不動産投資を始める際、物件の立地や利回りに目が行きがちですが、災害リスクの確認を怠ると大きな損失につながる可能性があります。近年、日本各地で豪雨や地震による被害が相次ぎ、物件の資産価値や入居者の安全性に直結する問題として注目されています。ハザードマップは、こうした災害リスクを事前に把握するための重要なツールです。この記事では、不動産投資家が押さえておくべきハザードマップの見方と、具体的な確認ポイントを詳しく解説します。
ハザードマップとは何か?不動産投資における重要性

ハザードマップとは、自然災害による被害の範囲や程度を地図上に示したものです。国土交通省や各自治体が作成しており、洪水、土砂災害、津波、地震など、さまざまな災害リスクを可視化しています。不動産投資において、このハザードマップの確認は物件選びの基本中の基本といえます。
実は2022年5月から、不動産取引時にハザードマップの説明が義務化されました。これは宅地建物取引業法の改正によるもので、重要事項説明の際に水害リスクの情報提供が必須となっています。つまり、国も災害リスクの重要性を認識し、投資家保護の観点から制度化したということです。
災害リスクが高い物件は、入居者の安全性だけでなく、資産価値の下落や保険料の上昇、修繕費用の増大など、経営面でも大きな影響を受けます。国土交通省の調査によると、浸水想定区域内の物件は、区域外の物件と比較して取引価格が平均で5〜10%低くなるというデータもあります。さらに、災害発生後は入居者の退去や新規入居者の確保が困難になるケースも少なくありません。
したがって、物件購入前にハザードマップを確認し、災害リスクを正確に把握することは、長期的な収益を守るための必須作業なのです。リスクを理解した上で投資判断を行うことで、予期せぬ損失を回避し、安定した不動産経営が可能になります。
洪水ハザードマップで確認すべき3つのポイント

洪水ハザードマップは、河川の氾濫による浸水被害の範囲と深さを示したものです。不動産投資において最も確認すべきハザードマップの一つといえます。近年、気候変動の影響で豪雨災害が頻発しており、2019年の台風19号では全国で約7万棟の住宅が浸水被害を受けました。
まず確認すべきは、物件の所在地が浸水想定区域に含まれているかどうかです。浸水想定区域は、想定される最大規模の降雨により河川が氾濫した場合に浸水が予想される区域を示しています。この区域内にある物件は、将来的に水害リスクに直面する可能性が高いと考えられます。
次に重要なのは、想定される浸水深の確認です。ハザードマップでは、浸水深を色分けで表示しており、一般的に0.5m未満、0.5〜3m、3〜5m、5m以上といった区分で示されています。浸水深が0.5m以上になると、1階部分が水没する可能性があり、入居者の避難や物件の修繕に大きな費用がかかります。特に3m以上の浸水が想定される地域では、2階部分まで浸水するリスクがあるため、投資対象から外すことも検討すべきです。
さらに、浸水継続時間も見逃せないポイントです。一部のハザードマップでは、浸水が何日間続くかという情報も提供されています。浸水継続時間が長いほど、建物へのダメージが大きくなり、復旧にも時間と費用がかかります。国土交通省のデータによると、浸水継続時間が3日以上の場合、建物の構造体にまで被害が及ぶケースが多いとされています。
これらの情報を総合的に判断することで、物件の水害リスクを正確に評価できます。もし投資を検討している物件が浸水想定区域内にある場合は、保険加入や防水対策の費用も含めた収支計画を立てることが重要です。
土砂災害ハザードマップの見方と警戒区域の違い
土砂災害ハザードマップは、がけ崩れ、土石流、地すべりなどの土砂災害が発生する可能性のある区域を示したものです。山間部や丘陵地に立地する物件を検討する際は、必ず確認すべきマップといえます。
土砂災害警戒区域には、「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」と「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」の2種類があります。イエローゾーンは、土砂災害が発生した場合に住民の生命または身体に危害が生じるおそれがある区域です。一方、レッドゾーンは、建築物に損壊が生じ、住民の生命または身体に著しい危害が生じるおそれがある区域を指します。
レッドゾーン内では、居室を有する建築物の建築に際して、構造規制が適用されます。具体的には、鉄筋コンクリート造などの堅固な構造にする必要があり、建築コストが大幅に増加します。また、金融機関によっては、レッドゾーン内の物件への融資を制限するケースもあるため、投資対象としては避けるべきでしょう。
イエローゾーン内の物件についても、慎重な判断が必要です。土砂災害のリスクがあることから、入居者の確保が困難になる可能性があります。また、災害発生時には避難が必要となるため、入居者の安全確保のための対策を講じる必要があります。国土交通省の統計では、2020年までに全国で約67万区域が土砂災害警戒区域に指定されており、決して珍しいエリアではありません。
物件が警戒区域に指定されている場合は、過去の災害履歴も併せて確認することが重要です。自治体の防災担当部署や地域の住民から情報を収集し、実際に災害が発生した事例があるかどうかを調べましょう。過去に災害が発生している地域は、将来的にも同様のリスクが高いと考えられます。
地震ハザードマップと液状化リスクの確認方法
地震ハザードマップは、地震による揺れの大きさや液状化の危険性を示したものです。日本は地震大国であり、不動産投資において地震リスクの評価は欠かせません。特に首都直下地震や南海トラフ地震など、大規模地震の発生が予測されている地域では、より慎重な確認が必要です。
地震ハザードマップでは、想定される地震の揺れの大きさが震度で表示されています。一般的に、震度6弱以上の揺れが想定される地域では、建物の耐震性能が重要になります。1981年以前に建築された旧耐震基準の物件は、震度6強以上の地震で倒壊するリスクが高いため、投資対象として選ぶ際は耐震診断や耐震補強の実施状況を必ず確認しましょう。
液状化リスクも見逃せないポイントです。液状化とは、地震の揺れによって地盤が液体のようになる現象で、建物の傾斜や沈下を引き起こします。特に埋立地や河川の近く、海岸沿いの地域では液状化リスクが高くなります。東京都が公表している液状化予測図によると、東京湾岸エリアの多くが液状化の危険性が高い地域に分類されています。
液状化が発生すると、建物の修繕費用が数百万円から数千万円に及ぶケースもあります。また、液状化による被害は地震保険の補償対象となりますが、補償額には上限があるため、全額をカバーできない可能性もあります。したがって、液状化リスクが高い地域の物件を検討する場合は、地盤改良の実施状況や建物の基礎構造を詳しく調査することが重要です。
さらに、活断層の位置も確認しておくべきです。活断層の直上やその近くに位置する物件は、地震発生時に大きな被害を受けるリスクが高まります。国土地理院が公開している活断層図を参照し、物件の周辺に活断層がないかチェックしましょう。活断層から数キロメートル以内の物件は、慎重に投資判断を行う必要があります。
ハザードマップの入手方法と最新情報の確認
ハザードマップは、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で簡単に確認できます。このサイトでは、全国の洪水、土砂災害、津波、道路防災情報などを一元的に閲覧できるため、不動産投資家にとって非常に便利なツールです。住所や地名を入力するだけで、該当地域のハザードマップが表示されます。
ハザードマップポータルサイトには、「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」の2つの機能があります。重ねるハザードマップでは、洪水、土砂災害、津波などの複数のリスクを地図上に重ねて表示できるため、総合的な災害リスクを把握するのに適しています。一方、わがまちハザードマップでは、各自治体が作成したハザードマップにアクセスでき、より詳細な地域情報を確認できます。
自治体のホームページでも、独自のハザードマップを公開しています。自治体のマップには、避難場所や避難経路、過去の災害履歴など、国のマップには掲載されていない詳細な情報が含まれていることが多いため、必ず併せて確認しましょう。特に、物件の最寄りの避難場所までの距離や経路は、入居者の安全性を評価する上で重要な情報です。
ハザードマップは定期的に更新されるため、最新の情報を確認することが大切です。特に、大規模な災害が発生した後や、新たな調査結果が公表された際には、ハザードマップが見直されることがあります。国土交通省によると、2020年以降、全国の多くの自治体で洪水ハザードマップが更新されており、想定最大規模の降雨に基づく新しい浸水想定区域が設定されています。
物件購入前には、必ず最新のハザードマップを確認し、過去のマップと比較することも有効です。リスク評価が変更されている場合は、その理由を自治体に問い合わせることで、より正確な情報を得ることができます。また、不動産会社から提供されるハザードマップの情報だけでなく、自分自身でも確認することで、見落としを防ぐことができます。
災害リスクを踏まえた投資判断と対策
ハザードマップで災害リスクを確認した後は、そのリスクを踏まえた投資判断と対策が必要です。リスクがあるからといって、すべての物件を投資対象から外す必要はありません。重要なのは、リスクを正確に理解し、適切な対策を講じることです。
まず、災害リスクが高い物件に投資する場合は、保険の加入が必須です。火災保険に加えて、水災補償や地震保険を付帯することで、災害発生時の経済的損失を軽減できます。ただし、リスクが高い地域では保険料も高額になるため、収支計画に保険料を正確に組み込むことが重要です。国土交通省のデータによると、浸水想定区域内の物件では、水災補償を付帯した場合の保険料が通常の1.5〜2倍になるケースもあります。
物件の防災対策も検討すべきです。浸水リスクが高い地域では、1階部分を駐車場や倉庫にし、居住スペースを2階以上に配置する設計が有効です。また、止水板の設置や電気設備の高所配置など、具体的な浸水対策を施すことで、被害を最小限に抑えることができます。こうした対策は初期投資が必要ですが、長期的には物件の資産価値を守り、入居者の安心感を高める効果があります。
入居者への情報提供も重要な対策の一つです。ハザードマップの情報や避難場所、避難経路を入居時に説明し、災害時の行動マニュアルを配布することで、入居者の安全意識を高めることができます。また、定期的な防災訓練や防災グッズの配布なども、入居者満足度の向上につながります。
災害リスクが高い物件は、利回りが高く設定されていることが多いため、リスクとリターンのバランスを慎重に評価することが大切です。例えば、浸水想定区域内の物件でも、過去に災害が発生していない、周辺に防災インフラが整備されている、自治体の防災計画が充実しているなどの条件が揃っていれば、投資対象として検討する価値があります。
一方で、レッドゾーンに指定されている物件や、過去に複数回の災害が発生している地域の物件は、どれだけ利回りが高くても避けるべきです。災害発生時の損失は、数年分の収益を一度に失うリスクがあるため、長期的な視点で投資判断を行いましょう。
まとめ
ハザードマップの確認は、不動産投資において欠かせないリスク管理の第一歩です。洪水、土砂災害、地震、液状化など、さまざまな災害リスクを事前に把握することで、予期せぬ損失を回避し、安定した不動産経営が可能になります。
具体的には、洪水ハザードマップで浸水想定区域と浸水深を確認し、土砂災害ハザードマップで警戒区域の指定状況を把握し、地震ハザードマップで揺れの大きさや液状化リスクを評価することが重要です。これらの情報は、国土交通省のハザードマップポータルサイトや自治体のホームページで簡単に入手できます。
災害リスクが確認された場合でも、適切な保険加入や防災対策、入居者への情報提供を行うことで、リスクを軽減できます。リスクとリターンのバランスを慎重に評価し、長期的な視点で投資判断を行いましょう。
不動産投資は長期的な資産形成の手段です。ハザードマップを活用して災害リスクを正確に把握し、安全で収益性の高い物件選びを実現してください。災害に強い物件への投資は、入居者の安全を守るだけでなく、あなた自身の資産を守ることにもつながります。
参考文献・出典
- 国土交通省 ハザードマップポータルサイト – https://disaportal.gsi.go.jp/
- 国土交通省 不動産取引における水害リスク情報の提供について – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000208.html
- 国土交通省 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律 – https://www.mlit.go.jp/river/sabo/sinpoupdf/01gaiyou.pdf
- 国土地理院 活断層図 – https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/active_fault.html
- 東京都都市整備局 東京の液状化予測 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/ekijoka/
- 内閣府 防災情報のページ – http://www.bousai.go.jp/
- 気象庁 過去の気象データ・災害情報 – https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html