不動産投資に初めて挑戦する人の多くは、「数字が苦手」「どこまで費用を見込めばいいのか不安」と感じています。私も相談を受けるたび、収支計算の重要性を痛感します。収支が読めなければ、想定外の出費で赤字に転落しかねません。本記事では「収益物件 収支計算 ステップ」という視点で、家賃収入の見積もりからキャッシュフローの読み取りまでを丁寧に解説します。読み終えるころには、電卓片手に自分でシミュレーションできる力が身につくはずです。
収支計算の全体像をつかむ

まず押さえておきたいのは、収支計算が単なる家賃とローンの差引ではない点です。家賃収入、運営費、修繕費、税金、返済額といった複数の要素を一つずつ積み上げ、最終的なキャッシュフローを求めます。国土交通省の「不動産投資市場調査(2025年版)」によると、計算を誤ったことで初年度に資金ショートした例が全体の12%に上りました。つまり、細部を漏らさず拾うことが損失回避につながります。
次に、収支計算の順序を確認しましょう。一般的には①家賃収入の見積もり、②空室率を考慮した年間収入の算定、③運営費と修繕費の計上、④融資返済額の算出、⑤税金の試算、⑥キャッシュフローの把握、という六つのステップです。途中で数字が揺らげば結果が大きく変わるため、各段階で根拠を示しながら進めることが不可欠です。
家賃収入の見積もり方法

ポイントは、「表面利回り」に頼りすぎないことです。不動産ポータルに掲載された希望賃料は理論値にすぎず、実際の入居者が支払う家賃とは開きがあります。そこで、2025年版レインズデータや近隣の成約事例を参照し、現在の実績値に基づく平均賃料を出します。さらに、新築か築古かで賃料の下落速度が異なるため、築10年以降は毎年1%前後の減額を見込むのが安全です。
空室率も忘れられがちな変数です。総務省の住宅・土地統計調査(2023年速報)では、全国平均の空室率は13.8%ですが、都市部は8%前後にとどまります。つまり、エリア別に実勢値を採用しないと過大評価につながるのです。例えば、家賃7万円のワンルームが10戸ある場合、空室率10%を見込むと年間家賃収入は756万円になります。この段階で数字を現実的に下げておくと、後の計算がブレにくくなります。
運営費と修繕費の算定
実は、運営費を過小評価する初心者が非常に多いです。管理委託料、共用部電気代、保険料、広告費、そして固定資産税までが運営費に含まれます。日本不動産研究所の2024年調査によれば、マンションの運営費は家賃収入の15〜20%が目安とされています。したがって、先ほどの例では年間113万〜151万円を充てる計算です。
修繕費はさらに読みづらい出費です。築年数ごとに修繕周期があり、国交省の長期修繕計画ガイドラインでは、外壁塗装が12〜15年ごと、屋上防水は20年ごとに必要とされています。平均して年3〜5%を積み立てれば大規模修繕に備えられるとされるものの、エレベーターや給排水管の劣化具合で増減します。具体例として、家賃収入756万円に対し3%を積み立てると年間22万7千円ですが、築25年の物件なら5%の37万8千円を取るほうが安全です。
融資返済と税金のシミュレーション
基本的に、融資は返済年数と金利を正確に入力しないと試算が崩れます。2025年9月時点で地方銀行の投資用ローンは固定金利1.9〜3.2%、期間は最長35年が主流です。仮に3,000万円を金利2.5%、期間30年で借りると、毎月の返済は約11万8千円、年間141万6千円になります。団体信用生命保険の保険料を金利に上乗せするタイプなら、その分0.2%程度高くなる点にも注意します。
税金は所得税と住民税の二段階で計算します。国税庁の2025年度税制では、不動産所得に対し最初に必要経費を差し引いた後、課税所得に応じて5〜45%の累進税率を適用します。さらに固定資産税と都市計画税が物件評価額にかかり、2025年度の標準税率はそれぞれ1.4%と0.3%です。これらをあらかじめ年額で計上すると、収益の手取りがよりクリアになります。
キャッシュフローを読み解くポイント
重要なのは、キャッシュフローが黒字でも通帳残高が増えるとは限らない点です。修繕積立や想定外の退去があると、帳簿上プラスでも実質赤字になり得ます。そのため、年間プラス50万円以上の余裕を持たせることを目安にすると、急な空室や金利上昇に耐えられる確率が高まります。なお、日本銀行が2025年6月に示した金融政策レポートでは、今後2年間で政策金利を0.25%引き上げる可能性が示唆されています。金利0.25%の上昇は、先ほどの返済例で年間約4万5千円の負担増につながるため、この点もシミュレーションに組み込みましょう。
キャッシュフロー表を作る際には、以下のように一年ごとに更新する手順が有効です。
- 年間家賃収入
- 運営費・修繕費
- 融資返済額
- 税金
- 手残りキャッシュフロー
毎年見直すことで、予定と実績のズレを早期に把握できます。言い換えると、投資後のモニタリングこそが長期的な成功を左右するのです。
まとめ
本記事では「収益物件 収支計算 ステップ」を軸に、家賃収入の見積もりから運営費、修繕費、融資返済、税金、そしてキャッシュフローの確認方法までを段階的に解説しました。数字の裏付けを取りながら六つの手順を丁寧に進めれば、想定外の赤字を防げます。読者の皆さんは、今日紹介した計算式を使って、まず一物件のシミュレーションを作成してみてください。数字のリアリティを体感することが、堅実な投資家への第一歩になります。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産投資市場調査(2025年版) – https://www.mlit.go.jp
- 日本不動産研究所 不動産投資家調査2024 – https://www.reinet.or.jp
- 総務省 住宅・土地統計調査 2023年速報 – https://www.stat.go.jp
- 日本銀行 金融政策レポート 2025年6月 – https://www.boj.or.jp
- 国税庁 2025年度所得税の税率 – https://www.nta.go.jp