多額の自己資金を用意せずに不動産投資を始めたい、けれど空室リスクや老朽化の心配は避けたい――そんな悩みを抱える方が増えています。不動産クラウドファンディングは一口1万円程度から参加でき、築浅物件に絞れば修繕費の予測が立てやすいというメリットもあります。本記事では、仕組みの基礎から築浅案件ならではのリスク・リターン、2025年度の最新制度までを解説します。読了後には、どの案件にどれだけ投資すべきかを判断できる視点が身につくはずです。
不動産クラウドファンディングの仕組みを整理する

重要なのは、クラウドファンディングが「匿名組合出資型」の小口投資である点を理解することです。投資家は運営会社のファンドに出資し、運営会社が物件を取得・運用します。賃料収入や売却益が生まれると、手数料を差し引いた分配金が投資家に還元される仕組みです。
このモデルでは、投資家自身が物件を直接所有しないため、固定資産税や大規模修繕の負担を負わない一方、運営会社が倒産した場合のリスクは残ります。金融庁の2025年「クラウドファンディングレポート」によると、2024年度の匿名組合型ファンドは延べ約1,900億円に達し、前年から25%増加しました。つまり市場が急速に拡大する中で、各社のリスク管理体制を見極める目は欠かせません。
さらに、ファンドには「インカム重視型」と「キャピタル重視型」があります。前者は賃料収入を定期的に分配し、後者は売却益による最終分配を狙う構造です。築浅物件は家賃が高めで空室率も低いため、インカム重視型と相性が良いといえます。また、運用期間が1〜3年と比較的短い案件が多く、資金を回転させやすい点も初心者には魅力です。
築浅物件が選ばれる三つの理由

まず押さえておきたいのは、築浅が「法定耐用年数」と「賃料維持率」の両面で有利だという事実です。国土交通省の不動産価格指数では、築5年以内の区分マンションは築20年以上と比べ賃料維持率が約1.3倍高いというデータが示されています。
築浅だと、給排水管や外壁の大規模修繕が運用期間中に発生しづらく、予期せぬコストが抑えられます。加えて、入居者が設備の新しさを評価するため、退去後のリーシング期間が短い傾向にあります。総務省「住宅・土地統計調査2023」でも、築10年以内の空室率は5.3%と、築30年以上の9.8%より半分近く低くなっています。
一方で、物件価格は築年数に応じて高くなるため、取得コストが利回りを圧迫する点には注意が必要です。ただしクラウドファンディングでは小口化されているため、1口あたりの負担増は限定的です。運営会社がレバレッジ(金融機関からの借入)を適切に使っていれば、自己資金比率が低くても目標利回りを確保できます。
最後に、ESG投資の流れも築浅物件を後押ししています。省エネ性能が高い新築・築浅ほどCO₂排出量が少なく、機関投資家の資金が入りやすいからです。その結果、出口戦略としての売却先が多様化し、キャピタルゲインの期待値が上がる点は見逃せません。
期待できるリターンとリスク管理の要点
ポイントは、予定分配利回りだけでなく「実質利回り」に目を向けることです。実質利回りとは、分配金から源泉徴収税と運営手数料を差し引き、投資期間で年換算した数値を指します。2025年上半期に募集された築浅レジデンス案件の平均予定分配利回りは年4.2%でしたが、手数料を加味すると実質は約3.6%に下がります。
リスク面では、まず運営会社の倒産リスクが挙げられます。信託銀行への分別管理が徹底されているか、ファンドごとの監査体制が明確かを確認しましょう。次に想定より早い退去による空室リスクがあります。築浅でも賃料設定が相場より高すぎると、リーシングに長期化の恐れがあるため、周辺相場を調べる姿勢が欠かせません。
運用期間中の金利上昇もリスクの一つです。ファンドが変動金利の借入を利用している場合、金利上昇はキャッシュフローを圧迫します。公表されている借入比率(LTV)が70%を超える案件は、金利1%の上昇で利回りが0.5%以上低下する可能性があります。つまり、LTV60%以下を一つの安全ラインと考えると判断しやすいでしょう。
加えて、早期償還リスクにも留意すべきです。物件が想定以上の価格で売却できた場合はプラスですが、逆に運営会社の都合でやむなく売却するケースもあります。早期償還時の分配金計算方法が「日割り」なのか「月割り」なのかを確認しておくと、想定外の利回り低下を防げます。
2025年度に使える制度・税制優遇
実は、少額投資非課税制度(NISA)の拡充がクラウドファンディングにも影響しています。2024年から始まった新NISAでは、非上場株式型クラウドファンディングは対象外ですが、不動産クラウドファンディングは投資信託を介する「受益証券発行信託型」で組成される場合に限り、2025年度も引き続き成長投資枠の適用対象となります。非課税枠は年間240万円、累計1,800万円まで拡大しており、分配金が非課税になる恩恵は大きいです。
さらに、個人投資家が受け取る分配金は通常20.315%の源泉分離課税ですが、2025年度の「所得税住宅ローン控除」を利用している場合、年末調整で所得控除が増え、課税所得が下がることで実効税率が下がるケースもあります。控除期間が最長13年に延長された現行制度は、築浅物件を自宅用に購入しつつ、収益物件にはクラウドファンディングで参画する複合戦略とも相性が良いと言えます。
なお、自治体によっては2025年度も続く「空き家対策補助金」を活用し、築浅であっても長期空室の区分マンションをリノベしてファンド化する事例が増えています。ただし、補助金はファンド運営会社が受給主体となるため、個人投資家が直接申請することはできません。投資判断では、運営会社がどの補助金を受けてコストを下げているかを確認すると、収益構造の透明性を把握できます。
投資判断で押さえる三つの指標
まず、表面利回りではなく「ネット利回り」をチェックしましょう。ネット利回りとは、家賃収入から共用部費用や管理費等の運営コストを引いた後、物件価格で割って算出する指標です。築浅案件でネット利回り4%を確保できれば、空室率が5%以内でもキャッシュフローが安定します。
次に見るべきは「運用期間とIRR(内部収益率)」のバランスです。IRRはキャッシュフローの時間価値を反映するため、運用期間が短いほど数値は上がりやすくなります。たとえば、年利回り4%で3年運用と、年利回り5%で5年運用では、前者のIRRが約4.0%、後者は約4.6%となり、単純比較が難しいことが分かります。複数案件に分散投資する際は、IRRをそろえておくと資金計画が立てやすくなるでしょう。
最後に「出口価格の妥当性」を確認します。運営会社が提示する想定売却価格が、国交省の不動産取引価格情報やレインズマーケットインフォメーションの成約単価と乖離していないかを検証しましょう。築浅物件は将来の値下がり幅が小さいと期待されますが、2025年時点で都心部の価格高騰は一服したとの指摘もあります。購入価格と想定売却価格の差が10%以上の場合、その根拠を必ずチェックしてください。
まとめ
築浅物件に特化した不動産クラウドファンディングは、修繕リスクの低さと安定した賃料が魅力です。運営会社の体制やLTV、出口価格などを見極めれば、年3〜4%台の実質利回りを目指しつつ、資金を小口で分散させる戦略が実現できます。初心者の方はまず、運用期間が2〜3年でIRRが明確に示された案件を少額から試し、投資後はレポートを定期的に確認して学びを深めると良いでしょう。築浅物件の特性を味方につけ、2025年の制度を活用しながら、長期的な資産形成を進めてみてください。
参考文献・出典
- 金融庁「クラウドファンディングに関するレポート2025」 – https://www.fsa.go.jp
- 国土交通省「不動産価格指数」 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省「住宅・土地統計調査2023」 – https://www.stat.go.jp
- 日本クラウドファンディング協会「市場動向調査2025」 – https://www.jcfa.or.jp
- 内閣府「年次経済財政報告2025」 – https://www5.cao.go.jp