「広島市で賃貸経営を始めたいけれど、人口が減るなかで本当に収益が続くのか」という不安をよく耳にします。地方都市の不動産投資に慎重になるのは、むしろ健全な姿勢といえるでしょう。
ただ、広島市は「人口減・世帯増」という独特の構造を持っており、賃貸需要を一括りに語ることはできません。実際に区ごとの需要や空き家率、家賃相場には大きな差があります。本記事では、公的な統計データをもとに、エリア選定から融資、税務、運営管理までを実務目線で整理します。具体的な物件調査に踏み出すための判断材料として、ぜひ最後までお読みください。
広島市の賃貸市場を「区別」で正しく理解する
広島市で賃貸経営を成功させる第一歩は、市全体の平均値ではなく区ごとの実態を把握することです。同じ市内でも、需要が伸びる区と縮む区が明確に分かれているからです。「広島市だから安心」という大雑把な判断は、投資失敗の入り口になりかねません。まずは人口・世帯・空き家・家賃という4つの軸で、区ごとの姿を丁寧に読み解いていきましょう。
人口は減っても世帯は増えている
広島市によると、令和7年国勢調査(2025年実施)の速報では、8区のなかで人口が増加したのは中区のみでした。中区は142,699人から144,267人へと1.1%増えた一方、安佐北区は138,979人から130,297人へと6.2%減少し、安芸区も77,103人から72,391人へと6.1%減っています。人口減が大きいエリアと踏みとどまるエリアの差が、区単位でくっきり表れているのです。
ところが世帯数を見ると、市全体の景色は少し違って見えます。世帯増がとくに強いのは中区で4.7%増、次いで佐伯区が2.8%増、安佐南区が2.7%増と続きます。逆に安佐北区は世帯数でも2.8%減と落ち込んでいます。賃貸経営は最終的に「世帯」が借り手になるため、世帯が増えている区を優先候補に据える発想が重要です。市全体の世帯規模も2000年の2.42人から2020年には2.12人へ縮小しており、単身や小世帯へと需要の重心が移っていることがわかります。
借家割合と空き家率から需要の厚みを読む
供給面では、広島市の空き家率が区によって大きく違う点を押さえたいところです。令和5年の住宅・土地統計調査によると、空き家率が最も高いのは中区の14.6%で、最も低いのは安佐南区の7.4%でした。中区は賃貸需要が厚い一方で供給も多く、競争が激しいエリアといえます。対して安佐南区は住民基本台帳ベースで約24万人・約11万世帯と市内最大級の規模を持ちながら、空き家率が抑えられており、実需の底堅さがうかがえます。
さらに注目すべきは、空き家の中身です。市全体の空き家のうち最も多いのが「賃貸用の共同住宅等」で、46,400戸と全体の63.0%を占めます。中区に至っては、区内の空き家の82.3%にあたる11,580戸がこの類型です。つまりアパート・マンション経営では、既存の空き物件との競争を前提に、設備や賃料を詰めて差別化する必要があるということです。
家賃相場と高齢化率の区別格差
単身向け物件の家賃相場にも、区による明確な差が表れています。独自調査で判明した相場感では、単身寄りのレンジで中区が6.51万円、南区が6.29万円、東区が6.28万円と高い一方、安佐北区は4.44万円、安佐南区は4.83万円と低めです。ワンルームに絞ると中区5.3万円に対し安佐北区3.0万円と、都心と郊外で2万円以上の開きが出ます。相場は駅徒歩帯や駐車場代を除いた数値のため、駐車場需要のある立地では実質賃料を別途確認することが欠かせません。
入居者像を描くうえでは、高齢化率も見逃せません。区別の高齢者人口データによると、高齢化率は安佐北区が36.1%と高く、安佐南区は22.3%で最も低くなっています。中区・南区・西区はおおむね25%前後です。若年単身者を狙うなら高齢化の進んでいない区や駅近を軸にし、ファミリー需要を狙うなら実需の厚い区を選ぶといった、狙いに応じた立地の寄せ方が成否を分けます。
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失敗しない物件選びの基準
物件選びで大切なのは、利回りの数字より先に「誰に貸すか」を描くことです。入居者像を固めれば、適したエリアと物件タイプがおのずと見えてきます。ここでは広島市特有のデータを踏まえ、ターゲット別の考え方と仕入れの注意点を整理します。
ターゲット別の考え方
若年単身者を狙うなら、人口が唯一増加し世帯も4.7%伸びている中区や、就業地・大学へのアクセスが良い駅近を軸に検討するのが合理的です。家賃相場が6万円台で需要も厚いため、空室期間を短く保てれば安定した収益が見込めます。ただし中区は空き家率が14.6%と高く、しかもその大半が賃貸用共同住宅であるため、競合との差別化が前提になる点は忘れないでください。
一方、安佐南区は空き家率が7.4%と市内最低で、ファミリー世帯の実需が底堅いエリアです。家賃相場は5万円前後と控えめですが、競合が少なく長期入居を期待しやすい点が魅力といえます。反対に、郊外の築古高利回り物件には注意が必要です。表面利回りが高く見えても、安佐北区のように人口が6.2%減・世帯も減少している区では、将来の入居付けと売却の双方が難しくなります。空き家の6割超が賃貸用共同住宅という現実を踏まえれば、需要の厚い区で堅実な物件を選ぶほうが、トータルの収益性は高くなりやすいのです。
広島市では賃貸市場が回転市場としての性格を強く持つ点も、戦略に影響します。最近5年間の住み替えでは、民営借家どうしの住み替えが28,100世帯と全体の33.4%を占め、民営借家から持ち家への移動も18.5%にのぼります。入居と退去が活発なぶん、募集力と再入居のスピードが収益を左右するといえるでしょう。
仕入れ単価は同一区内でも大きく違う
地価の差を見落とすと高値づかみにつながります。2025年の地価調査によると、住宅地の平均変動率は中区が4.9%、南区が4.2%、西区が2.7%、安佐南区が2.3%と上昇した一方、安芸区は0.2%の下落でした。住宅地の最高価格地点は中区白島中町の546,000円/㎡で、変動率は8.1%と、駅近・ブランド立地の強さが際立ちます。同じ市内でも上昇局面と横ばい・下落局面が混在しているため、区の傾向と物件個別の単価を重ねて確認することが欠かせません。
この地価上昇の背景には、再開発への期待があります。広島市の分析では、広島駅の商業施設「ミナモア」の開業や駅前大橋ルートへの期待が中心部の押上げ要因とされ、南区京橋町の商業地は1,950,000円/㎡・18.9%上昇と突出しています。西広島駅周辺や横川駅周辺でも再開発が地価を押し上げており、横川町2丁目の商業地は463,000円/㎡・6.4%上昇、己斐本町1丁目は341,000円/㎡・6.6%上昇と確認できます。家賃相場だけで物件価格の妥当性を判断せず、こうした地価の動きまで押さえて検討しましょう。
災害リスクの確認を怠らない
広島市は過去に大きな水害・土砂災害を経験しており、取得前のハザード確認は欠かせません。市は洪水・津波・土砂災害・浸水(内水)の各ハザードマップを公開しており、区別の傾向だけでなく物件ごとの災害確認が前提となります。洪水ハザードマップは河川管理者が指定した河川を対象としており、すべての河川を網羅したものではないため、「マップの対象外だから安全」と早合点しないことが重要です。
あわせて確認したいのが土砂災害です。山際や丘陵地の物件を検討する際は、指定された警戒区域の状況を必ず調べてください。これらの区域は金融機関の評価や保険料にも影響します。最新情報は広島市・広島県の公式サイトでご確認ください。
資金計画と融資戦略のポイント
融資条件はキャッシュフローを左右する重要な要素です。とくに「何年で借りられるか」は構造と築年で明確に制約されるため、事前の理解が欠かせません。ここでは保守的な資金計画の考え方を整理します。
構造と築年で決まる融資年数を理解する
賃貸不動産への融資では、木造・鉄骨造・RC造といった構造ごとに融資期間の上限が設定されるのが一般的です。木造の築古物件は融資年数が短くなりやすく、月々の返済負担が重くなりやすい点に注意してください。また金融機関は「家賃水準が近隣類似物件と比較して妥当か」を重視します。収支表に楽観的な家賃を置くのではなく、近隣の成約賃料をもとに組み立てる姿勢が求められます。具体的な融資条件は申込時期や個別事情によって異なるため、必ず各金融機関へ直接ご確認ください。
収益物件を巡る市場環境も理解しておきたいところです。国土交通省の鑑定士コメントによると、旧市内(中区・南区・東区・西区)では新築賃貸マンションの供給が進み、賃料上昇に一服感が出て概ね横ばいとされています。一方で収益物件の取得需要は強く、取引利回りは低下傾向にあります。つまり、良い物件ほど価格が高止まりしやすく、賃料の伸びは限定的という前提で計画を組む必要があるのです。
保守的なシミュレーションを徹底する
金利環境が変化しうるなかでは、楽観的な前提で計画を組むのは危険です。家賃は近隣成約ベースで保守的に置き、金利が上昇しても返済が続けられる水準かどうかを事前に検証してください。借入年数が短い木造物件ほど、空室や金利の変動に対する余裕が小さくなる点も忘れてはいけません。賃料が横ばい基調にある広島市では、賃料上昇に頼らず現状の収支で成立する物件を選ぶことが、長期の安定につながります。
収益を守る運営管理と契約上の注意点
購入後の運営管理は、長期収益を左右する最後の決め手です。委託先選びと契約形態の理解が、トラブル回避と空室対策の両面で効いてきます。
管理会社は「登録の有無」から確認する
管理を委託する場合、まず確認したいのが法令上の体制です。国土交通省によると、管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理業者は国土交通大臣への登録が義務づけられており、営業所ごとに業務管理者を1名以上配置する必要があります。委託前に、登録の有無や重要事項の説明体制を確認しておくと安心です。手数料の安さだけでなく、退去から再募集までの対応スピードや説明の丁寧さも含めて、総合的に判断しましょう。回転市場である広島市では、再募集のスピードが空室損失を大きく左右します。
サブリースは「家賃保証」の文言を鵜呑みにしない
初心者がとくに注意すべきがサブリース契約です。国土交通省は、家賃の見直しや契約解除の条件などの説明が不十分なまま契約され、内容を誤認したことによるトラブルが多発していると注意を促しています。さらに、「家賃保証」「空室保証」といった広告でも、定期的な家賃見直しがあることや、借地借家法第32条により家賃が減額されうることが明示されていない場合は、誇大広告に該当する可能性があるとされています。保証の文言だけで判断せず、減額や解約の条件を契約書で必ず確認してください。
設備投資は競合との差別化を意識する
市内の空き家の6割超が賃貸用共同住宅である以上、選ばれる物件にするための設備投資は欠かせません。とくに中区のように賃貸用の空き家が集中するエリアでは、差別化の重要性がいっそう高まります。高速インターネットや独立洗面台、宅配ボックスなど、入居者ニーズの高い設備は空室期間の短縮や家賃維持につながります。費用対効果を見ながら、競合に差をつける小さな改善を積み重ねることが、長期的な収益安定の近道です。
税務の基本と取得・保有コストを押さえる
賃貸経営の手取りは、表面利回りではなく税引き後の収支で決まります。取得時・保有時・申告時のそれぞれで、コストと制度を正しく理解しておきましょう。
不動産所得の計算と青色申告
国税庁によると、不動産所得は「総収入金額 − 必要経費」で計算します。総収入には賃料のほか礼金や更新料、共益費なども含まれる一方、減価償却費などは必要経費にできます。さらに、不動産所得がある人は白色申告者も含めて記帳・帳簿保存の対象です。正規の簿記の原則により記帳していれば、一定の要件のもとで青色申告特別控除として最高65万円または55万円が受けられます。だからこそ、最初から会計体制を整えておく価値が高いのです。
取得税と保有税を見落とさない
取得時には不動産取得税がかかります。広島県では、不動産を取得した日から60日以内に、不動産取得申告書を所在地を管轄する県税事務所へ提出する必要があります。取得時の現金支出として、資金計画にあらかじめ織り込んでおきましょう。
保有時には固定資産税・都市計画税がかかりますが、広島市では1月1日時点で住宅の敷地となっている住宅用地に課税標準の特例措置が適用されます。建替えや更地のタイミングによって特例の適用が変わるため、保有税の試算ではその点まで見込まないと精度が落ちます。具体的な税額や適用要件は個別事情によって異なるため、最新情報は広島市・広島県・国税庁の公式サイトでご確認ください。
まとめ:広島市での賃貸経営を成功させるために
広島市での賃貸経営は、市全体の平均ではなく区別のデータで判断することが出発点です。人口が唯一増えている中区や、空き家率が市内最低の安佐南区など、需要の厚いエリアを見極めることが成功の鍵を握ります。一方で安佐北区や安芸区のように人口・世帯とも減少するエリアでは、高利回りの数字だけで飛びつかない慎重さが求められます。
そのうえで、構造による融資年数の制約を理解し、賃料が横ばい基調にあることを踏まえた保守的な資金計画を立ててください。管理会社の登録確認やサブリースの条件チェックといったリスク管理、そして取得税・保有税まで含めた税引き後収支の把握も欠かせません。
公的な統計とハザード情報を丁寧に読み解き、地価の上昇局面と横ばい局面まで見極めて判断すれば、空き家率が抑えられ再開発で活気づく広島市の強みを活かせます。本記事を手がかりに、まずは関心のある区の需要データと物件調査へと踏み出してみてください。
参考文献・出典
本記事は、広島市「令和7年国勢調査結果(人口速報集計結果)」「令和5年住宅・土地統計調査結果(概要)」「統計プロフィール」「区別・高齢者人口の推移」「広島市の住宅事情」「地価の動向」「令和7年地価調査結果」「ハザードマップ」「住宅用地に対する課税標準の特例措置」、広島県「不動産取得税」、国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」「主要都市の高度利用地地価動向報告」、国税庁「不動産所得」「記帳や帳簿等保存・青色申告」などの公的資料を参照しました。家賃相場の一部は民間の公開情報を参考に編集部で整理しています。最新の制度・数値は各公的機関の公式サイトで必ずご確認ください。