不動産の税金

年収1000万 アパート経営で陥る失敗と回避策

年収が1,000万円を超えると、「銀行融資も受けやすいし、アパート経営なら楽に資産を増やせるはず」と期待する人が多いものです。しかし実際には、表面利回りに目を奪われて思わぬ赤字に転落した例が後を絶ちません。本記事では、2025年12月時点の最新データを基に、年収1,000万円層が陥りがちな落とし穴を整理し、失敗を避ける具体策を解説します。読了後には、数字に惑わされず戦略的にアパート経営へ踏み出す手順が見えてくるでしょう。

年収とキャッシュフローは別物と知る

年収とキャッシュフローは別物と知るのイメージ

重要なのは、個人の年収と物件のキャッシュフローはまったくの別物だという理解です。年収1,000万円あっても、毎月の手取りは60万円前後にとどまり、ここからローン返済や生活費が差し引かれます。つまりアパートが十分な家賃収入を生まないと、自己資金を食いつぶす構造になります。

まず、金融機関は「総返済負担率」を重視します。年収1,000万円なら年間返済は350万円程度が上限ですが、家計の固定支出を含めると実質的な可処分所得は圧迫されます。結果として、想定以上に自己資金を入れざるを得ず、予定していた複数棟の拡大戦略が止まるケースが目立ちます。

さらに、減価償却で黒字倒産を回避できるという誤解も多いです。帳簿上の赤字は節税に寄与しますが、現金流出額が上回れば銀行口座は確実に減ります。言い換えると、収支シミュレーションは「税引き後の現金残高」まで追わなければ意味がありません。

見落としがちな空室率と賃料下落

見落としがちな空室率と賃料下落のイメージ

ポイントは、国土交通省住宅統計によれば2025年10月時点の全国アパート空室率は21.2%と高止まりしている事実です。たとえ都心に近い駅徒歩10分の物件でも、供給過多エリアでは賃料競争が激化します。

空室率が想定より5%高まるだけで、年間家賃収入は大幅に減少します。たとえば家賃7万円の1Kが10室ある場合、空室1戸増で年間84万円の売上が消え、利回りは0.8ポイント低下します。この損失は家賃を1,000円上げて埋めようとしても到底間に合いません。

また、築年数と賃料の相関を無視すると失敗が早まります。日本不動産研究所の調査では、築20年を超えると平均賃料は新築比で25〜30%下落しています。新築時の利回り試算しかしていないと、十年後にはキャッシュフローが赤転する危険が高まります。

融資条件の「数字マジック」に注意

実は、金利や融資期間のたった0.5%の差が、30年総返済額を数百万円変えることは珍しくありません。日本銀行の2025年4月金融システムレポートによると、投資用ローンの平均金利は1.95%ですが、属性の高い年収1,000万円層には「優遇1.3%」が提案されることがあります。この優遇に飛びつくと、保証料や団信上乗せで実質金利が2%台に戻るケースもあります。

さらに、フルローンやオーバーローンで自己資金ゼロと説明される場合、手数料や修繕積立を含むと総借入額が物件価格の105%を超えることも少なくありません。ローンが残っているのに売却しても元本を全額返済できない、いわゆるオーバーローン状態に陥ると、撤退コストが跳ね上がります。

融資審査では「返済比率だけでなく、運営費率を30%前後で見積もる」金融機関が増えています。にもかかわらず販売資料では運営費率15%と表示され、シミュレーション通りにいかない事例が多発しています。ここで求められるのは、審査基準と同じ指標で自分も収支を再計算する姿勢です。

節税メリットへの過度な期待が破綻を招く

まず押さえておきたいのは、2025年度も続く不動産所得の損益通算は、給与所得との合算で税負担を軽減できる制度です。年収1,000万円層にとっては大きな魅力に映りますが、節税額は最大でも所得税・住民税の合計税率45%が上限です。経費や減価償却で200万円の赤字を作っても、手元に残る現金は90万円前後にすぎません。

一方で、実際の持ち出しが年間150万円かかっていれば、差し引き60万円が純粋なマイナスです。退去時原状回復や外壁塗装など、発生時期が読みにくい大型出費は税金では補えません。したがって節税を主目的に物件を選ぶと、経営の本質であるキャッシュフロー悪化に気づくのが遅れます。

加えて、2025年度の固定資産税の住宅用地特例は引き続き適用されるものの、課税標準の据え置き措置は2026年度以降の継続が未定です。制度変更一つで費用構造が変わるリスクを前提に、税制だけに依存しない収益計画を立てる必要があります。

失敗を防ぐための実践チェックリスト

最後に、具体的な行動に落とし込むための視点を整理します。以下の五つを契約前に必ず確認しましょう。

  • 10年後でも実質利回り5%以上を確保できる賃料下落シナリオを作成
  • 金融機関の審査と同条件(運営費率30%、空室率20%)で収支を再計算
  • 主要修繕のタイムスケジュールと概算費用をエンジニアリングレポートで把握
  • 売却時の想定価格を路線価と収益還元法の双方で試算
  • 税制変更に備え、自己資金と別枠で年間家賃収入の10%を修繕・積立へ回す

これらを満たしたうえで、初めて「購入しても致命的な損失は避けられる」と判断できます。

まとめ

本稿では、年収1,000万円層がアパート経営で失敗する代表例として、キャッシュフローの誤認、空室リスクの過小評価、融資条件の見落とし、節税偏重の四点を取り上げました。結論として、数字を都合よく解釈せず「現金が残るか」を軸に計画を組み立てることが成功の鍵です。まずは、運営費や修繕費を含めた厳しめのシミュレーションを作成し、家計と物件のバランスを客観的に検証してください。今日から収支表をアップデートする一歩が、将来の失敗を大きく減らす最速の行動になります。

参考文献・出典

  • 国土交通省 住宅統計調査 2025年10月速報値 – https://www.mlit.go.jp
  • 日本銀行 金融システムレポート 2025年4月 – https://www.boj.or.jp
  • 一般財団法人日本不動産研究所 不動産投資家調査2025年上期 – https://www.reinet.or.jp
  • 総務省統計局 家計調査 2024年版 – https://www.stat.go.jp
  • 国税庁 民間給与実態統計調査 令和6年分 – https://www.nta.go.jp

関連記事

TOP