不動産の税金

不動産投資 最初の一棟で失敗しない始め方

不動産投資に興味はあるものの、最初の一棟を買う勇気が出ない。そんな悩みを抱える方は少なくありません。自己資金はいくら必要か、融資は通るのか、空室が続いたらどうしよう、と不安を数えればきりがないからです。本記事では十五年以上の投資経験をもとに、資金計画から物件選び、2025年度の制度活用までを体系的に解説します。読み終えたとき、次に取るべき具体的な行動が見えるはずです。

最初の一棟に必要な資金と融資の基本

最初の一棟に必要な資金と融資の基本のイメージ

重要なのは、物件価格だけでなく諸費用を含めた総投資額を把握することです。さらに金融機関ごとの融資条件を比較し、長期シミュレーションを作成して初めて安全圏が見えてきます。

不動産を取得すると、仲介手数料や登記費用、固定資産税清算金などで物件価格の5〜7%が追加で必要になります。国土交通省の統計によると、首都圏の中古アパート単価は平均8,600万円(2024年度)なので、諸費用は少なくとも430万円前後を見込む計算です。自己資金として総投資額の20%を用意すると、金融機関の審査が通りやすくなるだけでなく月々の返済負担も抑えられます。

一方で、融資期間と金利の差は総返済額を大きく左右します。日本政策金融公庫の不動産担保ローンは最長20年・固定2.0%前後で安定していますが、民間銀行のプロパーローンは最長35年・変動1%台も珍しくありません。つまり金利は低いものの、変動リスクを背負うかどうかが分岐点になります。変動金利を選ぶ場合は、金利上昇を年2%まで織り込んだ試算を必ず行い、家賃下落も合わせて検証しましょう。

プラスαの安全策として、修繕積立金とは別に100万円以上のキャッシュを残すと、給湯器交換など突然の支出にも落ち着いて対応できます。また、購入後半年は家賃収入が安定しないことを想定し、ローン返済3か月分の予備資金を確保しておくと精神的な余裕が生まれます。

利回りだけに頼らない物件選び

利回りだけに頼らない物件選びのイメージ

まず押さえておきたいのは、表面利回りだけで物件を判断すると失敗しやすい点です。空室率、築年数、周辺ニーズなど複数の要素を組み合わせることで、初めて実質的な収益力が見えてきます。

実は、同じ利回り8%でも、駅徒歩5分と15分では入居期間が大きく変わります。東日本不動産流通機構のデータでは、駅徒歩10分以内の退去率は郊外20分超物件の半分です。稼働率が高ければ修繕計画も立てやすく、キャッシュフローが安定します。一方、築古物件は価格が安く利回りが高く見えますが、大規模修繕費が重くのしかかる点に注意が必要です。

次に見るべきは人口動態です。総務省統計局の将来推計人口では、2025〜2035年にかけて三大都市圏以外の地方は平均10%の人口減少が見込まれています。つまり地方高利回り物件は、家賃下落と空室リスクを同時に抱えることになります。都心だけが正解ではありませんが、就労人口が増えるエリアや再開発で需要が伸びる地域を選ぶことで、中長期の賃料下落を抑えられます。

最後に、近隣競合の賃料水準も忘れてはいけません。賃貸ポータルサイトで似た物件の募集賃料を10件ほど抽出し、平均家賃から5%下げても採算が合うか試算してください。この余裕が、空室期間を短縮し長期運用のストレスを減らします。

運営コストを見える化する方法

ポイントは、ランニングコストを月額ベースで管理する習慣を早期に身につけることです。家賃収入に対する支出割合を正確に把握すれば、黒字と赤字の境目が明確になります。

管理委託料は家賃の5%前後が相場ですが、サブリース契約では10%を超えるケースもあります。手間を減らしたいからと高い手数料を許容すると、賃料下落局面で一気に収支が悪化します。また、共用部の電気代や浄化槽維持費など、購入前の試算に反映しにくい細かな費用も積み上げれば無視できません。

さらに修繕費の平均値を把握しましょう。住宅金融支援機構の2024年度調査によると、木造賃貸の年間修繕費は築20年で家賃収入の12%、築30年では18%に達しています。早めに外壁塗装や屋根防水を行うと、長期的には漏水リスクが減り入居者満足度も向上します。短期利益を優先して修繕を後回しにすると、結果として退去率が上がり収益を削る悪循環に陥ります。

最後に、固定資産税・都市計画税は毎年1月1日時点の所有者に課税されます。評価替えは3年周期で行われ、築年数が進むにつれて緩やかに下がりますが、土地部分は評価額が高止まりすることもあります。税額の変動幅を事前に試算し、毎月のキャッシュフローレポートに組み込んでおくと資金繰りで慌てずに済みます。

2025年度の税制・補助制度を味方にする

まず、2025年度に適用できる代表的な優遇措置を把握しておくと、投資効率を一段上げられます。制度は期限があるものも多いため、購入前に確認しておくことが肝心です。

登録免許税の軽減措置は2026年3月末まで延長され、個人が住宅用賃貸物件を取得する場合の税率が本則の2.0%から1.5%に下がります。さらに、一定の省エネ基準を満たす賃貸住宅を新築・改修する際、国交省の「省エネ適合賃貸住宅支援事業」で最大120万円の補助(2025年度予算案)は継続予定です。高性能給湯器や断熱窓に補助対象が広がり、長期運営コストを抑えつつ入居者募集で差別化できます。

減価償却費も節税の柱になります。鉄骨造耐用年数34年を超えた中古物件なら、償却期間は4年と短く一気に経費計上できるため、初年度の所得税・住民税を圧縮できます。ただし、収支がマイナスになると金融機関の追加融資に悪影響が出る場合があるので、利益と節税のバランスを考えて購入時期を調整しましょう。

また、地方自治体が実施する「空き家活用補助金」は居住用改修が主ですが、賃貸経営も対象となる市区町村があります。制度内容は毎年更新されるため、対象エリアを選定する際は自治体の公式サイトで最新情報を確認してください。補助金を使ってリノベーションした物件は、広告時に「補助事業実施済」であることを明示すると、入居希望者に安心感を与えられます。

長期的な出口戦略とポートフォリオ構築

基本的に、最初の一棟は投資家としての「名刺」になります。運営実績を証明できれば、次の融資交渉が有利になりポートフォリオ拡大が加速します。

出口戦略としては、①保有継続、②売却益確定、③組み換えの三つに大別されます。売却タイミングを逃さないために、周辺取引事例や金利動向を四半期ごとにチェックし、想定売却価格を更新しましょう。たとえば金利が0.5%上昇すると、買い手の返済負担が増え利回り要求が高くなるため、物件価格は下落しやすくなります。

一方で、保有継続を選ぶ場合はリノベーションや賃料改定で収益を向上させ、運営指標を改善します。家賃査定を毎年実施し、競合と500円でも差があれば小幅改定を繰り返すことで、利回りを維持できます。複数棟を保有するようになったら、地域と構造、築年数を分散させるとリスクが平準化します。

最後に、法人化の検討も視野に入れましょう。年間所得が900万円を超える頃には、法人実効税率の方が低くなるケースが増えます。法人での追加取得は、金融機関によっては金利が0.2%ほど高くなるものの、所得分散や承継対策で長期的なメリットが得られます。

まとめ

ここまで、最初の一棟を成功させるための資金計画、物件選び、運営管理、制度活用、出口戦略を網羅的に見てきました。最初に自己資金とローン条件を固め、利回りだけに頼らず需要の強い立地を選ぶことがスタートラインです。運営コストを月次で管理し、2025年度の税制優遇や補助金を活かせば、キャッシュフローはさらに安定します。最後に、出口戦略を常に意識して実績を積み上げれば、ポートフォリオ拡大への道が開けるでしょう。今こそ具体的な数字を書き出し、あなたの「不動産投資 最初の一棟」を現実のものにしてください。

参考文献・出典

  • 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp/
  • 日本政策金融公庫 融資制度資料 – https://www.jfc.go.jp/
  • 東日本不動産流通機構 マーケットウォッチ – https://www.reins.or.jp/
  • 総務省統計局 将来推計人口 – https://www.stat.go.jp/
  • 住宅金融支援機構 住宅市場調査報告書 – https://www.jhf.go.jp/

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