不動産投資の基礎

警察官の不動産投資は禁止?許可条件・戸数・申請手順を解説

警察官として働きながら将来の資産形成を考えたとき、不動産投資という選択肢が頭に浮かぶ方は少なくないでしょう。安定した公務員という立場を活かして副収入を得たいと考えるのは自然なことです。しかし警察官には厳格な兼業規定があるため、「投資を始めたら処分を受けるのでは」「そもそも許可が下りるのか」と不安を抱く方も多いはずです。

まず押さえておきたいのは、警察官であっても一定の条件を満たせば不動産投資は認められるという点です。ただし条件を正しく理解し、適切な手続きを踏まなければ、長年築いたキャリアを危険にさらすことになりかねません。この記事では、警察官の身分に応じた兼業規定の仕組みから、許可の基準、申請の流れ、無許可のリスクまでを、最新の制度動向を踏まえて解説します。

警察官はどの兼業規定が適用されるのか

不動産投資を考える上で最初に理解すべきなのは、自分がどの法律のもとで働いているかという点です。警察官と一口にいっても、適用される兼業ルールは所属によって異なります。

ほとんどの警察官は地方公務員

警察庁の採用情報によると、都道府県警察の警察官は原則として地方公務員として整理されます。給与も都道府県ごとに規定されており、この点からも地方公務員としての位置づけが明確です。つまり大多数の警察官には、地方公務員法にもとづく兼業規定が適用されることになります。

一方で、皇宮警察本部の職員は国家公務員です。皇宮護衛官や警察庁事務官などがこれに該当し、身分はいずれも国家公務員として扱われます。このように警察組織のなかでもルールが分かれるため、自分がどちらに当たるのかを最初に確認しておくことが重要です。

兼業には任命権者の許可が必要

地方公務員の兼業は、地方公務員法により任命権者が許可を与えた場合に従事できる制度として運用されています。ここでいう任命権者とは、都道府県警察であれば公安委員会や警察本部長などを指します。逆に言えば、許可を得ずに営利目的の事業を行うことは原則として認められません。

この規定が設けられている理由は主に三つあります。一つ目は職務専念義務の確保で、副業によって本業がおろそかになることを防ぐ目的です。二つ目は利益相反の防止で、特定の企業や個人と利害関係を持つことで取り締まりの公正性が損なわれるリスクを避けます。三つ目は公務の信用維持で、副業によって公務員としての品位を傷つけないためです。

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不動産投資が認められる具体的な基準

兼業が制限されているとはいえ、不動産の賃貸がすべて禁止されているわけではありません。相続などでやむを得ず不動産を所有するケースもあるため、一定規模以下であれば「自営兼業」として認められる余地が設けられています。ここでは判断のポイントとなる基準を見ていきます。

参考にされる「5棟10室」の考え方

広く知られている目安が「5棟10室基準」です。これは税務上、不動産の貸付けが事業的規模と扱われるかどうかの判定に由来します。国税庁によれば、貸間やアパートなどは独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋の貸付けはおおむね5棟以上であることが事業的規模の目安とされています。

実際、地方公務員の運用例でもこの考え方が参照されています。東京都水道局の兼業許可に関する規程では、独立家屋5棟以上、部屋数10室以上、賃貸契約10件以上、駐車台数10台以上、あるいは年額500万円以上などに該当する場合に自営として扱う旨が定められています。つまり戸数だけでなく、土地の契約件数や駐車場の台数、収入額まで含めて総合的に判断される点に注意が必要です。

収入基準は自治体によって異なる

年間賃貸収入も重要な判断材料です。前述の東京都水道局の例では年額500万円以上が一つの目安ですが、自治体によって基準は異なります。たとえば春日井市の職員兼業取扱要綱では、賃貸料収入の合計が年額1,000万円以上見込まれる場合を自営許可の基準としているとされています(春日井市「職員兼業取扱要綱」より)。

このように地方公務員の運用は自治体差が大きいため、一律の数字を鵜呑みにするのは危険です。重要なのは、自分が所属する都道府県警察の兼業規程を必ず確認することです。ここで注意したいのが、国家公務員のルールをそのまま当てはめないという点です。国家公務員では2026年4月1日から制度が見直され、それ以前の年額500万円基準が1,000万円基準へと変更されました。ただしこれはあくまで国家公務員の話であり、大多数の警察官が属する地方公務員には各自治体の規程が適用されます。

管理会社への委託が鍵になる

不動産投資を許可されるうえで、極めて実務的に重要なのが管理会社への業務委託です。東京都水道局の運用例では、入居者の募集、賃貸料の集金、不動産の維持管理といった管理業務を事業者に委ねることで、職務の遂行に支障をきたすおそれがないことが明らかであると判断される旨が明記されています。

つまり管理を専門会社に任せておけば、警察官本人は家賃を受け取るだけの受動的な立場になり、副業というより資産運用に近い形態になります。勤務時間中に入居者対応や修繕手配に追われる状況を避けられるため、職務専念義務との両立を示しやすくなります。この点を申請時に明確にすることが、審査をスムーズに通すためのポイントです。

転勤に伴う自宅の賃貸について

警察官は転勤が多い職業です。転勤によって自宅が空き家になった際、それを賃貸に出すケースも考えられます。国家公務員の例では、転勤等に伴い自身の住まいを賃貸する場合は基本的に申請不要とされていますが、他の物件と合算して大規模になる場合には申請・承認が必要とされています。

地方公務員の場合も同様の配慮がなされる可能性はありますが、扱いは自治体によって異なります。所有物件が複数ある場合は合算して規模が判断されることが一般的ですので、転勤に伴う賃貸であっても、念のため人事担当部署に確認しておくことをおすすめします。

許可申請の流れと必要な書類

投資を決意したら、正式な許可申請の手続きに入ります。適切に進めることで後々のトラブルを防ぎ、安心して投資に取り組めます。

まずは事前相談から

許可申請の第一歩は、いきなり書類を出すことではなく、直属の上司や人事担当部署に相談することです。不動産投資を検討している旨を伝え、所属組織における具体的な基準や手続きを確認します。この段階で投資計画の概要を説明し、許可が得られる見込みをつかんでおくことが大切です。

事前相談をせずに物件を購入してから申請すると、不許可となった場合に取り返しのつかない事態になりかねません。物件購入の契約前に許可の見通しを確認し、許可が下りてから正式に契約するという順序を守ることが、リスク管理の基本です。

準備すべき書類

正式な申請では複数の書類が必要になります。東京都水道局の申請実務例では、不動産登記簿の謄本、賃貸契約書の写し、不動産管理会社に管理業務を委託する契約書の写しなどの添付が求められています。これに加えて、物件の規模や予想収入、管理方法を記載した申請書や、収支計画書が求められることが一般的です。

とくに重要なのが管理委託契約書です。この書類によって、物件管理を自ら行わず専門業者に委託していることを証明できます。契約書には管理業務の範囲や費用、緊急時の対応方法が明記されているため、審査担当者が管理体制を評価するうえで欠かせない資料となります。

税務署への手続きも忘れずに

兼業の承認とあわせて税務上の手続きも必要です。国家公務員向けの案内では、まず所属の担当者に承認の可否を確認したうえで、速やかに納税地を所轄する税務署へ開業届を提出する流れが示されています。地方公務員でも基本的な流れは共通しますので、組織の承認を得たあとに税務手続きを進めると考えておくとよいでしょう。

不動産所得は「総収入金額から必要経費を差し引いた金額」で計算されます。さらに事業的規模と扱われると、回収不能となった賃貸料の貸倒損失や、青色申告の事業専従者給与などの扱いが変わってきます。規模が大きくなるほど税務面の取り扱いも複雑になるため、早めに税理士へ相談しておくと安心です。

無許可投資による処分のリスク

許可を得ずに投資を行うと、どのような事態が待っているのでしょうか。リスクを具体的に理解しておくことは、規定を遵守する強い動機づけになります。

懲戒処分と法的なペナルティ

公務員の懲戒処分には、軽い順から戒告、減給、停職、免職の4種類があります。違反の程度や悪質性によって処分の重さは変わり、小規模で悪意がなければ戒告や減給にとどまることもあれば、大規模で継続的な場合は停職や免職に至る可能性も否定できません。

国家公務員の場合、承認を得ずに不動産投資などの自営兼業を行うと、国家公務員法第104条違反として懲戒処分(戒告・減給・停職・免職)の対象となります。なお、同法で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という刑事罰が定められているのは、営利企業の役員等に無承認で就任した場合(同法第103条・第109条)であり、不動産賃貸のような自営兼業(104条)自体には刑事罰の規定はありません。とはいえ懲戒処分そのものが警察官としてのキャリアに重大な影響を及ぼす点に変わりはありません。地方公務員についても、無許可の兼業は懲戒処分の対象になり得ます。とくに法令遵守が強く求められる警察官の場合、市民の模範となるべき立場であるだけに、厳しい判断が下される可能性を認識しておく必要があります。

キャリアと金銭への影響

処分の影響は一時的な減給や停職にとどまりません。処分歴は人事記録に残り、その後の昇進や昇任試験にも影響します。さらに同僚や上司からの信頼を失えば、チームワークが重視される警察組織のなかで日常業務にも支障が出かねません。

加えて、無許可で投資を行っていた場合、確定申告を適切にしていないケースも少なくありません。申告漏れが発覚すれば、懲戒処分に加えて追徴課税や延滞税が課され、過去数年分にさかのぼって調査される可能性もあります。無許可投資の代償は、想像以上に大きくなるのです。

承認は特別なことではない

一方で、正しく手続きを踏めば承認される道は確かに開かれています。国家公務員の年次報告書によると、2022年の自営兼業の承認は281件あったとされています(人事院の年次報告書等より)。その主な内容はマンション・アパート経営、駐車場・土地の賃貸、太陽光電気の販売などでした。つまり不動産投資は「禁止されているわけではないが、適当にやってよいわけでもない」制度だと理解するのが正確です。

安全に不動産投資を始めるための実践ステップ

ここまでの内容を踏まえ、警察官が規定に違反することなく投資を始めるための手順を整理します。計画的に進めることで、リスクを最小限に抑えながら資産形成へ踏み出せます。

組織への相談と知識の習得

最初のステップは、所属する警察本部や警察署の人事担当部署への相談です。どの程度の規模なら許可が得られそうか、どんな書類が必要かといった基本情報を把握します。並行して、書籍やセミナーなどを活用し、不動産市場の動向や投資の基礎知識を身につけておくことも欠かせません。知識不足のまま始めると、規定違反だけでなく投資そのものでの失敗リスクも高まります。

物件選定と管理会社の決定

初めての投資であれば、区分マンション1室からのスタートが最も安全です。都心部の中古ワンルームは比較的少額の自己資金で購入でき、賃貸需要も安定しているため初心者向きです。物件を選ぶ際は立地や築年数、想定利回りに加え、管理のしやすさも考慮しましょう。

物件の目処が立ったら管理会社を選びます。管理費用は賃料の5〜10%程度が相場ですが、安さだけで選ばず、トラブル対応力や入居者募集の実績も重視すべきです。管理委託契約書は申請にも必要となるため、業務範囲や緊急時の連絡体制、解除条件を十分に理解したうえで締結します。

許可申請から購入へ

書類が揃ったら正式に許可申請を行います。この段階では購入契約をまだ結ばず、許可が下りてから契約することが安全です。売主との交渉では、許可申請中である旨を伝え、許可取得を条件とする契約にしておく方法も有効です。許可が下りたら、諸費用として物件価格の7〜10%程度がかかる点を念頭に、余裕を持った資金計画で購入を進めます。公務員としての安定収入は融資審査で有利に働きますが、返済計画は保守的に設定しましょう。

長期的な成功に向けた心構え

投資を始めた後も、継続的な学習と適切な管理が欠かせません。不動産市場は経済状況や人口動態、政策によって常に変化するため、市場動向を追い続けることが重要です。国土交通省が公表する不動産価格指数などの公的データを定期的に確認すれば、客観的な市場分析ができます。

また、空室リスクや家賃下落、修繕費用の発生など、不動産投資にはさまざまなリスクが伴います。毎月の収支を正確に把握し、想定外の出費に備える資金的余裕を確保しておきましょう。そして許可を得た後も定期報告を欠かさず、状況に変化があれば速やかに報告することで、組織との信頼関係を保ちながら投資を続けられます。

まとめ

警察官の多くは地方公務員であり、任命権者の許可を得れば不動産投資を行うことは十分に可能です。5棟10室といった規模の目安や収入基準は自治体によって異なるため、必ず所属する都道府県警察の兼業規程を確認することが出発点になります。国家公務員のルールをそのまま当てはめないよう注意しましょう。

そのうえで、管理会社に業務を委託して職務への支障がないことを示し、登記簿や管理委託契約書などを揃えて正式な許可を得ることが安全策です。無許可で始めれば、小規模であっても懲戒処分や法的なペナルティのリスクを負い、長年のキャリアを危険にさらしかねません。まずは人事担当部署への相談から、資産形成の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

参考文献・出典

  • 人事院「自営兼業制度の見直しについて」https://www.jinji.go.jp/kouho_houdo/kisya/2512/jieikengyo_00001.html
  • 人事院「一般職の国家公務員の兼業について(Q&A集)」https://www.jinji.go.jp/content/000015714.pdf
  • 人事院「自営兼業制度の見直しに関するQ&A」https://www.jinji.go.jp/content/000015713.pdf
  • 国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
  • 国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
  • 国税庁「自営兼業を開始される国家公務員の方へ」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kengyou/index.htm
  • 警察庁「都道府県警察官採用応援サイト(各種制度)」https://www.npa.go.jp/about/recruitment/police/system/career_worksystem/index.html
  • 警察庁「皇宮警察本部概要」https://www.npa.go.jp/kougu/outline/index.html
  • 東京都水道局「職員の兼業許可等に関する事務取扱規程の運用について」https://www.spt.metro.tokyo.lg.jp/waterworks/reiki_int/reiki_honbun/g171RG00004809.html
  • 春日井市「職員兼業取扱要綱」https://www.city.kasugai.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/423/kengyoutoriatukai_youkou.pdf
  • 千葉県「職員の兼業に係る許可基準の見直しについて」https://www.pref.chiba.lg.jp/soumu/press/2025/kengyokyokaminaoshi.html
電宅男
監修 電宅男 宅地建物取引士 / MBA|株式会社青山地所 営業部

一橋大学大学院MBA修了。大手デベロッパー法人部門、買取再販会社を経て現職。区分リノベ再販・都心事業用物件の買取再販を手がけ、業界7年の知見で記事を監修。

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