中古物件を探していると、「増築部分が未登記」という物件に出会うことがあります。価格が相場より安く設定されていることも多く、「お得な物件かもしれない」と感じる方も少なくないでしょう。しかし、未登記増築には登記上の問題だけでなく、融資・税制・法令適合性など複数のリスクが絡み合っています。値引き交渉の前に、まずそのリスクの全体像を正しく理解することが大切です。この記事では、未登記増築とは何か、どんなリスクがあるのか、値引き交渉はどう考えるべきかを、初心者にもわかりやすく解説します。
未登記増築とはどういう状態か

まず押さえておきたいのは、「未登記増築」という言葉の意味です。建物を増築すると、登記簿に記録されている床面積や構造が実態と異なる状態になります。この変更を法務局に届け出て登記簿を更新する手続きを「建物表題部変更登記」といいますが、これが行われていない状態が未登記増築です。
不動産登記法(e-Gov法令検索)によると、建物の登記事項に変更があった場合、表題部所有者または所有権登記名義人は変更日から1か月以内に表題部変更登記を申請しなければならないとされています。つまり、増築した時点で登記の更新は法律上の義務なのです。この義務を正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になりうることも同法に定められています。
それでも未登記増築が発生してしまう背景には、「手続きが面倒」「費用がかかる」「小規模な増築だから大丈夫だろう」という意識があります。特に数十年前に増築された古い物件では、当時の所有者が手続きをしないまま売買が繰り返され、現在の所有者も未登記のまま売りに出しているケースが珍しくありません。こうした物件が中古市場に出回っているのが現状です。
なお、建物表題部変更登記など不動産の表示に関する登記を代理して申請できる専門家は土地家屋調査士です(法務局)。登記の是正を検討する際は、土地家屋調査士に相談するのが基本的な流れになります。
融資審査に与える深刻な影響

未登記増築が購入者にとって最も直接的に影響するのは、住宅ローンの融資審査です。金融機関は物件を担保に融資を行うため、登記簿の内容と実態が一致していることを重視します。増築部分が未登記のままでは、担保評価の対象から外れたり、融資条件に影響が出たりする可能性があります。
実際に、一部の金融機関では、同一敷地内の未登記物件(未登記増築部分を含む)について、登記のうえ抵当権設定を融資の条件として明記しているケースがあります。つまり、未登記増築のある物件は、購入者が希望する金融機関で融資が通らない、あるいは是正が完了するまで融資が保留になるリスクがあるのです。
また、住宅金融支援機構は、融資住宅の増改築について工事完了後の登記事項証明書の提出で完了確認を行うとしており、登記の状態が融資実務において重要な確認事項であることがわかります(住宅金融支援機構)。さらに同機構の中古リフォーム一体型の資料では、登記事項証明書の「原因及びその日付」欄に増築または改築の記載がないことを確認するとされており、登記の履歴が融資の場面で実際に確認されていることが示されています(住宅金融支援機構、2025年4月作成)。
融資が通らなければ購入自体が成立しません。値引き交渉の前に、まず自分が利用予定の金融機関に未登記増築物件への対応方針を確認することが不可欠です。金融機関ごとに条件は異なるため、個別に問い合わせることをおすすめします。
税制上のリスクと固定資産税の問題
未登記増築は税制面でも見落とせないリスクをはらんでいます。特に住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)への影響は、購入後の家計に直結する重要な問題です。
国税庁によると、中古住宅の住宅ローン控除では、床面積50㎡以上であることを示す書類として登記事項証明書等が求められます。さらに国土交通省のQ&A(2024年4月更新)では、住宅ローン減税の床面積判定は「登記事項証明書等に表示されている床面積で判断される」とされています。つまり、増築によって実際の床面積が広くなっていても、登記が更新されていなければ、その広さは税制上の判定に反映されにくいのです。
固定資産税についても注意が必要です。未登記家屋や未登記増築部分であっても、固定資産税・都市計画税の対象になりうることを市町村が案内しています(大村市)。また、登記家屋を増改築したが表示変更登記が未了のケースは、法務局だけでなく固定資産税担当部署にも相談対象とされています(神戸市)。つまり、登記されていないからといって課税を免れるわけではなく、むしろ適切に管理されていない状態が税務上の混乱を招く可能性があります。
税制上の優遇を最大限に活用したい場合は、未登記増築の是正が前提条件になることを念頭に置いておきましょう。具体的な税額への影響は物件の所在地や評価額によって異なるため、税理士や所轄の税務署に個別に確認することをおすすめします。
建築基準法上の適法性という落とし穴
未登記増築のリスクとして見落とされがちなのが、建築基準法上の適法性の問題です。登記の問題と法令上の問題は別物であり、登記を是正すれば万事解決というわけではありません。
建築基準法では、増築部分の床面積合計が10㎡以内で、かつ防火地域・準防火地域外であれば建築確認が不要となる例外があります(建築基準法、e-Gov法令検索)。しかし、この条件を満たさない増築が確認申請なしに行われていた場合、その増築は違反建築物となる可能性があります。また、増築当時は適法だった建物が、その後の法改正によって現行基準に適合しなくなった「既存不適格建築物」となっているケースもあります。
国土交通省は、既存不適格建築物について一定条件の増築等では既存不適格を継続する緩和措置があると案内していますが、同省の解説集(令和6年12月)では、この緩和措置の対象は「既存不適格である規定についてのみ」に限定されており、違反状態をそのまま救済する制度として読むのは危険だとされています。つまり、そもそも違反建築であれば緩和措置の対象外となる可能性があるのです。
さらに、検査済証がない中古住宅は、増改築の際に増改築前の建築物の適法性を確認するための別途調査が必要になることがあると国土交通省は案内しています。増築部分の適法性の確認は、物件所在地を管轄する特定行政庁(国土交通省関東地方整備局)や建築士への相談が基本となります。購入前に専門家を通じて適法性を確認することが、将来的なトラブルを防ぐ最善策です。
値引き交渉より先に考えるべきこと
未登記増築のある物件を前にしたとき、「値引きしてもらえばお得」と考えるのは自然な発想です。しかし、ここまで見てきたように、未登記増築には融資・税制・法令適合性という複数のリスクが絡み合っており、単純に値引き額で判断できる問題ではありません。
公益財団法人不動産流通推進センターは、買主のリスク軽減のため、未登記部分の表題変更登記等を行ったうえで所有権移転登記を行うことが多いとしており、未登記増築は値引き以前に売主負担で是正を求める交渉材料になりやすいと指摘しています。つまり、値引きを求めるよりも、売主に登記の是正を求めるほうが根本的な解決につながる場合があるのです。
また、国土交通省の重要事項説明書の参考様式では、「登記記録に記録された事項」と「建築基準法等の法令に基づく制限の概要」が説明項目として定められています(国土交通省)。未登記増築や法令上の制限との関係は、重要事項説明書や売買契約書の条件に適切に落とし込まれているかを必ず確認してください。不明点があれば、不動産会社の担当者や弁護士・司法書士に相談することをおすすめします。
値引き交渉を行う場合でも、是正にかかる費用(土地家屋調査士への依頼費用、建築士による適法性調査費用など)を事前に見積もり、その金額を根拠として交渉するのが現実的なアプローチです。ただし、是正が困難な違反建築であることが判明した場合は、値引き額にかかわらず購入を見送ることも選択肢として持っておくべきでしょう。
まとめ
未登記増築のある中古物件は、価格の安さだけで判断すると後悔につながるリスクがあります。登記義務違反・融資審査への影響・住宅ローン控除の制約・固定資産税の問題・建築基準法上の適法性と、リスクは多岐にわたります。値引き交渉の前に、まず売主に登記の是正を求めることを検討し、それが難しい場合は是正費用を踏まえた交渉を行いましょう。購入を進める際は、土地家屋調査士・建築士・不動産会社・金融機関など複数の専門家に相談しながら、慎重に判断することが大切です。未登記増築の問題を正しく理解したうえで、安心できる不動産購入を実現してください。
参考文献・出典
- 不動産登記法 | e-Gov 法令検索 — https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123/20260401_503AC0000000024
- 不動産登記令 | e-Gov 法令検索 — https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379?occasion_date=20260701
- 建築基準法 | e-Gov 法令検索 — https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201/20240401_504AC0000000069
- 不動産登記申請手続:法務局 — https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/touki1.html
- 建築:既存建築物の活用の促進について – 国土交通省 — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_fr_000061.html
- 既存建築物の緩和措置に関する解説集 – 国土交通省 — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001847403.pdf
- 住宅:安心R住宅 – 国土交通省 — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000038.html
- 住宅の一部を増改築したいとき|住宅金融支援機構 — https://www.jhf.go.jp/hensai/kaichiku.html
- 中古リフォーム一体型資料(2025年4月作成)|住宅金融支援機構 — https://www.jhf.go.jp/files/a/public/jhf/300303147.pdf
- No.1211-3 中古住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1211-3.htm
- 住宅ローン減税Q&A(2024年4月更新)- 国土交通省 — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001741999.pdf
- 未登記家屋について|大村市 — https://www.city.omura.nagasaki.jp/shisanzeikaoku/kurashi/zekin/koteshisan/mitouki.html
- 家屋に異動があった場合の届出|神戸市 — https://www.city.kobe.lg.jp/a03858/kurashi/registration/shinsei/zei/koteishisan/kaokuido.html
- 重要事項説明書(売買・交換)- 国土交通省 — https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/asubesuto/fudousan/06.pdf
- 増築未登記のある土地建物売買における重要事項説明方法と取引における留意事項|公益財団法人不動産流通推進センター — https://www.retpc.jp/archives/20394/
- 指定確認検査機関 指定状況|国土交通省関東地方整備局 — https://www.ktr.mlit.go.jp/city_park/sumai/city_park_sumai00000027.html