不動産を相続するときは、手続きの複雑さと税負担の大きさが同時に押し寄せてきます。特に都心部のマンションや先祖代々の土地を受け継ぐ場合、評価額が高くなるほど相続税のインパクトが大きくなり、家族間の調整も難しくなりがちです。本記事では「徹底解説 不動産 相続」という視点で、相続の基本から2025年度時点で有効な節税策、さらに相続後の運用方法までを網羅的に解説します。読了後には、初めての方でも自分に合った対策の道筋が見つかるはずです。
相続の仕組みを正しく理解することが第一歩

まず押さえておきたいのは、相続が発生した瞬間から税務と法務の二つの時計が同時に動き出すという事実です。相続税の申告期限は被相続人が亡くなった日の翌日から10か月後ですが、その間に遺産分割協議を整え、各種名義変更を済ませる必要があります。時間に余裕があるように見えても、戸籍の取り寄せや不動産の評価確認に手間取ると、あっという間に期限が迫ります。
一方で、相続税が発生するかどうかは、基礎控除額「3000万円+法定相続人×600万円」で判定します。国税庁の2024年統計によると、相続税の申告が必要となった被相続人は全体の9.6%ですが、都市部に限ると15%を超えています。つまり、都心で不動産を保有している家庭は、相続税の対象になる可能性が高いといえます。
さらに、2025年度の税制改正で注目されるのが「暦年贈与加算期間の7年延長」です。死亡前7年以内の贈与が相続財産に加算されるため、いわゆる生前贈与による課税逃れは難しくなりました。それでも相続時精算課税制度を併用すれば、2500万円まで非課税で贈与できるので、計画的な資産移転は依然として有効です。
不動産評価額の計算方法と見落としやすいポイント

重要なのは、不動産の評価額が「相続税路線価」または「固定資産税評価額」を基に決まる点です。更地の場合、路線価に奥行価格補正や形状補正を掛け合わせて算出しますが、間口が狭い旗竿地では減額補正が入るため、実勢価格より低く評価されるケースも少なくありません。相続税を抑えるには、これらの補正を正確に適用することが欠かせません。
建物については、固定資産税評価額を用いるのが一般的です。鉄筋コンクリート造のマンションと木造アパートでは評価額の算定基準が異なり、築年数と構造で差が出ます。国土交通省の「住宅着工統計」(2025年上半期)では、首都圏の木造賃貸の平均築年数は25年を超えました。この築古物件は評価額が下がりやすく、相続税対策として組み込みやすいといえます。
一方、賃貸中のアパートやマンションは「貸家建付地」として評価減を受けられます。具体的には、小規模宅地等の特例を適用すると、200平方メートルまでの貸付事業用宅地を50%減額できます(2025年度も継続)。しかし、相続開始前3年以内に取得した土地などは適用外となるため、取得時期には注意が必要です。
相続税評価額を計算した後は、念のため不動産鑑定士や税理士にセカンドオピニオンを求めると安心です。過大評価による納税は取り戻す手続きが煩雑なので、最初から適正評価に基づく申告を行うことがリスク管理につながります。
生前にできる相続税対策と2025年度の最新制度
ポイントは、相続開始前にどこまで税負担をコントロールできるかです。第一の手段として、賃貸併用住宅や賃貸アパートの建築があります。自宅の土地に賃貸部分を設けると、建物の相続税評価額は固定資産税評価額の70%程度、さらに貸家建付地評価も加わり、トータルで5〜6割の圧縮が期待できます。
次に、相続時精算課税制度の活用です。2025年度も非課税枠2500万円は維持され、住宅取得等資金の非課税特例(上限1000万円)と併用することで、最大3500万円まで贈与税がかかりません。ただし、相続時に全額を相続財産として再評価するため、贈与時の評価額が低い築古物件や減価償却が進んだ物件を選ぶと効果が高くなります。
保険を組み合わせる方法も依然として有効です。例えば、死亡保険金の非課税枠「500万円×法定相続人」は2025年度も変更がありません。相続税の納税資金をあらかじめ用意しておくことで、不動産を売却せずに保有し続ける選択肢が広がります。また、収益物件を法人に移転し、家族を株主にして所得分散を図る方法もありますが、法人化には設立費用と維持コストがかかるため、事前のキャッシュフロー試算が不可欠です。
最後に、必ず押さえておきたいのが「贈与と相続の一体課税強化」です。生前贈与の年間110万円非課税枠は存続していますが、死亡前7年以内の贈与加算が拡大したことで、小口の分散贈与による節税効果は限定的になりました。したがって、現金ではなく低評価の不動産や不動産小口化商品を贈与し、評価減メリットを最大限に享受する戦略が主流になりつつあります。
共有・遺産分割で揉めないための実務ポイント
実は、不動産相続で最も多いトラブルは税金よりも遺産分割です。共有名義で受け継ぐと、修繕や売却の意思決定に全員の同意が必要となり、将来的な収益計画が立てにくくなります。法務局の「遺産分割調停統計」(2024年)では、調停事件の約6割に不動産が含まれ、そのうち3割が共有名義のまま放置されていた事例です。
トラブルを避けるには、遺言書の作成が最善策です。自筆証書遺言でも、2024年から始まった「法務局保管制度」を利用すれば検認手続きが不要になり、コストを抑えつつ確実に内容を残せます。また、2025年12月時点で有効な「公正証書遺言」は作成費用が10万円前後かかっても、署名ミスによる無効リスクがほぼゼロになるため、資産規模が大きい家庭では採用例が増えています。
遺留分にも注意が必要です。配偶者や子がいる場合、一定割合の取り分が法律で保障されているため、全財産を特定の相続人に集中させると遺留分侵害額請求の対象となります。遺言の中で換価分割や代償分割の方法を具体的に示しておくと、法定相続人全員が不満を抱きにくくなります。
万が一、共有が避けられない場合でも、持分ごとの使用細則や賃料分配のルールを定めた「共有契約書」を作成しておくと安心です。契約書があることで、持分譲渡や賃貸借契約の締結時にスムーズな意思決定が可能になります。これは、相続後の家族関係を円滑に保つための最小限の防波堤といえるでしょう。
相続後の賃貸経営と資産形成を両立させる方法
まず押さえておきたいのは、相続後に不動産を所有し続けるなら、単なる節税だけでなく「収益最大化」の視点が欠かせないという点です。不動産所得が赤字になれば、せっかくの相続対策が台無しになるどころか、固定資産税や修繕費の負担が家計を圧迫します。相続後3年間は、大規模修繕や家賃見直しの計画を立てるゴールデンタイムと考えましょう。
家賃設定では、レインズや不動産情報サービス「アットホーム」(2025年版)の成約事例を参考に、周辺相場と築年数を掛け合わせて適正賃料を算定します。相続を機に、旧来の管理会社を見直すだけで管理手数料が3%から5%に上がる例もあり、慎重な比較が必要です。リノベーションも視野に入れるなら、国土交通省が所管する「住宅エコリフォーム推進事業」(2025年度補助上限60万円)が活用できます。これは省エネ性能向上を目的としたリフォームに限られるものの、家賃アップと空室対策を同時に狙えるため、費用対効果が高い施策です。
さらに、法人化による節税と資産管理の分離も検討価値があります。年間所得が900万円を超える場合、個人の最高所得税率43%に対し、法人実効税率は約30%まで抑えられるため、キャッシュフローが改善します。ただし、法人化すると社会保険加入義務や事業規模判定の問題が生じるので、税理士だけでなく社会保険労務士とも連携してシミュレーションを行うと失敗が少なくなります。
最後に、サステナブル経営の視点として、長期修繕計画書の策定を推奨します。国土交通省ガイドラインでは12年ごとの大規模修繕が推奨されており、所有者が変わっても計画を引き継げる仕組みが求められています。相続人が複数いる場合でも、共有契約書と修繕計画をセットにしておくと、将来の管理トラブルを大幅に軽減できるでしょう。
まとめ
ここまで、不動産相続の流れと評価方法、2025年度の最新税制、共有トラブル防止策、そして相続後の運用までを一気に見てきました。重要なのは、相続発生前から「税務・法務・運用」の三本柱で準備を進めることです。特に、不動産の評価減と生前贈与の組み合わせは今も王道であり、遺言書と共有契約書を整えておけば家族間の摩擦も最小限に抑えられます。行動としては、まず保有物件の評価額を試算し、10か月の申告期限内に納税資金の目処を付けると同時に、専門家への相談をスタートさせましょう。適切なステップを踏めば、不動産は節税と資産形成を同時にかなえる強力なツールになります。
参考文献・出典
- 国税庁「相続税の申告事績の概要(2024年分)」 – https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/sozoku/
- 国土交通省「住宅着工統計 2025年上半期」 – https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku.html
- 法務省「遺産分割事件数の推移(司法統計2024)」 – https://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_toukei.html
- 国土交通省「住宅エコリフォーム推進事業 2025年度概要」 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/eco-reform2025/
- 内閣府「2025年度税制改正大綱」 – https://www.cao.go.jp/zei-2025/