都心へのアクセスに優れ、単身者を中心に人口が増え続ける江東区で、アパート経営を始めたいと考える方が増えています。しかし「本当に空室リスクは低いのか」「湾岸と東部でどちらを選ぶべきか」といった不安を抱えたまま、一歩を踏み出せずにいる方も少なくありません。江東区は豊洲や有明を中心とした湾岸部と、亀戸や大島といった東部で市場の性格が大きく異なるため、エリアの見極めが投資成果を左右します。
本記事では、江東区の人口動態や賃料相場といった市場データを踏まえながら、エリア選定の考え方、収支シミュレーションの実践、水害リスクの確認方法、そして融資条件の目安までを丁寧に解説します。読み終えるころには、購入前に確認すべきポイントと将来の出口戦略まで、具体的にイメージできるはずです。
江東区がアパート経営で注目される背景
江東区がアパート経営の投資先として注目される最大の理由は、賃貸需要を支える人口規模の大きさと、その増加傾向にあります。江東区が公表する住民基本台帳の統計によると、令和8年8月1日現在の区の人口は299,702世帯・544,929人とされています。しかもこの数字は前年同月の544,050人から879人の増加を示しているとされ、都内でも人口が緩やかに伸び続けているエリアであることがうかがえます。賃貸需要の母数がこれだけ大きく、なおかつ増えている点は、アパート経営の安定性を考えるうえで心強い材料です。
区内でも人口の集積には偏りがあり、湾岸部の存在感が際立っています。同じ江東区の統計では、豊洲地区の合計人口が125,270人と突出しており、東雲や有明、辰巳を含めた湾岸エリアは無視できない賃貸マーケットを形成しています。オフィスと住宅が近接した職住近接の環境が整い、区内で働き区内に住む単身世帯の受け皿となっているのです。この層がワンルームや1Kといった小規模賃貸の需要を下支えしているため、物件選びさえ誤らなければ安定した入居率が期待できます。
一方で、取得コストは決して軽くありません。東京都が公表する令和8年地価公示の区市町村別平均価格によれば、江東区の平均住宅地価格は661,500円/㎡、平均商業地価格は1,310,300円/㎡となっています。都内でも相応の水準であるため、賃料の高さだけに目を奪われず、購入価格と収益のバランスを慎重に見極める姿勢が欠かせません。
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湾岸と東部でまったく違う市場性格を理解する
江東区でアパート経営を成功させるうえで最も重要なのは、湾岸部と東部で仕入れ価格帯がはっきり分かれている事実を理解することです。国土交通省の不動産情報ライブラリに掲載された鑑定評価書を見ると、湾岸の豊洲4丁目の標準地では1㎡当たり1,000,000円という水準が示されています。これに対して東部の住宅地では、70㎡程度の土地で3,300万円前後、新築戸建の総額でも4,800万円前後が需要の中心とされており、湾岸に比べて取得単価を抑えやすいことがわかります。
亀戸駅周辺を最寄りとする東部の別の鑑定評価書では、新築戸建需要の中心が総額おおむね5,000万円程度とされています。つまり東部は実需の厚い市場であり、賃貸だけでなく売却時の出口においても買い手を見つけやすい安定感があります。湾岸が資産価値と賃料の高さで勝負するエリアだとすれば、東部は取得コストを抑えて利回りを確保しやすいエリアと整理できるでしょう。
どちらを選ぶかは、投資家自身の資金計画とリスク許容度によります。湾岸は物件価格が高い分だけ初期投資が膨らみますが、人口集積と賃料水準の高さから安定性に優れています。東部は初期投資を抑えられる一方、賃料の絶対額は湾岸に及びません。自身が重視するのが安定性なのか、それとも利回りの厚さなのかを明確にすることが、エリア選定の第一歩となります。
賃貸物件が多い街と成約相場の感覚
供給が多い街を把握しておくことも、空室リスクを見積もるうえで役立ちます。SUUMOのエリア概況では、江東区で賃貸物件の多い地域として亀戸、大島、塩浜、豊洲、北砂が挙げられています。供給が多い街は競合も多いため、募集条件や設備で差別化できるかどうかが稼働率を左右します。
相場感については、募集賃料だけでなく成約賃料の感覚を持っておくことが重要です。レインズが公表する首都圏賃貸居住用物件の取引動向によると、2026年1〜3月の江東区マンション賃貸の成約は962件、平均賃料12.5万円、平均面積30.60㎡、㎡単価4,101円でした。一方でSUUMOが示す新築・駅徒歩1〜5分条件のマンション相場では、ワンルームが10.7万円、1Kが11.2万円となっており、駅近かつ新築であればプレミアムを取れることが読み取れます。LIFULL HOME’Sのアパート掲載相場でも、江東区のワンルームは12.14万円、1K・1DKは13.04万円、1LDK・2K・2DKは18.01万円とされ、江東区が低単価物件一辺倒の市場ではないことがわかります。
ハザードマップで確認すべき水害リスク
江東区でアパート経営を検討するなら、水害リスクの確認は避けて通れない作業です。区は洪水・内水・高潮の3種類の水害ハザードマップを配布しており、浸水する深さや継続時間まで確認できるようになっています。物件の所在地がどの浸水想定区域に該当するのかを、購入前に必ず確かめておくべきです。
とりわけ湾岸部を検討する場合は、高潮ハザードマップの読み方に注意が必要です。江東区の高潮ハザードマップは洪水と高潮が同時に起こった場合を想定して作成されているため、湾岸部のリスクは保守的に評価されています。浸水想定区域に該当する物件を取得する際には、火災保険の水災補償プランを比較検討し、想定される浸水深に見合った備えを整えておくことが賢明です。最新の情報は江東区の公式サイトで確認するようにしてください。
キャッシュフローを左右するコスト構造
アパート経営で安定した収益を得るには、家賃収入だけでなく支出面の構造を正しく理解する必要があります。キャッシュフローを大きく左右するのは、ローン返済額、管理費、そして修繕積立金という3つのコストです。これらを把握しておかないと、見かけ上の利回りに惑わされて判断を誤りかねません。
たとえば3,200万円の物件を金利2.5%・35年返済で借り入れた場合、月々の元利均等返済額はおおむね11.4万円となります。ここに管理費1.2万円、修繕積立金0.6万円、固定資産税の月換算0.8万円を加えると、毎月の支出はおよそ14万円に達します。成約相場に近い家賃12.5万円で貸せたとしても、この条件では月次キャッシュフローがマイナスに沈む計算です。だからこそ、購入価格と借入条件、賃料水準の三者を並べて検討することが欠かせません。
減価償却による節税効果も、実質的な手残りを考えるうえで無視できない要素です。建物価格を全体の一定割合と仮定し、鉄筋コンクリート造の法定耐用年数にもとづいて減価償却費を計上すれば、その分を他の所得と損益通算できます。ただし節税効果は投資家一人ひとりの所得や物件条件によって大きく変わるため、具体的な金額は税理士に相談し、個別事情を踏まえて試算することをおすすめします。
DSCRとIRRを活用した投資判断
より精度の高い判断を行うためには、DSCR(債務返済余裕比率)やIRR(内部収益率)といった定量指標の活用が効果的です。DSCRとは年間の純営業収益をローン返済額で割った数値のことで、この値が1.2以上であれば返済の余裕があると評価されやすくなります。逆に1.0を下回ると、家賃収入だけでは返済をまかなえない状態を意味するため注意が必要です。
IRRは投資期間全体を通じた収益率を年率換算した指標で、複数の物件を比較する際に威力を発揮します。感覚だけに頼らず、こうした指標を用いたシミュレーションを事前に行うことで、データに裏づけられた意思決定が可能になります。江東区のように取得コストが高いエリアでは、指標による検証がとりわけ重要な意味を持ちます。
融資条件の目安と金融機関の選び方
アパート経営の成否は、どのような条件で融資を引けるかにも大きく左右されます。金融機関によって金利や融資期間、頭金の割合が異なるため、複数の選択肢を比較検討することが欠かせません。専門メディアのWealth Agentが2026年6月時点で整理した情報によると、オリックス銀行は不動産投資ローンを変動金利2.6〜2.65%、最長35年、LTV(物件価格に対する融資割合)80〜100%、年収500万円以上を目安に取り扱っていました。ただし2026年8月現在、オリックス銀行公式サイト(金利一覧ページ)では同ローンは「新規取扱中止」と明記されており、新規申込はできません。金融機関の融資姿勢は変更されることがあるため、本記事の情報を参考にする際は必ず各金融機関の公式サイトまたは窓口で最新の取扱状況・金利・LTV条件を確認してください。
より小ぶりな案件では、地域の信用組合も選択肢に入ります。専門メディアのWealth Agentが2026年7月時点で整理した情報では、第一勧銀信用組合は物件エリアを1都3県に限定し、変動金利2.4%、取引歴や物件評価次第ではフルローンの可能性もあるとされています。江東区の比較的コンパクトな物件を取得する際には、こうした地域密着型の金融機関が候補に加わるでしょう。ただし融資条件は個々の属性や物件、および金融機関の取扱方針変更によって変わるため、最新情報は各金融機関に直接確認してください。
安定運用を実現する管理会社選定と空室対策
見落とされがちですが、管理会社の質は空室期間を大きく左右します。リーシング対応の速い管理会社と遅い会社とでは、空室期間に数十日単位の差が生じることも珍しくありません。空室が1カ月延びれば、その分の家賃はまるごと失われてしまいます。したがって管理手数料が多少高くても、募集力に優れた会社を選ぶ方が、結果的に手残りは増えやすいのです。
管理会社を選ぶ際には、募集開始から内見対応までのスピード、ポータルサイトに掲載する写真の質、そして外国語対応の可否といった点を事前に確認しておきましょう。入居者のターゲットを明確にし、その層に響く設備を整えることも効果的な空室対策となります。供給の多い亀戸や大島、豊洲といった街では、競合との差別化がとりわけ大きな意味を持ちます。
費用対効果の高い設備更新
設備更新のタイミングを見極めることで、賃料水準を維持しやすくなります。たとえばWi-Fi無料化やモニター付きインターホンへの交換は比較的少額で実施でき、入居希望者へのアピール材料になります。こうした投資によってわずかでも賃料を維持・向上できれば、投資回収は数年で見込めるケースが多いといえます。
築年数が経過した物件では、大規模なリノベーションを一度に行うよりも、小さな改装を小刻みに重ねる方が費用対効果に優れる場合があります。入居者のニーズを定期的にヒアリングし、競合物件との差別化ポイントをつくり続けることが、長期にわたる安定稼働への近道です。宅配ボックスの設置といったセキュリティ・利便性の強化も、検討者の心をつかむ有効な一手となります。
ポートフォリオ戦略と出口の考え方
江東区でのアパート経営をさらに安定させるには、エリアや物件タイプの分散によるポートフォリオ戦略が有効です。2戸目を取得する際に、賃料水準の高い湾岸と取得単価を抑えやすい東部のように性格の異なるエリアへ分散させれば、特定エリアの需要が落ち込んだ際のリスクを和らげられます。隣接する墨田区や中央区の物件を組み合わせるという発想も、分散効果を高める選択肢となります。
出口戦略においては、当初想定した目標リターンに達した段階で売却を検討するという姿勢が基本です。長期保有でインカムゲインを重視する場合でも、定期的に売却査定を取得して市場価格を把握しておく習慣をつけておけば、急な売却ニーズが生じたときにも慌てずに対応できます。相場観を持ち続けることが、最適なタイミングを逃さないための土台となります。
まとめ
江東区でのアパート経営は、544,929人とされる大きく増え続ける人口を背景に、賃貸需要の底堅さが期待できる魅力的な選択肢です。ただし湾岸と東部では仕入れ価格帯も市場性格も大きく異なり、水害リスクの確認や融資条件の見極めが投資成果を左右します。取得コストが軽くないエリアだからこそ、表面利回りだけでなくDSCRやIRRといった指標を用いた検証が欠かせません。
次の休日には、豊洲や亀戸といった街を実際に歩き、賃貸物件の募集状況や周辺環境をご自身の目で確かめてみてはいかがでしょうか。データと現地感覚の両方を持つことが、江東区でのアパート経営を成功へ導く第一歩となります。
参考文献・出典
- 江東区 世帯と人口(令和8年8月1日現在) – https://www.city.koto.lg.jp/060305/kuse/profile/shokai/documents/20260801.pdf
- 江東区 風水害に備えましょう – https://www.city.koto.lg.jp/057101/bosai/bosai-top/saigai/huusuigai.html
- 江東区 水害ハザードマップ(3種類)よくある質問集 – https://www.city.koto.lg.jp/470600/hazardmapqa.html
- 東京都 令和8年地価公示 区市町村別用途別平均価格表 – https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/05_r8kouji_heikin-kakaku
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ 鑑定評価書(江東区) – https://www.reinfolib.mlit.go.jp/
- 公益財団法人東日本不動産流通機構 首都圏賃貸居住用物件の取引動向(2026年1〜3月) – https://www.reins.or.jp/sc_202601-03.pdf