高齢の親が所有する不動産をどう引き継ぐか、将来の管理や売却は誰が決めるのか。そうした悩みを抱えつつも、専門用語が多くて一歩を踏み出せない人は少なくありません。本記事では「不動産 相続 家族信託」を軸に、制度のしくみと実践方法をやさしく解説します。読むことで、遺産分割トラブルを防ぎつつ収益機会を保つ具体策がわかり、家族の安心と資産価値の両方を守る視点が得られるでしょう。
家族信託が注目される背景

ポイントは、生前に財産の管理権限を移せる点です。日本の高齢化が進むなか、認知症による資産凍結リスクが一段と現実味を帯びています。
まず、内閣府の2025年版高齢社会白書によると、85歳以上人口は全体の5.7%に達しています。認知症を発症すると成年後見制度でしか資産管理ができなくなりますが、手続きが煩雑で費用も年間数十万円かかる場合があります。家族信託なら、委託者(親)が元気なうちに受託者(子)へ管理権限を託すため、円滑な賃貸運営や売却が続けられます。
さらに、相続発生後の不動産共有はトラブルの温床となります。国土交通省の調査では、相続後に共有名義となった賃貸物件の約25%で修繕や建替えの意思決定が停滞しています。家族信託で単独管理にしておけば、決定がスムーズになり空室リスクも低減できます。
つまり、長寿化と賃貸経営の複雑化が進むいま、家族信託は“争族”を防ぎつつキャッシュフローを守る実務的な選択肢として注目されているのです。
家族信託の基本構造と用語

重要なのは、関係者と権限を正しく理解することです。家族信託は「委託者」「受託者」「受益者」の三者で構成されます。
まず、委託者は財産の所有者であり、信託契約を結ぶ主体です。受託者は信託財産を管理・運用する人で、多くの場合は子どもが務めます。受益者は信託から得られる利益を受け取る人で、委託者と同一に設定するケースが一般的です。言い換えると、親が自分の不動産を子に託しつつ、家賃収入は引き続き親が受け取るイメージです。
契約は公正証書で作成するのが安全策です。公証役場の手数料は物件評価額によりますが、3000万円の不動産ならおおむね10万円前後で済みます。また、信託登記を行うと登記簿上の名義は「受託者〇〇信託口」と表示されるため、金融機関や賃借人へ権限を示しやすくなります。
一方で、信託口座の開設や税務申告は受託者の義務です。2025年度税制では、信託財産から生じる家賃収入は受益者課税が原則となり、確定申告の際は「家族信託に係る不動産所得」として記載します。受託者が複数いる場合でも納税責任は受益者にありますので、役割分担を明文化しておくと安心です。
相続対策としてのメリットと注意点
まず押さえておきたいのは、遺言書では対応しきれない“その後”をカバーできる点です。遺言は相続開始時点で完了しますが、家族信託はその後の管理や処分方針まで継続して指示できます。たとえば「親の死亡後は長男が賃貸を続け、10年後に売却して代金を3人で分ける」といった柔軟な設計が可能です。
加えて、二次相続への備えにも有効です。受益者連続型信託を使えば、親の死亡後に配偶者、その後に子どもへと受益権を自動的に移せます。こうして世代をまたいで資産承継プランを固定化すると、遺産分割協議の手間と争いを抑えられます。
しかし、万能ではありません。受託者が故意または過失で信託財産を毀損した場合、民事上の損害賠償責任を負います。信託監督人を置くとチェック機能が働きますが、報酬が発生する点を考慮する必要があります。また、信託設定時に借入金が残っている不動産を移すと、金融機関の承諾が必須です。承諾を得られないと期限の利益喪失につながる恐れがあるため、事前協議を欠かさないでください。
税務面では、不動産取得税と登録免許税が非課税になるケースが多い一方、譲渡所得税が生じる例外もあります。特に委託者と受益者が異なる場合は贈与とみなされるリスクがあるので、事前に税理士へ確認しましょう。
不動産投資と組み合わせる実践例
実は、家族信託は投資物件の拡大にも活用できます。親の自宅とは別に賃貸マンションを信託財産に組み入れ、子が受託者としてリノベーションや入居者募集を主導する形です。
たとえば築30年のワンルーム15戸を保有するケースを想定します。日本賃貸住宅管理協会の2025年データによると、軽度のリノベで賃料改善率は平均8.3%です。信託契約で改装費の支出上限や投資回収期間を定めれば、受託者は安心して資金を投下できます。家賃増によるキャッシュフローは受益者である親の生活費へ充てられるため、親子双方にメリットが生まれます。
また、物件売却のタイミングをあらかじめ信託条項に組み込むと、市場が好況のときに素早く出口戦略を実行できます。2025年12月時点の東証REIT指数は2200ポイント前後で推移していますが、市場が過熱すると現物価格も上昇しやすくなります。受託者が単独判断できる設計なら、チャンスを逃さず利益確定が可能です。
ただし、投資的意思決定を家族間で共有しないと感情面の摩擦が生じます。信託契約書とは別に「運用方針合意書」を作成し、年1回の家族会議で見直す方式を採ると、情報の非対称性を減らせます。こうしたガバナンスを備えることで、家族信託は単なる相続対策を超えた資産運用プラットフォームへと進化します。
まとめ
本記事では、不動産 相続 家族信託を組み合わせることで得られる管理の柔軟性、相続トラブル回避、投資拡大という三つの効果を解説しました。家族信託は委託者が元気なうちに権限移譲できるため、認知症リスクや共有トラブルを大幅に減らせます。また、税務や融資の確認を怠らず、家族全員で運用方針を共有すれば、キャッシュフローを守りつつ資産を次世代へスムーズに受け渡せます。早めの準備が安心と資産成長の鍵になりますので、専門家へ相談しながら具体的な設計に着手してみてください。
参考文献・出典
- 内閣府 高齢社会白書2025年版 – https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/
- 国土交通省 不動産業ビジョン調査2024 – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/
- 日本賃貸住宅管理協会 家賃動向レポート2025 – https://www.jpm.jp/
- 法務省 信託登記に関する手続案内(2025年改訂) – https://www.moj.go.jp/
- 国税庁 家族信託に関する課税FAQ(2025年12月更新) – https://www.nta.go.jp/