不動産を買うか売るか、あるいは投資を検討するとき、物件の「値段」が妥当かどうか判断できずに不安になる方は多いはずです。特に初心者は広告価格と実際の価値の差を見抜けず、損をするのではと悩みがちです。この記事では、専門家が用いる評価額計算 方法を基礎から解説し、自分でおおまかな価値をつかむ力を身につけるお手伝いをします。読み終えるころには、数字の裏側を理解し、交渉や資金計画を有利に進められるようになるでしょう。
評価額を導く三つの基本アプローチ

まず押さえておきたいのは、評価額計算 方法は大きく「収益還元法」「取引事例比較法」「原価法」の三つに整理できる点です。これは日本の不動産鑑定評価基準でも採用される枠組みで、物件の種類や目的に応じて使い分けられます。
最初の収益還元法は、賃料など将来生み出す利益を現在価値に直す考え方です。投資用アパートやオフィスビルに適し、利回りの妥当性を客観視できます。一方で空室率や金利の前提が変わると結果が大きく動くため、前提条件の確認が欠かせません。
取引事例比較法は、似たエリア・規模の成約事例をもとに価格帯を推定する方法です。居住用マンションや戸建ての査定で広く用いられ、マーケットの現在地をつかむのに有効です。ただし世に出るデータが少ない地域では精度が低下しやすい弱点があります。
最後に原価法は、土地価格に建物の再調達原価を足し、経年劣化分を差し引く手順です。築浅の自宅用戸建てなどで利用され、代替建築コストの視点を提供します。ただ、素材価格の変動や工事単価の地域差が結果に影響しやすいので注意が必要です。
収益還元法で収益物件を見極める

重要なのは、収益還元法の計算式が「年間純収益÷還元利回り」で極めてシンプルな点です。年間純収益は賃料総額から空室損失と運営費を差し引いた数字で、還元利回りは立地や築年数に応じて市場から推定します。
たとえば家賃が年600万円、運営費が年100万円、空室損失が年50万円なら純収益は450万円です。利回り6%を採ると評価額は7,500万円になります。つまり利回りを0.5ポイント上げ下げするだけで1000万円超動くため、利回りの設定こそが肝心です。
2025年12月時点での全国平均オフィス利回りは日本不動産研究所調査で4.4%前後ですが、地方主要都市では5%台も散見されます。自分の物件を評価する際は、同じ築年数・規模の取引利回りデータを複数集め、中央値を採用すると過度な楽観を避けられます。
なお、賃料が変動しやすいウィークリー賃貸や短期民泊の場合、長期の安定収益が見込みにくい点を織り込み、利回りを1〜2ポイント上乗せするのが通例です。数字を操作して都合よく見せた評価額では融資審査も通りにくいので、保守的な試算を心がけてください。
取引事例比較法で相場を読み解く
ポイントは、似た物件でも「成約価格」を使うことです。広告価格は交渉後に下がるケースが多く、参考にすると実勢より高く評価しがちになります。成約価格は不動産流通機構(REINS)のデータを閲覧すると実務者並みに入手可能です。
仮に同じマンション内で直近70㎡が7,000万円、80㎡が7,800万円で売れたとしましょう。平米単価は10万円差しかないため、75㎡住戸はおおよそ7,400万円が目安となります。ここから階数や方角、リフォーム状況を加点減点して最終値を決定します。
また、2025年度からREINS成約情報の公開期間が従来の3年から5年に延長され、地方中核市でも事例が得やすくなりました。複数年の平均単価を確認すると、短期的な価格上振れを見抜けます。相場が一時的に高騰していると判断したら、購入タイミングをずらす選択肢も検討しましょう。
取引事例比較法は簡便ですが、リノベーション済みかどうかで100万円単位の誤差が出ます。内見時に仕上げ材や設備のグレードを必ず確認し、机上の単価調整だけで評価を完結させない姿勢が大切です。
原価法と土地評価のチェックポイント
実は、築浅戸建てや新築分譲住宅の適正価格を測るには原価法が役立ちます。まず国土交通省の「建設工事費デフレーター」から直近の建築単価をつかみ、建物面積を掛けて再調達原価を計算します。
仮に木造120㎡の戸建てで、最新単価が20万円/㎡なら建物原価は2,400万円です。築5年の場合、耐用年数から残存率80%とみて、1,920万円が建物評価になります。ここに土地価格を加えれば、売主提示額と比べて妥当か判断できます。
土地評価では、近隣の路線価と実勢価格の開きを確かめることが要です。2025年の税制改正で固定資産税評価額は原則3年ごとの見直しを継続しており、評価額が実勢の70%前後に収れんしています。固定資産税通知書を参照すると、過大な土地代を請求されていないか確認できます。
さらに、都市計画道路予定地や埋蔵文化財包蔵地に該当すると、実勢価格より低くなる場合もあります。役所の都市計画課と文化財課で無料の閲覧が可能なので、購入前に必ず調査し、想定外の価格調整要因を把握しておきましょう。
2025年度の制度と税務上の留意点
基本的に2025年度も、不動産の課税評価は「固定資産税評価額×1.14」が相続税路線価、さらに市場実勢を反映させた時価として用いられる流れが続きます。評価額計算 方法を学ぶ目的が相続対策であれば、この倍率と評価替え年度を意識することが欠かせません。
また、2025年度の住宅ローン控除は、省エネ基準適合住宅で年最大45万円、期間13年が維持されています。新築投資用物件は控除対象外ですが、自宅用として購入する場合は評価額とともに控除額をシミュレーションすると、実質負担が大きく変わります。
賃貸経営者向けには「賃貸住宅省エネ改修推進事業」が2025年度も継続し、断熱改修費用の三分の一、上限200万円の補助が受けられます。改修後の家賃上昇が純収益を押し上げ、収益還元法での評価額が高まる好循環が期待できます。
税務面では、青色申告特別控除65万円を確保するための電子帳簿保存制度が完全義務化されています。評価額の根拠資料や修繕費明細を電子保存しておくと、後日の税務調査で減価償却費や取得価額の正当性を示しやすくなります。
まとめ
ここまで見てきたように、収益還元法、取引事例比較法、原価法を組み合わせることで、物件の本来価値を多角的に捉えられます。さらに2025年度の税制や補助制度を把握すると、試算後のキャッシュフローをより正確に描けます。投資でも自宅取得でも、まず自分で概算を出し、専門家の意見と照合する姿勢が失敗を防ぐ近道です。数字に強くなり、不透明に見える不動産市場を味方につけてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産鑑定評価基準 – https://www.mlit.go.jp
- 日本不動産研究所 市場調査レポート – https://www.reinet.or.jp
- 国税庁 路線価図・財産評価基準書 – https://www.rosenka.nta.go.jp
- 総務省統計局 建設工事費デフレーター – https://www.stat.go.jp
- 東日本不動産流通機構 成約価格情報 – https://www.reins.or.jp