会社員として働きながら不動産投資を始めたものの、初年度は赤字になってしまった。そんな経験をお持ちの方は少なくありません。実は、不動産投資の赤字は給与所得と相殺できる可能性があります。これを「損益通算」といい、適切に活用すれば税負担を軽減できる重要な制度です。この記事では、副業で給与所得がある方が不動産投資の赤字をどのように活用できるのか、具体的な仕組みから注意点まで詳しく解説していきます。
損益通算とは何か?基本的な仕組みを理解する

損益通算とは、異なる所得区分の黒字と赤字を相殺できる税制上の仕組みです。会社員の給与所得と不動産投資の赤字を合算することで、課税所得を減らし、結果として所得税や住民税の負担を軽減できます。
日本の所得税制では、所得を10種類に区分しています。給与所得、不動産所得、事業所得、譲渡所得などがその代表例です。通常、これらの所得は個別に計算されますが、一定の条件下では赤字の所得を黒字の所得から差し引くことが認められています。
不動産所得は損益通算が可能な所得区分の一つです。つまり、不動産投資で赤字が発生した場合、その赤字分を給与所得から差し引くことができます。例えば、年間の給与所得が600万円で不動産所得が100万円の赤字だった場合、課税所得は500万円となり、その分だけ税金が安くなる仕組みです。
ただし、すべての赤字が損益通算できるわけではありません。土地を購入するための借入金利子など、一部の経費は損益通算の対象外となります。また、損益通算できる所得の組み合わせにも制限があるため、制度の詳細を正しく理解することが重要です。
不動産所得の計算方法と赤字になる主な要因

不動産所得は「総収入金額-必要経費」で計算されます。総収入金額には家賃収入や礼金、更新料などが含まれ、必要経費には減価償却費、修繕費、管理費、固定資産税、借入金の利子などが該当します。
初年度に赤字になりやすい理由として、減価償却費の存在が挙げられます。減価償却費は建物の取得価額を耐用年数で割った金額を毎年経費として計上できる仕組みです。実際にお金が出ていかない経費であるため、キャッシュフローは黒字でも会計上は赤字になることがあります。
国土交通省の「令和5年度住宅経済関連データ」によると、賃貸住宅の平均的な利回りは地方で6〜8%、都市部で4〜6%程度です。しかし、初年度は物件取得時の諸費用や初期修繕費が発生するため、一時的に赤字となるケースが多く見られます。
また、空室期間が長引いた場合や大規模修繕を行った年も赤字になりやすい傾向があります。特に中古物件を購入した場合、設備の入れ替えや内装のリフォームで数十万円から数百万円の費用がかかることも珍しくありません。これらの費用は修繕費として経費計上できるため、その年の不動産所得は大幅な赤字となる可能性があります。
損益通算できる経費とできない経費の違い
不動産投資の赤字すべてが損益通算できるわけではありません。特に注意が必要なのが、土地取得に関わる借入金の利子です。この部分は損益通算の対象外となり、給与所得から差し引くことができません。
建物部分の借入金利子は損益通算が可能です。一方、土地部分の借入金利子は不動産所得の範囲内でのみ損失として認められます。つまり、不動産所得が黒字の場合は土地の借入金利子も経費として差し引けますが、赤字の場合は翌年以降に繰り越すことになります。
具体的な例を見てみましょう。年間の家賃収入が200万円、建物の借入金利子が50万円、土地の借入金利子が30万円、その他の経費が150万円だった場合を考えます。不動産所得は200万円-50万円-150万円=0円となり、土地の借入金利子30万円は損益通算できません。この30万円は翌年以降に繰り越され、不動産所得が黒字になった年に差し引くことができます。
減価償却費、修繕費、管理費、固定資産税、火災保険料などは通常の必要経費として損益通算が可能です。ただし、修繕費と資本的支出の区分には注意が必要です。資本的支出とみなされた場合は減価償却の対象となり、一度に経費計上できないため、税務上の扱いが変わってきます。
確定申告の手続きと必要書類の準備
損益通算を活用するには、毎年2月16日から3月15日までの期間に確定申告を行う必要があります。会社員の場合、通常は年末調整で納税が完了しますが、不動産所得がある場合は別途確定申告が必須となります。
確定申告書には「確定申告書B」と「青色申告決算書」または「収支内訳書」を使用します。青色申告を選択すると最大65万円の特別控除が受けられるため、事前に税務署へ「青色申告承認申請書」を提出しておくことをおすすめします。この申請は、青色申告をしようとする年の3月15日まで、または事業開始から2か月以内に行う必要があります。
必要書類として、家賃収入の明細、借入金の返済予定表、固定資産税の納税通知書、火災保険の証券、修繕費の領収書などを準備します。減価償却費を計算するために、物件の売買契約書や建物と土地の按分割合が分かる資料も必要です。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の指示に従って入力するだけで申告書を作成できます。
源泉徴収票も忘れずに用意しましょう。給与所得と不動産所得を合算して課税所得を計算するため、会社から発行される源泉徴収票の情報が必要になります。e-Taxを利用すれば、自宅からオンラインで申告を完了でき、還付金も早く受け取れるメリットがあります。
損益通算による節税効果をシミュレーション
実際にどの程度の節税効果があるのか、具体的な数字で見ていきましょう。年収600万円の会社員が不動産投資で100万円の赤字を出した場合を想定します。
損益通算を行わない場合、給与所得600万円に対する所得税と住民税の合計は約87万円です。一方、損益通算を行うと課税所得が500万円となり、税額は約70万円に減少します。つまり、約17万円の節税効果が得られる計算です。
さらに、不動産所得の赤字が200万円だった場合はどうでしょうか。課税所得は400万円となり、税額は約53万円まで下がります。損益通算を行わない場合と比べて約34万円もの節税が可能です。ただし、これは単年度の効果であり、長期的な視点で考える必要があります。
財務省の「税制に関する資料」によると、所得税の税率は課税所得に応じて5%から45%まで段階的に上がります。高所得者ほど損益通算による節税効果が大きくなる仕組みです。年収1000万円を超える方の場合、不動産所得の赤字100万円で約30万円以上の節税効果が期待できます。
ただし、節税だけを目的とした不動産投資は本末転倒です。キャッシュフローが継続的にマイナスでは、いくら税金が安くなっても資産は減っていきます。損益通算はあくまで初期投資や大規模修繕時の一時的な赤字を補う仕組みとして活用すべきです。
注意すべきポイントと税務調査への備え
損益通算を活用する際には、いくつかの注意点があります。まず重要なのは、経費の計上が適切かどうかという点です。税務署は不動産所得の赤字が続く場合、経費の妥当性を厳しくチェックする傾向があります。
プライベートと事業の区分を明確にすることが大切です。例えば、物件の視察で使った交通費は経費として認められますが、家族旅行のついでに物件を見た場合は認められません。また、自宅の一部を事務所として使用する場合も、使用面積に応じた按分が必要です。
領収書やレシートは必ず保管しましょう。税務調査が入った際、経費の根拠を示せないと否認される可能性があります。国税庁の規定では、帳簿書類は7年間の保存が義務付けられています。デジタル化してクラウドに保存しておくと、紛失のリスクも減らせます。
不動産所得が継続的に赤字の場合、事業性が疑われることもあります。税務署は「事業として成り立っているか」という観点で判断するため、将来的に黒字化する見込みがあることを説明できるようにしておくべきです。収支計画書や物件の稼働状況を記録しておくと、税務調査時の説明資料として役立ちます。
長期的な視点で考える不動産投資の収支計画
損益通算は確かに魅力的な制度ですが、不動産投資の本質は安定した収益を生み出すことにあります。初年度の赤字は許容範囲としても、長期的には黒字化を目指す必要があります。
一般的に、不動産投資は3〜5年目から安定した収益が見込めるようになります。初期の大規模修繕が終わり、入居者も安定してくる時期です。国土交通省の「民間賃貸住宅の供給促進に関する調査」では、適切に管理された物件の平均空室率は10〜15%程度とされています。
キャッシュフローと会計上の利益は異なることを理解しておきましょう。減価償却費は実際の支出を伴わない経費のため、会計上は赤字でもキャッシュフローはプラスというケースがあります。逆に、元金返済は経費にならないため、会計上は黒字でもキャッシュフローがマイナスになることもあります。
5年後、10年後の収支シミュレーションを作成し、定期的に見直すことが重要です。金利上昇リスク、空室リスク、修繕費の増加など、様々なリスクを織り込んだ保守的な計画を立てましょう。日本不動産研究所の「不動産投資家調査」によると、期待利回りは物件タイプや立地によって大きく異なりますが、リスクを考慮した適切な利回り設定が長期的な成功につながります。
まとめ
副業で給与所得がある方が不動産投資で赤字を出した場合、損益通算によって給与所得と相殺し、税負担を軽減できます。ただし、土地取得に関わる借入金利子は損益通算の対象外となるため、注意が必要です。
確定申告では青色申告を選択することで、最大65万円の特別控除も受けられます。必要書類を適切に準備し、経費の計上根拠を明確にしておくことで、税務調査にも対応できる体制を整えましょう。
損益通算は魅力的な節税手段ですが、それ自体が投資の目的ではありません。長期的に安定した収益を生み出す物件選びと適切な管理運営こそが、不動産投資成功の鍵となります。初年度の赤字は一時的なものと捉え、将来的な黒字化を見据えた収支計画を立てることが大切です。
不動産投資を始める前に、税理士や不動産投資の専門家に相談することをおすすめします。個別の状況に応じた最適なアドバイスを受けることで、リスクを抑えながら効果的な資産形成が可能になります。
参考文献・出典
- 国税庁 – 所得税の損益通算 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm
- 国税庁 – 不動産所得の計算方法 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
- 国土交通省 – 令和5年度住宅経済関連データ – https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku-2.html
- 財務省 – 所得税の税率 – https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/index.html
- 国税庁 – 確定申告書等作成コーナー – https://www.keisan.nta.go.jp/
- 国土交通省 – 民間賃貸住宅の供給促進に関する調査 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html
- 一般財団法人日本不動産研究所 – 不動産投資家調査 – https://www.reinet.or.jp/