個人から法人へ不動産を移すとき、どんな税金がいくらかかるのかを知ることが最初の一歩です。譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税に加え、価格の設定を誤ると想定外の課税が生じるリスクもあります。この記事では、各税金の計算方法と、時価に基づく適正価格の考え方を公的機関の情報をもとに整理しています。法人化を検討している方はもちろん、将来の選択肢として備えておきたい方にも参考にしていただける内容です。
本記事では、個人から法人への不動産譲渡で発生する税金の種類や計算方法、価格設定で失敗しないためのポイントを、国税庁など公的機関の情報をもとに分かりやすく解説します。法人化を具体的に検討している方はもちろん、将来の選択肢として備えておきたい方にも役立つ内容です。
個人から法人への物件移転で発生する税金の全体像
個人が所有する不動産を法人に移す場合、単なる名義変更としては処理できません。税務上は「売買」として扱われるため、個人が法人に物件を売却した取引になります。この一連の取引には複数の税金が関わってくるので、まずは全体像を押さえることが大切です。
個人側では、物件を売って利益が出たときに譲渡所得税が発生します。購入時よりも価値が上がっていれば、その差額に対して所得税と住民税が課されます。一方の法人側では、物件を取得したことで不動産取得税と登録免許税がかかります。さらに売買契約書を取り交わす際には印紙税も必要となるため、両者を合わせると相当な金額になることを覚悟しておきましょう。
ここで注意したいのが、価格の設定です。国税庁によると、土地や建物の売却先が法人であり、しかも売却価額が時価の2分の1を下回っている場合には、実際の売価ではなく物件の時価を収入金額として譲渡所得を計算することになります。つまり、安く売っても税務上は時価で売ったものとみなされる可能性があるのです。適正な価格で取引し、その根拠を説明できる資料を残しておくことが、後のトラブルを避ける鍵となります。
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個人側にかかる譲渡所得税の仕組みと計算方法
個人から法人への売却で最も大きな負担となるのが譲渡所得税です。物件を売却して得た利益に対して課税されるもので、基本的には「譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額」に税率をかけて計算します。
取得費には物件の購入代金だけでなく、購入時に支払った仲介手数料や登記費用、不動産取得税なども含められます。ただし、建物部分については減価償却費を差し引く点に注意が必要です。たとえば木造アパートを10年間所有していた場合、建物価格のかなりの部分がすでに償却されているため、取得費は購入時の金額よりも低くなります。結果として譲渡所得が大きくなり、税負担も増えるのです。
また、譲渡代金のほかに固定資産税や都市計画税の精算金を受け取った場合も見落とせません。国税庁によると、譲渡した日から年末までの期間に対応する未経過固定資産税等に相当する額の支払いを受けたときは、その額も譲渡価額(収入金額)に算入する必要があります。精算金を単なる立替の返金と考えて申告から漏らすと、後で指摘を受けることがあります。
所有期間による税率の大きな違い
譲渡所得税の税率は、物件を何年持っていたかによって大きく変わります。国税庁の説明では、長期譲渡所得の基本税率は所得税15%・住民税5%です。これに対して短期譲渡所得の基本税率は所得税30%・住民税9%と、およそ2倍の水準になります。さらに平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%が所得税と併せて課されます。
この違いを具体的な数字で見てみましょう。減価償却後の取得費が2000万円、譲渡費用が200万円の物件を5000万円で売却すると、譲渡所得は2800万円です。長期であれば税額はおおむね569万円ですが、短期であれば約1110万円となり、その差は500万円以上に達します。含み益が大きい物件ほどこの差は拡大するため、所有期間を意識してタイミングを検討することが重要です。
ここで注意したいのが、所有期間の数え方です。所有期間は物件を取得した日から、売却した年の1月1日までで判定します。そのため、2020年3月に購入した物件を2025年4月に売却しても、暦の上では5年を超えていても税法上は短期とみなされる場合があります。売却時期を決める前に、この起算点を必ず確認してください。
法人側にかかる不動産取得税と登録免許税
法人が物件を取得する際には、不動産取得税と登録免許税という2つの税金が発生します。どちらも物件の評価額をもとに金額が決まるため、事前の試算が欠かせません。
不動産取得税の考え方
不動産取得税は、不動産を取得したときに取得者へ1回だけ課される都道府県税です。個人か法人かを問わず、購入・贈与・交換などによる取得に対して課税されます。税額は固定資産課税台帳に登録された評価額に税率をかけて計算します。
税率は取得時期や物件の用途によって異なり、都道府県が案内しています。たとえば岐阜県の令和8年度版の資料では、平成20年4月1日から令和9年3月31日までの取得について、住宅と土地は3%、事務所や店舗など住宅以外の家屋は4%と案内されています。さらに同資料では、宅地及び宅地比準土地を取得した場合、令和9年3月31日までは課税標準額を固定資産課税台帳登録価格の2分の1とする特例が示されています。ただし税率や特例は自治体や時期によって差がありうるため、最新情報は物件所在地の都道府県の公式サイトで確認してください。
登録免許税の計算方法
登録免許税は、所有権移転登記を行うときに国へ納める税金です。国税庁の税額表によると、売買を原因とする所有権移転登記の税率は不動産価額の原則2.0%ですが、土地については近年の制度改正により軽減措置が設けられています。一方、贈与や交換、収用、競売などによる移転は2.0%とされている点に注意が必要です。なお、この軽減措置の期限は今後の税制改正でさらに延長・変更される可能性があるため、実際の取引時点で国税庁の公式サイト等の最新情報を確認することをおすすめします。
ここでいう不動産価額とは、固定資産課税台帳に登録された価格がある場合は原則その価格を用います。売買価格そのものではない点がポイントです。たとえば土地評価額が2000万円、建物評価額が1500万円の場合、軽減後の土地は30万円、建物は30万円で、合計60万円程度の登録免許税がかかります。これに不動産取得税を加えると、取得時のコストは決して小さくありません。法人化を検討する際は、これらの取得コストも含めて採算を判断することが重要です。
適正な移転価格の設定と時価の考え方
個人から法人へ物件を移すとき、最も神経を使うのが移転価格の設定です。価格の付け方を誤ると想定外の課税につながるため、適正な時価での取引が求められます。
国税庁は、法人に対する贈与や、時価の2分の1未満の価額による譲渡があった場合には、時価で資産の譲渡があったものとされると説明しています。時価とは通常売買される価額を指します。つまり、著しく低い価格で法人へ移しても、個人側では時価で売却したものとして譲渡所得税が計算されてしまうのです。無償で移転した場合も、一定の債務処理計画に基づく例外を除き、譲渡所得課税を避けることはできません。
一方、法人側の視点も忘れてはいけません。国税庁の教材では、法人が資産を無償または低額で譲り受けた場合、時価相当額や時価との差額を受贈益として益金に算入する考え方が示されています。つまり、安く買った法人側にも課税リスクが生じるということです。売る側・買う側の双方にとって、時価から大きく外れた価格設定は避けるべきだといえます。
時価の裏付けをどう残すか
実務では、不動産鑑定士の鑑定評価を取得したり、複数の不動産会社から査定を受けて妥当な水準を採用したりする方法が用いられます。もっとも、低額譲渡や現物出資で用いる「時価」を路線価や固定資産税評価額、鑑定評価額のどれで算定すべきかは個別事情によって異なり、一律の公的な基準までは明確に示されていません。だからこそ、税務調査で価格の妥当性を問われたときに説明できるよう、算定根拠となる資料をしっかり保管しておくことが欠かせません。判断に迷う場合は、事前に税理士へ相談することをおすすめします。
なお、現物出資という形で不動産を法人へ移す方法もあります。国税庁によると、現物出資も資産の譲渡として所得税の課税対象となり、収入金額は原則として受け取る株式や出資持分の時価で判定されます。ただし、その株式等の価額が出資した不動産の時価の2分の1未満であれば、不動産の時価が収入金額とみなされます。売買と同様、ここでも時価が判断の軸になる点は共通しています。
消費税の取り扱いと注意点
個人から法人への物件移転では、消費税の処理にも注意が必要です。消費税は建物部分に課税され、土地には課税されないという基本ルールを理解しておかないと、予想外の負担が生じることがあります。
国税庁は、事業に使用していた建物や、住宅賃貸用・店舗賃貸用の建物を売却した場合も消費税の課税対象になり得ると説明しています。したがって、個人が課税事業者に該当する場合、法人への建物売却には消費税がかかります。土地と建物を一括で譲渡するときは、土地部分が非課税で建物部分のみ課税されるため、譲渡代金を土地と建物へ合理的に区分する必要があります。この区分が不合理だと、税務上の指摘を受けかねません。
もっとも、消費税の納税義務があるかどうかは、基準期間の課税売上高やインボイス登録の有無など、売主である個人の事業実態によって変わります。一般論だけで結論を出すのは難しいため、免税事業者か課税事業者かの判定を含め、事前に税理士へ確認しながら進めるのが安全です。
法人化のタイミングと判断基準
個人から法人へ物件を移すタイミングは、税務上のメリットを最大化するうえで重要です。法人化すれば必ず節税できるわけではなく、個々の状況に応じた判断が欠かせません。
一般的には、不動産所得が一定水準を超えると、個人の累進課税より法人の税率のほうが有利になる場面が出てきます。ただし、法人化には設立費用や毎年の税理士報酬、赤字でも発生する法人住民税の均等割といったコストが伴います。これらのコストを上回る節税効果が見込めるかどうかが、法人化を判断する基準となります。具体的な損益分岐点は所得の状況や物件数によって異なるため、シミュレーションを行ったうえで検討してください。
物件の所有期間も重要な要素です。前述のとおり、所有期間が5年を超えると譲渡所得税の税率が大きく下がるため、含み益の大きい物件ほど移転のタイミングが税負担を左右します。なお、自宅を法人へ移すケースでは注意が必要です。国税庁によると、居住用財産の3,000万円特別控除は、生計を一にする親族や特殊な関係のある法人などへの売却には使えません。自分が支配する資産管理法人へ自宅を売っても、この控除は適用できないと理解しておきましょう。
実務上の手続きと専門家の活用
個人から法人への物件移転は、税務だけでなく法務や登記、金融機関との調整も伴います。複数の専門家が関わるため、全体のスケジュールを意識しながら進めることが大切です。
法人をこれから設立する場合は、まず会社設立登記を行い、その後に売買契約書を作成します。契約書には売買金額に応じた印紙税がかかります。所有権移転登記は司法書士に依頼するのが一般的で、登録免許税に加えて司法書士報酬が発生します。登記が完了すると、物件は正式に法人名義となります。
税務面では、個人側の譲渡所得の申告が必要です。国税庁によると、譲渡所得の申告は資産を譲渡した日の属する年の翌年2月16日から3月15日の間に行います。譲渡した日は原則として物件を引き渡した日ですが、売買契約の効力発生日で申告することもできます。申告の際は『譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]』が基本の書類となるため、取得費や譲渡費用を裏付ける資料とあわせて準備しておきましょう。
抵当権と融資の調整
個人名義で借入がある物件を移す場合は、抵当権と融資の扱いにも注意が必要です。実務では、売買代金で債務を弁済して抵当権を抹消するか、抵当権付きのまま所有権を移転するかを検討します。後者を選ぶ場合、抵当権者である金融機関の承諾が必要となることが多い点に留意してください。事前に金融機関の担当者へ相談し、移転後の返済計画まで確認しておくと、手続きがスムーズに進みます。
これらの手続きは専門的な判断を要する場面が多く、税理士・司法書士・不動産鑑定士といった専門家のサポートが心強い支えになります。報酬は必要経費と捉え、税務リスクを回避しながら適切に進めることが、結果的に最も安全で効率的な方法だといえます。
まとめ
個人から法人へ不動産を譲渡する際には、譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税といった複数の税金が発生します。とくに譲渡所得税は所有期間によって税率が大きく変わるため、売却のタイミングを慎重に見極める必要があります。また、時価の2分の1を下回る価格で法人へ売ると時価で課税されるうえ、法人側でも受贈益が生じる可能性があるため、適正価格での取引と根拠資料の保管が欠かせません。
消費税の納税義務判定や自宅売却時の特別控除の可否、抵当権や融資の調整など、実務には個別事情に左右される論点が数多く含まれます。最新の税率や制度、自治体ごとの取り扱いは各公的機関の公式サイトで確認しつつ、早めに税理士や司法書士へ相談し、自分に合ったタイミングと方法を一緒に検討することをおすすめします。
参考文献・出典
- 国税庁「No.3217 時価より低い価額で売ったとき」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3217.htm
- 国税庁「No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3214.htm
- 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁「No.3240 個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3240.htm
- 国税庁「No.6301 課税標準(建物と土地との一括譲渡の場合)」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6301_qa.htm
- 国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
- 岐阜県「不動産取得税のしおり(令和8年度版)」- https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/500180.pdf
- 国税庁「No.3102 譲渡所得の申告期限」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国税庁「No.3117 不動産を法人に現物出資したとき」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3117.htm
- 国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
- 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm