空室が埋まらない、家賃滞納の対応が大変、深夜の設備トラブルが怖い――賃貸経営を始めたばかりの方ほど、管理会社選びの重要性を実感する場面は多いものです。適切な管理会社と組めば、オーナーは本業に集中でき、入居者満足も向上します。一方、相性の悪い会社を選ぶと収益が伸びず、資産価値さえ落ちかねません。本記事では、2025年12月時点の最新法制度を踏まえつつ、初心者でも分かる「賃貸管理 管理会社選び」のポイントを五つに整理し、比較検討の具体的方法を解説します。読み終えたとき、あなたは自信を持って適切な管理パートナーを判別できるようになるはずです。
管理会社に委託するメリットと限界

重要なのは、まず管理委託の全体像を把握することです。管理会社は入居募集、契約手続き、家賃集金、クレーム対応、退去精算までを代行します。その対価として、一般に家賃の3〜5%の管理料を徴収します。実は、この数字だけを見ると自主管理より高コストですが、時間・専門知識・法的リスクの削減効果を考慮すると、多くのケースで費用以上のリターンがあります。
また、国土交通省の2025年「賃貸住宅市場景況調査」によると、管理会社を利用するオーナーの平均空室期間は自主管理より1.2カ月短いという結果が出ています。短い空室期間は年間収益の底上げにつながり、結果的に管理料を相殺するだけでなくプラスを生む可能性すらあります。一方で、会社ごとにサービス品質が大きく異なる点には注意が必要です。つまり、委託にはメリットと限界が共存しており、後者をどう見極めるかが選定の出発点になります。
さらに、2021年に完全施行された「賃貸住宅管理業法」では、管理戸数200戸以上の会社に国への登録が義務付けられました。2025年12月現在、約9,100社が登録済みですが、裏を返せば未登録の小規模事業者も存在します。登録事業者は苦情対応窓口や財産の分別管理が法的に義務付けられており、これが一定の安心材料になります。しかし、登録だけでサービスの質を保証するわけではないため、追加のチェックが欠かせません。
まず押さえておきたい選定基準

ポイントは、数値化できる基準と定性的な基準を組み合わせることです。
数値化の代表例が入居率です。会社資料に掲載された入居率が高くても、その定義が「管理戸数ベース」なのか「募集戸数ベース」なのかで意味が変わります。たとえば募集戸数ベース95%でも、管理戸数ベースでは90%を切る場合があります。面談時には指標の計算方法と直近1年間の推移を開示してもらい、他社と横並びで比較しましょう。
次に、家賃集金の代行方法です。振込ではなく口座振替システムを導入する会社は、滞納率を1%以下に抑えている傾向があります。総務省の「家計金融調査2025」でも、キャッシュレス決済利用者が6割を超えたと報告されており、口座振替やクレジット決済への対応は今後さらに重要になります。見積書を見る際は、決済手数料の負担者と督促手数料の有無を細かく確認してください。
定性的な基準で忘れがちなのが担当者のレスポンス速度です。問い合わせメールへの返信が24時間以内か、電話がつながりやすいか、といった要素は実務ストレスを大きく左右します。面談時にはあえて具体的な質問を投げ、翌日までに回答をもらうなど小さなテストを行うと実力が見えやすくなります。
最後に、退去立会いと原状回復の運用フローも重要です。国交省のガイドラインでは入居者負担の範囲が細かく示されていますが、現場の解釈が分かれる部分も残っています。トラブル回避のためには、見積書の第三者相見積もりを許可する会社や、写真付き報告書を提供する会社を選ぶと安心です。
手数料だけで判断しない比較方法
実は、管理料率だけに注目すると、隠れコストを見落としやすくなります。
一般管理料が3%と聞くと割安に感じますが、広告料2カ月分や更新事務手数料1万円などの名目で総合コストが膨らむケースが少なくありません。大切なのは、契約書に記載された全項目を年間換算し、総家賃収入に対するパーセンテージで比較することです。これを「実質管理料率」と呼び、目安として10%以内に抑えられれば健全といえます。
たとえば月5万円の1Kを10戸所有し、年間家賃収入が600万円の場合を考えましょう。A社は管理料5%、広告料1.5カ月、更新手数料なし。B社は管理料3%、広告料2カ月、更新手数料1万円。3年サイクルで満室稼働すると仮定すると、A社の実質管理料率は約9.2%、B社は10.8%となり、表面の料率とは逆転します。数字を通じて比較すると、感覚的な印象が覆ることが理解できます。
さらに、修繕の発注フローにも費用差が潜んでいます。管理会社が自社グループの工事会社を指定する場合、相場より2割ほど高い見積もりが提示される事例が多いです。このとき相見積もりを拒む条項があれば、オーナーは価格交渉の手段を失います。契約前に「◯万円以上の工事は事前承認」「相見積もり自由」といった文面を盛り込むことで、長期的なコストを抑制できます。
一方で、すべてを単価比較で決めると、結果的にサービス品質を落とすリスクもあります。安価な会社が担当物件を増やしすぎ、クレーム対応が遅延する例は珍しくありません。つまり、費用と品質のバランスを面談や実績で確認し、自分の投資スタイルに合うか総合的に判断する姿勢が欠かせません。
2025年度の法改正とIT活用の動向
基本的に、法制度とテクノロジーの変化を取り込む会社ほど、長期的にオーナーの利益を守ってくれます。
2025年度は「賃貸住宅管理業法」の登録更新時期に合わせ、国交省が「優良賃貸管理事業者認定制度」を本格運用しています。登録だけでなく、苦情率1%以下やIT化率70%以上などの追加基準を満たした会社に対し、認定マークが付与される仕組みです。この認定を取得した会社は、第三者評価機関からの定期監査を受けるため、サービスの透明性が高い点が特徴です。
IT化の面では、電子契約とオンライン重説が2022年の法律改正で全面解禁されて以降、導入企業が拡大しています。国土交通省の2025年調査では、電子契約実施率が登録会社全体の76%に達しました。紙書類を郵送する手間がなくなるため、契約締結までの平均日数は1.8日短縮し、入居機会を逃すリスクも減少しています。
また、設備点検をIoTセンサーで自動化するサービスも普及しつつあります。水漏れセンサーを設置した事例では、従来よりも平均16時間早く漏水を検知でき、大規模修繕費を30%削減できたというデータもあります。最新テクノロジーに前向きな管理会社かどうかは、長期的な収支に直結するため見逃せません。
こうした法改正とIT活用を取り込む意欲は、会社の企業文化に表れます。面談時には「電子契約化の進捗」「IoT導入の具体実績」などを質問し、担当者が数値で答えられるかを確認してください。革新的な会社は、施策の成果をデータで示せる準備を整えているものです。
契約後のチェックポイントと見直し方
管理契約は結んだ後こそ本番です。
まず、月次レポートが届いたら、入居率、滞納率、修繕費の三つを必ずチェックしましょう。数字の推移に異変があれば、担当者に根拠と対策を尋ねます。ここで回答が抽象的だったり、資料を提示できない場合は要注意です。
また、年に一度は物件巡回に同行し、自分の目で共用部やゴミ置き場の清掃状況を確認すると、現場の運営レベルが見えてきます。この機会に、入居者アンケートや近隣住民からの評判も聞き取ると、レポートだけでは分からない情報が得られます。
2025年度の賃貸住宅管理業法では、オーナーが契約解除を申し出る際の通知期間を「3カ月」と設定する標準契約書が公表されました。長年契約していると解約が面倒に感じますが、実務上は期日を守り、代替管理会社と引き継ぎ計画を立てればトラブルは最小限に抑えられます。改善が見込めない場合は、思い切って見直すことも視野に入れてください。
最後に、複数物件を所有する場合は、管理会社を分散させてベンチマークを取る方法も有効です。A物件とB物件の運営データを比較すると、会社ごとの強みや弱みが浮き彫りになり、交渉材料が増えます。定期的な比較が、あなたの賃貸経営を長期的に健全化する鍵となります。
まとめ
ここまで、管理会社委託のメリットと限界、選定基準、コスト比較、2025年度の法制度とIT動向、契約後の見直し方までを五つの視点で解説しました。要するに、数字と現場の両面から企業姿勢を見極め、長期的視点で総コストとサービス品質を比較することが成功の近道です。ぜひ本記事を参考に、信頼できる管理会社とパートナーシップを築き、安定した賃貸経営を実現してください。
参考文献・出典
- 国土交通省 賃貸住宅市場景況調査2025 – https://www.mlit.go.jp/
- 国土交通省 賃貸住宅管理業法 登録事業者一覧(2025年12月) – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省 家計金融調査2025 – https://www.soumu.go.jp/
- 国土交通省 電子契約普及実態調査2025 – https://www.mlit.go.jp/
- 一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会 法改正解説2025 – https://www.chinkan.or.jp/