不動産投資を始めた方から「不動産所得が赤字なのに住民税が上がった」という相談を受けることがあります。本来であれば、不動産所得の赤字は損益通算によって課税所得を減らし、住民税を軽減する効果があるはずです。ところが実際には、赤字であっても住民税が増えてしまうケースが存在します。
この現象には主に3つの原因が考えられます。土地取得に係る借入金利子の損益通算制限、給与など他の所得の増加や所得控除の減少、そして青色申告特別控除の適用漏れです。この記事では、それぞれの原因を国税庁などの公的情報をもとに詳しく解説するとともに、予期せぬ税負担を防ぐための対策をお伝えしていきます。税金の仕組みを正しく理解することで、長期的な資金計画を立てやすくなるでしょう。
損益通算の仕組みと住民税の基本を押さえる
まず理解しておきたいのは、不動産所得が赤字になった場合の基本的な取り扱いです。損益通算とは、異なる種類の所得を合算して課税所得を計算する仕組みのことを指します。国税庁の解説によると、不動産所得の損失(赤字)の金額があるときは、他の黒字の所得金額から差し引くことができるとされています。例えば、給与所得が500万円ある会社員が不動産投資で100万円の赤字を出した場合、損益通算を行うと課税所得は400万円となります。
住民税は都道府県民税と市区町村民税で構成されており、課税所得に対しておおむね一律10%の所得割が課されます。多治見市の説明では、この10%の内訳は市民税6%、県民税4%とされています。さらに、所得に関係なく一定額が課される均等割もあわせて負担することになります。課税所得が100万円減れば住民税の所得割は約10万円軽減されるため、損益通算による節税効果は決して小さくありません。
ここで注意しておきたいのは「黒字なら住民税が上がる」「赤字なら下がる」と単純には言い切れない点です。実際には様々な要因が絡み合って税額が決まるため、赤字であっても住民税が増えるケースが生じます。また、住民税は前年の所得に基づいて計算される点も重要です。東京都北区の案内によると、住民税は前年の1月から12月までに得た所得に対して課税されるため、現時点で収入がなくても前年に一定の所得があれば納税通知書が送付されます。つまり、不動産投資を始めた翌年に税額の変動を実感することになるのです。
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損益通算しても住民税が増える3つの原因
では、なぜ不動産所得が赤字であっても住民税が増えることがあるのでしょうか。その主な原因を3つに分けて詳しく解説していきます。
原因1:土地取得に係る借入金利子の損益通算制限
最も重要な原因として挙げられるのが、土地等を取得するために要した負債の利子に関する制限です。国税庁の説明では、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額は、損益通算の対象外とされています。つまり、赤字のうち土地取得のための借入金利子に相当する部分は、給与所得などから差し引くことができないのです。
実際の計算例で考えてみましょう。アパート経営で年間の収入が300万円、経費が400万円あり、そのうち土地取得のための借入金利子が80万円含まれていたとします。単純計算では100万円の赤字ですが、土地取得に係る借入金利子80万円は損益通算できないため、実際に損益通算できる赤字は20万円のみとなります。100万円の赤字全額が損益通算できると思い込んでいた場合、想定していた節税効果は得られず、住民税が予想よりも高くなってしまうのです。
借入金利子を土地部分と建物部分に区分する方法についても押さえておく必要があります。一般的には、金融機関からの借入金総額を土地と建物の取得価額の比率で按分します。例えば、5000万円の物件(土地3000万円、建物2000万円)を全額借入で購入し、年間の支払利子が100万円だった場合、土地部分は60万円、建物部分は40万円と按分されます。土地部分の60万円は損益通算の制限対象となり、建物部分の40万円のみが通常どおり損益通算に使えることになります。
ここで見落とされがちなのが、住民税を計算する際の申告書の記入方法です。国税庁の確定申告書の手引きによると、土地等を取得するために要した負債の利子の額があるときは、確定申告書第二表の住民税に関する事項の欄には、その利子の額を必要経費に算入して算定した金額、すなわち損益通算の特例適用前の不動産所得の金額を記入することとされています。つまり、住民税の計算では特例適用前の金額を基礎とする独自の取り扱いがあるため、この点も理解しておくと安心です。
対策としては、物件購入時に売買契約書で土地と建物の金額を明確に区分しておくことが重要です。また、借入金をできるだけ建物部分に充当するよう工夫することで、損益通算の制限を受ける利子の額を減らすことができます。
原因2:給与所得の増加や所得控除の減少
2つ目の原因として考えられるのが、不動産所得以外の要因による課税所得の変動です。住民税は前年の総所得金額から各種所得控除を差し引いた課税所得に基づいて計算されます。武蔵野市の説明でも、住民税の合計所得金額には不動産所得などの損益通算後の所得金額が用いられるとされており、不動産所得の赤字額が同じでも、他の所得が増えれば全体の課税所得は増加します。
具体的な例を挙げてみましょう。前年の給与所得が400万円で不動産所得が50万円の赤字だった場合、課税所得は350万円程度となります。翌年、給与所得が昇給や賞与によって600万円に増加し、不動産所得は同じく50万円の赤字だった場合、課税所得は550万円程度まで上昇します。不動産所得の赤字は変わっていませんが、給与所得が200万円増加したことで全体の課税所得も増えるため、住民税は約20万円上昇することになるのです。
所得控除の変動も見落としがちな要因です。子どもが成人して扶養控除の対象から外れた場合や、配偶者の収入が増えて配偶者控除の要件を満たさなくなった場合には、控除額が減少して課税所得が増加します。ここで注意したいのは、立川市の説明にもあるように、住民税の所得控除は所得税と種類は同じでも控除額が異なるという点です。そのため、所得税で見込んだ減税幅と住民税の減税幅は一致しないことがあります。家族構成や収入状況の変化は住民税に直接影響するため、年末近くになったら翌年の税額変動を予測しておくことをお勧めします。
原因3:青色申告特別控除の適用漏れ
3つ目の原因は、青色申告特別控除が想定どおり適用されなくなったケースです。青色申告を選択している方は、要件を満たせば大きな特別控除を受けることができます。この控除により課税所得が減少し、所得税と住民税の両方が軽減されるわけですが、逆に要件を満たせなくなった場合には控除額が減額され、課税所得が増加してしまいます。
国税庁によると、55万円の青色申告特別控除を受けるには、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営み、複式簿記により記帳し、貸借対照表などを添付して翌年3月15日までに申告する必要があります。さらに65万円の控除を受けるには、これらの要件に加えてe-Taxによる期限内の電子申告または電子帳簿保存が求められます。前年まで65万円の控除を受けていた方が、翌年に電子申告の要件を満たせなくなれば控除額が減り、住民税も上昇することになるのです。
なお、青色申告特別控除の適用にあたっては事業的規模かどうかも関係します。国税庁の通達では、建物の貸付けが事業として行われているかどうかの原則的な基準として、おおむね貸間・アパートで10室以上、独立家屋で5棟以上という目安が示されています。この規模に満たない場合でも青色申告自体は可能ですが、受けられる控除額に影響することがあるため、自身の規模を確認しておきましょう。
対策としては、青色申告の要件を毎年確実に満たすよう記帳や申告方法に注意を払うことが大切です。会計ソフトを活用すれば複式簿記も難しくありませんし、マイナンバーカードを使ったe-Taxでの電子申告も一度環境を整えれば翌年以降はスムーズに行えます。
不動産所得の赤字を正しく計算するポイント
住民税への影響を正確に把握するためには、不動産所得の収入と経費を正しく計算することが欠かせません。経費の計上漏れや按分の誤りがあると、本来出るはずの赤字が減ってしまい、結果として余分な税金を支払うことになりかねません。
不動産所得の収入には、家賃収入だけでなく礼金、更新料、駐車場収入、共益費として受け取った金額なども含まれます。一方、敷金や保証金のうち返還義務のあるものは収入に含めませんが、敷金のうち償却される部分は退去時に収入として認識する必要があります。
経費として認められる主なものには、固定資産税、都市計画税、損害保険料、修繕費、管理費、減価償却費、借入金の利子などがあります。特に減価償却費の計算は重要で、建物の構造によって法定耐用年数が大きく異なります。中古物件を購入した場合は残存耐用年数を適切に計算することも忘れないでください。なお、国外中古建物については注意が必要です。国税庁によると、令和3年以後は、簡便法により計算した耐用年数に基づく国外中古建物の減価償却費に相当する損失部分は、国内の不動産所得や他の所得と損益通算できないとされています。
修繕費と資本的支出の区分も正確に行う必要があります。壁紙の張り替えや給排水設備の修理といった通常の維持管理や原状回復のための修繕は全額その年の経費になりますが、間取り変更を伴うリフォームや設備のグレードアップを伴う工事は資本的支出として減価償却の対象となります。この区分を誤ると経費計上のタイミングが変わり、各年の所得金額に影響を与えることになります。
損益通算が使えないケースにも注意する
不動産所得の赤字であっても、そもそも損益通算の対象とならないケースがある点は押さえておきたいところです。国税庁によると、別荘等のように主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係る損失は、損益通算の対象外とされています。投資物件と個人的な保有物件の区別は、税務上の取り扱いに大きく影響するのです。
また、民法組合等の特定組合員や一定の信託受益者が生じさせた不動産所得の損失については、生じなかったものとみなされます。この場合、他の不動産所得の黒字から差し引くこともできず、損益通算の対象にもならないと国税庁は説明しています。匿名組合出資型のスキームなどを検討する際には、こうした制限があることを理解しておくことが大切です。
青色申告を活用した節税対策
不動産所得がある方にとって、青色申告の活用は節税対策の基本といえます。青色申告特別控除による課税所得の減少効果に加え、純損失の繰越控除という制度も利用できるからです。
純損失の繰越控除とは、今年発生した赤字を翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺できる制度です。不動産投資を始めた初年度は物件取得時の諸費用や修繕費がかさんで赤字になりやすいですが、この制度を使えば翌年以降の所得と相殺して税負担を軽減できます。例えば、初年度に200万円の赤字が出て2年目以降は毎年100万円の黒字が見込まれる場合、繰越控除によって2年目の課税所得を圧縮でき、残額を3年目にも繰り越して相殺できます。
ここで見落とされがちなのが、住民税での取り扱いです。住民税で純損失の繰越控除を受けるには、一定の要件を満たす必要があります。所得税で繰越しの手続きをしていても、住民税側の申告が適切に行われないと適用されない可能性があるため、毎年の申告を欠かさないことが重要です。
青色申告を選択するためには、原則としてその年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。新規に開業した場合は事業開始から2か月以内が提出期限となっているため、早めの手続きを心がけてください。
長期的な視点で税負担を考える
不動産投資における節税効果は、投資初年度が最も大きくなる傾向があります。物件購入時の諸費用(登記費用、仲介手数料、不動産取得税など)を初年度に経費計上できるため大きな赤字が生じやすいのですが、2年目以降はこれらの経費がなくなり、節税効果は薄れていきます。
また、ローン返済が進むにつれて元金の返済割合が増加し、経費にできる利息部分は減少していきます。一方で建物の減価償却費も耐用年数が終われば計上できなくなります。このように、時間の経過とともに経費として計上できる金額が減少し、いずれは帳簿上も黒字に転換することがあります。この現象は「デッドクロス」と呼ばれることもあり、長期的な税負担の増加リスクとして認識しておく必要があります。
住民税の節税だけにこだわりすぎず、最終的な手取り収益を重視することも大切です。赤字を出すことだけを目的にするのではなく、物件の収益力や資産価値の維持向上にも目を向けながら、バランスの取れた投資運営を心がけましょう。
会社員の方が気をつけたい住民税の徴収方法
会社員の方が不動産投資を行う場合、住民税の徴収方法についても知っておくと役立ちます。国税庁の確定申告書等作成コーナーの案内によると、給与や公的年金等に係る所得以外の所得に対する住民税については、徴収方法を選択できるとされています。給与から天引きされる特別徴収と、自分で納付する普通徴収のいずれかを選べる余地があるということです。
ただし、選択できる範囲や実際の取り扱いは自治体によって異なる場合があります。副収入の状況をどのように扱うかについても個別事情によって差があるため、最終的な取り扱いはお住まいの市区町村や都道府県税事務所に確認するのが確実です。国税庁も、個人住民税など地方税に関する質問は、お住まいの市区町村や道府県税事務所に問い合わせるのが原則だと案内しています。
まとめ
不動産所得が赤字の場合、原則として損益通算により住民税は軽減されます。しかし、土地取得に係る借入金利子は損益通算の対象外となるため、すべての赤字が節税につながるわけではありません。さらに、給与所得の増加や所得控除の減少、青色申告特別控除の適用漏れなどにより、不動産所得が赤字でも住民税が上がるケースがあることを理解しておく必要があります。
不動産投資で適切な税務処理を行うためには、収入と経費を正確に記録し、青色申告を活用することが重要です。特に減価償却費や借入金利子の計算は複雑なため、不安な場合は税理士への相談も検討してください。住民税は前年の所得に基づいて計算され、翌年度から税額が変動します。長期的な視点で収支計画を立て、予期せぬ税負担に備えて資金を確保しておくことが、安定した不動産投資運営の基盤となります。なお、個別の税額や制度の詳細は個々の事情によって異なるため、最新情報は国税庁や各自治体の公式サイトで確認するようにしましょう。
参考文献・出典
- 国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1391.htm
- 国税庁「手順6 住民税、事業税に関する事項(申告書第二表)を記入する」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2025/03/order6/3-6_03.htm
- 国税庁「No.2072 青色申告特別控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁「法第26条《不動産所得》関係」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/02.htm
- e-Gov法令検索「地方税法」https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226/20240401_506AC0000000004
- 国税庁「税についての相談窓口」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shirabekata/9200.htm
- 東京都北区「個人住民税に関するよくある質問」https://www.city.kita.lg.jp/living/tax/1001899/1001900/1019706.html
- 武蔵野市「個人住民税が非課税になるかた」https://www.city.musashino.lg.jp/kurashi_tetsuzuki/zeikin/kojinjuminzei/keisan/1025183.html
- 多治見市「大まかな住民税の計算の方法を知りたいのですが?」https://www.city.tajimi.lg.jp/faq/faq_zei/1008704/1008705/1008707.html
- 立川市「個人市民税・都民税と所得税との相違点」https://www.city.tachikawa.lg.jp/kurashi/zeikin/1002345/1025793.html