.or.jp/
- 国税庁「タックスアンサー(不動産所得)」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/
- 全国賃貸住宅経営者協会連合会「賃貸住宅市場動向調査」 – https://www.zenchin.com/
- 総務省統計局「住宅・土地統計調査」 – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/