相続で不動産を受け取ると聞くと、多くの人が「資産が増えて得をした」と感じます。しかし実際には、固定資産税や管理費、兄弟間のトラブルなど、見落としがちな負担が少なくありません。特に相続手続きは複雑で期限もあるため、放置すれば思わぬペナルティが発生します。本記事では、デメリットに焦点を当てつつ、2025年12月時点の最新ルールを踏まえて対策を解説します。読み終えるころには、相続を機会ではなくリスクと捉え直し、冷静に判断する力が身につくはずです。
不動産相続の基本構造とよくある誤解

まず押さえておきたいのは、不動産相続が「名義変更」と「税金計算」の二段階で進む点です。名義を移さなければ売却も賃貸もできず、相続税を納めなければ延滞税が加算されます。ところが、現場では「何もしなくても住んでいれば問題ない」という誤解が根強いのが実情です。
実は、総務省住宅・土地統計調査(2023年)によると、空き家の約三割が相続後に手続き未了のまま放置されています。手続きが遅れるほど、建物は老朽化し、結果として市場価値は下がります。言い換えると、相続した瞬間から資産が目減りする可能性があるのです。
さらに、相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から十か月以内」と定められています。期限内に現金を準備できなければ、不動産を急いで売却する羽目になり、安値で手放す例が少なくありません。重要なのは、相続発生前から納税資金の計画を立てておくことです。
固定資産税・維持費が家計を圧迫する現実

ポイントは、不動産を所有している限り、毎年の固定資産税が自動的に発生する点です。総務省統計では、都市部の築三十年マンションでも年間十万円前後、地方の土地付き戸建てでは敷地の広さ次第で二十万円を超えるケースも珍しくありません。
また修繕費は築年数とともに増加します。国土交通省「民間建築物の寿命調査」では、築四十年を超える木造住宅の平均修繕費が年二十五万円を上回るとされています。つまり、固定資産税と合わせて年間三十万円以上が出ていく可能性があるわけです。
加えて、マンションの場合は管理組合への修繕積立金が毎月引き落とされます。築浅の頃は月一万円程度でも、大規模修繕が近づくと三万円台に跳ね上がることもあります。一方で、入居者がいなければ賃料収入はゼロですから、家計を圧迫する要因になります。
共有名義が招くトラブルと2025年度の登記義務
2024年に施行された相続登記義務化により、相続を知った日から三年以内に法務局で登記を完了しなければ、過料が科されるようになりました。2025年度も制度は継続しており、一件当たりの過料は最大十万円です。
しかし、実際の現場では兄弟や親族が共有名義にしたまま話し合いが進まないケースが頻発しています。共有者の一人でも反対すれば売却できず、賃貸契約の締結も難航します。結果として、空き家特例による固定資産税の増額措置(二〇〇%課税)が適用されるリスクも高まります。
一方で、共有状態を解消する手段として「持分買取」や「換価分割」がありますが、相手が応じなければ成立しません。つまり、相続発生時に話し合いの場を設け、単独名義や共有持分の割合を明文化することが不可欠です。
売却・活用が難しい物件のリスク
基本的に、立地が悪い物件ほど流動性が低く、売却に時間がかかります。国土交通省の不動産取引価格情報(2025年上期)では、人口五万人未満の地方自治体にある中古戸建ての成約までの平均期間は三百日を超えています。
また、建物の築年数が古いほど、住宅ローンの利用が難しく、買い手は現金一括を求められます。買い手側の資金調達が制限されるため、結果的に価格は大幅に下がります。つまり、早期に売りたいと考えても買い手が現れない悪循環に陥りやすいのです。
賃貸として活用する場合も、地方では家賃相場が低く、空室期間が長くなる傾向があります。日本賃貸住宅市場データブック2024によると、地方中核都市の平均空室期間は五か月を超え、首都圏の約二倍です。この間、固定資産税と修繕費は支払い続けなければなりません。
デメリットを軽減するための具体策と専門家活用法
重要なのは、相続開始前に「不動産を保有するか、売却するか」を家族で合意しておくことです。遺言書を作成し、受取人と処分方法を明示すれば、共有トラブルの大半を防げます。公正証書遺言にしておくと、家庭裁判所の検認手続きが不要になり、登記もスムーズです。
また、納税資金を準備する方法としては「生命保険の死亡保険金」を活用する手があります。保険金は受取人固有の財産と扱われ、現金ですぐに確保できるため、慌てて不動産を売る必要がなくなります。
さらに、不動産の専門家として「不動産コンサルティングマスター」や「ファイナンシャルプランナー」に相談することで、賃貸シミュレーションや売却査定を事前に把握できます。費用は数万円かかりますが、後々の損失を回避できると考えれば高い投資ではありません。
まとめ
ここまで、不動産相続のデメリットに焦点を当て、固定資産税や共有トラブル、流動性の低さなどを解説しました。相続登記の義務化や空き家への増税措置など、制度は年々厳しくなっています。だからこそ、家族間で早めに話し合い、遺言書や生命保険で現金を確保し、専門家の助言を受けることが賢明です。不動産は「持つ理由」と「手放すタイミング」を見極めることで、リスクを機会に変えられます。今から行動を起こし、将来の不安を減らしましょう。
参考文献・出典
- 総務省統計局「住宅・土地統計調査 2023」 – https://www.stat.go.jp
- 国税庁「相続税の申告事績(令和6年)」 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省「不動産取引価格情報 2025年上期」 – https://www.land.mlit.go.jp
- 国土交通省「民間建築物の寿命調査報告書 2024」 – https://www.mlit.go.jp
- 日本賃貸住宅管理協会「賃貸住宅市場データブック2024」 – https://www.jpm.jp