年収はそれほど高くないのにアパート経営に興味がある――そんな声をよく耳にします。住宅ローン返済や教育費などで家計はすでに圧迫されており、追加の借り入れに不安を感じる方も多いでしょう。しかし実は、年収400万でも適切な準備をすれば安定した家賃収入を得ることは十分可能です。本記事では、メリットとリスクを客観的に整理し、物件選びから資金計画、運営のポイントまでを具体的に解説します。読むことで、始める前に抱きがちな漠然とした不安が整理され、行動に移す指針が見えてくるはずです。
年収400万でもアパート経営が可能な理由

ポイントは、返済比率と物件規模をコントロールすることで、金融機関の審査をクリアしやすくする点にあります。住宅金融支援機構の統計では、個人向け投資ローンの年間返済比率は年収の35%以内が目安とされています。言い換えると、年収400万なら年間140万、月約11万6千円の返済までが安全圏となります。
まず自己資金を物件価格の20%程度用意し、残りを固定金利1.8%・期間25年で借り入れたケースを想定します。2000万円の中古アパートなら、毎月の返済額は約8万3千円です。国土交通省の2025年10月調査では全国平均家賃は1戸あたり5万8千円、平均空室率は21.2%でした。このデータを使い、4戸のアパートが3戸稼働する conserv- シナリオでも家賃収入は月17万4千円となり、返済との差額が9万円弱残る計算です。もちろん修繕費などを差し引く必要がありますが、金融機関が納得できる収支計画を示しやすいことがわかります。
さらに、年収400万層は勤続年数が長く安定収入を得ている場合が多く、審査ではプラス要素になります。既存の住宅ローンと合わせても、総返済比率が45%を超えない水準に抑えることで融資の選択肢が広がる点も覚えておきましょう。
投資シミュレーションで押さえる三つの数値

まず押さえておきたいのは、キャッシュフロー、自己資本比率、想定利回りの三つです。キャッシュフローとは家賃収入から返済と経費を引いた手残りを指し、毎月プラスで推移するかが生命線になります。
最初の段階では、空室率25%、修繕積立月1万円、金利上昇1%の悲観シナリオまで試算すると安心です。自己資本比率は総投資額に対して自己資金が何割かを示し、20〜30%を目標に設定すると融資の条件が大きく改善します。利回りについては、表面利回りではなく、税引き前の実質利回り8%以上を狙うと、予期せぬ修繕や金利上昇にも耐えやすくなります。
たとえば中古木造アパート(築20年・6戸・表面利回り11%)を購入し、空室対策で20万円の外壁塗装を実施した事例があります。実質利回りは9.1%に下がりましたが、入居期間が平均で1.5年から2.4年へ伸び、結果としてキャッシュフローが向上しました。数字を定期的に見直すことで、運営改善の余地を客観的に把握できる点が重要です。
物件選びは“賃貸需要”の裏付けが鍵
実は、立地条件がアパート経営の成否を決定づけます。全国平均空室率が下がったといっても、エリアごとに大きな差があるからです。総務省の住民基本台帳を基にすると、2025年時点で人口増加が続く政令都市周辺は空室率が15%前後にとどまる一方、地方郊外では30%を超える地域もあります。
まず駅徒歩10分圏内、かつスーパーマーケットが1km以内にあるエリアを目安にしましょう。こうした場所は入居者が生活利便性を実感しやすく、更新率が高まります。また、単身者向けかファミリー向けかを決める際は、近隣の平均世帯人数と家賃帯を自治体の統計サイトで確認するとミスマッチを避けられます。
具体的なチェックポイントとして、築年数よりも修繕履歴に注目することが挙げられます。屋根・外壁・給排水管といった大規模修繕が過去10年以内に実施されていれば、突発的な支出を抑えられるからです。売買契約前に必ず建物状況調査(インスペクション)を依頼し、報告書を読み込んでから判断することが、安全なスタートにつながります。
融資と自己資金をどう組み立てるか
重要なのは、複数の金融機関を比較し、自分の属性に合う融資商品を選ぶことです。地方銀行や信用金庫は地域密着型で、小規模投資家に柔軟な条件を提示するケースがあります。一方でメガバンクは金利が低いものの、年収500万以上や物件規模1億円以上を求める傾向が強い点を理解しておきましょう。
年収400万層が狙いやすいのは、金利2%台・融資期間20〜25年のアパートローンです。この条件なら、前述の返済比率を守りながら月々のキャッシュフローを黒字化しやすくなります。自己資金については、頭金だけでなく購入後6か月分のローン返済額を運転資金として別口座に確保しておくと、突発的な空室にも慌てずに済みます。
また、2025年度の税制において賃貸住宅に適用される消費税還付は事業規模や課税方式に条件があります。簡易課税制度の選択時期を誤ると還付が受けられないため、税理士に事前相談することで手取りを最大化できる点も忘れないでください。
リスク管理と出口戦略をセットで考える
ポイントは、運営中のリスクと売却時の出口戦略を同時に描くことです。運営リスクとしては空室、家賃下落、大規模修繕の三つが代表的です。空室対策には、Wi-Fi無料化やペット相談可への仕様変更が効果的で、家賃下落を抑えながら差別化を図れます。国交省の調査では、インターネット無料物件は成約までの平均日数が17%短縮しています。
家賃下落に備えるため、賃貸借契約は2年更新型を基本とし、更新時の相場調査を怠らないことが肝心です。修繕は事前に長期修繕計画を立て、毎月のキャッシュフローから積み立てることで、資金ショックを回避できます。
出口戦略としては、築25年が一つの目安です。木造アパートの法定耐用年数22年を超えると減価償却による節税メリットが薄れるため、売却ニーズが高まります。築20年の段階で周辺の取引事例を調べ、利回りが8%台なら価格交渉の余地がある買い手がつきやすいというデータもあります。売却益を次の物件に繰り入れる、もしくはローン完済後に家賃収入だけを得るか、あらかじめ方向性を決めておくと判断に迷いません。
まとめ
アパート経営は高所得者だけの特権ではなく、年収400万でも計画的に進めれば手堅い資産形成手段になり得ます。返済比率を守り、慎重なシミュレーションを行い、需要のあるエリアで適切な融資を組むことが成功の近道です。まずは自分の家計と向き合い、自己資金と毎月の余裕資金を把握することから始めてください。ステップを踏んで準備を進めれば、数年後には安定した家賃収入が家計を支える心強い柱となるでしょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年版 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 住民基本台帳人口移動報告 2025年 – https://www.stat.go.jp
- 住宅金融支援機構 2025年度アパートローン動向 – https://www.jhf.go.jp
- 金融庁 金融モニタリングレポート2025 – https://www.fsa.go.jp
- 日本賃貸住宅管理協会 賃貸市場データブック2025 – https://www.jpm.jp