扶養内での不動産投資は実現可能なのか

配偶者の扶養に入りながら不動産投資を始めたいと考えている方は、年々増加しています。家計の足しにしたい、将来の資産形成を考えたいという前向きな思いがある一方で、扶養から外れて税金や社会保険料の負担が急増するのは避けたいというジレンマを抱えている方が大半です。
しかし、不動産投資には給与所得とは異なる計算方法が適用されるため、正しい知識を持てば扶養内で収益を得ることは十分に可能です。実際に、家賃収入から必要経費を適切に差し引くことで、実質的なキャッシュフローを確保しながら帳簿上の所得を抑えられる仕組みがあります。この記事では、扶養の基本的な仕組みから具体的な収入調整の方法、2025年度の税制改正による影響まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
2つの扶養制度を正しく理解する

扶養について考える際、まず押さえておきたいのは「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」という2つの異なる制度があることです。多くの方がこの2つを混同してしまい、正確な収入調整ができていないケースが見られます。それぞれの制度の要件と基準を正しく理解することが、扶養内投資の第一歩となります。
税制上の扶養とは、配偶者控除や配偶者特別控除を受けられる範囲のことを指します。国税庁の定めによると、配偶者の合計所得金額が48万円以下であれば配偶者控除の対象となり、48万円を超えても133万円以下であれば配偶者特別控除が適用されます。給与収入に換算すると、いわゆる103万円の壁や150万円の壁として知られている基準です。
一方、社会保険上の扶養は健康保険や厚生年金の被扶養者として認定される範囲を意味します。全国健康保険協会の基準では、一般的には年収130万円未満が基準とされていますが、従業員101人以上の企業に勤める場合は106万円が基準となることもあります。重要なのは、不動産所得の場合は給与所得とは計算方法が根本的に異なるという点です。
不動産投資を行う場合、家賃収入から必要経費を差し引いた金額が「不動産所得」として扱われます。つまり、家賃収入が年間200万円あったとしても、必要経費が160万円かかっていれば、不動産所得は40万円となり、税制上の扶養内に収まる可能性があるのです。この仕組みを活用することが、扶養内での不動産投資を成功させる重要なポイントとなります。
不動産所得の正しい計算方法
不動産所得を正確に把握するためには、収入と経費の計算方法を細かく理解する必要があります。収入面では、家賃収入だけでなく、礼金や更新料、駐車場代なども含まれます。ただし、敷金は預かり金であり返還義務があるため、収入には含まれません。この点を誤解して過大に収入を計上してしまうケースもあるので注意が必要です。
必要経費として認められる項目は想像以上に多岐にわたります。固定資産税や都市計画税といった税金、火災保険料や地震保険料などの保険料、管理会社への管理委託費、修繕費や原状回復費用などが代表的です。さらに、物件を購入するために借り入れたローンの利息部分も経費として計上できます。元本部分は経費にならないため、この区別は確定申告時に重要になります。
特に注目すべきなのが減価償却費です。建物部分の購入価格を法定耐用年数で割った金額を、毎年経費として計上できる仕組みとなっています。例えば、木造アパートの場合は法定耐用年数が22年なので、建物価格2,200万円であれば年間100万円を減価償却費として計上できます。実際にお金が出ていかない経費として計上できるため、キャッシュフローを維持しながら所得を圧縮できる強力な手段となります。
中古物件の場合は簡便法という計算方法を使うこともでき、より多くの減価償却費を計上できる場合があります。法定耐用年数を超えた中古物件の場合、「法定耐用年数×0.2」で計算できるため、22年の木造であれば4年で減価償却できる計算になります。これにより、短期間で大きな経費を計上し、所得を効果的に抑えることが可能です。
青色申告を選択すれば、さらに最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。不動産所得が100万円の場合、青色申告特別控除を適用すれば所得は35万円まで圧縮され、配偶者控除の対象範囲内に収まります。このように、不動産投資では経費計上と控除の活用次第で所得金額を大きくコントロールできるのです。
配偶者控除・特別控除の段階的な仕組み
配偶者控除と配偶者特別控除は、納税者本人の所得によって控除額が変動する段階的な制度となっています。多くの方がこの段階的な変化を把握できていないため、思わぬ形で控除額が減少してしまうケースがあります。自分たちの状況に応じた正確な控除額を理解することが大切です。
納税者本人の合計所得金額が900万円以下の場合、配偶者控除は最大38万円となります。しかし、900万円超950万円以下では26万円に、950万円超1,000万円以下では13万円に減少し、1,000万円を超えると控除は受けられなくなります。配偶者特別控除も同様に、納税者の所得に応じて段階的に減少する仕組みです。
配偶者の所得が48万円を超えると配偶者控除から配偶者特別控除に切り替わりますが、この切り替えは急激な負担増をもたらすわけではありません。配偶者特別控除は所得に応じて段階的に減少するため、所得が少し超えただけで大きく損をするという事態は避けられる設計になっています。ただし、配偶者の所得が133万円を超えると完全に控除が受けられなくなるため、この金額が実質的な上限となります。
社会保険の扶養判定で見落としがちな落とし穴
税制上の扶養と社会保険上の扶養では、不動産所得の扱いが大きく異なる点に注意が必要です。特に社会保険の扶養判定は、加入している健康保険組合によって基準が異なるため、事前に確認することが極めて重要です。この点を見落とすと、税制上は問題なくても社会保険の扶養から外れてしまう事態が起こり得ます。
多くの健康保険組合では、不動産所得を判定する際に「総収入から直接的な経費のみを差し引いた金額」を基準とします。この場合、減価償却費や青色申告特別控除は経費として認められないケースが多く見られます。つまり、税制上は所得が48万円以内に収まっていても、社会保険上は扶養から外れる可能性があるのです。
協会けんぽの場合、不動産所得の判定では固定資産税、損害保険料、修繕費などの直接的な経費のみが認められ、減価償却費は経費として扱われません。例えば、家賃収入200万円から減価償却費100万円と修繕費60万円を差し引いた不動産所得が40万円だったとします。税制上は配偶者控除の対象となりますが、社会保険の判定では減価償却費が経費として認められないため、収入は140万円と見なされ、扶養から外れてしまう可能性があります。
一方、企業の健康保険組合の中には、確定申告書の所得金額をそのまま採用するところもあります。厚生労働省の通達に基づき、各健康保険組合が独自の判定基準を設けているため、配偶者が加入している健康保険組合に直接問い合わせて確認することが不可欠です。電話一本で確認できることですので、物件購入前に必ず行っておくべき重要な手続きと言えます。
また、厚生労働省の改定により、19歳から23歳の被扶養者については年収要件が150万円に引き上げられています。子どもが大学生の場合など、世代によって基準が異なる点も把握しておく必要があります。
2025年度税制改正がもたらす新たな可能性
2025年度の税制改正では、基礎控除と配偶者控除に関する重要な変更が予定されています。この改正は扶養内で不動産投資を行う方にとって、より有利な環境を作り出す可能性があります。改正の内容を正確に理解し、自身の投資計画に反映させることが重要です。
基礎控除については、これまでの48万円から58万円への引き上げが検討されています。この10万円の引き上げにより、所得の壁がより高い位置に設定され、扶養内で得られる収入の幅が広がることが期待されます。配偶者控除の適用要件についても、この基礎控除の引き上げに連動した調整が行われる見込みです。
ただし、税制改正の内容は国会での審議を経て確定するため、最新の情報を継続的にチェックすることが重要です。国税庁のウェブサイトや税理士からの情報提供を通じて、改正の詳細が確定した際には、自身の投資計画への影響を再度検討することをお勧めします。改正により、これまで扶養内での投資が難しいと考えていた方にも、新たな投資の選択肢が生まれる可能性があります。
扶養維持に適した物件選びの戦略
扶養内で不動産投資を行うためには、物件選びの段階から戦略的に考える必要があります。重要なのは、高い家賃収入を得ることよりも、経費率の高い物件を選ぶという視点です。この考え方が、扶養を維持しながら着実に資産を形成する鍵となります。
築年数が経過した木造物件は、この目的に適した選択肢の一つです。木造建物は法定耐用年数が22年と短いため、減価償却費を多く計上できます。さらに、築古物件は修繕費が発生しやすく、これらも必要経費として計上できるため、所得を抑えやすい傾向にあります。ただし、あまりに古すぎる物件は入居者が見つかりにくいリスクもあるため、立地条件や物件の状態を慎重に見極める必要があります。築15〜25年程度の木造アパートが、減価償却と入居率のバランスが取れやすい傾向にあります。
地方の一棟アパートも検討に値します。都心のワンルームマンションと比較すると、建物価格に占める土地の割合が低く、建物部分の減価償却費を多く計上できる傾向があります。国土交通省のデータによると、エリアによって地価と建物価格の比率は大きく異なるため、土地が比較的安価で建物割合が高い物件を選ぶことで、より多くの減価償却費を計上できます。
融資を活用する場合は、借入金額と金利のバランスも重要です。日本銀行の統計データによると、住宅ローン金利は経済情勢によって変動しやすい傾向にあるため、長期的な返済計画を立てる際には金利上昇リスクも考慮に入れる必要があります。一般的には、物件価格の70〜80%程度の融資を受け、残りを自己資金で賄うバランスが推奨されています。ローン利息は経費計上できるため、適度な借入は所得を抑える効果もあります。
確定申告と日々の記帳を確実に行う
不動産投資を行う場合、確定申告は避けて通れません。扶養内で投資を続けるためには、正確な記帳と適切な申告が不可欠です。不動産所得が20万円を超える場合は、必ず確定申告を行う必要がありますが、扶養維持のためには20万円以下であっても申告することをお勧めします。
青色申告を選択することを強くお勧めします。青色申告を行うためには、開業届と青色申告承認申請書を税務署に提出する必要があります。開業届は事業開始から1か月以内、青色申告承認申請書は青色申告を行いたい年の3月15日まで、または開業から2か月以内に提出します。これらの手続きはe-Taxを利用してオンラインで完結できるため、以前よりも手軽に行えるようになっています。
日々の記帳では、収入と支出を漏れなく記録することが重要です。家賃収入が振り込まれた日付と金額、管理費や修繕費などの支出の日付と金額を正確に記録し、領収書やレシートを整理して保管します。最近では、スマートフォンで領収書を撮影するだけで自動的に記帳してくれる会計ソフトも普及しており、簿記の知識がない方でも比較的容易に記帳できるようになっています。
経費として計上できるものとできないものの区別も重要です。物件の管理や運営に直接関係する費用は経費として認められますが、私的な支出は認められません。例えば、物件の視察に行く際の交通費は経費になりますが、その際に立ち寄った観光地の入場料は経費になりません。グレーゾーンの支出については、税理士に相談することをお勧めします。
扶養から外れた場合の影響を冷静に見極める
扶養内での投資を目指していても、予想外に収入が増えて扶養から外れる可能性もあります。その場合の影響を事前に理解しておくことで、冷静な判断ができるようになります。扶養から外れることを過度に恐れる必要はなく、トータルでの収支を見極めることが大切です。
税制上の扶養から外れた場合、配偶者控除または配偶者特別控除が受けられなくなり、配偶者の税負担が増加します。配偶者控除の場合は最大38万円の所得控除が受けられなくなるため、配偶者の所得税率が20%であれば約7.6万円、住民税を含めると約11万円程度の税負担増となります。ただし、配偶者特別控除は段階的に減少する仕組みのため、所得が少し超えただけで急激に負担が増えるわけではありません。
社会保険の扶養から外れた場合の影響はより大きくなります。国民健康保険と国民年金に加入する必要があり、年間で30万円から40万円程度の負担増となるケースが一般的です。所得が増えれば国民健康保険料も増加するため、実際の負担額は所得に応じて変動します。扶養から外れた際には健康保険被扶養者異動届の提出など、所定の手続きが必要となります。
一方で、扶養から外れることで得られるメリットもあります。国民年金に加入することで、将来の年金受給額が増加します。また、所得が増えれば、より大きな融資を受けられる可能性が高まり、投資規模を拡大できるチャンスも生まれます。重要なのは、扶養から外れることを恐れるのではなく、トータルでの収支を冷静に計算し、自分たちのライフプランに合った選択をすることです。
専門家のサポートを効果的に活用する
扶養内での不動産投資を成功させるためには、適切な専門家のサポートを受けることが重要です。特に初めて不動産投資を行う場合は、税務や社会保険の複雑な仕組みを一人で理解するのは困難であり、専門家の力を借りることで多くの時間と労力を節約できます。
税理士は確定申告のサポートだけでなく、物件購入前の収支シミュレーションや、扶養の範囲内で投資を続けるための戦略立案にも協力してくれます。不動産投資に詳しい税理士を選ぶことが大切で、初回相談は無料で行っている事務所も多くあります。年間の顧問料は10万円から30万円程度が相場ですが、確定申告のみの依頼であれば5万円から10万円程度で対応してくれる場合もあります。この費用も不動産所得の経費として計上できるため、実質的な負担は軽減されます。
社会保険労務士は、社会保険の扶養判定について専門的なアドバイスを提供してくれます。特に配偶者が加入している健康保険組合の基準が不明確な場合や、扶養の継続可否について判断に迷う場合は、相談する価値があります。社会保険労務士への相談料は1時間あたり1万円から2万円程度が一般的です。
不動産会社や管理会社も重要な相談先です。物件選びの段階から、扶養内での投資を目指していることを伝えれば、経費率の高い物件を提案してくれる可能性があります。また、管理を委託する場合は、経費の領収書発行や収支報告をしっかり行ってくれる会社を選ぶことで、確定申告の負担を軽減できます。管理会社の選定は、物件の収益性だけでなく、事務処理のサポート体制も重要な判断基準となります。
長期的な視点で資産形成を考える
扶養内での不動産投資は、あくまでも資産形成の一つのステップとして捉えることが大切です。目先の扶養維持にこだわりすぎて、長期的な資産形成の機会を逃してしまっては本末転倒です。柔軟な視点を持ちながら、自分たちのライフプランに合った投資戦略を構築していくことが重要です。
不動産投資の大きなメリットは、時間をかけて資産を形成できることです。ローンを活用すれば、少ない自己資金で大きな資産を持つことができ、家賃収入でローンを返済しながら、最終的には物件が自分の資産となります。扶養内で始めた小規模な投資も、10年、20年と続けることで、老後の安定した収入源となる可能性があります。日本年金機構のデータによると、公的年金だけでは老後資金が不足するケースが多いため、不動産投資による収入源の確保は将来の生活の安定につながります。
また、NISAやiDeCoといった他の資産形成手段との組み合わせも効果的です。不動産投資で得た収益を、これらの非課税・節税メリットのある制度に振り向けることで、より効率的な資産形成が可能になります。扶養内での不動産投資を入口として、総合的な資産形成戦略を構築していくことをお勧めします。
家族のライフステージの変化も考慮に入れた計画が重要です。子どもの教育費がかかる時期は扶養内で投資を続け、教育費の負担が減った後に本格的に投資規模を拡大するといった柔軟な戦略も考えられます。焦らず、着実に経験を積むことが、長期的な成功につながります。最初は小さな一歩でも、継続することで確実に資産は積み上がっていきます。
まとめ
配偶者の扶養内で不動産投資を行うことは、正しい知識と適切な戦略があれば十分に可能です。重要なのは、税制上の扶養と社会保険上の扶養の違いを理解し、不動産所得の計算方法を正確に把握することです。家賃収入から必要経費を差し引いた不動産所得を48万円以内に抑えることで、税制上の配偶者控除を受けられます。
減価償却費や青色申告特別控除を活用すれば、実際のキャッシュフローを維持しながら所得を圧縮できます。ただし、社会保険の扶養判定では、加入している健康保険組合によって基準が異なるため、物件購入前に必ず確認することが不可欠です。2025年度の税制改正による基礎控除の引き上げなど、制度は常に変化しています。
最新の情報をキャッチアップしながら、税理士や社会保険労務士などの専門家のサポートも活用して、自分に合った投資計画を立ててください。扶養内での投資にこだわりすぎず、長期的な資産形成の視点を持つことも大切です。小さな一歩から始めることで、将来の豊かな生活につながる資産形成が実現できるはずです。
参考文献・出典
- 国税庁 – タックスアンサー(所得税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shotoku.htm
- 国税庁 – 確定申告書等作成コーナー https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kakutei.htm
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)- 被扶養者とは https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/sbb3163/
- 日本年金機構 – 国民年金・厚生年金保険 被保険者のしおり https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/seido-shikumi.html
- 厚生労働省 – 健康保険の被扶養者認定に関する通達
- 国土交通省 – 地価公示・基準地価 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000085.html
- 日本銀行 – 金融統計データ