不動産の税金

収益物件のポイントと収支計算入門

家賃収入で将来の不安を減らしたいものの、「何を基準に物件を選び、どうやって収支を組めばいいのか分からない」という声をよく耳にします。特に初めての不動産投資では、専門用語や数字が多く、途中で調べること自体が負担になるでしょう。本記事では、収益物件探しのポイントと収支計算の手順を丁寧に解説します。読み終えたときには、利回りの意味やローン返済の影響を具体的にイメージできるようになり、「次の一歩」を自信を持って踏み出せるはずです。

収益物件とキャッシュフローの基礎

収益物件とキャッシュフローの基礎のイメージ

重要なのは、収益物件を「毎月のお金の流れを生む仕組み」として理解することです。表面利回りが高い数字でも、実際のキャッシュフローが赤字では意味がありません。

まず収益物件とは、居住用や事業用の不動産を第三者に貸し、賃料収入を得る投資対象を指します。家賃は毎月の「入金」ですが、固定資産税・管理費・修繕費といった「出金」も必ず発生します。これらを差し引いた残額が、投資家の手元に残るキャッシュフローです。国土交通省の2025年版賃貸住宅市場データによると、都内ワンルームの平均空室期間は1.3か月と短く感じますが、年1回の退去だけで家賃の1割前後が失われる計算になります。

次に、収益計算では「表面利回り」「実質利回り」「税引後キャッシュフロー」を段階的に押さえましょう。表面利回りは年間家賃÷物件価格で求めますが、諸費用を含めないため目安値に過ぎません。一方、実質利回りは購入時諸費用と年間支出を加味するため現実的な指標です。そして税引後キャッシュフローまで確認すると、手取り額をほぼ正確に把握できます。つまり収益物件の成否は、数字をどこまで深掘りするかにかかっています。

さらに、キャッシュフローは短期だけでなく長期でも見る必要があります。住宅設備の法定耐用年数や修繕周期を意識し、10年後・20年後の大規模修繕資金を毎月の家賃の中から積み立てておくと、急な支出でも慌てずに済みます。実は資金繰りが破綻する多くのケースで、修繕費積立を怠ったことが原因になっています。

利回りと費用の全体像をつかむ

利回りと費用の全体像をつかむのイメージ

まず押さえておきたいのは、利回りを語る前に費用の全体像を整理することです。購入直後にかかる初期費用と、運用中に発生するランニングコストの区別が鍵になります。

初期費用には仲介手数料、登記費用、ローン事務手数料、火災保険料などがあります。住宅金融支援機構の2025年度調査によると、物件価格の7〜9%が目安とされ、2,000万円の区分マンションなら約160万円が一度に必要です。また、融資を受ける場合は金融機関によって違約金や事務手数料の設定が異なり、数十万円単位の差が出ることも珍しくありません。

ランニングコストとしては管理費、修繕積立金、固定資産税が代表的です。東京都都市整備局の試算では、築10年以内のワンルームでも年間賃料の15%前後が維持費に消えます。加えて、入居者募集の広告料や原状回復費、火災保険の更新料など、表に出にくい支出が後から重くのしかかります。つまり、利回りを計算するときは、これらの費用を漏れなく算入する姿勢が必要です。

さらに、実質利回りは地域や築年数で大きく変わります。同じ大阪市内でも中央区と住之江区では、同条件の築20年物件で実質利回りが2%近く違うケースが出ています。これは地価、賃料相場、空室率の違いが同時に作用するためです。投資家は「高利回り」という数字だけでなく、その裏にある市場環境を読み解く力を養う必要があります。

融資条件が収支計算を左右する理由

ポイントは、金利と返済期間がキャッシュフローを劇的に変えるという事実です。自己資金をいくら投入するかによっても、毎月の負担は大きく動きます。

日本銀行が2025年7月に示した住宅ローン金利参考値では、変動型が1.1%前後、固定10年が1.6%前後で推移しています。仮に2,000万円を35年返済・金利1.1%で借りると、月々の元利返済額は約57,000円です。ところが金利が0.5%上昇するだけで、返済額は約62,000円に増え、年間6万円近いマイナスが発生します。

また、返済期間を25年に短縮すると利息総額は減りますが、月々の返済額は一気に約75,000円へ跳ね上がります。家賃10万円の物件なら一見カバーできそうですが、空室1か月でキャッシュフローは赤字に転落します。つまり、融資条件は「支払い能力」と「空室リスク耐性」のバランスを取る視点で検討すべきです。

自己資金比率も重要な調整弁です。不動産投資専門の地方銀行では、自己資金10%超を投入すると金利を0.2%下げるキャンペーンを行っている例があります。この差は長期で見ると数十万円規模の節約につながります。ただし、手元資金を減らしすぎると突発的な修繕に対応できず、ローン返済が滞るリスクが高まります。したがって、自己資金は「金利を下げるための資金」と「緊急時の現金」を分けて考えることが現実的です。

成功する物件選びのチェックポイント

実は、物件そのものよりエリア特性のほうが将来の収益を決定づけます。人口動態、賃料相場、再開発計画の三つを同時に調べる習慣をつけましょう。

総務省統計局の国勢調査(2025年速報)によると、都市部30km圏内の若年人口は微増傾向が続いています。一方で30km圏外では減少が止まらず、家賃も下落基調です。人口が減る地域の利回りが高く見えても、長期的な空室リスクが膨らむため慎重な判断が必要です。

賃料相場は、不動産情報サイトの掲載家賃だけでなく、成約事例を扱うレインズマーケットインフォメーションを参考にしてください。成約家賃は掲載より5〜10%低いことが一般的で、ここを誤認すると収支計算が甘くなります。また、再開発エリアでは初期投資が高めでも、資産価値の上昇と賃料アップが期待できるケースがあります。2025年度に本格化した横浜駅周辺の再開発では、築浅ワンルームの平均家賃が3年間で12%近く上昇しました。

建物の構造も見逃せません。鉄筋コンクリート造(RC)は耐用年数が長く金融機関の評価が高いため、融資期間を伸ばしやすい利点があります。木造アパートは減価償却期間が短く節税面で優位ですが、修繕頻度が高くなる傾向があるため、将来の費用計上を念入りに行いましょう。つまり、構造選びは「融資条件」「節税」「修繕費」の三つで総合判断すると失敗が少なくなります。

年間収支シミュレーションの具体例

まず押さえておきたいのは、数字を入れ替えるだけで再現できるひな形を作ることです。以下は築15年RCワンルームを想定した年間シミュレーションの例です。

【シミュレーション前提】 ・購入価格:1,800万円 ・諸費用:150万円 ・年間家賃収入:108万円(家賃9万円×12か月、空室1か月) ・ランニングコスト:管理費・修繕積立金18万円、固定資産税7万円、保険2万円 ・ローン:1,500万円借入、金利1.2%、期間30年(月返済49,000円)

【結果】 ・年間総収入:108万円 ・年間総支出:管理系27万円+ローン58.8万円=85.8万円 ・税引前キャッシュフロー:22.2万円 ・減価償却費:約49万円 ・所得税・住民税:9万円(概算) ・税引後キャッシュフロー:13.2万円

上記の通り、表面利回りは6.0%ですが、税引後では3.3%相当の手取りになります。ここからさらに大規模修繕積立として年間6万円を確保すると、実質の自由資金は7万円ほどです。利回りだけを見て購入すると、手残りが想像よりずっと少ないことが分かるでしょう。

シミュレーションは、「空室率を20%にする」「金利を1%上げる」など複数パターンで試すとリスクの大きさを体感できます。最悪シナリオでも資金ショートしない物件を選ぶことが、長期投資の安定につながります。結論として、収支計算は楽観・悲観両面のシナリオを用意し、常に現実的な数字で判断することが成功への近道です。

まとめ

ここまで、収益物件のポイントと収支計算の基礎を解説してきました。まず、家賃収入と費用を正確に把握し、税引後キャッシュフローまで観察する姿勢が重要です。また、金利や返済期間など融資条件の違いがキャッシュフローを左右するため、複数のシナリオで試算する習慣を持ちましょう。さらに、人口動態や再開発計画を読み解き、将来の空室リスクを抑えられるエリアを選択することが安定収益の鍵になります。この記事を参考に、まずは自分の資金状況と目標に合わせてシミュレーション表を作り、具体的な物件情報に数字を当てはめてみてください。行動を開始することで、不動産投資家としての視野が一気に広がるはずです。

参考文献・出典

  • 国土交通省 賃貸住宅市場データ集2025 – https://www.mlit.go.jp
  • 日本銀行 金融経済統計月報2025年7月 – https://www.boj.or.jp
  • 住宅金融支援機構 2025年度フラット35利用実績 – https://www.jhf.go.jp
  • 総務省統計局 国勢調査2025速報 – https://www.stat.go.jp
  • 東京都都市整備局 住宅市場動向報告2025 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp

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